滝に打たれてこんにちは。ジモコロ編集長の友光だんごです。

 

突然ですが、僕は「洞窟探検」に憧れがありまして。たぶん小さい頃に読んだ探検小説の影響です。たとえばジュール・ヴェルヌの『地底旅行』。地底に広がる広大な空間、生き残った太古の動物、未知なる文明……ああ、地底にはロマンが溢れてる!!!

 

そんな僕なので「洞窟探検のアクティビティ」があると聞いたら、いてもたってもいられません。

場所は「沖永良部島(おきのえらぶじま)」。鹿児島から飛行機で約1時間ほど、奄美大島と沖縄の中間にある南の離島です。

沖永良部島は隆起したサンゴ礁でできた島で、なんと大小約200~300の鍾乳洞や洞窟があるそう。

近年では『洞窟の聖地』としても注目を浴びており、洞窟探検のアクティビティ「ケイビング」が人気らしいんですね。

 

ケイビングで地底に潜りたい〜!!!!と叫んでいたら、地元の方にケイビングのガイド・有川剛千代(ありかわ・たけちよ)さんを紹介していただきました。さっそく剛千代さんの案内で、ケイビングを体験。いざ地底旅行へ!!!

沖永良部島ケイビング協会・認定ガイドの有川剛千代さん。ワイルド系イケメンです

何億年もかけてつくられた鍾乳洞の中へ

別の取材で一緒に島へ来ていた知人二名(写真右)とケイビングに参加

 

やってきたのは、森の中にある大きな裂け目のような場所。ここがどうやら洞窟の入り口のようです。

「よろしくお願いします。ここから洞窟に入るんですね」

「はい。ケイビングとは、通路や照明が整備されていない洞窟を探検するアクティビティなんです。自然のままの洞窟を体験できるのが魅力のひとつですね」

「ケイビングって初めて聞いたんですが、昔からあるアクティビティなんですか?」

「日本ではまだあまり馴染みがないんですけど、海外では登山と並ぶほど人気のアウトドアとして知られています。沖永良部島は洞窟の規模も日本有数。これから総延長が日本第三位を誇る『大山水鏡洞(おおやますいきょうどう)』の中に入っていきます」

「日本第三位!」

「前半は洞窟の解説をしながら、後半では水に浸かりながらのルートもあります。なのでツナギの下にはウェットスーツを着ていただいてます」

「ちなみに僕は泳げないんですけど、探検できますか……?」

「今回は初心者用の『リムストーンケイブ』というコースなので、泳げなくて大丈夫ですよ」

「なるほど。とはいえ近づいてみたら思ったより急だし暗いし、不安になってきました」

「洞窟内は照明がないので真っ暗です。なので、僕が『消してください』と言う以外は、基本ヘッドライトを付けっぱなしで進んでください。岩場は滑りやすいので、特に洞窟を降りる際は足元に注意しましょう」

「行くしかない〜!!! わ、足元が濡れてて滑る」

おっかなびっくり進んでいきます。慎重に……

「ゆっくりでいいですよ。さあ、最初にここで記念撮影しましょうか。 みなさん、入口の方を向いて立ってください」

「おおー!!!」

 

振り返ってみると、いきなりの絶景。地底探検がはじまる!

「まず初めに、ケイビングをする上で必ず守ってほしいことがあります。歩いていると白い鍾乳石が見えると思うんですけど、絶対に触らないでください

「すごく貴重とか?」

「そうですね。もう少し言うと、泥などの汚れが付いたら永遠に落ちないからです」

「永遠に落ちない!!!」

 

 
 
 
 
 
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(社)沖永良部島ケイビング協会(@okierabucave)がシェアした投稿

「白い鍾乳石は、天井から雨水が落ちて、上からコーティングされることで生まれます。白い=成長中という意味なんですよ」

「まだまだ伸びている途中?」

「はい。鍾乳石は1ミリ成長するのに100年かかると言われていて、成長スピードがすごくゆっくりなんです。触らないのはもちろん、割らないように! 数千年、数万年ものなので」

「そんな貴重なものがそこら中に。プレッシャーがすごい」

「岩場を降り終えたら、次は水の中を潜って行きます」

「おお、急に水が深くなってきた!」

足はつくので、泳げなくても大丈夫なレベルでした

「ちなみに洞窟内に生き物とかは?」

「水の中にはエビやウナギ、あとはコウモリなんかもいますね。さあ、そこの水たまりの中にある白い石が見えますか? これは『洞窟真珠(どうくつしんじゅ)』というものです」

「コロコロしててかわいい」

「これは鍾乳洞の中にある浅い水溜りでできます。落ちる雫の衝撃で、砂粒が水の中で回転して、鍾乳石をまといながら段々と丸くなっていくことで生まれるんです」

「ということは、これも数百年レベルかかって生まれたもの……」

「そうですね。そちらにあるのは、炭酸カルシウムが結晶化した『犬牙状結晶(ケンガジョウケッショウ)』です。犬の牙に似ているので、こういう名前なんですね」

「かっこいい!!! いろんな自然の美がある……。でも、そもそもどうして沖永良部島には鍾乳洞や洞窟が多いんですか?」

「沖永良部島はサンゴ礁が隆起してできた島なので、地盤が石灰岩でできています。その石灰岩が雨で浸食された影響で、鍾乳洞や洞窟が数多く生まれたんですよ。また、島は昔、海底に沈んでいたことから、今も洞窟で化石が発見されることもあります」

「うおお、まさに地底旅行の世界。ロマン溢れる島なんですね」

「そういうことです。では、今度は岩の割れ目をほふく前進で進んでいきます」

「めちゃくちゃ狭い!」

「割れ目を無事に通過できたら、水の中に飛び込んでください」

「え、飛び込む!? 溺れませんか!!??」

「大丈夫です。僕を信じて一気に!」

「フローストーン」と呼ばれる壁状に覆いかぶさったような鍾乳石……どころではない状態

 

「気持ちいい〜! 完全に怖さより面白さが勝ってます」

「いい顔になってきましたね」

 

その後も、真っ暗で右も左も分からない鍾乳洞の中を登ったり、降りたり……休む暇もなく、必死に剛千代さんについていきます。

「みなさん、ここが目的地のリムストーンプールになります。僕が合図をするまで、後ろを振り向かないでください」

「なんだろう……」

「はい、いいですよ。準備ができたので、こっちを見てください!」

 

剛千代さんの合図で後ろを振り向くと、目の前にはライトアップされた美しい鍾乳洞が!

 

どこまでも透き通った水と鍾乳洞が幻想的な雰囲気を作り出し、本当に感動しました。地下水に流れる音に耳を傾けていると、自然の偉大さをしみじみと感じます。

「すごい……。島の地下にこんな絶景があったなんて思いもしませんでした」

「さて、ここでコースは終了です。それじゃあ地上に戻りましょうか」

目指すは「自然を守りながら、経済を回す」観光

約2時間半のツアーを終えたところで、ガイドの剛千代さんにケイビングについて詳しくお話を聞いてみました。

「今日は初めてケイビングを体験してみて、どうでしたか?」

「もう最高でした。子どもの頃から読んでた探検小説の世界で。あと、剛千代さんのガイドもすごく面白かったです。クイズ形式で豆知識を教えてくれたり」

最低限のルールさえ守れば、ガイドのやり方は比較的、自由にできるんですよ。なので、人によって撮影をメインにしたり、説明を多めにしたりとツアーの内容を変えています。だんごさんグループは話を聞きたそうだったので、今日は説明が多めでしたね」

「最後の洞窟内のライトアップにも感動したんですけど、あれは懐中電灯を使って洞窟内を照らしていたんですか? 洞窟内には電気も照明もないですもんね」

「はい、水中用のライトを使いました」

水中用ライト。このライトを巧みに配置して、洞窟をライトアップしてくれた

「『ライトは最低10本は持っていくように』とガイドは言われているんですけど、持っていく本数もガイドによって様々で、僕は多めに持ち歩く派です」

「人力で絶景をつくってくれてたんですね。すごい。そもそも沖永良部島ではいつ頃からケイビングが始まったんですか?」

「島でツアーが始まったのは2011年からですね。もう10年以上経ちます」

「それ以前は、洞窟は島でどういう場所だったんでしょう?」

『暗川(クラゴー)』と呼ばれる、住民が生活用水を得る場所でした。沖永良部島は水源が乏しく、洞窟内の川が貴重な水源だったんです」

「毎日の生活用水のために、あの電気も階段もないところを何度も降りていたんですね……」

「また、太平洋戦争の際、いくつかの鍾乳洞は島の避難場所にもなったそうですね」

「島のいろんな歴史が鍾乳洞とつながっているんだなあ」

「ケイビングの面白い点は、その土地ならではの地質学や歴史を学ぶことができることだと思います」

クラゴーの歴史を紹介する看板

「今はどのくらいの頻度でツアーが行われているんですか?」

「今日の洞窟だと、午前と午後で3組ずつ入れるようになっています。ただ、人がたくさん入ると、そのぶん洞窟が汚れたり、削れたりしてしまう可能性もある。そのため、入る人数を調節したり、ガイドが汚れを落としたりと常に気をつけています

「洞窟の中って人工的なものが何もないからこそ、人が付けた汚れや傷が簡単に目立ちそうですよね」

「そう、やっぱり人が入ることで、どうしても影響が出てしまうんですよ。だから洞窟保存のために、上級コースで行く『銀水洞(ぎんすいどう)』では3月〜6月の期間はツアーを中止にしています

「えっ、その時期って春から初夏にかけての観光シーズンですよね。かきいれどきなのでは」

「もちろん経済的には多少ダメージはあります。でも、人を入れないことで洞窟がきれいになるんですよ。だから協会全体で『毎年この時期は銀水洞へ入れないようにしよう』と決めています。初級・中級ツアーは通年やってるんですけどね」

全長3kmともいわれる銀水洞。巨大なドームや5メートルは超えるであろう鍾乳石の壁がつくりだす絶景が楽しめる

「ただ、今年6月の豪雨で銀水洞が被害を受けてしまって。普段は水が入らないところまで浸水して、白い鍾乳石が茶色く変色してしまったんです。これはもう、時間ととともに白くなる自然の再生を待つしかなくて。いまは銀水洞のツアーを中止しています」

「なんと。全国で豪雨災害が増えてますけど、島の洞窟にまで……」

豪雨による被害を受けた銀水洞

「でも今回の調査で、鍾乳石の白い層の下に、古い茶色の層があることもわかったんです。つまり長い歴史のスパンで見ると、繰り返されていることかもしれないんですよね」

「過去にも何らかの原因で増水したけど、長い時間をかけて白く再生していた」

「はい。だから銀水洞で白い鍾乳石の絶景が見られたここ10数年は、むしろ島の歴史のなかで、貴重な時期だったのかもしれませんよね」

「すごく壮大な話だ……。日本の漁業は魚を獲りすぎていて、獲る量を減らせば水産資源を復活できるけど、なかなか難しいと聞いたことがあって。経済よりも自然回復を優先するって、大事だけど簡単にできることでもないと思います」

ケイビングツアーでは利益を追求して観光客を増やすのではなく、 島の自然環境を守りながらも、経済を回す観光モデルをつくりたいと思っています。やっぱり島にとって大切な鍾乳洞だからこそ、きれいな状態で保護していきたいですね」

「ケイビングが始まったことで、島にはどんな影響がありましたか?」

「ケイビング目当てに来る人も増えていて、雇用や島の観光産業に良い影響を与えていると思います。もともと、近くの沖縄や奄美大島に比べて、観光が強い島ではないので」

「島ならではの観光コンテンツになりつつあると」

「ただ、だからこそ沖永良部島のケイビング料金は初級コースが一人22,000円〜の価格設定にしています。安易に安売りをせず、適正な値段で提供することで、島の観光の基盤を作っていきたいんです」

「最近、観光地の本来の姿を持続的に保つことができる『サステナブルツーリズム』という言葉も出てきてますけど、まさにそんな形を目指していると」

「これが20年前なら、この姿勢は受け入れられなかったと思いますね。これから、この島のケイビングツアーが観光と経済のバランスが取れた、日本の新しい観光モデルになっていってほしいです」

おわりに

島の歴史から持続可能な観光の形まで学べるケイビングツアー、とても楽しかったです。

 

今回行ったのは初級コースでしたが、中級、上級のコースもあり、順に体験していくと、上のコースに参加できるシステムだそう。上のコースになればなるほどすごい絶景に出会えるそうなので、また沖永良部島へ遊びに行って、次は中級に参加したいなあ。さらなる探検を!

 

気になった方は、ぜひ沖永良部島ケイビング協会さんのHPをチェックしてみてください〜!

https://okierabucave.com/

 

構成:吉野 舞