
大手牛丼チェーン「松屋」。「みんなの食卓でありたい」というキャッチコピーの通り、牛めしをはじめとして定食、カレー、個性豊かな期間限定メニューが庶民たちを楽しませてくれる。
個人的に仕事場の近くにあったのもあり、ゆうに130回くらいは行っているはずだ。長年激務薄給の仕事に就いてきた身にとっては、本当に助けられてきた店である。

精根尽き果てそうになったときも松屋で英気を養った
松屋の魅力と言えば……いろいろあるが、まずは何を頼んでも「みそ汁」が付いてくることではないだろうか。

その徹底ぶりはすさまじく、なんと単品のライス(200円)にすらみそ汁は付いてくる。

貧乏時代は「ライス+みそ汁(当時は160円)」でお腹を満たした
そこで何となく飲んできた「松屋のみそ汁」という、不思議な存在について考える。

油揚げとわかめだけで簡素な仕上がりながらも、無駄がなくて心地よく、メインの脇を固めるように静かに君臨しているみそ汁。
なお、各店が経費高騰で数々の無料サービスを無くす中、実は単品で買うと「90円」というみそ汁をサービスしてくれているのだ。

さらに、240円を追加するとこのみそ汁を「豚汁」に変えられる。

なぜかみそ汁以上にアツアツで、大きな里芋や豚肉、豆腐、根菜などなど、これでもかとたっぷりの具材が入った豚汁。

小銭を握りしめて、エイヤッと注文する。自分にささやかなご褒美をあげたいときには、大活躍する一杯だ。
無料で心を温めるみそ汁と、奮発して味わう豚汁。
牛めしやカレー、各国の郷土料理シリーズの影に隠れ、全然知らない2つの汁物の秘密を知りたくて、やってきたのは東京の三鷹駅前。ここにあるのが松屋フーズ本社だ。

取材の前は国会図書館やインターネットで入念にリサーチしたが、みそ汁・豚汁の情報は(やっぱり)そこまで多くなく、未知数のままで迎えた取材。

松屋フーズ 商品開発部 商品開発グループ チーフマネジャーの礒崎裕史さんと、松屋フーズホールディングス 総務部 総務・広報グループ チーフスタッフの辻本はるかさんに話を聞いた。

「辰井さんのみそ汁に対する熱をとても感じましたね。取材依頼のメールでもすごく伝わってきて」
……実は、「さすがにみそ汁だけじゃ、話が広がらないかもしれないので」と大いに懸念を示されていた中で、何とか実現した取材。しかし、想像以上に興味深い話が聞けた。
創業当時から「みそ汁無料」
「このうれしいみそ汁無料サービスは、なぜ始まったのですか?」
「みそ汁は1966年の創業当時から付けています。当時は牛めしに加えて定食もよく出していたので、定食につけるなら、牛めししか頼まない人にもつけてあげようと」


「松屋の創業は学生街の江古田ですから、当時の苦学生も助けられたはずですね。日芸(日本大学藝術学部)など、学費が高そうな大学が多いですし」
「なので、みそ汁をつけたほうがお客さんも来てくれるんじゃないかという」
「それで言うと、なぜ具材はわかめと油揚げなんですか?」

「コストと、味と食感もありますが、見た目が大きいと思います。みそ汁の中で油揚げは浮くし、わかめも漂いますから」
「そうか、みそ汁の具材には沈むものも多いですからね……ちなみに、とんかつ業態の『松のや』のみそ汁は『わかめ』だけですが、なぜですか?」

一時期は青ネギだけだったこともある、松のやのみそ汁
「『松のやは松屋とは違う存在でありたい』という希望なので、具材が一種類だけになっています。その代わり、わかめは多く入れています」
何にでもみそ汁を付けるワケ
「今のみそ汁は半年をかけて入念に選定されたと聞きますが……?」
「まず、3社程度の中から製造するメーカーを決めるため、3社からサンプルで3~4種類取り寄せ、全部で9つほどの試作品を食べ比べました」
「ライバル3社の火花散るような戦いが……」
「その選考で一番に選ばれたみそ汁をさらにアレンジして、それぞれだしが強い・弱い、みそが強い・弱いなどのサンプルをもらって、全部で4~5回選定して、今のものになりました」
「何気ないみそ汁ですが、想像以上の選定作業だ。とくにこだわった部分はどこですか?」
「今のみそ汁はだし感をメインに改良しました。カツオは香りが強いものよりも味が強いものにしてみそ感を引き立たせ、うまみの強いものを選びましたね」

赤系の信州味噌に厚みのある油揚げと肉厚なわかめを合わせた
「ちなみに牛めしからカレーから定食まで、いろいろなものに付け合わせますが、そのバランスも考えていますか?」
「はい、一番人気があるのは牛めしなので、最終的に牛めしと合わせて試食してみそ汁との相性がいいものにします。定食で食べるのも想定して、ライスとの相性も確認しますね」
「ネットで語り草の、『みそ汁とカレーとの相性』は試しますか……?」

「カレーとみそ汁との相性は、試した記憶はないですね」
「各国の郷土料理と一緒の試食は?」
「試さないです……!」
「まあ、サービスで出しているものですからね……(笑)。それにしても、『何にでもみそ汁をつける』のはなぜですか?」
「オペレーションを均一化できますから。『何にでもつければいい』とラクなので。あと、お客さんが期待してくれているのが一番です」
「僕も最初はカレーと一緒のみそ汁は『どうなの?』と思いましたが、今では松屋系列の『マイカリー食堂』だとみそ汁が付かないのが物足りなくて、追加で買って付けていますね」

もはやみそ汁が無いと物足りなくなった筆者
今のみそ汁は「4代目」
「牛めしのタレは、相当多く代を重ねているそうですが、みそ汁は何代目ですか?」
「3回ほど大きく変えているので、4代目くらいですね。さらにマイナーチェンジも重ねられています。かつては大きな寸胴で味噌を溶いていたんですが、今はみそ汁サーバーにしましたし。だしも強くなり、無添加になりました」
「細かな対応を重ねられているものなんですね」
「昔は『無料だし、そんなにこだわらなくてもいいんじゃないか』みたいな話もあったんですけど(笑)、おいしいみそ汁を追求し続けていますよ」
「ちなみに、松屋のみそ汁に15年ほど前から『フタ』がつくようになりましたが、なぜですか?」

「おそらく、カウンター以外のところにも料理を運ぶようになり、おぼんを付けたときに恐らくフタをつけたんだと思います」
「そうか! フタがないとこぼれやすいから……」
幻の「豆腐入りみそ汁」が正式に販売に?
「かつて東海圏で『赤だしのみそ汁』が飲めたようですが、なぜ合わせ味噌だけになったんですか?」
「東海では松屋は売上があまり伸びていなくて、『地元で愛される赤だしのみそ汁を出した方がお客さんは来るんじゃないか?』と1年ほど実験したんです」
「へぇ!」
「はい、ですが売上がそれほど上がらなかったので、やめました」
「約1年しか出していなかった割には有名な話なんですが、伝説になったわけですね……! 個人的に赤だしが好きなので、復活してほしいですが」

「あと、ホームページでも未公表の一部の店舗限定商品で、『豆腐入りみそ汁』というものがあると松屋さんのX(旧Twitter)で見たんですけど、これってなんで始まったんですか?」
よくぞ見つけてくれました。
ホームページでも未公表の一部の松屋店舗限定商品。これを見つけた方はきっといいことあると思います。https://t.co/WGEexFlle5 @YouTubeより— 【公式】松屋 (@matsuya_foods) February 15, 2025
「自社で作っている豆腐を活用できないかと。豆腐から水が出てきて、味噌の味が薄くなって断念していたんですけど、最近、豆腐の水を切れるようになったので、作って実験的に出しました」
「そそるメニューでしたが、現在はどうなっているんですか?」
「販売実験は終わりましたが、それなりの反応はいただけまして。現在は再販売を検討していて、おそらく発売するとは思います。全店舗で提供するかはわからないですけど」

松屋の寿司業態「すし松」には4種類のみそ汁があり、より高級な味噌を使い、その日取れた新鮮な食材などが味わえる
「豚汁」は和定食業態から生まれた
「みそ汁と言えば、切っても切れない存在の『豚汁』についても聞かせてください。豚汁って完璧ですよね? どっしりとした具材と、ひと味違う味わい……みそ汁と豚汁は、お互いどんな存在ですか?」

荒んだ僕らの生活も華やぐささやかなぜいたく、豚汁
「みそ汁は『汁物』で、豚汁は『おかず』ですね」
「みそ汁は付け合わせとして優秀ですが、240円の追加で『おかず』にまで格が上がるわけですね。みそ汁とはまた違った濃厚な味わいですし」
「実は、みそ汁と同じみそを使っているんです」
「ええ! じゃあ、なんで味の印象がこんなに違うんですか?」
「『豚汁の具』のパックにあるタレやラードとか野菜を入れるからです。味が濃くなったり、ラードや肉・野菜やタレの味わい・うまみがプラスされたりしますから」
「そうか、豚汁のたっぷり食材や調味料のおかげで、同じみそでもこんなに味が違うわけですね……そんな豚汁の提供がスタートしたのはいつですか?」
「2002年だと思われます」
「意外と最近なんですね? なぜ豚汁が生まれたんですか?」

これは2003年当時の画像。なんと120円という安さで変更できた
「和定食の業態を作ったときに豚汁が生まれ、松屋にも持っていきました」
豚汁の方がみそ汁より10度熱い?
「松屋が多くの業態をもつからこそ、豚汁ができたわけですね。みそ汁同様、あまり聞かない『豚汁のこだわり』も教えてもらえますか?」
「『手作り感』です。野菜を炒めてから煮込んだり、取り出してからまた汁と具材を分けて充填したり、『面倒くさい工程』を多く経て、手間をかけています」
「必然的にコストも跳ね上がる……?」
「はい、大量に作って無理やりコストを抑えこんではいますが、高いです」
「とくにコストがかかっているのはどこですか?」
「具材で言うと豚肉、里芋、ラードにはコストをかけています」

「とくに里芋、ラードが印象的ですね。あの表面を覆うラードが熱さを閉じ込めていると聞きます」
「はい、かつては夏と冬でラードの量を変えて、口に運ぶ際の温度を調整していたこともありました」
「へぇ! そもそもみそ汁よりも最初の温度も熱い気がしますが、どれくらい違うんですか?」
「たぶん10度ぐらい豚汁の方が熱いです」
「そんなに違うんですか! ……ちなみに豚汁も改良されているそうですね?」
「直近では里芋を半分にする代わりに、中の野菜を増やしました。また、豚肉が均一に入っていないことが多かったので、野菜類と豚肉を分けて計量して入れています」

「公平に、均一に具材が入るようになったわけですね。『自分が取ったものに豚肉や里芋がない』みたいなことはありませんか?」
「野菜は少しランダムになるかもしれないですけど、肉や里芋は絶対入っています」
「よかった……!」
「かつては、豚肉が1/5000ぐらいで入っていないことがありました」

「従来でも、よっぽどアンラッキーでなければ豚肉は入っていたんですね。そこまでレアだと、ある意味『当たり』のような気もします」
「逆に肉ばかりの人がいることもありました。ちなみに現・豚汁は5代目なんですけど、今6代目を作っています。もし早ければ、新・豚汁が8月には出ますので」
無くなったときにわかった、みそ汁の存在感
「2022年、北海道札幌市での無料提供の試験的なみそ汁提供終了の際は、すごい騒動になりましたね? まず、なぜ無くそうとしたのですか?」
「やはり、コスト面が大きいですね」
「それで試験的に終了してみて、ネットで悲しむ意見があふれましたよね?」
「実際には『それも企業努力なんだからしょうがないよね』みたいなお声もありました。ただ、やっぱり反発の方が大きかったかな」

松屋社員・浜野隼さんのXアカウントより(牛めし並の価格は2022年10月当時のもの)
「復活を経て、学んだことはございますか」
「『無くすな』ってことしかないですね(笑)」
「ただ、今の外食産業は食材の価格や人件費まで、とにかく高騰しています。みそ汁を無料で出し続けるのは、正直大変ですか?」
「はい、あらゆるものの価格が上がっているので。それでも、みそ汁をつけ続けるのが使命かなと思っています。いつ無くすかどうかはわからないですけど……(笑)」

「心の声が出ましたね……(笑)。今の外食産業では、多くの無料サービスが終了に追い込まれているので無理もありませんが、僕らが『こんなにみそ汁を愛してくれるなら、出す甲斐があるな』と思ってもらいたいです」
「その表れなんですが、みそ汁についての激励の手紙が、ちょこちょこ、会社に届くらしいです」
「それぐらい、熱狂的なみそ汁ファンがいるんですか!?」
「なかなか牛めしとかじゃ、手紙までは来ないもんね」
「牛めしもうまいですが……みそ汁だからこそ手紙が?」
「ほかの牛丼チェーンと比べたら、やっぱり違うところはそこですので」
「では、これからも出し続けていただけますか……?」
「頑張ります、お客さんの期待に応えたいですから。みそ汁があってこそ松屋だと思いますし、ロゴマークにもみそ汁があるので。『みそ汁がなければ松屋じゃねえ!』みたいな!」

あのロゴマークには「みそ汁」がある食卓があった
◇
松屋の店内放送で幾度となく流れていた「みんなの食卓でありたい」。
今回の取材を通して、完全に聞き流していたフレーズが、合点がいくように少し思えた。
その「みんなの食卓」を構成する重要な要素、サービスみそ汁を今後もおいしく味わうために、我々ファンは松屋に通おうではないか。
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この記事を書いたライター
卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。












































