こんにちは、ジモコロ編集長の友光だんごです。ずらりとバスが並んだ壮観な景色にはしゃいでいますが……こんな顔ではいられないような由々しき事態が今、バス業界で起きてるんです。
それは、バスの運転士不足。
いろんな業界で人手不足が叫ばれていますが、バス業界もそのひとつ。昨年11月のニュースによれば、2023年8月までの1年5ヶ月で8600km余りの路線が全国で廃止。その要因の4割が運転士不足だそうです。(※NHK NEWS WEB記事より)
8600kmという数字にも驚きますが、これは田舎に限った話じゃないんです。上記の廃止された路線のうち、一番割合の多い地域は関東の3129km。次は九州の2341km。
いつも乗っている路線が、気づけば減便や廃線に……なんて事態も、どうやらそんなに遠い話じゃなさそうです。
通勤や通学にバスを利用する方、そして車を運転できない方や高齢者の方にとって、バスは欠かせない移動手段です。これから先、どうなってしまうんでしょう?
ということで、今回は関東南部でバスを運行している東武バスさんへインタビュー。運転士不足にまつわるホンネを色々と聞いてきました。
そして記事の後半では、バスの運転を体験させてもらったレポートも! ハンドルを握ってみてわかったプロの運転技術のすごさや、現役運転士さんの生の声もお届けします。
バス運転士不足はなぜ起きてる?
やってきたのは東武グループの「東武こしがや自動車教習所」。なんでも、今日はこちらで東武バスさん主催の「バスの運転体験会」が行われているそう。
教習所には、フロントの行先案内板に「体験会」と書かれたバスがずらり。
「体験ということは、バスを実際に運転できるんですか?」
「はい。少しでもバスの運転に興味を持っていただきたいなと、今回初めて企画しました」
「そのバスの運転士さんが不足して大変、という話について詳しく伺いたいのですが」
「でしたら私がお話ししますね。東武バスの栗田です」
ということで、教習所の教室へ移動して栗田さん(写真右)にお話を聞くことに。10年以上ぶりの教習所!
「スーツの栗田さんといると居残りで面談受けてるみたいな絵になりますね。それはさておき、バスの運転士不足っていつ頃から起きてるんですか?」
「東武バスの場合、実感し始めたのはコロナの3〜4年前からだと思います」
「原因として、やはり高齢化は大きいんでしょうか?」
「はい。ベテランの運転士さんが定年などで抜けられていくのはかなり大きいです。それに以前に比べて転職もポピュラーになったので、他の業種に移られる方も増えました」
「上の世代がどんどん抜けていく。若い人はどうなんですか?」
「バスの運転に必要な『大型二種免許』の取得率も、若い方の間で年々減っていまして……。昔よりも、バスをはじめとする大型車を運転する仕事が職業として興味をもたれづらくなっているのは感じています」
「なるほど。2024年問題(※)って言葉も最近よく聞きますけど、バス業界にも関係あるんでしょうか?」
※2024年問題……自動車を運転する業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることにより発生する問題の総称
「影響は大きいですね。労働環境をよりよくしていくことは大切ですが、運転士の働く時間が短くなるので、現状の路線を維持できるか……。この点、私どもも非常にジレンマを感じているんです」
減便のジレンマ
「ジレンマ、というのは?」
「もともと人手不足が深刻だったところに、さらに運転士の労働時間が短くなる。そうすると、減便したり、場所によっては路線を廃止という話にもなってきます」
「東武バスさんの路線でも、減便や廃線は出てきているんでしょうか」
「はい。1時間に5本走らせていた路線が4本に、のように、主に通勤・通学路線で減便させていただいているケースがあります。これはお客様のご利用状況もありますが、人手不足も要因の一つでして、近隣の事業所同士で運転士を派遣し合い、カバーしている場所もありますね。本来は避けたいところなんですが」
「路線バスだと決まったルートがあるから、カバーに行くと他の路線も覚えなきゃいけませんもんね。運転士さんの負担は大きくなってしまう」
「減便すると、その分バスは混んでしまうので、利用されるお客様の快適度も下がってしまうし、利便性も落ちる。なんとか便数や路線を増やしたいんですが、人手が足らず、それもなかなか難しいんです」
「悩ましい……」
「あとはどの業界も同じだと思いますが、コロナの影響も大きかったですね。東武バスでは路線バスの他に高速バスも運行しているのですが、コロナ禍の間はインバウンドの方が激減して、羽田や成田へ向かう空港連絡バスは一時ストップしまして」
「うわあ」
「やっと戻ってきていますが、まだコロナ前の6割程度です」
「………………」
「眉間のシワが深くなりすぎちゃったので、一旦バスの運転を体験してきてもいいですか?」
「そうしましょう。いろいろと厳しい状況ではあるのですが、運転士が面白い仕事だ、というのをぜひ知っていただきたいので!」
バスの運転を体験!
ということで、下の体験会場へ移動。さっそくバスの運転席に座らせていただくことに。
「私がしっかりサポートしますのでね、ご安心を!」
「普通免許しか持ってないんですけど、大丈夫ですか?」
「特別に貸し切った教習所のコースで、私が横についてるので大丈夫ですよ。じゃあ注意点なんですけど、普通車に比べてブレーキの制動力が強いので踏みすぎないようにしましょう。あとはカーブ。最初は私が指示しますので、ハンドルを切るタイミングに注意して。とりあえず行ってみましょうか」
「も、もう行っちゃうんですね。では……」
「もうすぐカーブですね、ハンドルまだ切らないでください」
「普通車だともう切ってますけど、まだ?」
「まだです! 我慢して……まだ……まだ……はい切って!」
「うおおおおお」
「おおおおお、曲がれた!」
「ミラーをしっかり見て、路肩の縁石との距離を意識するのがいいですよ。せっかくの機会なので、何周かしてコツをつかんでみてくださいね」
という感じで、20分ほどバスの運転を体験。
終わる頃にはこんな顔になってました。
「大きい車を運転するの、めちゃくちゃ楽しいですね! ロボットを操縦する感覚もこの延長線上にあるんだろうなと思いました。でかい機体を操る快感!」
「楽しんでいただけてよかったです」
「教習所のコースでも、カーブをきれいに曲がれるとめっちゃ気持ちよかったです。僕はまだ無理ですけど、S字カーブなんかを一発で曲がれたらもっと気持ちいいんだろうな……」
「日々バスを運転してる運転士の技術はすごいですよ。東武バスでは栃木・日光エリアで大型観光バスも走らせてるんですが、いろは坂の下りで、ぜひ一番前の席に乗ってみてください。連続カーブを切り返しなしで抜けていくプロの技術に驚くと思います」
大小のカーブが連続する、いろは坂(画像提供:東武バス)
「自分で運転してみるとすごさを実感しますね……」
体験会では、運転士さんに参加者が直接話を聞けるコーナーも。僕も質問してみました。
東武バスの運転士を務める木村さん(写真左)と、運転士から事務職へと移った高橋さん
「実際にバスを運転してみて『運転楽しいな!』って思ったんですが、ほかにバス運転士ならではの面白さってありますか?」
「決まったルートを走る路線バスって、一見、変化がないように見えるじゃないですか。でも朝と晩、雨の日と晴れの日で景色も違いますし、いろんなお客様が乗ってくる。そういう日々の変化が常にあるので、毎日新鮮さがありますね」
「物流ドライバーさんと違って、お客さんを相手にする接客業でもありますもんね」
「運転が好きなのはもちろんですが、人と接するのが好きな人は向いてると思いますよ。降りる時にお礼を言ってもらえたりすることもあるので、そういうときは嬉しいですよね。僕は車の運転も接客も両方好きだったので、バス運転士になりました」
「なるほど! 木村さんの運転士になった理由も聞きたいです」
「自分は子どもの頃からバスの運転士に憧れてて。新卒から営業の仕事をずっとやってたんですが、29歳のときに思い切って転職しました」
「夢が叶ってよかった……!」
「いまは路線バスだけでなく、高速バスの運転も担当してます」
「高速バスならではの魅力も気になります」
「東京スカイツリーから東京ディズニーランドへ向かうような路線を担当してるので、お客様は遊びに行く方たちが大半です。なので、路線バスよりも車内にワクワク感が満ちてるような気がして、こちらも楽しくなりますね」
「ワクワクを乗せて走る仕事、いいですね〜。お話ありがとうございました!」
自動運転で人手不足は解消される?
すっかり眉間のシワも消えたので、教室へ戻って栗田さんへのインタビューを再開します。
「今まで大きい車を運転したい欲求とかなかったんですけど、憧れる人の気持ちがわかりました! あれは楽しいですね」
「なかなか実際に運転してみる機会ってないですよね。今回は初めての企画だったのですが、ありがたいことにたくさん応募をいただいて。時間の限りもあるので、泣く泣く抽選にさせていただきました」
「参加者も色んな方がいましたね」
もともと持っていた二種免許を活かしたいと参加した男性。「経験者ならいってみましょう!」とS字クランクに挑戦してました(一発でクリア!)
「埼玉が地元で、いつも乗っていた東武バスの運転士さんに憧れてたんです」と語る、20代前半の男性も
「時代とともに、バスの需要も変わっているのを感じます。大型のバスを貸し切って行く団体旅行のお客様は昔ほどではありませんが、バスツアーはまだまだ人気ですし、最近ではテレビの影響で『バス旅』をされる方も増えています」
「バス旅の番組も多いですよね。『こんな場所でもバスが走ってるんだ!』みたいな路線があるからこそ、面白くなるコンテンツというか」
「交通弱者と言われる方々の足を支えていくというのは、本来の私どもの役割なので。いろいろと厳しい状況はありますけど、今後も交通インフラとしての使命は果たして行きたいと思っています」
「ちなみに栗田さんおすすめのバス旅ってありますか?」
「東武バスの路線でいうと、川越はいいですね。小江戸巡りは風情があって。あとは日光なんですけど、冬もおすすめなんです」
「日光は紅葉の時期のイメージでした」
「寒さと雪で冬は皆さん足が遠のきがちですが、バスの車窓から見える冬景色は最高ですよ。寒いなか温泉に浸かって、あとは日光名物の湯葉や、歴史ある洋館でいただく西洋料理も美味しいです」
「オフシーズンだから混まずに楽しめる冬の日光、アリですね!」
「はい、ぜひ冬の日光にお越しください。毎日、凍結や倒木などの道路状況をチェックして安全を確認したうえでバスを走らせていますので、安心してお楽しみいただけます」
「先ほど、路線バスが出発する前の様子も見学しまして。車体の安全確認やアルコールチェック、点呼など、当たり前ですけど毎回これだけ厳重に行ってるんだなと」
「安心・安全がバスの一番大切な点ですから」
「最近、自動運転も話題ですけど、バスでの導入は進んでいるんですか?」
「実証実験は各地で進んでいて、東武バスでも千葉の柏や埼玉の和光市、栃木の中禅寺湖エリアで始まっています」
「実際に導入するためのハードルって何なんでしょう?」
「バス専用の道路のような外部からの流入が少ない道であれば、比較的、導入はしやすいように思います。実際、地方都市ではレベル4と呼ばれるほぼ無人のバスが実用化される動きがあります。ただ、駅前のロータリーのような場所だと導入への課題が多く残されていますね」
「それはなぜ?」
「人の往来も多いですし、自転車やバイクなども通ります。車以外の動きというのは非常に複雑なので、そこを全て自動センサーで検知したり、AIで先読みしたりしながらカバーするのはかなり高い技術が要求されると思うんですね」
「交通量の多い駅前にバスの専用レーンをつくるのもなかなか大変そうですもんね……」
「実証実験が進んで、商用化される段階までいけば人手不足の対応策にも繋がると思います」
「一部が自動化するだけでも、運転士さんの負担は減らせそうですし。自分で運転してみて、あの大きな車体を毎日、スケジュール通りに走らせているプロのすごさは実感しました」
「皆さんの生活を支える大事な仕事なので、やりがいも大きいと思います。私どももより働きやすい環境を整備しながら、体験いただける機会を今後も作っていきたいと思います」
最後に、東武バスのお仕事について気になるポイントをまとめました。
Q:普通免許しかなくても入社できますか?
A:マニュアルの免許をお持ちであれば、大型二種免許の取得費用をサポートします。新入社員には教導運転士による養成制度もあるので、一人前の運転士になるまで手厚くサポートします!
Q:休日や福利厚生は?
A:バス運転士はあらかじめ決められた勤務シフトに沿って仕事を組むため、予定が立てやすく、有休もしっかり取得できるほか、育児や看護休暇などの制度も充実しています。
Q:社内の雰囲気は?
A:先輩・後輩の仲もよく、親しみやすい雰囲気です。運転士同士でコミュニケーションをとる機会も多く、営業所内に趣味のサークルもあります。
Q:入社の支援制度はある?
A:最大30万円支給される入社祝い金や、入社のため遠方から引っ越してきた人のための転居支援金(最大70万円)の支給など、さまざまな支援制度があります。
☆東武バス 運転士さんの募集要項はこちらから!
https://job-gear.net/tobubus/
撮影:萩原楽太郎