最新版『学習まんが 日本の歴史』が実は”社会人の勉強”に最適すぎた

2019.05.20

最新版『学習まんが 日本の歴史』が実は”社会人の勉強”に最適すぎた

子どもだけでなく大人も漫画でわかりやすく歴史を勉強できる「学習まんが 日本の歴史」。現在では各社から出版される人気のシリーズですが、その元祖は集英社。『NARUTO』の岸本斉史さんや『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さん、『キングダム』の原泰久さんらの表紙イラストでも話題になった集英社版の歴史とこだわりについて聞きました。

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    子どもにいちばん読まれた漫画とはなんだろうか? ドラえもんやONE PIECEに負けないほど読まれているのは、学習漫画の『日本の歴史』ではないだろうか。

     

    学校の図書館や友だちの家の本棚には必ずと言っていいほどあったし、こみ入った歴史の出来事も、読めばカンタンにおもしろく覚えられた。それでいて「楽しいばかりではない、歴史のリアル」も学べた。

    現在では、いくつもの出版社から刊行されている人気シリーズだ。

     

    いま「漫画でわかる本」がヒットしているのも、この『日本の歴史』の存在が大きかったであろう。

    実際、大人になってから『日本の歴史』を読む人も多い。実にわかりやすく、歴史を改めて勉強するのにピッタリだとか。

     

    漫画で勉強ができるなんて、子どもにとっては夢のような本だ。(C)あおきてつお/集英社『学習まんが 日本の歴史』第1巻

     

    しかし、「『日本の歴史』の漫画はどう作られているのか?」「いまどうなっているのか?」にフォーカスした記事は意外にも少ない。

     

    今回は長年のクエスチョンをぶつけるため、学習漫画の『日本の歴史』をはじめて作った出版社であり、2016年に新版を出した集英社に話を聞いてみた。

     

    集英社の「学習まんが 日本の歴史」HPより

     

    「マンガの集英社」の粋が詰まった本

    本の街、神保町。それを象徴するビルが集英社の本社ビルだ。

    毎週の発行部数が600万部を超えていた「週刊少年ジャンプ最強時代」に青春期を過ごした筆者は緊張を隠せない。

     

    岸本斉史さんによる卑弥呼(写真左)と、荒木飛呂彦さんによる聖徳太子(写真右)

     

    集英社の『学習まんが 日本の歴史』といえば、『NARUTO』の岸本斉史さん『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんなど、人気漫画家たちが表紙イラストを手がけたことでも話題になった。

     

    『学習まんが 日本の歴史』には、その「マンガの集英社」としての粋が込められているという。

     

    その歴史とこだわりについて、集英社・児童書編集部の藤田ちより編集長に話をうかがった。

     

    「学習漫画」自体の元祖、集英社

    「学習漫画」の元祖、「なぜなぜ学習漫画文庫」シリーズ。第1巻は『宇宙探検』(1957年)

     

    辰井集英社さんは業界で初めて『日本の歴史』の漫画を生み出したと聞きました」

    藤田「はい、1967年に『学習漫画 日本の歴史』を出版しました。そもそも、英社が『学習漫画』と呼ばれるジャンルの本をはじめて世に出したと聞いています」

    辰井「え、そうなんですね!」

    藤田「『なぜなぜ学習漫画文庫』シリーズを1957年に出したのが、学習漫画の最初だとされます。理科や社会科などいろんな分野を題材にするうちに、歴史モノも取り上げることになったようです」

    辰井「その下地があって生まれたんですね」

     

    1967~68年にかけて出版された、記念すべき『学習漫画 日本の歴史』第1弾

     

    中身はこちら。当時は日本の歴史を漫画で扱うことに、「とんでもない、歴史を茶化すのもはなはだしい」との声もあがったとか。漫画の地位が不当に低かった時代 (C)集英社『学習漫画 日本の歴史』(1967年版)第1巻

     

    辰井「2016年発売の最新版は『週刊少年ジャンプ』などの有名な作家さんが表紙を書いています。なぜですか?」

    藤田「創業90周年の企画の一つで『オール集英社』の協力態勢がありました。漫画といえば集英社の自負もありますし、歴史に興味がない子にも気軽に手にとってほしいと思いまして」

     

    少年誌から少女誌、青年誌まで、集英社のオールスターといえるメンバーが表紙を描いた

     

    辰井「『この人にこれを書いて欲しい』とは考えましたか?」

    藤田「その方によって違いますが、荒木飛呂彦さんの場合は『ぜひマッカーサーを描いて欲しい』と、編集部内の意見が一致しまして

    辰井「へぇ! 確かにあれは衝撃でした」

    藤田「あと『キングダム』の原泰久さんも、家康のイメージがすぐに浮かびました

    辰井「どちらもこの人しかいない!という人選ですよね…」

     

    『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦氏によるマッカーサー(写真左)と、『キングダム』の原泰久氏による徳川家康(写真右)

     

    昔習った内容とぜんぜん違う!

    辰井「今回、取材前に『学習まんが 日本の歴史』を読んでいると、昔授業で習った内容となんだか違うところがあったのですが」

    藤田「そうですね、歴史の研究は日々更新されていますから、最新の説を採用しています。例えば辰井さんの年代だと『聖徳太子』という呼び名が一般的だと思います」

    辰井「はい」

    藤田「ただ、それは死後だいぶ経ってからの呼び名で、生前は『厩戸王(うまやとおう)』と呼ばれていた説が現在は優勢です。なので、『学習まんが 日本の歴史』の中では『厩戸王』として登場します」

    辰井「厩戸王……聞き慣れませんね」

     

    (C)あおきてつお/集英社『学習まんが 日本の歴史』第2巻

     

    藤田「あと、鎌倉幕府ができたのは何年と覚えていますか?」

    辰井「1192(イイクニ)つくろう鎌倉幕府……じゃないんですか??」

    藤田「それも、源頼朝が征夷大将軍になった1192(イイクニ)より、諸国に守護・地頭を配置した1185(イイハコ)を幕府成立と見ていいだろうとする意見のほうが優勢になりました。説は他にもいくつかありますが」

    辰井「ええ! そうなんですね」

     

    (C)幡地英明/集英社『学習まんが 日本の歴史』第6巻

     

    藤田「そして『大化の改新』。以前は645年にピンポイントで起こったとされていましたが、現在はそこから数十年かけて行われる一連の改革を大化の改新と言うようになっています」

    辰井「ほほう……」

    藤田「『鎖国』という言葉も、オランダや朝鮮、沖縄などとはやりとりをしていたので、鎖国と言い切らないように表現されているんですね」

     

    「江戸時代は完全に国を閉ざしていたわけではない」と説明されている (C)柴田竜介/集英社『学習まんが 日本の歴史』第9巻

     

    辰井「僕の中にあった歴史の常識が、音を立てて崩れています…」

    藤田「きっと驚かれますよね。あと、徳川5代将軍の『綱吉』ってどんな印象ですか?

    辰井「なにか、おバカな将軍のイメージがあります。たしか生類憐れみの令を出して『犬将軍』と呼ばれたとか……」

    藤田「その評価も変わってきています。あの当時は口減らしのために子どもを殺したり、捨てたり。人殺しまで当たり前に横行していました。それで人の命をもっと大切にしなきゃいけないと発令されたのが、『生類憐れみの令』だったと考えられるようになったんです」

    辰井「へええ。綱吉、まっとうな考えですね」

    藤田「罰せられるので、子どもを捨てることも殺すこともなくなって。危険な野犬も、街からいなくなったんです」

     

    (C)柴田竜介/集英社『学習まんが 日本の歴史』第10巻

     

    藤田「また、古墳時代の天皇のお墓といわれる仁徳天皇陵ですが、実は仁徳天皇が埋葬されているか定かではないということで、教科書では大仙陵古墳(仁徳天皇陵古墳)などと名称が併記されています」

     

    (C)あおきてつお/集英社『学習まんが 日本の歴史』第1巻

     

    藤田「日本の歴史は、いまも日々発見があります。新たに文書や遺跡などが見つかると、そのあともすごく大切に調べていくんです。だから、歴史がどんどん新しい事実に塗り替えられていきます。外国だとそこまで熱心にやるところは多くないそうです」

    辰井「新研究が次々と反映されているわけですね。僕ら知ったかぶり状態の大人が読んでも新たな発見ができそうですし、社会人が歴史を勉強し直すのにもいい本ですね」

    藤田「はい。実際『子どものために買ったけど大人が夢中です』といった感想も珍しくはなく、大人の方にも十分楽しんでいただけると思います」

     

    子どもは、未来が厳しいことに気づいている?

    辰井「いまは少子化の時代ですが、『学習まんが 日本の歴史』の売上げに変化はありますか?」

    藤田出版不況でも、児童書は堅調です。叔父・叔母や祖父母など、子どもへの出費は惜しまない財布の数が『6ポケット』とか『8ポケット』とか言われているように、応援団がたくさんいますから。『学習まんが 日本の歴史』を含め、特に学習系の本は伸びています」

    辰井「へえー! そういえば最近でも、子ども向けの勉強本からベストセラーになるケースがありますね」

     

    辰井「ちなみに『学習まんが 日本の歴史』の最新版は20巻中、8巻が近現代を扱っていますよね。私たちの時代の授業は近現代が駆け足で終わりがちでしたが、なぜそれほど重視するのですか?」

    藤田いまニュースに出てくる問題は、みんな近現代の出来事に直結していますから。たとえば日本と中国や韓国、アメリカなどとの関係を理解するには、戦前〜戦後の歴史を知ることが重要ですよね」

    辰井「確かに大人になって、もっと近現代の歴史について学んでおけば……と思うことは多いです」

    藤田「高校や大学受験でも近現代からの出題が増えています。さらに2022年から、高校で『歴史総合』という世界と日本の近現代史を合わせた新科目ができるんですよ」

    辰井「なるほど、受験対策としても必要だと」 

    藤田「総合アドバイザーの野島博之先生からは『子どもたちは、これからの世界が厳しいものになると、うすうす感じているはず。だから、戦争の悲惨さもそのまま伝え直視させることで、危機を予見したり、困難に動じず柔軟に対応できる思考力が身につくのではないか。それは歴史の勉強以上の意味がある』と言っていただきました」

    辰井「『学習まんが 日本の歴史』でも、いい人が殺されてしまうシーンもたくさんありますよね。不条理な世の中で、自分ならどう立ち回ればいいのかも学べそうです」

     

    (C)あおきてつお/集英社『学習まんが 日本の歴史』第1巻

     

    藤田「また、こんなアドバイスもいただきました。『関東大震災は東京を焼け野原にしたすごい悲劇だけれども、更地にゼロから最新の技術で京浜工業地帯が作られ、今日の東京の大発展につながっている。歴史上の災いが残したものは、悲惨な面だけではないことに気づいたほうがいい』と」

    辰井「悲劇をただ悲劇として子どもから遠ざけるのではなく、別の面からもアプローチして伝える。大切な姿勢ですね」

     

    関東大震災後の復興で、急激に近代都市へと生まれ変わった東京 (C)吉田健二/集英社『学習まんが 日本の歴史』第15巻

     

    覚えてもらうため、ほんの数ページでも印象的なシーンに

    辰井「ちなみに学習漫画として、『覚えてもらう』ための工夫はありますか?

    藤田「印象的なシーンを作ることです。ほんの数ページでも、一生懸命生きた人たちのドラマには感情が揺さぶられます。そんなエピソードを散りばめています」

     

    藤田さんが「毎回泣きそうになる」と語る、みんなを守るために降伏した阿弖流為(あてるい)と母礼(もれ)が処刑されるシーン。 (C)早川恵子/集英社『学習まんが 日本の歴史』第4巻

     

    辰井「いいシーンは、それごと覚えられますからね」

    藤田「ええ。それと読みやすさのため、なるべく会話でドラマを展開しました。ナレーションも入りますが、説明っぽくなりすぎないようにしています」

    辰井「確かになんとなくで読んでも、勝手に内容が入ってきますね」

    藤田「そうなっていたら嬉しいです。あとは服装や道具、背景など時代によって変わるので、描きわけが必要ですし、くり返し読まれることを想定し読み応えも重視したので、中身の漫画も実力ある作家さんたちにお願いしました。一コマずつ丹念に書き込むことで読みやすくなっているかなと」

    辰井「調度品なども、当時のものを調べて書くんですもんね」

    藤田「そうです。漫画の下書きに『この時代の斧は鉄ではなくて石です』など、具体的に書き込みをして教えて下さる監修の先生もいました」

     

    監修者からの時代考証に基づくチェックが入った第1巻の下書き

     

    辰井「おおお、びっしりと書き込みが。苦労が伺えますね……!」

    藤田「漫画家の先生もやり直しに何度も対応してくださって、ありがたかったです。監修作業では本当に細かいところまで見てくださるので、チェックをすんなり通ることがあまりなくて。シナリオライターさんや漫画家さんと、どう直していくかをよく相談しました」

     

    シナリオライター、漫画家、監修者、校正者など、多くの人が制作に参加している

     

    辰井「漫画を直すって、描き直しですか?」

    藤田「はい。だからできるだけ下書きかその前段階で直したいんですが、ペンが入ってはじめて『この形は違う』と指摘が出ることもあります。なるべくそうならないように、密なやりとりが必要でした」

     

    普通の漫画にはない、『日本の歴史』の特徴は、監修者がいること。歴史的事実に基づいて、シナリオや漫画の原稿にチェックを入れる

     

    藤田「データで作画している人はまだいいんですが、今回手描きの方が割と多くて」

    辰井「手描きは大変ですね……!」

    藤田「はい。さすがにペン入れ後の直しは少しでしたけれど。のちに僧侶になった武将が、『ここではまだお坊さんになってないのに……』とか」

    辰井「漫画家さんも勉強しながらで、骨が折れますね」

    藤田「がんばっていただきました。おかげさまで、絵柄からも伝わるものの多い説得力のある漫画になっていると思います」

     

    日本史に詳しくなかったから、読者視点になれた

    辰井「ちなみに、新版の制作にはどれくらいの時間がかかったんですか?」

    藤田「製作期間は3年ぐらいでしょうか。私は元々児童文庫を担当していて、新版から『学習まんが 日本の歴史』の担当になったんです。当時はほぼ専従でした。ですが、スタッフの中で私だけ日本史を知らなくて、受験生モードでイチから教科書で猛勉強しました」

    辰井「それはたいへん!」

    藤田「でも『知ることがおもしろい』のは大人も子どももきっと一緒ですから。『ここはおもしろいと思ってくれるかも』『ここはもっと丁寧に説明した方がいい』など、歴史の初心者だったからこその感覚も生かせたと思います」

    辰井「読者に近い視点の方がいるとうれしいですね」

     

    巻末の「知ると楽しい歴史のミニ知識」は、漫画には入らなかったうんちくが満載。筆者オススメのコーナー。集英社『学習まんが 日本の歴史』第6巻より

     

    集英社では『世界の歴史』 の学習漫画も出版されている。このほか『中国の歴史』シリーズも

     

    辰井「最後に。『学習まんが 日本の歴史』を作る上で、いちばん大切にしていたことはなんですか?」

    藤田「読む人を想像するのが大事だと思っています。私たちが小・中学生には戻れませんが、迷った時は子どもたちの意見を学校などで直接聞きます。それと同時にあまり子ども扱いしすぎないといいますか、『子どもの理解力をバカにしないでしっかり伝えるべきことを伝える』姿勢が大切だと思っています」

    辰井「ふむふむ……」

    藤田「例えば『学習まんが 日本の歴史』は小学校の高学年ぐらいが対象ですが、ドラマにするために高校の教科書の内容をベースにしていて、まだ小・中学生で習わないところも多いんです。ですが小学校1~3年生からも『面白かった』『歴史が得意になった』という声を多くいただいています」

    辰井「へえー! おもしろければ、ちゃんと子どもには伝わるんですね」

    藤田「ええ。何かひとつでもいいので、『読んでよかった』と思ってくれれば。知らなかったことを知る楽しさを発見してもらえたらうれしいです

     

    おわりに

    子どもたちは、これからの将来が厳しいものだと気づいている。そんな子どもたちの感性を見くびらず、子ども扱いせず、それでいて子どものことを考えて作る、『学習まんが 日本の歴史』。

     

    これほどまでに、子どもをリスペクトして生まれた本。大人が読んでもためになる『学習まんが 日本の歴史』を、僕も子どもが生まれたら早めに買い与え、親子二代で愛読したいと思った。

     

    そんな僕がすべきなのは、まず結婚相手を見つけることだが。

     

    『学習まんが 日本の歴史』

    ・公式HP

    ・Amazonページ

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    この記事を書いた人

    辰井裕紀
    辰井裕紀

    卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。

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