こんにちは、ライターの風音です。

フリーライターとして独立してから、なんとか二度目の春を迎えることができました。

確定申告をし、年度締めの仕事も終わり、やっと一息。よーし、気持ちを切り替えてこれからもがんばるぞ〜! と、思ったけれど。

ひたすら仕事に取り組んでいたら、フリーライター歴はもう1年半に。今まで、じっくり自分の働き方や仕事について考えたことがなかったかも。

あれ? この先私はどうしたいんだろう? 
これからもやっていけるのかな?

うわー、急に不安になってきた。駆け出しのフリーライターって、将来のことどう考えているの? 誰かに相談したい! でも、会社員の頃と違って上司も同期もいないし……。そうだ、一旦編集長に相談してみよう。

 

「なるほど。風音さんは地方在住だし、同年代で同じ悩みを抱えているライターを見つけるのも難しそう」

「そうなんです」

「いま28歳でしたっけ。ジモコロのライターさんに同い年で今年フリーランス二年目の人がいるから、話してみます?」

「!! お話してみたいです!」

 

どうして仕事を一つに選ばないといけないの? 

風音(写真左)と同い年の、ジモコロライターとしても活動する冨田ユウリ(写真右)

「今日はよろしくお願いします。今日は、フリーライター二年目の疑問や不安を解消したくて」

「よろしくお願いします。ちゃんと話せるかなぁ」

「二人とも、一度会社員を経てから独立しているんですよね。それぞれの履歴書を一旦おさらいしてみましょうか」

「えっと、気になるところがたくさんあるんですが、『このままでは徹子になれない!』というのは?」

「私、黒柳徹子さんになりたくて」

「???」

「今日着てるTシャツも徹子さんですよね?」

「はい!! テレビ局に勤めたのも、徹子さんがNHKの女優からキャリアをスタートしたからなんです。テレビ局の仕事はすごく楽しくかったけれど、ふと『徹子さんはNHKの社員じゃない』と気づいて」

「それはそうですね……」

「でも、女優を目指しているわけではないんですよね?」

徹子さんって、女優であり、コラムニストであり、司会者でもある。肩書がありすぎるからこそ肩書きがないじゃないですか。その自由な感じに憧れていました」

「なるほど」

「それに、当時はちょうど働き方改革が始まった頃で。それはすごくいいことだったけれど、私はもっと働きたかったし、もっといろんなところに行きたかったんです

「会社員としての働き方に不自由さを感じていたと」

「会社の名刺があるからいろんな人が会ってくれる。でも、会社を通さないと仕事にできない。そういうのをちょっと苦しく感じていて。それに、だんだん『私は会社員適性が低いのかも?』と気づき始めていたから、申し訳無さも募っていて」

「会社員適性。たとえば?」

毎日、決められた出社時間に会社へ行くのがしんどかったんです。たとえば、『◯時から打ち合わせがある』って決まっていたら時間通りに行ける。でも、出社時間みたいに定められたルールに沿って動くことが出来なくて遅刻しちゃう」

「理由があればいいけど、『とにかくルールだから』みたいなのに違和感を覚えるということ?」

「まさにそうです!」

「あぁー、私も会社員時代遅刻しがちだったし、決められた昼休みの時間内で休まないといけないのが苦痛でした。働きたいときに働きたかったし、休みたいときに休みたかった

「でも、そんなの会社員としてはよくないじゃないですか。会社が決めた規則に沿って働くからこそお給料がもらえるんだから。でも、私にはどうしてもできなかった。なのに会社の人はみんな優しかったんです。会社員としては許されるべきじゃないのに、許されてしまうのは良くないなと

「自分に厳しいタイプなんですね」

「むしろ、私は自分に対して厳しいタイプじゃないから、このままここにいてはだめになってしまうと思ってフリーランスになったんです

「それに、当時私の近しい人たちが亡くなることが重なった時期でもあって。『人はすぐに死ぬ、やりたいことをやろう』と思ったんです。風音さんは、キッザニアに行ったことはありますか?

「キッザニア? いろんな職業体験ができる施設ですよね」

「私は、大学のときにキッザニア体験会に行ったんです。そこで、キッザニアだったら一日にいくつも仕事が経験できるのに、どうして大人は仕事を一つに選ばないといけないんだろう?と強く感じたんですよ

「たしかに、会社員のままではキッザニア的には働けない」

「そうそう。フリーランスとして私に何ができるかなと考えたときに、いつか徹子さんにインタビューをしてみたいなと思ったんです。それに、徹子さんも物書きのお仕事をしてる。それなら私も! と思って。当時は取材=編集者のイメージだったから、まずは一度編集者になろうと」

「軸はあくまで徹子さんのままブレないんですね」

すべては徹子さんになるためですよ。それで、もともと好きだったグルメ雑誌の出版社に電話したら、たまたま姉妹誌のビジネス誌で業務委託的に編集の仕事をもらえたんです」

「編集のほうから業界に入っていたんですね」

「でも私はやっぱりキッザニア体質だから、ファッション誌も気になってしまって、エディターさんのアシスタントもしていました」

 

「私ってライターなんだ」と自覚するまで

「編集者からライターに転身したのはどうしてですか?」

「実は、恋愛的に気になる編集者の人がいたんです」

「あら!」

「編集者同士でいるより、ライターになった方が接点を増やせるんじゃない? と思って編集の仕事を全部辞めたんです

「思い切りが良すぎる!!」

「ちょうどそのタイミングで、別の方面から『記事を書いてみない?』とお声がけいただいて。この仕事を一生懸命やれば、私はライターになれるかも、あの人と一緒にいられるかも! と」

「動機が不純だ……」

ライターをやったことはなかったけど、とにかくやらなきゃ道は開けない! って。いざ書いてみたら、その編集さんにも、周りの人にもすごく褒めてもらえて」

「ちなみに、その編集さんとは?」

「それが、いざその編集さんがお仕事をくれたときに、いい記事を書くためにお互いの意見をぶつけ合うくらいの距離感でいたら、『この人いいな』とは思えなくなってしまって。完全に仕事モードに……」

「近づくための手段だったはずが、完全にライター脳になったんだ」

「そう。本当にライターになっちゃった(笑)。風音さんはどうしてライターになったの?」

「少し冨田さんと似ているかも。会社員として働くのがしんどくなってきて。もともと旅行が好きだったから、どうせなら一回やってみたいと思っていたゲストハウスの仕事をしようと、たまたま求人を見つけて長野に」

「やってみたいことをやろうとしたんですね」

「それで、仕事の一つとしてコラム的な文章をお店のSNSに載せていたら、『文章が読みやすいからライターになったら?』と周りの人に言われて、『そうなんだ、じゃあやってみよう』と」

「最初はどんな記事を?」

「地域のお店紹介から、占いサイトのレビュー記事、本紹介のエッセイと、『ライター 募集』で出てきた募集にあれこれ応募しては書いてました。インタビュー記事も未経験だったけど、できるか聞かれて『書けます』とやらせてもらったのが転機になって」

「わかります。『できます!』って言うの大事!

「『インタビュー記事が書けるなら』とジモコロのような取材記事も依頼がくるようにもなって。そこでやっと『私ってライターだったのか』と。そこからだんだん仕事が増えて、独立しました」

 

5000円の残高を見つめる日々。でも、お金がないのは働けるチャンス?

 「地方と都会では仕事の取り方も違いそうですよね」

「風音さんは東京の仕事もある?」

「あります。東京の仕事は基本的にオンライン取材で対応しています。割合でいうと7:3ぐらいで、長野の仕事の方が多いです」

「書いた記事を自分のSNSに載せているうちに、『こういう仕事があるんだけど』と声をかけてくれるようになりました。そこから、現場で一緒だったカメラマンさんが別の仕事を紹介してくれたり、『あの記事読みました』ってお話が来たり」

「縁で仕事がつながっていくのはローカルっぽいですね」

「逆に東京の仕事は、自分から『書かせてほしいです』とメールしたり、ライター募集を見つけて応募したところがほとんどですね」

「ちゃんと営業してる! 私は無計画だったから、ライターになったばかりのころは本当にお金がなかったですね(笑)。原稿料って、末締め翌月払いとか、公開されてから更に翌月払いのことが多いじゃないですか」

「『今月めちゃくちゃ忙しかったのに、お金ない!!』って時、ありますね……」

「私は現場潜入系の記事や身体を張った記事が多くて時間も経費もかかるから、気づいたら預金残高が5000円になっていた時もありました

「えー! ギリギリ!!」

「外ではお金があるように振る舞うんだけど、家で朝起きたときは1人じゃない? 毎朝じっと通帳を見つめて『増えてないなぁ』って落ち込むのを毎日繰り返していましたね

 「報酬が振り込まれるまでどうやって耐えていたんですか?」

やっぱりキッザニア体質だから、『別の仕事ができるチャンス!』と思ったんですよ。それで近所の中華調理屋でバイトを始めて、週払いでお給料を貰っていました。ご飯も食べさせて貰えるし、町に溶け込むことができてすごく楽しかったですね」

「私も、とりあえず独立してみたものの最初の数ヶ月は仕事が無くて、近所の映画館でバイトをしてました。金銭的な不安もあったけど、『稼がなきゃ!』というよりは『映画館で働いたことないしやってみたい!』っていう気持ちだったな

「なるほどなぁ。二人がライターとして『食っていける』状態になったのはいつ頃でしたか?」

「通帳の残高を見つめなくなったのは、独立して半年ぐらいかな。中華料理屋のバイトは今も月一くらいで続けていますよ」

「私もそれくらいです。ライターとしての仕事が増えてバイトのシフトをあんまり出せなくなってきて、ライター一本になりました」

「やっぱりみんな、最初の半年〜1年くらいは大変なんだなあ」

 

不安も丸ごと仕事になる、ライターという生き方

「二人ともライターの仕事は向いていると感じてます?」

「正直、『好き! 楽しい!』と思ったことはないけれど、『苦しくない』って感じです。1日に何人もの話を聞くことも、パソコンに向かって書き続けることも苦にならないし、そうして書いたものを評価してもらえて仕事が来るから、向いてるんだろうなと」

「私も編集のときは自分から『やらせてください!』って仕事を貰いに行く側だったけど、ライターになってからはそうしなくても仕事が来ていて。だから向いてるのかもですね」

「なるほど。でも、風音さんは今後に不安があるんですよね?」

「そうですね。私は毎月何本みたいに決まった仕事がなくて、基本的に案件ベースなんです。独立してから今までたまたま仕事が途切れなかったけれど、今ちょうど先の仕事がない状態で、不安です」

「私、ちゃんと不安を感じられる人はそもそもライターにならないんじゃないかって思っていました。不安な人もいるんだね! 今日一番の発見です!」

「だいぶ極論(笑)! ただ、たしかにライターの働き方って自由ではあるけれど、不安定なのは前提かもしれないね」

「私はむしろ不安定が好きなので、超幸せな仕事だなと思いますよ! 先が見えない不安って、逆に言えばわくわくするってことだから。ハードモードな潜入取材や突撃取材も楽しいし、面白いことも不安なことも全部が仕事になる。それってすごいことじゃないですか?」

「私もライター以前に人と話すことが好きだから、普段人と喋っていても、『ちょっとメモ取っていい?』って途中から取材みたいになることがあります。記事にならなくても、ZINEにしてみたり、別の仕事のヒントになったり」

「わかる、人生と仕事の境目があんまりないの。面白い人生なら、面白い仕事ができる。そういうのが楽しいって思える人は、多分ライターに向いてるんじゃないかなぁ

「冨田さんは、1ヶ月後の仕事の予定がゼロでも不安にならない?」

「それはそういうものだと思うようにしてる。ないときはない。あるときはある。ないときは、別の好きなことをやる! みたいな。今はありがたいことにお仕事が常にある状態だけど、誰かから仕事を与えられなくても、『のびのび自分の取材をしよう!』って勝手に取材してると思う。私は正直、取材ができるならお金がもらえなくても全然いいんです」

「そういえば、私もまだ全然仕事がなかった頃に勝手に企画を立てて取材してnoteに記事を書いていました。お金になるとか関係なく楽しかったし、結果それがきっかけで数年後の仕事につながったこともあったな……」

「でも、不安な気持ちって生存本能としてあってしかるべきものじゃない? ちゃんと危機管理能力があるってことだから。サバンナで生き抜けるのは、ちゃんと不安を感じられるタイプの人ですよ

「たしかに。不安を感じている分、もっと勉強しなきゃとか、そこから次のステップに繋げられている部分はあるかも」

 

フリーライターのゴールはどこにある?

「風音さんは今、『仕事がない状態』でいることが不安なんですよね? 私は逆に、1日に何本も取材して、週に何本も原稿を書く今の生活が『ちょっと違うな』と思っていて」

「それはどうして?」

「私はライターとしてのゴールって、『仕事がいっぱい来ること』ではないと思うんです。いい記事を書くためには、書く人自身の知識や経験、いろんな人と出会うことが必要ですよね」

「うんうん。ずっと家に籠もって仕事だけしていると、だんだん書けなくなってくる」

「常に仕事がある状態ってありがたいんだけど、今の私にはがむしゃら感がなくなっていて。楽しいんだけど、何かが足りない。だから、一度東京を離れてフランスに行こうと思ってます

「フランス!」

「このまま東京にいればずっと仕事がくるだろうけど、私は不安を感じづらいぶん、危機感を感じる環境に身を置かないと、同じ毎日の繰り返しになっちゃう。それに、ライターの仕事でいっぱいいっぱいになってるのは、徹子さんじゃない!

「人生が徹子さん軸すぎる」

「実は徹子さんも、日本での女優の仕事を一旦リセットするために30代の頃にニューヨークに行っているんです。なので、私も一度『東京』という環境を手放してみようかと。今は優しい人に囲まれすぎている気がして……」

「あえて厳しい環境へ飛び込むんだ。風音さんはずっと長野でライターとしてやっていこうと思ってますか?」

「これまで、長野にいたご縁でたまたまライターになれただけで、他の土地では仕事が来ないんじゃないかと自信を持てない部分があって」

「うんうん」

「だから、ここ一年間はなんとなく長野を離れられない部分があったと思います。でもようやくその自信のなさが薄れてきたかも。もっと力をつけて、どこにでも行ける身軽さを身につけたいです」

「ライターという仕事にこだわりはある?」

「楽しく働けているので、仕事が来る限りは続けたいですね。でも最近はイベントMCとか、ライター以外のお仕事をもらうこともあって。そうやって予期せぬ仕事が増えていったら面白い生き方になりそうだなぁと」

「ライターの仕事を通じて、それぞれの生き方を掴んでいく人も多いからね。文筆家になる人もいれば、経営者になったり、ローカルに入り込む人もいる」

「……徹子さんじゃない?」

「え?」

「風音さんも、徹子さんみたいになりたいんじゃない? いいですよ、私と一緒に徹子さんを目指しても」

「たしかに、今は『ライターの風音さん』として働いているけど、最終的には『風音さんだから』って仕事が貰えるようになりたいかも」

「徹子さんって、そもそも人としてすごく魅力的じゃないですか。私は、最終的には徹子さんみたいに魅力的なおばあちゃんになるのが目標なんです。まだまだ自分には人生経験が足りないから、フランスでもっと成長してきます」

「私も『仕事がない状態』=ダメだと思い込んでいたけれど、不安な期間をうまく活用してライターとしても人としても成長できるようになりたい! 仕事でも仕事じゃなくても、いろんなことをしたいし、いろんなところに行きたいな」

「うんうん、何でもやれる! 出来ないことなんてない! 一緒に頑張ろうね」

「ありがとう、明るい気持ちになれました! フランスから帰ってきたら、またお話聞かせてください!」