業1973年、熱烈中華食堂 日高屋。中華料理業界トップクラスの446店舗をもつ一大チェーンながら、そのすべての店舗が関東地方にある。中でも一都三県の駅前には、神出鬼没レベルで日高屋が鎮座する。

 

日高屋を展開する「ハイデイ日高本社」最寄りの、大宮駅東口(埼玉県)

 

2002年に現在の主力業態『日高屋』が登場してからはまさに快進撃で、関東人のおなかをリーズナブルに満たし続けてきた。

 

筆者は何度も足を運び、とくにお金がないときはよく通った。来店回数は100に届くかもしれない。

 

この日高屋だが、ファンはお店でうまい料理を平らげながら、さまざまな「謎」に直面している。たとえばこんな疑問だ。

 

・なぜ関東から出ないのか?

・「モリモリサービス券」はなぜ消えたのか?

・「来来軒」など微妙に業態が違うお店は何が違う?

・そもそも「熱烈中華食堂」って?

 

2000年代以降に大きく伸びたチェーンでありながら、創業者の出身地・埼玉県日高市由来の、素朴な屋号を名乗る「日高屋」。

 

千葉県出身、東京在住の筆者にとっては「俺たちの日高屋」とさえ言いたくなる、関東のメガローカルチェーン。あの日、お店で浮かんでは消えた「謎」を思う存分ぶつけよう。

 

今回はまさかの、株式会社ハイデイ日高の青野敬成社長が直々に登場。大宮の本社で、積もる話のありったけを伺った。

 

そもそも「熱烈中華食堂」とは?

「そもそも……看板にある『熱烈中華食堂』は何ですか? 何が『熱烈』なんでしょうか」

「『熱烈』は、会長の神田正が情熱を持った経営をしようと付けました。『情熱に勝る能力なし』。情熱を持って万物に取り組もうと『熱烈』にしたんです

「言われてみれば、情熱の伝わる字体のような……あと、『熱烈中華食堂』が付く日高屋と付かない日高屋がありますが?」

「『熱烈~』を付けると店名が長いから、もう『日高屋』だけでいこうと。ですが、白黒の看板に『日高屋』だけだと、どうも殺風景。『熱烈中華食堂』の文字をまた赤く入れると、バランスがよくなって。もう一度「『熱烈~』に一本化しました」

「となると、まだ『日高屋』だけの看板は残っていますか?」

「今でもあると思います」

 

なぜ関東から出ないのか

南関東の駅前にたくさんある日高屋

 

「そして……日高屋はなぜ全国展開せず、関東ローカルなんですか?」

「特定の地域に集中して出店する、『ドミナント戦略』が企業としての軸ですから」

「なぜ集中出店を?」

「全国に出せばそのぶん名前が広まりますが、一都三県に集中すれば、物流費を抑えられますし

「なるほど、明快な理由ですね」

工場は埼玉の行田にありまして、すべての店舗は、そこから車で1~2時間半くらいの範囲内です

「そうか、工場や店が近いから、食材の鮮度も保てる!」

「関東は出店の余地が多いので、まだまだこだわります」

「お店を出せる余地ってどこにあるんですか?」

「まずは山手線沿線です。まだまだ出てない駅があって、東京駅から浜松町のエリアや、品川とか」

「出ていない駅、意外とありますね」

「さらにロードサイドはコロナ禍でもお客さんがあまり減っていないですし、今後出店を強化します

「同じ中華チェーン『幸楽苑』の主戦場であるロードサイドにも。車だとコロナ感染リスクは低いですからね」

関東圏だけで、おそらく600店舗までは出せると思います」

「ちなみに、関東でも群馬・栃木・茨城の北関東にはなぜあまりお店を出さないんですか?」

 

一都三県へ集中的に出店する代わりに北関東の店舗は少ない。茨城が3店、栃木が1店、群馬はなし

 

「一都三県の方が、やはり人は多いですから」

「それも明快な回答ですね」

「ただし……今までは『乗降客数約5万人以上』が駅前への出店の目安でしたが、2万人台の駅でも、ライバルが少なければお店を出すようにしました

「おお!」

「おそらく〇〇(※)にも店を出せるのではと思います」

※編集部注:企業秘密ですが、日高屋ファンの皆さんお楽しみに

「ついに……待ち望んでいた方が多いと思いますよ」

 

チゲ味噌ラーメンがずっと「期間限定商品」なワケ

「正真正銘の基本メニューこと『中華そば(390円)』。周りも言っていますけれども、最近おいしくなった気がします。何か変えたんですか?」

メニューは原則的に、すべて改良し続けます。基本的には時代の変化に合わせます」

 

こちらは『ラ・餃・チャセット』。ラーメンとチャーハンと餃子、すべてミニサイズで620円

 

「それと、『半ラーメン』を210円で出すのもすごいですよね……1つひとつ作るんですか?」

「麺も一つずつ茹でますね。飲んだあとの締めに、少しだけ食べたいお客さんの声から生まれました」

「あとは、冬シーズンに登場する『チゲ味噌ラーメン』が大人気ですけど、なぜいつまでも期間限定商品なんですか?」

 

冬に絶対的人気を誇る「チゲ味噌ラーメン」

 

鍋で作るメニューは、すべて期間限定商品なんです。提供が大変なので、時期に応じて1つずつ入れ替えます」

「店員さんのケアのためだったんですね。とすると通常メニュー化はないのか……」

「鍋を使った料理は人気ですが、厨房の負担が高まりますからね」

「私も大好きですから、チゲ味噌ラーメン。そして『温玉うまから丼』と『温玉うまからラーメン』がなくなったのもニュースでしたよね?」

 

挽肉の大幅値上げで、値段の維持ができなくなったんです。ただ、『出前館』と『EPARK』で、温玉うまから丼だけはマニア向けに期間限定で出していました

「復活して『おっ!』と思ったんですが、そういう意図だったんですか」

「そしてこの記事が出るころには、また出ているはずです」

 

期間限定商品の大宮担々麺(650円)。写真のように辛味を増量できる。期間限定商品の大宮担々麺(650円)。写真のように辛味を増量できる。広報の綿貫さん曰く「思い入れの強い高橋均前社長が満を持して『大宮』を付けた」

 

「さらに『大宮担々麺』。発祥の地の名前が、わざわざついていますよね」

「本社がある『大宮』を出せば、インパクトがあると思いまして」

「ふつう湘南とか東京とかは冠につけますけど、『大宮』を冠に使うのは珍しい」

「大宮は最近、住みたい街ランキングにも名を連ねてきていますからね」

「大宮って、ちょっといい名前ですよね。字面のすわりもいいですし」

 

「そして看板商品『野菜たっぷりタンメン(550円)』ですね」

「売上はこれが一番です」

「関東のチェーンらしいですね。タンメンは関東の麺料理の王様ですから」

「昔の『来来軒』時代からあったタンメンから、野菜量を大幅アップし、1日に必要分の350グラムにした意欲作です」

「もやしだけじゃなくて野菜がまんべんなく取れるのもいいですね」

「ちなみに日高屋ではほとんどの野菜を関東産のもので賄っています

「ほとんど?」

「餃子に入っているニラから、キャベツに白菜。ネギも深谷ネギや茨城のネギなど、関東のものを使います」 

「お、深谷ネギも! 全然そんなイメージありませんでした……やるな、日高屋」

「さらに、国産化を進めていますよ」

 

大宮は「超・日高屋密集地帯」

「大宮には、すごく日高屋が多いですよね」

「発祥の地ですので。あとは地元の方から『何とかこのテナントに日高屋が入ってくれないか』とお願いされることもあって」

「しかも業態の違うお店までたくさんあって、歩くのが楽しいです」

「私がかつてアルバイトをしていた『らーめん日高』も1店舗だけありますね。大宮は1店舗だけの店が多いんです」

 

らーめん日高。かつて4店舗ほどあったが今や大宮駅西口にある1軒のみ

 

中華一番。こちらも残り1軒が大宮駅東口に残っている

 

「とくに目を引くのが、2店舗ある『来来軒』ですよね」

「1973年に創業したときの業態ですね」

 

来来軒はかつて10店舗ほど構えていた大衆中華の業態。定食などを主力としていた

 

「それぞれのお店、少しずつ提供メニューが変わっていますよね?」

「ええ、来来軒などは鍋を使うメニューが多いです

 

そそるメニューの多い来来軒

 

「たしかに来来軒は日高屋では見ないメニューがあります。麻婆麺、ニラ玉、塩焼きそばとか……」

「それはすべて鍋を使うメニューですので。あと、メニューによって若干量が違いますね

 

埼玉発だからできるメニュー

「『焼鳥日高』に、『肉ネギつけ汁うどん(並 580円)』なるメニューがあります。武蔵野うどんをイメージしていますか?」

「ええ。焼鳥日高はなかなかランチメニューが定着しなかったんですけども、うどんが人気で全店舗に展開しました」

 

「埼玉の企業ならですね。さらに日高屋では、文楽という埼玉県上尾市の酒蔵の日本酒もあります」

 

日本酒(340円)

 

「神田会長の社長時代からのお付き合いで、ずっと提供しています。あと、前社長の高橋が毎日飲むほどの日本酒好きでして」

「舌が肥えた高橋前社長と神田会長のお墨付きなわけですね」

この値段でこのクラスの日本酒を飲めるものはなかなかないんです。オリジナルのお酒も作っていただいています。ロック酒は日本酒で20度で出しています」

「レアですよね! ふつう15度前後ですから」

 

吟醸ロック酒20度(420円)

 

「モリモリサービス券涙の終了」のワケ

『モリモリサービス券』はファンの間でアイドルのような存在でした」

「モリモリサービス券は最初、『大盛り』だけできる券だったんですが、あるお客さまが、『年寄りはそんなに食べられない』とおっしゃって。そこから徐々に味玉や温泉卵をつけるようになりました」

 

お金がないころはこれで「大盛り中華そば」ばかり頼んでいた筆者

 

「それが、なぜなくなったんですか?」

「20年以上続けたと思いますが、デジタル化への対応と、SDGsの取り組みで紙をなくそうと

「モリモリサービス券をなくしたのはSDGsだったのか……」

「あとは注文がタッチパネルになったり、券を出すのが面倒な方もいたりして。今ではデジタルクーポンを採用しています」

 

Yahoo!などのアプリにあるクーポン。10種類程度の割引が用意されている(画像は旧価格時代より)

 

「デジタルクーポン化して大盛りはなくなりましたが、セットメニューとか、割引のバリエーションは増えましたね」

「ええ、より多くの方に利用していただきたいです」

「ちなみに富士急ハイランドやよみうりランドの割引券がいつも付いていましたよね……なぜですか?」

 

モリモリサービス券にはこのような広告欄があった

 

券を作る経費をお客さまに負担させないためです」

「え?」

「私どもが日高屋の商品割引券の部分を、相手さま企業が広告欄を作っています」

「おお、合作ですか」

「我々は15万人ぐらいのお客さんにこれを配っているので、相手さま企業とお客さまと我々、みんながWin-Winの関係だったんです。券の発行には一切お金がかかりませんでした

 

伝染病の流行に海外進出が2度阻まれる

「もし関東以外の地域に出るとしたら、どこを考えていますか?」

「おそらく名古屋とか仙台あたりです」

「なぜですか?」

「関東圏から近いところをと思っています。でも、もう少し先の話です」

「まず『関東600店舗』が先なわけですね」

 

(撮影時のみマスクを外しています)

 

「ええ。あと海外にもお店を出そうとしていたんですが、なかなか実現に至りません」

「なぜですか?」

「タイミングです。中国で視察や店員さんの育成を進めていましたが、お店を出そうとしたとき、SARSが流行ってしまい

「なんと」

「ベトナムでも同じように進めていたんですが、今度はコロナで。2つともそれっきりです」

「残念でしたが、機が熟せば行けるような状況ではあるわけですね」

「でも、海外進出は運営が難しく、本当に海外に行くのがいいのかどうか。『ステータスのため』だけでは行きたくないですから」

 

まだまだ、僕らの関東ローカルチェーン!

日高屋グループ1号店・来来軒大宮南銀座店跡。まだ当時の看板が残る

 

「関東地方は日高屋がまさに生まれ育った地域で、まさにすべてのお店が今、関東地方にあります。そんな地元はどんな存在ですか?」

「関東はまだまだ出店余地がありますし、大宮は一つの聖地ですよね。北銀の一号店から始まっていますから」

「そうそう、日高屋ファンなら大宮巡礼をしてほしいですよね。過去にあったお店もいろいろ残っていますから」

 

日高屋本社にある画。右は現存しない本当のグループ1号店、来々軒大宮北銀座店。左は飛躍のきっかけになった新宿

 

「大宮といえば、武蔵野銀行さんです。昔、いろいろな銀行がお金を貸してくれないなか、武蔵野銀行さんはうちを信じてお金を出してくれて。そこからハイデイ日高は大きくなっていったんです」

 

大宮駅西口に巨大な本社ビルを構える地銀・武蔵野銀行

 

「大宮のマニアックなスポットをキーホルダー化した『大宮ガチャ』にも、日高屋がありますもんね」

 

カプセルトイ「大宮ガチャ(300円)」第二弾。日高屋キーホルダーは裏が来来軒になっている芸の細かさ

 

「ぜひこれからも大宮から、関東人を楽しませていただきたいです」

「ええ、しばらくは関東中心でがんばっていきたいですね」

 

※商品画像は取材日までに撮影したものです