こんにちは、ライターの吉野です。みなさん突然ですが、もし災害時にペットとはぐれた場合、どうするか決めていますか? ペットと一緒に避難所へ向かう際の荷物は準備していますか?

なぜこんなことを聞いたのかと言うと、今年の元旦に発生した能登半島地震では多くのペットが地震の影響で飼い主と離れてしまい、中には今も行方が分からなくなっているペットもいるからです。

実際に輪島で被災した私の友人も、地震直後から飼い猫3匹とはぐれてしまい、3週間以上見つからなくなりました。そんな時、ちょうど以前ジモコロで取材したペット探偵の藤原博史さんがボランティアとして現地に来ており、一緒に捜索活動を行ったと聞いたんです。

 

藤原さんは神奈川県藤沢市に拠点を置く「ペットレスキュー」の代表で、これまで見つけ出したペットの数はなんと約3000頭! まさに動物探しのプロ。

ペット探偵の藤原さん(撮影:番正しおり)

藤原さんは東日本大震災が起きた際にも車で福島県双葉町へ向かい、原発事故で飼い主が避難し、取り残されてしまっていたペットに食べ物や水を与えるボランティア活動を行ったそう。

人と同じように災害時はペットも被災するため、日頃からペットの防災対策や避難などを考えておく必要があります。そこで今回、藤原さんに災害現場の動物を巡るリアルな状況や、ペットの命を守るための防災について話を伺いました。

 

地震から3週間後、現地で捜索活動を開始

「藤原さん、お久しぶりです! 能登半島地震の後、藤原さんが現地で捜索活動を行う様子をSNSで見ました。いつごろ現地入りしたんですか?」

「地震発生から3週間後くらいですね。地震でペットがおびえて逃げたり、建物の倒壊でどこにいるのか分からなくなったりと、多くのペットが行方不明になったと聞きつけて。急いで車にペット探偵の道具と食料を乗せ、輪島に向かいました」

取材はZoomで行いました

「すごい行動力! 当時の現地の様子はどうでしたか?」

「まだ道路にはたくさんの亀裂が残っていて、お店もほとんど営業していませんでした。そんな中、SNSで『動物保護のボランティアとして現地入りしているので、何かあれば連絡してください』と伝えると、現地の人から依頼が相次いだんです」

現地で活動中の藤原さん

「地震後、多くのペットが飼い主と離れ離れになったんですね」

「はい。特に猫の場合、大きな揺れや音を怖がっているからか、どこかに隠れたまま出てこないケースが多くて。また、住民の多くが避難していたため目撃情報がなかなか得られず、捜索は思ったようにうまく行きませんでしたね」

「普段、ペットを捜索する際は目撃情報も重要な手がかりと仰っていましたもんね。災害時には捜索方法も変わってくるのでしょうか?」

「動物専用の『赤外線カメラ』やごはん、LEDヘッドライトなどを使って、行方不明のペットにアプローチしていく方法は変わりません。ですが、余震の影響で建物の倒壊など身の安全に注意しながら行うので、捜索の進め方には通常より慎重になりました」

手に持っているのは工業用内視鏡の「Jスコープ」。ケーブルの先端にあるカメラを使って、人の入り込めない場所を捜索していく

「それに今回の能登の現場では、新しく夜間や光の届きにくい暗所でも撮影できる『暗視スコープカメラ』を取り入れたんです。これがあると、懐中電灯の灯りを点けると地域住民の方に迷惑になってしまう深夜帯の作業時や張り込みの際に役に立ちます」

暗視スコープカメラ

「ジモコロでは輪島で被災した友人(桐本くん)に取材したんですけど、彼も地震後、飼い猫が行方不明になってしまい、藤原さんに捜索をお願いしたと聞きました」

「桐本さんから『立ち入り規制にある全焼した自宅付近を、まだ十分に探しきれていないのが心残りで……』という話を伺い、一緒に探してみることを提案しました。現場に行ってみると、警察官の方から『実はこの付近で猫の遺体が発見されました』と報告があったんです。それで一緒に遺体を確認すると、彼の飼い猫であることが分かりました

「そうだったんですね……」

「結果は残念でしたけど、彼はその後、奥さんと一緒に輪島市内の行方不明になった猫のために保護猫活動を始めて。最終的に、市内にペット同伴可能な避難所兼保護猫シェルターまで開設する大きな流れになったんですよ。彼のような存在は、私にとっても大きな希望になりましたね」

 
 
 
 
 
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桐本 滉平(@kohei_kirimoto)がシェアした投稿

ペット同伴避難所・保護猫シェルターを開設した際の、桐本さんのインスタ投稿

 

ペットが家の中で落ち着ける場所を作っておく

「今回、能登の現場を訪れてみて、ペット探偵の視点から何か気になった点はありましたか?」

「ペットとの『同行避難』については、まだまだ課題があると思いました。例えば、避難所で動物アレルギーの人がいるため出て行かざるをえなかったり、犬の鳴き声に対して苦情が出たりと、避難所でのペットによるトラブルもあったそうです」

「そう言えば、『うちはペットがいるから……』と避難所の利用を遠慮して車内泊することでエコノミークラス症候群になってしまい、体調を崩す人がいるとニュースでも見ました」

「避難生活が長引くと、環境の変化によるストレスで今までおとなしかった犬が急に吠え出したり、ごはんを食べなくなったりするペットもいます。基本的に、ペット避難は飼い主による『自助』とされているんです。これは避難所でのペットの世話やごはんの確保、飼育場所の管理は飼い主が全てやらなといけないということです」

「災害時は自分や家族のことで精一杯で、ペットの支援まで手が回るのかは心配ですよね……」

「だからこそ、日頃からペットの防災のために備えておくことが重要なんです。まずは家の中で行える防災対策を紹介しますね」

「お願いします!」

「まず犬や猫と同居している人は、押し入れやクローゼットの中などにキャリーを置いて、ペットが安心できる場所をひとつ作っておくのがおすすめです。そうすると、揺れた際に『ここなら大丈夫だ!』とペットが素早く逃げ込めます」

​押し入れの中に何層も空間があることで、ペットを地震から守ることができる

「前もって、何かあった時のペットの避難場所を用意しておくんですね!」

「地震の際、動物は物陰に隠れる傾向にあるので。逃げ込める居場所を作っておくことで、緊急事態の際に人間側の探す手間を省くことができますし、避難時のハウスとしても役立ちます。普段からキャリーに慣らしておくと、避難中のペットのストレスを軽減することにもつながるんですよ」

「なるほど。他にも、住まいでできる防災方法はありますか?」

「これらは人の防災対策と同じになってきますが、ペットの怪我防止のためにも、ガラスに飛散防止フィルムを貼ったり、家具の転倒防止対策をしたりするのもいいですね。あとは窓が開いていると、猫が前足などを使って開けてしまい、脱走する可能性もあるので、日頃から窓の鍵をしっかり閉めておきましょう」

「もしペットと避難生活をする場合に備えて、準備しておいたほうがいいものはありますか?」

最低1週間分のペット用のフードと飲料水、もし持病があって薬を飲んでいる場合は常備薬や健康手帳は必須です。こうした準備物は、先ほど話した安心できる居場所の近くに置いておくのがいいですね。仮にペットだけ取り残されてしまった場合でも、フードや水があれば生き延びる可能性につながりますから」

「ペットと一緒に避難するためには、何より普段からの備えが必要なんですね」

「ただし、避難所によってはペットとの同伴避難を受け入れていない所もあるので、今住んでいる地域でペットと避難できる場所を見つけておくのがいいですね。ちなみに、台風など事前に予想できる災害の時は、あらかじめ安全な預け先を見つけておくか、早めに遠方へ避難することが最良の策だと思います」

 

いざという時、焦らないために

「もし災害時にペットが行方不明になった場合、飼い主はどのようにして探せばいいのでしょうか?」

「動物の習性を利用して探すのがいいと思います。例えば、猫の場合は地震が起こると、最初はソファーやベットなどの低い所に潜り込み、次は状況を把握するために高い所に登ることがあるんですよ」

「低い所から高い所に移動するのが猫の習性なんですね」

「他にも、地震によって怯えてしまった猫は奥まった狭い場所に逃げ込んで、しばらくじっとして出てこない可能性もあります。なので、万が一、時間が経ってから猫が外に出てきた時、飼い猫か野良猫か判断できるように、普段から連絡先を記載してある首輪をつけておくのがおすすめです」

「犬の場合はどうでしょう?」

「犬は一時的に地震で身を潜めたあと、動き出すと自宅から離れてしまい、家に戻ろうとして方向を見失い、遠くまで移動してしまうこともあります。なので、もし災害後に見当たらない場合は、早めにSNSなどで情報発信するのがいいと思います。猫は静かに少人数で、犬は大人数で捜すのがコツです

「どんなに準備しても災害時は想定外のことが起こってしまうものですよね。もし災害時『ペット探偵に頼りたい!』と思った時はどうしたらいいんでしょう……」

「今回の能登半島地震では、SNSで行政やボランティア団体が保護した犬猫の情報を共有していて、とても役に立ちました。また最近、私たちペットレスキューでは無料のチャットボット『迷子を見つける500の方法』を開設したんです」

「チャットボットですか?」

「『猫 > 警戒心が強い』などの質問に答えていくと、500の方法の中からそのペットの行動習性に沿ったアプローチを提案するシステムになっています。これまでペットレスキューが救ってきた動物の知見が全てこのサイトにまとめられていて、24時間いつでも使うことができますよ

実際のチャットボットとの会話の例(迷子のさがし方を調べる無料チャットボット

「これは助かる! こういうサイトを利用するのもひとつの手ですよね」

「やっぱり災害時はペット探偵もすぐにかけつけられないことがあるので、チャットボットを利用してもらえればと思います。だけど何より、環境省が作成した災害時におけるペットの救護対策ガイドラインを読んで、ペットと避難する時の行動を普段からシミュレーションしておくのがベストです」

「いざという時にペットの命を守るため、日頃からの事前準備を心がけていこうと思います!」

 

まとめ

地震や大雪、台風などの災害はいつ起こるかわかりません。大切な家族の一員であるペットとずっと一緒にいれるよう、日頃からペットの防災について考えていきましょう。

ジモコロでは能登半島地震で被害を受けた珠洲市と輪島市を取材しています。能登地方の現状について紹介しているので、ぜひ読んでみてください。