

こんにちは、ライターのコエヌマです。
みなさんは海難救助における潜水士の活躍を描いた作品『海猿』をご存知でしょうか? 彼らは海上保安庁の潜水士なんですが……

海上保安庁……
もちろんその名前は知っているし、テレビで「海上保安庁のパトロール船が不審船を発見した」といったニュースも見たことはありますが……
・具体的に何を目的とした組織なの?
・警察や自衛隊とはどう違うの?
・救助やパトロール(?)以外にどういう部署があるの?
・船や飛行機、武器などの装備は?
我々はあまりにも海上保安庁のことを知らな過ぎる……!!

ということで今回は、海上保安庁におじゃまして「どういう組織なのか」根掘り葉掘り聞いてきました!
海上保安庁って何ですか?

「今日はよろしくお願いします! さっそくですが、海上保安庁って具体的にどのようなことをしているのか教えてください!」
「海がフィールドの警察と消防、と言えばわかりやすいかもしれません。日本の領海や排他的経済水域などにおいて、溺れた方や船舶の事故に遭った方の救助、犯罪捜査、漁業や資源の権益の保護を実施するほか、尖閣諸島の警備など、海上における法の励行に関する業務を実施しています」
「他にも海図の作成、海底の地形の調査、灯台の保守といった業務もあります」
「『海猿』では潜水士の活躍が主に描かれていましたが、それ以外にもめちゃくちゃたくさんの任務があるのですね」
「そうですね、事務や経理、広報といったデスクワークもありますし、様々な職員が働いています」

サイバーセキュリティ対策官とか南極地域観測隊とか、音楽隊や建築士(海保が管理する航路標識等の施設や設計業務等)まで! 色んなお仕事があるんですね!
「先ほど、海上保安庁は『海がフィールドの警察と消防』とお答えいただきましたが、海上自衛隊とはまた役割が違うんですか?」
「海上自衛隊は国を守る組織で、我々は国内の治安維持や国民の安全確保を担う組織……という風に考えていただければ」
「ただ、海上における災害対応の時など、海上保安庁だけでは間に合わない場合に災害派遣要請といって海上自衛隊に協力いただくことはあります」
「う~ん難しいですね……では、ゴジラ的な怪獣が東京湾に出た場合は、どのような役割分担になるのでしょう?」

「ご、ゴジラ? そうですね……う~~~~ん、あれほど巨大な生物で口から放射能を吐くとなると国防の部類ですから、湾内で戦うのは海上自衛隊になると思います」
「ゴジラによって被害を受けた船舶や人の救助は海上保安庁が行うことになるでしょうね」
「なるほど、とてもわかりやすいです!」
「今の、わかりやすかったんですか……?」
「犯罪の捜査もされるとのことですが……」
「そうですね。司法警察員という職がそれに当たります。例えば密漁や密輸などの犯罪が行われたら、逮捕することも職務です」

「私は広報室に来る前は、海上保安試験研究センターというところで、試験研究官として、船が衝突した時の塗膜片の分析や違法薬物の鑑定をしていました」
「交通事故の現場で塗膜片を調べるというのを警視庁24時的な番組で見たことがありますが……広い海でも衝突事故ってあるんだ」
「他には船の油の分析もしましたし、犯罪にかかわる映像や、音声など証拠物の分析・解析を行うチームもあります」

当時の栗栖さん(※海上保安庁提供)
「まさに海の警察だ。しかし密輸組織の犯罪者や不審船が大人しく逮捕されるとは限りませんよね? その場合はどう対処するのでしょう?」
「海上保安官は拳銃や小銃などの銃器も扱いますし、船によっては機関砲を搭載しているものもあります。海賊や不審船を相手にする可能性もありますから」
「陸だと 犯罪者も強力な兵器は国内に持ち込みにくいけど、海だと海外の武装船とかを相手にすることもあるのでしょうね……命がけで海の平和を守ってくれてありがとうございます!」

※海上保安庁HPより
こちらは海上保安庁が誇るPLH型巡視船「あさづき」。ヘリを1基搭載できる他―

海賊や武装不審船などに対抗するため兵装も備えています
~ちなみに~
海上保安庁というと「船」のイメージですが、「航空機」や「ヘリコプター」も所有しています。海上における治安維持、安全確保、海難救助、被災地への物資輸送などに活躍しています

LAJガルフV『うみわし3号』|赤外線捜索監視装置、航空用高性能監視レーダー等を備え、夜間、遠距離であっても迅速かつ広範囲な海域の捜索・監視が可能

※海上保安庁HPより
MH スーパーピューマ 225|海上保安庁が保有する最大のヘリコプターであり「スーパーピューマシリーズ」の最新型。関西空港海上保安航空基地、羽田航空基地、巡視船の搭載機としても運用されている

※海上保安庁公式Xより
無操縦者航空機 シーガーディアン|地上から遠隔で操縦する航空機。24時間、広範囲かつ昼夜を問わない情報収集が可能で、災害や海難の発生時などに効果的に活用されます
リアル海猿
【外国籍貨物船乗組員を急患輸送】
本日、外国籍貨物船乗組員が腹痛を訴えているため救助してい欲しいとの要請があり、#石垣航空基地 所属のヘリコプターを出動させ、患者を吊り上げ救助しました。その後、石垣市真栄里暫定ヘリポートにて、石垣市消防本部へ引き継ぎました。#第十一管区 pic.twitter.com/1KVyNRHc5W— 第十一管区海上保安本部【公式】 (@JCG_11th_RCGH) August 21, 2025
「海上保安庁といえばやはりイメージは海猿! 彼らは実際にはどういう人たちなのでしょうか?」
「海保の潜水士は転覆船の救助や、溺れてしまった遊泳者の捜索救助、事件捜査で被疑者が海に投棄したものの捜索などが主な役割です。中でも救難業務に特化した潜水士を集めたのが特殊救難隊という専門部隊になります」

※海上保安庁・海上保安レポートより
「まさに海猿だ!」
「ちなみに“海猿”という呼称は作品内の創作で、海上保安庁では彼らのことを単に潜水士と呼んでいます」
「創作だったんだ……」
「潜水士のみなさんは潜水業務がない時、何をしてるんですか? 交番や消防署のように各地に拠点があって、普段はそこで待機しつつ、通報があれば出動って感じですか?」
「一般の潜水士は、基本的には巡視船に配備されています。北海道から沖縄まで11の管区(管轄区域)があって、巡視船はそれぞれの管区で決まった海域のパトロールや訓練などを実施しています。通報が入ればそのまま現地に向かい対応するんです」
「『一般の潜水士は』ということは、一般ではない潜水士はどうなんでしょう?」
「特殊救難隊に関しては羽田の基地に待機していて、事故があったらヘリコプターで全国の現場に派遣される感じですね」
「う~ん、でも特殊救難隊ってテレビの向こうにいるスーパーマンって感じですね……本当に存在してるのかな」

「あ、私は元・特殊救難隊の隊員でしたよ」
「えーー! 先に言ってくださいよ!」

当時の河村さん(※海上保安庁提供)

か……か……かっこいい~~~!!!!(※海上保安庁提供)
「特殊救難隊は選ばれた人しか入れないと聞きますが、実際にそうなのですか?」
「特殊救難隊は、約1万4000人の海上保安官から選ばれた、41人のチーム(取材時=2025年10月時点)です。海上保安庁の救助隊におけるトップですね」
「『トップガン』みたいな感じだ! 潜水士になって特殊救難隊に入ろうと思ったら、どうすればいいのでしょう?」
「まず潜水士になるには、各管区で選考会があって、体力や泳力、適性の有無などをもとに、管区から選抜された人が潜水士の研修に参加します。2ヶ月間の研修を修了し、潜水士の国家資格を取得すると海上保安庁の潜水士として発令されます」
「その時点ですでに狭き門ですね」
「国家資格を取った潜水士の中で、適性などを見定め推薦された一握りが、特殊救難隊に入るという流れです」
【特殊救難隊員への道2025 Vol.1(開講式)】
今年も 特殊救難隊員を目指す新人が入隊。これから過酷な訓練が始まります。
地に足付け己を磨く。笑顔をもっと、元気をずっと。準備はいいか、仲間と共に #オレンジ服 目指してガンバレ! #特殊救難隊 #レスキュー #海上保安庁 #限界突破 pic.twitter.com/MMg2m1cWrZ— 海上保安庁 (@JCG_koho) April 25, 2025
「河村さんは特殊救難隊の現役時代、危険な目に遭ったことはありましたか?」
「ありますよ。夜間の貨物船からの急病人搬送依頼があった時のことです。ヘリで到着した現場では風が20メートル以上吹いており、その状況下で1番員として船に降下することになりました。降下する直前まではヘリでも安定していたのですが、直上でホバリングを開始した途端に乱気流の影響で不安定になり……」
「嫌な予感しかしない」
「自身のタイミングで『ここだ』と思い降下を開始しましたが、ポイントを外してしまい、ヘリからぶら下がった状態で振り子運動が始まりました。徐々に振り幅が大きくなり、最終的に貨物船の甲板上にあるクレーン(甲板上3m程度)に打ち付けられ、クレーンのブームの上に到達した直後クレーン上から甲板上に落下しました」
「ひえーーーー!!!」

「かろうじてロープを保持していたので大事には至りませんでしたが、その後もヘリからのロープがクレーンに絡まったりと大変な思いをしました」
「本当に無事で良かった……」
「海上の救助は気象海象という不確定要素を読むのが本当に難しいんです」
海上保安庁の豆知識
「ここからはいくつか素朴な疑問をぶつけさせてください。まず最初はこちら!」

「最初は泳げない人もいますが、結果的にゼロになりますね。全ての職員は入庁前、海上保安学校という施設で研修を受けるのですが、そこでプールでの水泳や、海で約5キロを泳ぐ訓練があるんです。金づちの人でもほぼ必ず泳げるようになります」
「私も入庁するときは25メートルも泳げませんでしたが、今は平泳ぎであれば、体力が続く限り泳げると思います」
「環境が人を育てるんですね。続いてはこちら―」

「潜水の研修があり、静止した状態で息を2分半止めないと合格にならないんです。しかも実際に現場に出ると、活動しながら息を止めることになります。当時は活動しながらでも、1分半~2分くらいは止められたかな。今は現場を離れているので分からないけど」
「止める機会ないですもんね(笑)」
「潜水士あるあるなのかもしれないですけど、車で遠出すると、トンネルに入るときに息を止めていました。中を走っているときも我慢して、トンネルから抜けたときに『ぷはー!』と息を吸うという」
「潜水士以外は絶対に『あるある(笑)』とはならないですね……では続いてはこちら!」

「荒れた海に出ることもあるので、まあ大体の人は最初は船酔いしちゃうと思います。ただ、巡回船が出航すると何日も海の上にいるので、そのうち……嫌でも慣れていきます」
「そうなると逆に、陸に上がった時にまだ揺れている感じがするということになったりします」
「陸酔いって聞いたことがありますね」
「私は学生の頃の実習では、ずっと船酔いしていましたね。ただ、幹部候補生として現場に出てからは、船酔いしなくなりました。私の場合は、気持ちの問題だったのかなと」
「いつかは克服できるものなんですね。人体って不思議……では続いてこちらの質問です」

「1日中 海の上にいると日焼けが気になるかと思いますが、どんな対策を?」
「私も気をつけてはいましたが、対策としてできることは日焼け止めを塗るぐらいです。船上での制服は決まっているので、日焼け防止のハットやアームカバーは付けられないからです、もちろん日傘なども差せません」
「私は日焼け止めを塗ったことがないんですよ。なので現役時代は常に日焼けしていました。今はデスクワークになって日焼けすることがなくなったので、子どもの運動会でちょっと日に当たっただけでも、真っ赤になって大変なことになりました」
「日焼けにも“慣れ”ってあるんだ。では続いてこちらの質問を―」

「海上保安庁の巡視船は担当する海域をパトロールしているとのことですが、一度海に出ると、どのくらいの期間を船で過ごすのですか?」
「大きい巡視船であればあるほど期間が長く、1週間~2週間くらい陸に戻らないこともあります」
「長っ!その間、休日はあるのですか?」
「基本的に、沖に出ている間は仕事という扱いになり、陸に戻ってからまとめてお休みをもらう感じです」
「とはいえ休憩時間はありますよね? どんな過ごし方をするのでしょう?」
「今ならYouTubeやネットフリックスを見て過ごす人が多いです。我々の時代だと本やビデオでしたね」
「私も巡視船に乗っていましたが、当時は複数名がひとつの部屋で過ごす集団生活でした。常に同僚や先輩が近くにいる状況なので、ひとり時間という感じはあまりなかったですね」
「それは……正直 気が休まらないですね」
「われわれの時代は、命を預ける仲間や先輩と一緒の部屋で過ごして、少しでも信頼関係を高める風潮がありましたが……今はそういう時代ではないですよね。現在はプライバシーを重視して乗組員の部屋を個室にするなど、庁として船の生活環境を改善しているところです」
「女性の乗組員も増えてきているので、快適に過ごしてもらえるように変わりつつあります」
「なるほど……では最後の質問です!」

「海上自衛隊さんがカレーを食べる理由としてよく聞くのは、海上で長期に及ぶ生活していると曜日の感覚が無くなるので、金曜日にカレーを食べることでリセットする……というものですよね?」
「はい。僕もそう聞いたことがあります。曜日感覚を取り戻すためだと」
「私たちが海で過ごすのは、海上自衛隊さんほどには長くなく、感覚が狂うほどではないので……」
「あ、じゃあ食べないんだ……」
「いえ、入港日(海での勤務を終え陸に戻る日)にはカレーを食べます! 曜日感覚を取り戻すためではなく、純粋に入港の喜びという意味で“入港カレー”を食べていますね」
「入港カレー! それってレシビはありますか?」
「統一のレシピはなくて、各船ごとにオリジナルのカレーを作っています。あとは、仙台であれば牛タンカレーなど、地方の特産を取り入れることもあります。WEBサイトでカレーのレシピを公開している管区もあるので、ぜひ試してみてください」
・海上保安庁 第四管区海上保安部「海保とっておきの絶品カレーをご紹介」
まとめ

「今日はたくさんの質問に答えていただいてありがとうございました! 最後に、おふたりが海上保安庁に入ってよかったと思うことを教えてください」
「私は20数年、救難の現場で活動してきました。漁船を救助したとき、漁師のおじさんが『ありがとう』ってカップラーメンを作ってくれたことを今でも憶えています。困難な仕事ですが、とてもやりがいのある仕事だと思います」
「命を懸けて仕事を終えた後に食べるカップラーメン、ムチャクチャ美味しいでしょうね……」
「あとは人の繋がりですね。海上保安庁は全体で1万4,000人と、小さい組織なんです。その分、現場でお会いした人との絆が強いです。現場を離れた今も、当時の思い出を共有できる貴重な仲間です」
「栗栖さんはいかがでしょう?」
「私は最初、民間企業で勤務していたんです。いわゆる氷河期世代で、やっと入れた企業から海上保安庁に転職するのはかなり悩みましたが……結果的にやりたいことをさせてもらえたので本当に良かったです。試験研究官の分析業務は大学から継続していたもので、希望が叶ったのが嬉しかったですね」
「女性職員として、何か良かった点はありますか?」
「最近は、男性・女性問わずですが、育児休業取得が浸透していて育児と仕事との良質がしやすいことです。福利厚生はすごく良いと思います」
「なるほど! 今日はありがとうございました。これからも日本の海の安全をよろしくお願いいたします!」
協力|海上保安庁
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この記事を書いたライター
ジャーナリスト。新宿ゴールデン街「プチ文壇バー月に吠える」、荒木町「ブックバーひらづみ」の店主でもある。著書に『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』など。伝説のぼったくりバーを追ったルポ『ゴールデン街のボニーとクライド』はnote創作大賞2022入賞









































