こんにちは、ライターのギャラクシーです。上の写真は小学校低学年の僕です。
子どもの頃、『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)という特撮ヒーロー番組が人気だったんですが、そのオープニングに……
・太陽がなかった場合、地球はたちまち凍りついてしまう
的な意味の歌詞があったんです。
幼かった僕は、自分や両親や 飼っていたうさぎがピキピキパキ……と瞬間冷凍される姿を想像し恐怖していました。
が、中学生くらいになってあらためて考えたところ、「“たちまち”ってどれくらいだ?」と思ったんです。
太陽がなくなった直後に一瞬で凍りつくイメージだったけど……
・太陽が無くなるって「ずっと夜になる」だけでは? その状態が続けば最終的に地球が凍りつくのだろうけど、最初の一ヶ月くらいは「さみーwww」程度で済むのでは?
・あと地球の中心核は5000度もあるらしい! ほんとにそんな“たちまち”凍りつくのか??
というわけで今回は、長年の疑問に終止符を打つべく、東京都三鷹市にある国立天文台・三鷹キャンパスに来てみました
話を伺ったのは国立天文台太陽観測科学プロジェクト特任専門員・米谷さんと、SOLAR-Cプロジェクト特任研究員・大場さん(取材した2023年11月当時)。
太陽の専門家であるお二人に教えてもらいましょう!!!
たちまちってどれくらい?
「今日はよろしくお願いします! さっそくなのですが『太陽戦隊サンバルカン』に“太陽がもしもなかったら”っていう歌詞あるじゃないですか?」
「すいません、我々は『太陽戦隊サンバルカン』を詳しく知らないんです」
「え、太陽の研究をなさっているのに……」
「それは関係ないと思います」
「詳しく説明しますと、1981年に放送された特撮戦隊もので『太陽戦隊サンバルカン』というのがありまして、そのオープニングに“もしも太陽がなかったら地球がたちまち凍りついてしまう”といった内容の歌詞があるんです」
「はいはい、なるほど」
「で、お聞きしたいのですが……」
「たちまちっていつですか?」
「…………」
「太陽が失われても、一ヶ月くらいは保つんじゃないかなーって予想してるんですが」
「う~~~~~~ん」
「真面目に研究なさっているお二人からすると呆れるような質問だとは思いますが、僕としても子供の頃からの疑問で……」
「いえ、呆れてるわけじゃありません。これ、すごく難しい問題ですね」
「はい、簡単に答えが出せるものではないです」
「前提として、太陽が突然消失したら重力のバランスがめっちゃくちゃになるので、地球はあさっての方向に吹っ飛びます」
「やばっ」
「地球は太陽の重力に引きつけられてるから今のバランスで公転してるわけで。中心が突然なくなれば、あらぬ方向に飛んでいっちゃうでしょうね」
「ハンマー投げの最中に突然選手が消失したら、ハンマーはどこかに吹っ飛んでいきますよね」
「うむむ……ただ僕の疑問はあくまで『たちまち凍りつくのか?』が主題なので、えーっと、ある日突然、太陽が燃焼するのをやめて熱や光を発さなくなった……これだとどうですか? 重力やその他の影響はそのままってことで」
「前提が二重三重にあり得ない状況ですが、主旨は理解しました」
「調べたところ、地球の中心核は5000度もあるそうです。太陽がなくなってもそんなすぐには凍りつかないのでは?」
「はい。火山があって地熱があるような場所はしばらく暖かいと思います」
「おぉ!!!『ターミネーター2』のT-1000みたいに一瞬で凍りつくことはないんですよね!」
「はい」
「じゃあ、じゃあ……たちまちが一瞬ではないなら、大体どれくらいで凍るのかわかりますか? 1年? 半年?」
「……どうだろう」
「じゃあ一ヶ月くらい? 一週間?」
「う~~~ん、断言はできません」
「いやもう大体でいいんです。『まあたぶん◯◯日くらいじゃないっスかね~?』くらいで」
「いえ、専門家としてそれを断言することはできません。太陽(の熱や光)がなくなることで地球の活動がどのような影響を受けるのかが不明すぎるんです。太陽よりむしろ地球環境の専門家の知見が必要になってきます」
「各方面の研究者と合同で緻密な計算を行ったとしても、断言できるほどのデータを出せるかどうか……」
「専門家がこんなに真面目に考えてくれるなんて……ありがたいです」
「太陽の熱や光がなくなることで、海や大気も温まらなくなるし……マジで予想がつかないですね」
「私も大体これくらい、というのは出したかったんですが……専門家が曖昧なことを言うわけにはいかないので」
「わかりました。専門家ですら『たちまち』がどれくらいの期間かはわからないと。考えてみれば……地球や太陽の長い歴史に比べたら、大抵のことは『たちまち』と言っていいのかもしれませんね……」
「なんか良い話にしようとしてます?」
「ちなみにサンバルカンの歌の続きは『(太陽がなくなったら)花は枯れて、鳥は空を捨てる』という感じで続くんですが、そちらは……?」
「光と温度がないので花はいずれ枯れると予想できます。鳥は……どうでしょう。鳥ってそもそも夜はあまり目が見えないのでは?」
「う~ん、フクロウとかは夜でも飛びますけどね」
「じゃあ『フクロウ以外の鳥は空を捨てる』で決定ですね。さらにこの歌は『人は微笑みをなくしてしまう』と続くんですが―」
「それは間違いないです」
「太陽がなくなって『やったー!』って人は存在しないので」
「40年以上抱えていた疑問がスッキリしました」
僕たちは、太陽のことぜんぜんわからない
太陽が燃えてる(燃えてない)わけ
太陽
年齢=46億歳
直径=140万km(地球の109倍の大きさ)
質量=1.989×1030 kg(地球の33.3万倍の重さ)
地球からの距離=1億4960万 km
温度=中心1500万度・表面6000度
「僕ら一般人は太陽についてあまりにも知らないことだらけ……ということで、ここからは太陽そのものについて教えてください。そもそも太陽はなぜ燃えてるんでしょう?」
「えっと、細かいことを言いますが、太陽って燃えてないんですよね。熱くて光ってるだけです」
「え??」
「燃える……つまり燃焼の定義は、『物質が熱や光を出しながら酸素と化合すること』です。宇宙には酸素がありませんので、太陽は燃えていません」
「じゃあ、なぜあんなに熱くて光ってるんでしょうか」
「中心部で核融合が起こっているからです。核融合のメカニズムはご存知でしょうか?」
「えーっと、何かの原子がくっついて1つに……みたいなやつですか?」
「そうですそうです! 核融合というのは軽い原子(水素など)が何個かくっついて、1つの重い原子(ヘリウムなど)に変化することですね。この時にとても大きなエネルギーが発生します」
「それが太陽の中心部で起きてて、だから1500万度っていう超高熱が発生してるってことですか」
「そういうことです」
「あの、素朴な疑問なんですが……なんで太陽は核融合し続けているんでしょうか? 最初の一回、何かの偶然で『核融合しちゃった♥』っていうのはわかるんですけど、なぜその後も、そして他の場所でも、核融合が起き続けてるんですか?」
「先ほど、水素が何個かくっついてヘリウムになることで核融合が起きると言いましたね。この時、余った水素が吐き出されます。その水素はまた別の水素とくっついてヘリウムになって核融合を起こし、その時に余った水素がまた別の水素とくっついて……」
「連鎖するんだ! でもそんな都合よく近くの水素とくっついたりするかなぁ……」
「自らの途方もない重力によって超々高密度状態になっているからこその連鎖ですね」
「ということは、太陽に水素がある限り半永久的に核融合し続けるってこと!?」
「はい。太陽の寿命はおよそ100億年と言われていて、現在は50億年くらい経過しています。残り50億年で寿命が尽きるまでは核融合し続けると思います」
「へ~太陽っていま寿命の半分くらいなんだ。ということは、日本人の平均寿命が84歳くらいなので……太陽って今42歳くらいなんですね! 責任あるポジションについて働き盛りの年齢だ」
「ただ人間は、40代を過ぎると普通は衰えていきますが……太陽は残りの人生(?)も衰えたりしません。その代わり最後の最後に急速に老化するって感じですね」
「核融合って各国で研究が行われてると聞きますが、結局実現できそうなんでしょうか? アメコミ原作の映画ではだいたい悪の科学者が核融合炉を作っては暴走させてますが」
「各国が研究を行っていて、現在は核融合の一歩手前、プラズマを発生させる段階まではきています。すでにヒトの手で1億度は実現されてるんですよね。これを安定させコスパを賄えたら……」
「たった1グラム(=ティッシュ1枚とか1円玉の重さ)の燃料で起こした核融合のエネルギーは、石油8トンを燃やしたのと同じ熱になります。核融合は二酸化炭素を発生させない、資源がほぼ無限、などメリットがたくさんあるのでぜひ実現してほしいですね」
専門家でも謎とされてること
「太陽は中心部が1500万度、表面が6000度なんですよね? ただ表面のさらに外側には100万度の熱を持つ層があると聞いたんですが」
「その通りです。外側にはコロナと言われる層があって、温度は100万度あります」
「なぜ表面が6000度なのに、その外側が100万度なんですか? 熱だけテレポートしてる??? コロナでは一体何が起きてるんでしょうか?」
「おぉ! 良い質問ですね! その答えは……」
「我々にもわかりません」
「えーーー!!!」
「太陽物理学の大問題のひとつになっている『コロナ加熱問題』ですね」
「いくつか説はあるんですけど、磁場が影響している説が有力です。磁場はねじれを生じさせることがあるので中心部の熱がねじれ状に伸びてコロナのあたりで解放されているのかもしれません」
※このあととても詳しく説明していただきました
「なるほど、難しくて完全には理解できませんでしたが、とにかく研究者にとっても太陽は謎ということですね! そしてその謎を解明できたら、暑い砂漠の熱を寒い氷原に届けたり、人類の役に立つかもしれない……!」
太陽の表面に立ってみたい
「僕、いつか太陽の表面に降り立ちたい、という夢があるんですが、それは可能でしょうか?」
「えーっとまず太陽はガスでできているので、土や岩などで構成される“地面”はありません。なので立ったり踊ったりするのは不可能です」
「えーー!!!」
「我々が便宜上“表面”と呼んでいる層はあるんですが、いずれにせよガスなので降り立つのは無理ですね」
「そもそも地面を構成する土や岩や金属は1200度とかで溶けてマグマになるし、5000度以上だと気化します。つまりガス以外が存在するのは難しいと思いますよ」
「言われればその通りだ……では『ワンピース』のエースのように炎を無効化できたら?」
「エースはマグマの力を持つ赤犬に燃やされてたじゃないですか」
「じゃあ赤犬なら太陽に降り立てる!?」
「先ほども言いましたが6000度だとマグマですら蒸発するので無理です。赤犬より太陽の方が強いです」
「じゃあ人類はどうあがいても太陽に近づくことすらできないの?」
「いえ、アメリカの宇宙探査機は、太陽表面から約620万kmという近距離まで接近するために、今も宇宙を飛んでいます」
「え、太陽研究者にとって620万kmって“近距離”なんですか?? 地球一周が4万kmだから……160周できちゃいますけど」
「地球と太陽の距離って1億5000万kmもあるので、620万kmまで近づけたらすごいです!」
「なので炭素繊維強化炭素複合材料を使い、1400度近くの熱に耐えられるよう作られています」
「おぉ……では近い将来、太陽の謎がまたひとつ解き明かされるんでしょうね。楽しみです!!」
「今アメリカの探査機が太陽に接近しているとのことですが、日本はライバルとして憎み合ってるなんてことはないんですか?」
「ないですないです(笑)。各々の国が得意な分野で協力しあってますよ」
「ちなみに日本が得意な分野というとどういうものになるんでしょうか?」
「偏光観測の分野は得意といえますね」
「へんこうかん……???」
「天体からくる光を観測するというか、それによって磁場の情報を取ることができるんですね」
「あとX線の観測も得意です」
「??????」
「光は温度によって様々な波長に区分されます。例えば太陽の表面・6000度は可視光線ですね。X線だとコロナ(100万度)やフレア(数千万度)まで観測できます」
「なるほど。とにかく日本も太陽研究では世界的に意義ある得意分野があると」
太陽を壊せる?
「ちなみに太陽ってヒトの手で壊せますか?」
「何を言ってるんですか?」
「万に一つの可能性ですが、どこかの悪い科学者が太陽を破壊しちゃったらどうしよう……そう考えると怖いんです。絶対大丈夫でしょうか?」
「太陽を破壊しちゃったらその悪い科学者も無事では済まないですけど……どっちみち人類の手で太陽を破壊するのは不可能ですね」
「その保証は?」
「太陽って、太陽系の全質量の99.8%を占めているんです」
「ボエーーー!!???」
「スイカとゴマくらい大きさや質量に違いがあるので、地球人が何をしても破壊することは不可能だと思われます」
「数百万年かければあるいは……いや、やっぱり無理かな」
「でもですね、人類最大の爆弾と言われる『ツァーリ・ボンバ』は、広島型原爆の3300倍もの威力があるらしいんんですよ。さすがにそれを食らったら太陽も無事では済ま……」
「ハハ……」
「太陽は核融合によって、毎秒、広島型原爆の5兆倍のエネルギーを放出してます。そのツァーリなんとか?で言うと15億個分が、毎秒です。絶対に大丈夫なので安心してください」
「スイカとゴマだから、地球ごと体当たりしてもノーダメかも……」
「ホッとしたと同時に太陽の凄まじさが怖くなってきました」
太陽が人の生活に及ぼす影響
「怖いといえば『太陽フレア』ってご存知ですか?」
「ドラゴンボールの『摩訶不思議アドベンチャー』で、太陽(?)から炎の竜みたいに飛び出てるやつですか?」
「それはフレアじゃなくて『プロミネンス』ですね。ちなみにプロミネンスは炎の竜というよりむしろ氷(100万度のコロナの中でプロミネンスは1万度程度だから)と言ってもいいようなもので、それはそれでおもしろいんですが……とにかくフレアとは別物です」
「フレアは太陽表面で起こる2000万度もの爆発のことで、そのエネルギーは太陽系内で起こりうるエネルギー解放現象としては最大のものです」
「2000万度って中心核より熱いじゃん。もはや想像もつかないな……で、それの何が怖いんですか?」
「フレアによって衝撃波が発生し、それが地球に磁気嵐を起こしたり……人間の生活にも大きな影響を及ぼすことがあります」
「例えば停電が起きたり(実際に80年代のカナダでフレアの影響による大停電が起きた)、人工衛星が機能停止したり、通信に障害が出たり……信号に誤作動が起きて人が亡くなったり……」
「え、怖」
「地球に影響を与えるほど大規模なフレアって、実は数年に一度発生しています。フレアを予測する『宇宙天気予報』なんていうのもありますので、みなさんも検索してみてください」
黒点って何なの
「『ジョジョの奇妙な冒険』っていうマンガで、ユダヤの商人は黒点の動きで商売の好景気・不景気を見たらしい、というセリフがあったんですが、黒点ってそもそも何なんですか?」
「黒点は太陽表面の黒い斑点ですね。中心部からの熱が磁場によって遮られて、そこだけ温度が低くなっているので暗く見えます」
「太陽はおよそ11年周期で元気な時と元気がない時を繰り返してまして、元気なときは黒点が多く発生します」
「へ~!!そうなんですね! あ、そうか……太陽が元気だと地球の作物とか漁獲量とかにも影響が出るだろうから……ユダヤの商人はそれを経験で知ってて商売の景気を見たってことなのか! 昔の人ってすごいな!」
「ちなみに国立天文台 太陽観測科学プロジェクトの公式X(旧Twitter)では、【本日の太陽】というポストで黒点を観察できますよ。商売をやっていない方もぜひ見てみてください」
【本日の太陽】2024-1-16の太陽黒点
北半球g=3,f=4,R=34
南半球g=6,f=13,R=73
全面g=9,f=17,R=107
(以上,暫定値)
gは黒点群の数、fは個別黒点の数、Rは黒点相対数を表します。
今月の太陽(白色光)https://t.co/WvfLzbX86H#太陽 #黒点 #三鷹 #国立天文台 pic.twitter.com/beRPQgx2n8— 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト | Solar Sci. Observatory, NAOJ (@naoj_taiyo) January 16, 2024
「おぉ~~~!!!この小さい黒いのが黒点なんですね!!」
「はい。小さいといってもこの中に地球がすっぽり入るくらいには巨大ですが」
「ちなみに他の恒星だと太陽がすっぽり入るくらいの黒点もあります」
「スケールでかすぎて感覚がおかしくなる」
「11年周期でいうと2024年か2025年くらいがピーク(元気)かなと言われているので、これから黒点が多く見られるかもしれませんね」
「そもそも11年周期で元気になったり元気がなくなったりするのってなぜなんですか?」
「はいはいはい、それはですね―」
「我々にもわかりません」
「太陽ってマジでわかってないことばかりなんですね。研究してて怖くないんですか?」
「確かに畏怖すべき謎めいた存在ですが、あんなに美しい星ってないと思いますよ」
「ちょっとこちらをご覧ください。これは国立天文台とJAXA/ISASやNASA、イギリスのPPARCと共同で開発した太陽観測衛星ひのでからの映像です」
「うわーーー!!!きれい!!」
「宇宙の研究というとどうしても夜空に浮かぶ星々とか、遠い別の星系とか、ビッグバンとか、そういったものに目が行きがちなんですが……こんなに身近で、人に恵みを与えてくれて、そして宝石のように美しい太陽のことを、もっとみなさんに知っていただきたいですね」
「国立天文台 太陽観測科学プロジェクト公式HPや公式Xでは随時太陽の情報を公開していますので、興味を持った方はぜひ見てみてくださいね」
「見ます! 今日は興味深い話をありがとうございました!! 知らないことだらけでめちゃおもしろかったです」
まとめ
太陽がなくなったら地球はたちまち凍りつくのか、専門家でも“たちまち”がどれくらいの期間なのかはわからないとのことでした。
でもお話を聞かせてもらって、太陽の観測や研究って大事だなーって思いました。だって観測と研究が進めば太陽の恵みをさらに受けることができるかもしれない、フレアなどの影響を少しでも減らせるかもしれない……今後もお二人には太陽の謎を解明してほしいですね!
■協力|国立天文台