人類は非効率な用事を求めて「あつまれ どうぶつの森」にハマっている

2020.05.02

人類は非効率な用事を求めて「あつまれ どうぶつの森」にハマっている

発売開始から約300万本を売り上げたNintendo Switchの「あつまれ どうぶつの森」。島での暮らしを楽しむこのゲームについて考えていると、ジモコロ編集長の徳谷柿次郎が「このゲームにはローカルの魅力が詰まってる!」と鼻息荒く登場。なぜ人々は「どうぶつの森」にハマるのか、その疑問にジモコロ的視点で迫ります。

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    こんにちは。ライターのいぬいです。

    僕は上京したばかりのフリーランスなんですが、緊急事態宣言以降は自宅にこもりっぱなし。せめて日常に「ほのぼの」とした世界を取り入れたい……と、いま一番プレイしたいゲームがこちら。

     

    Nintendo Switchのゲームソフト『あつまれ!どうぶつの森』です。ゲーム専門メディア「ファミ通」によると、2020年3月20日の発売開始から16日間で303万1784本(パッケージ版のみ)を売り上げたそう。めちゃめちゃ売れています。

     

    肌感覚ですが、その人気といったら、僕以外の友だち全員が遊んでいるんじゃないか?ってくらいSNSで日々見かけます。

     

    ……

     

     

    みんな楽しそう……

    ……

     

    実は僕、買いそびれたんですよ……この国民的大人気ゲームを……

    SNSを見ていると、

     

    島をインフラっぽく整備したり、

     

    個展を開いてる人がいたり、

     

    車椅子に乗る人がいたり……

     

    なんて自由で楽しげなゲームなんだ!

     

    ああせめて、せめて『あつまれ どうぶつの森』の面白さを知りたい。「へーそんな機能があるんだ!」とか「ええ!?DSのときそんなの無かったじゃん!?」とか言いたい!あわよくば楽しそうなゲームの輪に混じりたい!

     

    「教えてあげようか?」

    「えっ!あなたは……」

     

    教えてあげよう!

    「ジモコロ編集長の柿次郎さんじゃないですか! オンライン通話で突然どうしたんですか?」

    「僭越ながら『どうぶつの森』の魅力、ジモコロ目線で語ってみようか?」

    「37歳ファミコン世代のおじさんが『あつまれ どうぶつの森』の魅力語れるんですか? 特に柿次郎さんは、かわいいとは無縁の世界で生きてそうなのに」

    「ゲームの前ではみんな子供だよ。キラキラした好奇心はなにひとつ失っちゃいない」

    「でも、取材で日本全国飛び回ってるじゃないですか。むしろゲームとは縁遠いんじゃ? やる時間ないでしょう」

    「うん、やる時間はあまりない。ただ、言ってなかったけど、おれって実はゲーム雑誌『ファミ通』をいまだに20年以上、購読しているゲーム業界大好きっ子なのよ。そして任天堂のモノづくりの姿勢を愛してる。やりこみはできてないけれど、『どうぶつの森』だって全シリーズ触れているからね」

    「どっちかというと、ゲーム業界や構造に興味あるおじさん?」

    「うん。ゲーマーではない」

    「なのに、わざわざしゃしゃり出るぐらい言いたいことがあるんですか?」

    「それはね……今までジモコロを通して取材してきたローカルの価値が『あつまれ どうぶつの森』に詰まってるんじゃないかと思えてきたのよ!

    「ええ〜、それはさすがに過言では? そういえば、最近『あつまれ どうぶつの森』について、やたらツイートしてましたね」

     

    「みんなと同じく家にこもってるから、新作『あつまれ どうぶつの森』(以下、あつ森)もコツコツやり続けてるのね。時間があるから」

    「柿次郎さんから旅を取ったら何も残らないですもんね」

    「燃えカスなのよ……って言い方きついな」

    「『あつ森』にはそんなにローカル的な特徴があるんですか?」

    「そうそう。前提として、『あつ森』の楽しみ方は人それぞれ。むしろこれから話す一次産業的な視点を知らなくてもおもしろいのが任天堂のすごさ。ただ、ここまで口うるさく伝えたくなったのは、ジモコロとの共通点を読者に感じてもらって、日本社会を取り巻く見過ごされてきた課題を知ってほしいからなのよ! 」

    「めちゃめちゃ暑苦しい。でも、せっかくなので聞きますね!」

     

    「環境がすごい!」今作の驚き

    「そもそもだけど、このゲームって『どこで』『何をする』ゲームか知ってる?」

    「えっと……どうぶつたちの暮らす島で、気ままなスローライフが楽しめるんですよね? 魚釣りとか虫取りでお金を稼いで、好きなものを買ったり家を大きくしたり」

     

    移住先の島で、どうぶつたちと共に暮らす

    「あと、通信システムを使って友達の住んでる島にも遊びにいけるって聞きました! ゲーム内で旅行もできるなんて楽しそうですよね」

    「うんうん、いぬいくんは自分の島を作るなら、北半球と南半球どっちにしたい?」

    「えっ? そんなの選べるんですか」

    「そう。これがけっこう重要でね。何が変わるかっていうと……」

     

    「獲れる魚や虫の種類が変わる。北半球の島と南半球の島では、季節が違うからね。『違う島に行くと違う生き物がいる』って、めちゃくちゃ地域性と生態系を感じない?

    「どうぶつの森の……生態系……?」

    「うん、生態系。友だちの島に行ったら木になってる果物が違う。あつ森の果物はリンゴ、オレンジ、モモ、さくらんぼ、ナシの5種類あって。たとえば自分の島がリンゴしか取れない島だとして、違う島に実っているモモを持ち帰れば、自分の島で高く売れる。特産品の概念ね。初期設定として、島固有の植生がある」

    「植生! なんか、ちゃんとした言葉を使われると見え方も変わってきますね」

    「ちなみに自分の島の特産品は1個=100ベル(※)で売れて、違う島の特産品は1個=500ベルで売れる。差額400ベルはめちゃめちゃ大きい。『遠い土地のものを手に入れて、高く売る』って商売の原則なんだよ。稀少性に価値が生まれるから」

    ※ベル……「どうぶつの森」シリーズの通貨

    「なるほど、海外のお酒を日本に輸入して高く売るみたいなものか」

     

     

    「そう。大げさにいえば『あつ森』は、インターネット環境×島の世界観を通して、グローバリズム社会を投影してる

    「いや……考えすぎじゃないですか?」

    「ヒップホップは社会の写し鏡と言われてるんだけど、任天堂も社会を反映したゲームづくりに舵を切ってきてるよね。自宅で手軽に楽しく運動できるゲーム『リングフィットアドベンチャー』なんて、いまの外出自粛生活のためにあるような内容だもの」

    「任天堂のイメージ、マリオの陽気な『マンマミーヤ!』で止まってました」

     

    お金稼ぎと楽しさのバランス

    「さっきの友だちの島で手に入れた特産品のフルーツは、自分の島に植えると木が育ってすぐに収穫できるようになるのよ」

    「へー! じゃあ売値500ベルのフルーツばっかり島に植えて育てたら、すぐお金稼ぎできますね」

    「いぬいくん、そんなに効率的に稼いで楽しいかい?? ゲームの中で??」

    「うっ……でも、ラクして稼いだ方が楽しくないですか?」

    「まず、島の面積に限りがあるのよ。あんまり木を植えすぎると、ミチミチになって景観的にも良くないじゃない。島民審査の景観レベル(※)ってのもあるからね」

    ※花や木を増やしたり、雑草を引き抜いたりすることで島の景観評価がアップ。評価が上がると、嬉しいイベントも起こるそう

    「ほほー。自分本位なやり方で島を作ればベストってわけでもないんですね」

    「そもそもどうぶつの森って、生き物の多様性がめっちゃあるのよ。海と川で釣れる魚も違うし、木を切った後の切り株には珍しい虫がいたりする。そういう小さな発見を日々集めながら、お金も稼げるのがプレイヤーにとって面白いゲームバランスだと思っていて」

    「なるほど……スローライフ系のゲームでも、ついお金をいっぱい稼いでいろんなもの買おうとしちゃいがちですよね」

    「でも今回の『あつ森』は、お金を稼ぐだけがモノを手に入れる方法じゃないんだよ。そこも任天堂の妙というか」

    「えっ? お金以外の方法?」

    「今回から新しく『DIY』の要素が入った。Do It Yourself!しかもこれって、日本の一次産業で一番深刻な『林業』の視点を、どうぶつの森に持ち込んだ画期的なことだと思ってて……

    「どうぶつの森で、林業……?」

     

    「ゲーム×林業」のイメージが湧きづらい。写真は「『未来の林業は稼げる』北海道・下川町の60年構想が芽吹いた話」より

     

    島に生えている木を、道具の『斧』で切ると、『木材』が手に入るようになるんだよ。斧自体も木の枝や石を集めて作れる。木材にも『やわらかい木材』『かたい木材』とか種類があって、材料の組み合わせ次第で家具や道具をDIYできるようになってるの」

    「へー! 楽しそう! でも、さっきの『どうぶつの森に林業を持ち込んだ』ってどういう意味なんですか?」

    「木材を使ってモノを作れるなら、木をたくさん植えておけばいいと思わない?」

    「思います」

    「でもそれだと、さっきも言ったように景観が悪くなる」

     

    「あっ、そうだった」

    それから、木を切り倒すと生まれる『切り株』には珍しい虫がついたりするんだよ。昔からカミキリムシが大好きなんだけど、ゲーム内でも切り株にいたらテンションめちゃあがる。とはいえ、木には果物が実るからそれなりの数は欲しいし、広葉樹と針葉樹のバランスも気になってくる」

     

    「考えることが多いですね! 果物や木材は収穫したいし、切り株の虫も獲りたいし、景観のためには木もほどほどに植えておきたい」

    人が利益を得るために木を管理したり、生態系のために自然な形を残したり。まんま、山間部の人たちが林業で考えてることなんだよね」

    「そんなこと考えながらゲームしてるんですか? 疲れません?」

    「ローカル取材で林業の課題を知っちゃったから……もう戻れないのよ……」

     

    江戸時代の林業が山を救う!? 300年続く「山守」に会ってきた

    岐阜県で林業の課題について考えた記事はこちら!

     

    森に「農業」がない理由

    「島ごとの植生があったり、海で多種多様な魚を釣ったり、DIYできたり。たしかにこう見てみると、ローカルの感動が詰まってる感じがしますね! でも、なんだか足りない気が……」

    「実はね、どうぶつの森に唯一と言っていいほど足りないものがあるんだよ。それは『農業』!

     

    小規模な土地でも始められるはずの農業。どうぶつの森にないのはいったいなぜ? 写真は「『金がないなら稼げ』元ヒモのマッドサイエンティスト農家が語る人類改造計画」より

     

    「ほんとだ、農業がないですね。一体なんで?」

    「その理由も気づいちゃったのよ……。日本でこの仮設を立てている『あつ森』プレイヤーはおれだけかもしれない

    「(ちょくちょくその感じ出してくるな)早く教えてくださいよ」

    「そもそも農業って、自分たちが食べるための作物づくりと、経済活動としての作物づくりがあると思うのよ」

    「野菜を食べるためか、売って稼ぐためかってことですか?」

    「自分たちが食べる分の野菜を家で栽培できたら、食べるには困らない。でも一方で、『大きな農業システムを作って儲ける』こともできる。たとえば、単一の農作物を大量かつ、効率的に生産する『モノカルチャー』って概念があって」

    「『モノカルチャー』?」

    「『モノクロ』の『モノ』、単一って意味だね。一年中、安定的に売れる1種類の作物を、バカでかい土地でドーンと育てるのが一番金になるよね、って考え方

    「ほうほう。『見渡す限りとうもろこし畑!』みたいなことですか?」

     

    「そうそう!アメリカの農業とかがまさにそうだね。でもこれってさ、ゲームでやるにはつまらなさそうじゃない?

    「たしかに、同じ作物めっちゃ育てて、収穫して売って、モノを買って……だと、めっちゃ『労働』っぽさがありますね」

    「でしょう?モノカルチャーの価値観を取り入れた途端に、農業って効率を追い求める『野菜ビジネス』になる。それだと労働メインの作業ゲーになっちゃうんだよね」

    「効率を追い求める労働……現実と一緒じゃないですか」

    「ここがこのゲームの面白いところなんだけど、どうぶつの森って、本来『作業ゲー』じゃなくて『用事ゲー』だと思うのよ」

    「用事ゲー?」

    「もう一度言うけど、お金を稼いで家を大きくして、ってことだけをゴールにするなら、住民との交流とかいらないじゃない? 農業と林業のシステムを導入したら、ゲーム内でも効率よくガンガン稼げる」

    「でも、『あつ森』はそういうゲームにはならなかったと」

    「うん。島で稼ぐためには魚を釣って、虫を取って、化石を見つけてお金に換える。『あつ森』ではみんな、自然の恵みに生かされる、狩猟採集型の生活をしてる

    「言われてみれば本当だ……!」

    「しかも、そうやって集めた生き物は『博物館』に寄贈できたりする。娯楽として、人間の収集欲を満たす設計もうまいんだよね。お金稼ぎだけが目的じゃないから、島の暮らしにも飽きないし」

     

    「あつ森」の博物館。生き物の生態に合わせた行動展示の部屋などもあり、ついつい生き物を増やしたくなる

     

    「植えた種に水をあげたり、珍しい虫のためにわざわざ切り株を残しておいたり、果物を収穫するために次の日まで待ってログインしたりさ。どうぶつの森の生活って、非効率な『用事』の積み重ねでできてるんだよ。でも、その用事が生活の楽しさを生んでいる

    「用事が生活の楽しさを生む……リアルな日常生活にも当てはまりそうですね」

    「そう。友達の小倉ヒラクくんが『人生の用事が増えたら、曖昧な虚無を感じなくなった』って話してて。暇な時って変な悩み事が増えるじゃない? でも、やるべきことがあると、自分が何に重きを置きたいのかもわかって、余計なことを考えないようになるんだって」

     

     

    「もともと、人間の生活ってそういうもんのはずなんだよね。育ててる植物に水をやるとか、猫にエサをやるとか、やるべきことは多い。そういう用事を全部、省略して楽できるようになってるのが、都会の生活なんだよ」

    「都会には『用事』がないんですか?」

    「用事をお金で解決できるのが現代社会じゃない? みんな利便性にお金を払って、可処分時間を作るループに入ってると思う。それは仕事のためかもしれないし、家族の時間のためかもしれないから、否定はできないんだけど」

    「仕事や人間関係に使う時間が、圧倒的に増えてるかもしれないですね」

    「美味しい味噌汁が飲みたかったら、前日から水に昆布を浸しておくとか、野菜を食べたいから庭に苗を植えるとかさ。手間ひまかけて、目の前の用事をこなすだけで暮らせた時代があったんだろうね。その日々の用事があるから『朝はあれをして、昼はこれをして』って1日の時間軸ができたはず

     

     

    「……飲み会で煙たがられるローカルおじさんの顔が出てきましたね」

    「そんな煙たがられてたんだ。ショック」

    「でも実際、都会の狭い家で暮らして、高い家賃を払ってたら柿次郎さんの言う『用事』のある生活はだいぶ遠い気がします。徒歩数分のコンビニに行けば、インスタント味噌汁とカット野菜が手に入りますし、そっちのほうが安上がりだし

    「まあ、それはそうなんだよね。おれも東京で10年くらい暮らしてたからわかるけど、まず固定費が高いくせに家庭菜園をするスペースもないし、近隣の騒音が気になってトンカチトンカンするDIYもできない。自分で所有できる緑も土もねぇ!!」

    「スーパーやコンビニがあれば生きていけますからね。お金で便利を買っているというか」

    「都会の便利さは素晴らしいと思う! でも、そうやって得た楽しさとか気持ちよさって、すぐ飽きちゃうと思うんだよね」

     

    長野にある自宅で土いじりに目覚めているそう

    「まあ、わからなくもないです。実際、ぼくが『あつ森やりて〜!』ってなってるのも、柿次郎さんの言う『用事のある生活』への欲求はあると思うので。狭いアパートの部屋にこもってるとその欲求が募ってくるというか……」

    「そうそう、今は外出もできなくて気が滅入るけど、どうぶつの森に行けば用事がたくさんあるのよ。みんなゲームの中にある用事の楽しさに救われてるんじゃないかな?

    「なんだか、僕も用事に救われたくなってきた気がします!うおおおNintendo Switch Lite買ってゲームやるぞ〜〜!でも……」

     

     

    公式ストアのSwitch Lite、品切れでぜんぜん買えないんだよな〜〜〜

     

    ゲームをやりたくなった人、やめたくなった人へ

    ジモコロ流に解釈された「あつ森」の面白さ。こうやって話を聞いてみると、ゲーム開発の裏側を覗いたような気分になれるから不思議です。(※この記事はあくまで、柿次郎編集長の個人的な面白がり方です)

     

    そしてゲームをしていないあなたも、「遠ざけがちな生活の用事」を自分の手で試してみると、気分が変わるかもしれませんよ。

     

    ※記事の下にある画像ギャラリーでは、柿次郎が長野県の自宅で実践している「リアルどうぶつの森」の様子をお届けします

     

    企画・編集:徳谷柿次郎

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    乾隼人
    乾隼人

    1993年生まれ。兵庫県宝塚市出身。関西の出版社で、酒場とかイベント会場をかけずり回ってました→上京しました。飲食店のメニューばかり取り上げるInstagramをやっています。

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