「勘や経験を盲信してない?」島のNo.1タコ漁師が語る『快楽的』仕事論

2019.01.31

「勘や経験を盲信してない?」島のNo.1タコ漁師が語る『快楽的』仕事論

石川県七尾市能登島に住む平山泰之さんは年間約10トンの水揚げ量を誇る島内No.1タコ漁師。タコ漁の方法や海外産のタコが増えたわけ、そしてデータを駆使する独自の仕事の哲学を聞きました。

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    こんにちは。ライターの根岸達朗です。

     

    僕は今、ある漁師の男性の仕事論を聞いています。なかなかに芯のある仕事論なので、髪の毛がふわふわと浮き上がってきたところです。

     

    彼は言います。

     

    仕事とは「自分で考える」ことだ、と。

     

    そんなの当たり前じゃないか、とみなさんなら思うでしょうか。でも、「自分で考える」って結構深いワードじゃないですか?

     

    なぜか。それは「自分で考えているかどうか」を決めるのは、自分自身だから。

     

    「ここまで考えてやったんだからいいや」とするのも自分。

     

    「もっと考えてやれることがあるのでは?」と頭をひねるのも自分。

     

    どこまで考えれば、私たちは真に「仕事をした」と言えるようになるのでしょうか。そんな問いを頭の片隅に置きながら、ぜひこれから始まるインタビューをお読みいただければと思います。

     

    今回の記事の主役はこちらの人物です。

     

    石川県七尾市能登島のタコ漁師・平山泰之さん。

     

    平山さんの暮らす能登島は、七尾湾の美しい海に囲まれた人口約3000人の大きな島。昔から豊かな自然環境を生かした半農半漁が行われていて、平山さんはこの風光明媚な島で生まれ育った生粋の島人です。

     

     

    能登島は、能登半島と橋でつながっているので、金沢まで車で1時間半、能登空港まで45分とアクセスの良さも魅力です

     

    現在33歳。島内のタコ漁師では最年少。

     

    ですがなんとこの平山さん、タコの水揚げ量は年間約10トンで、島内ではダントツのNo.1タコ漁師! 市場だけではない独自の販路も開拓し、鮮度抜群のおいしいタコを個人の飲食店などに提供しています。

     

    経験がものを言いそうな漁師の世界。そんななかにあって、どうして若い平山さんは独自のやり方で結果を出し続けることができるのでしょうか。

     

    漁師の仕事を軸に、飲食店の経営やイルカウォチングツアーなどの観光事業も手広く行っている平山さん。「自分の頭で考える」その仕事論について、ジモコロ編集長の柿次郎と共に話を聞いてきました。

     

    自分を知る人間が、一番強い

    「はじめまして。平山さんって生命力めちゃめちゃ強いですね…。ケンカで負けたことなさそう」

    「僕たちと違う生物感ありますね。あの…そもそもタコってどうやって獲るんですか? タコのこと何も知らないんですよね」

    「実はタコっていまだに生態がはっきり解明されてないんですよね。タコ漁でいえば、僕はカゴとツボ、両方使ってますわ。時期によって、カゴの方がよかったりツボの方がよかったり。ポイントがあるんです」

    「ほほう。ポイントっていうのはタコがいる場所のことですか?」

    「そう。タコって、ひとつの場所に居着く生き物なんですよ。その場所で生まれて、育って、死ぬっていうのを繰り返す。多少の移動はあるんだけど、基本的には水温の変化で上下移動するだけなんです

     

    「マリオの海ステージのゲッソーみたいですね」

    「イカの例えややこしいな。えーっと、そのタコの集落みたいなところに、カゴやツボを仕掛けるんですね。仕掛けたら勝手に入ってくるもんなんですか?」

    「入ってきます。タコは暗くて狭いところが好きなので、その習性を利用するんです。もちろんその入り方は水温などで違ってくるんですが、僕の場合は全部データを取ってるんで、狙いに行って獲れないということがほとんどないですね

    「すごい。どんなデータを取っているんですか?」

    「一番こだわっているのは水深、水温、地形ですね。獲れたタコの数、種類も毎日、全部データに取っています。タコ漁はデータが命なんで

    「勘とか経験じゃないんですね」

    「よくそうやって言う漁師さんがいるんだけど……」

     

    お前の勘や経験はどれだけ正確なんや? って思いますね」

     

    「……」

    「かっこいい」

    「だって、人間ほどアバウトなものはないでしょう。……ほら、ヤマカンという言葉の語源だと考えられている山本勘助っていう戦国時代の武将がいるじゃないですか」

    「名軍師って言われている人ですよね」

    「その末裔の人に過去のジモコロ取材で会ったことあります」

    「会ったことあるんだ」

    あの人、絶対データ持ってますよ。データがあるから勘というのは当たるんです。僕からしてみたらデータなしの勘っていうのは、悪い意味での適当ですね」

    「確かにいい仕事をする人は、自分なりのデータを分析しているようなところがあるかもなあ」

    「大切なのは、そうやって自分が置かれた状況を知ることでしょう。僕の場合はそれをデータでやっているだけ。何事も自分が見えていることが、一番強いんです。そうじゃなかったら、いい仕事なんてできないんじゃないですか?」

    「今、がっくりうなだれてる人がいるかもしれませんね……」

    「ジモコロの自由な取材って勘だけでやってるところあるから反省しました。勘頼りの限界……」

     

    タコの資源問題を「考える」

    「ところで最近、スーパーなどでタコを買おうとしても国産のタコになかなか出会えないですよね」

    「単純に国産のタコの数が減っているんですよ。今、市場に出回っているのは、半分以上が輸入じゃないですか」

    「産地で言うとモーリタニアとかモロッコとか、日本から遠そうな国が多いですけど」

    「あれはね、その国の人たちに日本人がタコ壷漁を教えたんですよ。1970年代くらいのことかな。そしたら、アフリカ、タコめっちゃおるやん!ってことになってその価値に気づいたとか」

    「え!日本人が自ら教えに……?」

    「実際、僕もそういう話をもらったことがありますよ」

    「日本人って人が良いのかなんなのか。教えた技術が外国に広がって、産業のシェアを奪われたり、結果ライバルを育ててしまったり、そういう事例が多いみたいですね」

    「海の資源は各国の海域にあるもんなあ」

    「海外でタコ漁を教えることを支援している人たちがいて、彼らから相談を持ちかけられました。それなりの金額を提示されて悩みましたけど、妻にいさめられてやめましたね。治安もいいとは言えないでしょうし、怪我とか病気のリスクなんかもありますからね」

    「なるほど。海外ではタコのニーズが高まっているんですか?」

    「そのようですね。もともとタコを食べるのは日本人くらいだったんですけど。タコは欧米で『悪魔』だと考えられてましたし

    「ああ、聞いたことあるなあ。確か『デビルフィッシュ』っていう」

    「そうそう。だから最近ですよね、世界でもタコを食べるようになったのは。うまいって気付いたんでしょう。その結果、世界中でタコの値段が高騰しているんです

    「わー!エゴだけど気づかないでくれー!タコ焼き大好きだからー!」

    「関西人には死活問題ですね…。確かにタコ焼きも値上がりしてるし、スーパーのタコ刺しも以前より高い印象がありますね。日本では量が減ってきているという話なので、国産だったらなおさらでしょう」

    「日本全体だと分からないけど、僕がここで漁師をやりながら取ってきたデータによれば、一番よく獲れていた時期に比べて今は2〜3割は減っていますよ」

    「そんなに」

    「一般的な場所で口にしてるタコは海外産かもしれませんね。それこそ国産タコのタコ焼きを知人の店で試してもらったんですが、常連さんが『あれ?全然味が違う!美味しいねこれ』と大反響でした。鮮度の面を考えても国産の方が美味いですし、消費者も気づけるんでしょうね」

    「国産タコのタコ焼き食べたい。8個=600円出せる」

    「そんな背景もあって国産タコの単価は上がっていくわけです」

    「じゃあ、漁師の稼ぎ的にはそんなに変わらないのかな」

    「僕は島で一番タコを獲ってることもあって変わらないですね。商売は需要と供給ですから」

    「多少値段が上がろうとも需要のある食材であれば食っていける、と。頭ではわかっていても当事者から話を聞くと腑に落ちますね」

     

     

    「でもそのせいで、みんなタコが減ってきていることに気付いてないんですよ。日々の売り上げでしかものを考えていない漁師もいますからね。後先考えずに、まだ子どもの小さいタコをたくさん捕まえてお金にして喜んでいるんだから、それは資源だって減るでしょう

    「日本からタコがいなくなっちゃう?」

    「実際、能登島でも過去に一回途絶えたことがあるんですよ。僕が子どもの頃ですね」

    「え、そうなんですか!」

    「原因は、単純に獲りすぎです。で、いなくなって商売にならないから、みんなで獲るのをやめたんです。そうしたらまた増えてきて漁ができるようになった」

    「場当たり的というか、なんていうか」

    「そういうもんですよ。人はほんとに困った状況にならないと考えないし動けない生き物なんでしょう」

     

    仕事の「達成感」とは何か

    「平山さんは仕事をしていて、どんなときに喜びを感じるんですか?」

    僕、欲求が満たされることがないんですよ。どれだけ工夫して結果を出せるようになっても、漁業に関しては、まだまだできることがあるように思えるというか」

    「話を聞いてると、飽くなき探究心と好奇心と情熱がすごく高いですよね」

    「じゃあ、達成感とかは……」

    永遠に得られない気がしますね。だからずっとやり続けるんですけど」

    「それって何ででしょうね。一緒に考えたいなと」

    「唯一満たされた気持ちになるのが、お客さんに直接感動を与えたりとか、感謝されたりするときですね。僕は飲食店もやっているし、イルカのクルージングもやっているんですけど、お客さんが喜んでいる姿を見るときが一番快感かもしれない

    「確かに手触りのある反応がいいかたちでもらえたらうれしいし、それはおもしろいことでもありますよね」

     

    「僕の場合は単純に、人にいい影響を与えられたかもしれないことがうれしいんでしょう。そうだな……まわりにいい影響を与えられる人間だと見られることに達成感があるんだろうな。だから、ここまでやったら終わりっていうのがない」

    「徳の高い海賊団の船長みたいですね」

    「強さと人望を兼ね備えているタイプだ。平山さん、どの業種についてもとことんやりきって成功しそうだなあ」

    「そんなんだから僕は、タコ漁師以外にもイルカのことなんかもやるんです。でもね、そうするとまわりの漁師から言われるんですよ。漁師が何をやってるんだと。漁師は漁師の仕事だけしていればいいんだって」

    「へえ……」

    「でも、漁師なんてただの業種じゃないですか。それ以前に、僕は経営者として仕事をしているんですよ

    「タコ漁はあくまで手段のひとつに過ぎないと」

    「古い人たちは、平山さんみたいな新しい価値観に脅威を感じているんじゃないですか? だから何か言わずにはいられなくて……」

    「僕は心理学の勉強をしているんですよ。人の価値観は変えられないことを分かっているつもりです。だからそういう人たちのことを否定するのではなくて、とりあえず話を聞いて、寄り添う気持ちが大事……」

     

    「って、きれいごとか!馬鹿野郎っ!」

     

    「(びくんっ)」

    「(お、ヒートアップしてきた……)」

    「この社会に生きて仕事をしているんだったら、自分の仕事のあり方を棚上げして、人にいちゃもんつけてる場合じゃないでしょう?」

    「(血気盛んな海賊の顔が出てきた…)」

    「そんなことより、みんなを喜ばせることを考えろよって言いたいですね。人が何を求めていて、それにどれだけ応えられるか。そこに自分の力量が試されるんじゃないですか?」

    「ですね……大事なことだと思います」

    「僕は仕事だって、恋愛だって…それこそ愛しい女性を抱くことだって一緒だと思いますよ!」

    「え? 今なんて言いました?」

     

    「すべては、相手を喜ばせてなんぼなんですよ!」

     

    「(めちゃめちゃすごそう)」

    「(いい話になってきた……)」

    「相手から最高のパフォーマンスを引き出せたときに達成感があるし、そこにこそ快感もあるんです! そのためにはどうするかを自分の頭で考えて、行動することが大事。自分が気持ちいいとかじゃない。自己満足で終わってたら、そこでその人は終わりなんです!!

    「生きる上で必要なことがすべて詰まってる発言と説得力でした」

    「今、めっちゃいい顔してませんでしたか?」

    「でしょう。いい話してますからね。はっはっは」

     

     

    漁師というと、自分には縁の遠い仕事だと思う人もいるかもしれません。でも平山さんが語っていたことは、漁師の極意ではありません。それはむしろいち経営者としての心構えであり、どんな職業にも通じる主体的なものの考え方のように僕には思えました。

     

    今回のインタビューでお伝えしたことは、平山さんがこれまでの人生で「考え」「学び」「実践」してきたことから生まれたひとつの考え方であり、現在地です。

     

    職業の選択肢が広がり、働き方も多様化する今の時代。だからこそ、みなさんはみなさんのやり方で自分にとっての仕事の意味を問い、自分らしい仕事のあり方を見つけてもらえたらと思います。自分の仕事のあり方を決めるのは自分自身。すべての答えはきっと、自分のなかにしかないのでしょう。

     

    また、どこかでお会いしましょう。

     

    それでは、お元気で!

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    根岸 達朗
    根岸 達朗

    ライター。1981年東京生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2012年に独立。Web、雑誌、フリーペーパーなど、さまざまなメディアでインタビュー、エッセイを執筆している。

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