
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回おすすめスポットを教えていただいたのは、神奈川県 横浜市の妙蓮寺エリアにある「本屋・生活綴方(せいかつつづりかた)」(以下、生活綴方)の鈴木雅代さん。
生活綴方は、本を「売る」「買う」だけではなく、「綴(つづ)」り、「綴(とじ)る」。つまり「本をつくるための本屋」。
同じく妙蓮寺で76年続く株式会社 石堂書店が、2014年にオープンした書店だ。詩歌やエッセイ、インディペンデントな出版物などが並び、棚を眺めるだけでもわくわくする。

「本をつくるための本屋」と謳っている通り、お店にはリソグラフ印刷機が置かれ、会員制で利用ができる。生活綴方の出版部では、リソグラフ機で印刷し手製本したZINEを販売している。
また、お店の壁はギャラリースペースになっていて、いつ訪れても新鮮な楽しさがある。
「田舎感」のある横浜

横浜市にもいろいろな顔がある。きらびやかな横浜駅、外交官が住んでいた歴史ある邸宅がある山手、飲み屋街のある野毛。そんな横浜のなかでも「下町」感が強い妙蓮寺のエリア。
そんな妙蓮寺の駅からほど近い場所に、生活綴方はある。
「妙蓮寺って、どことなく田舎の雰囲気があるんですよね。ご高齢の方が多い街だからかもしれないですけど、街が長年変わらないこともあるんじゃないかな。
お店の入れ替えはあるけれど、大きな開発はされていないんですよ。地理が変わらないので、『帰ってくると安心する』という方も多いみたいです。初めて来た方も『懐かしい』と言ってくれたりして」
鈴木さんは10年ほど前からこの妙蓮寺に住んでいる。
観光目的でこのあたりを訪れる人はあまりいない。けれど街には往来があり、それらはほとんどこの街で生活をする人たちだ。閑散としているわけでもなく、騒がしすぎるわけでもない。心地よい賑やかさのなかを、鈴木さんは「今日も我が街は平和だな」と頷きながら歩いている。
スリッパでも、ジャージでも、ミニスカートでも、誰も気にしない。自転車がボロボロだろうと、金がなかろうと、定職についてなかろうと、誰もここでは気にしない。コロナで会社がなくなり、貯金もなく、賃貸審査が通るか不安でしょうがなかった私が妙蓮寺に住みついたのだって、ここで自分が楽しそうに暮らしているイメージが湧いたからだった。
(『文集・妙蓮寺』収録「とうとうたらり、菊名池」安達茉莉子 より)
後ほど紹介する『文集・妙蓮寺』は、妙蓮寺のことを知るのにぴったりなZINE。
ぜひこのZINEを片手に街を歩いてみてほしい。
本屋・生活綴方の鈴木さんが教えてくれた、横浜・妙蓮寺のお気に入りの場所
TERA COFFEE 妙蓮寺店
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生活綴方から徒歩5分ほどのところにあるコーヒースタンド&焙煎所「TERA COFFEE」。
鈴木さんが毎朝出勤する際、お店の脇を通るといつも煎りたてのコーヒーのいい香りがして「一日がはじまった」と目が覚める。
生活綴方が毎年4月に開催している、街を巻き込んだブックマーケットイベント「本や街」では、TERA COFFEEとコラボして、その日限定の「本や街ブレンド」を販売。
また、TERA COFFEEの印刷物は、生活綴方のリソグラフ機で印刷しているなど、「お店同士で仲良くさせてもらっています」と鈴木さん。

コーヒーは一杯一杯、ハンドドリップで淹れてくれる
「私はコーヒーが好きなんですけど、詳しくはなくて。TERA COFFEEではその日の気分を伝えると豆を選んでくれるから、お任せしちゃってますね。スタッフさんもいい人ばかり。コーヒーを買って、ちょっと世間話をして帰る、この時間が私はけっこう好きなんです」
美しい店舗は、以前郵便局だった建物を改装したもの。
「数年前に郵便局が別の場所に移ったんです。みんなこの郵便局の佇まいが好きだったから、壊されずにコーヒー屋さんになったことをすごく喜んでいますね。この建物、かっこいいんですよ」
街に馴染みのある建物。改装してコーヒー店になったことで、また誰もが利用できる場所になった。

TERA COFFEE 妙蓮寺店
神奈川県横浜市港北区菊名1-12-11
https://www.instagram.com/teramyorenji_online/
これからの季節は、深煎りのクリスマスブレンドが人気。
KANATA cafe

お店の人気商品だというミートパイ
生活綴方から歩いて1分。
「KANATA cafe」は、カナダのカフェ文化が楽しめるユニークなカフェ。
オーナーであるご夫婦は、fun storeという洋品店も営んでおり、入口を入って右側が洋品店、左側がカフェになっている。最初は「ここが入口?」と戸惑うかもしれないけれど、大丈夫。あってます。

カナダの郷土料理、プーティーン
料理もドリンクも豊富。フライドポテトにグレイビーソースがかかった「プーティーン」など、カナダの風土を感じるメニューも味わえる。
鈴木さんのお気に入りは、ミートパイとキャロットケーキ。
※キャロットケーキは、土日の限定メニュー。
「すごく雰囲気がよくて、地元の方たちがゆったりと利用しているカフェです。
生活綴方は『お店番制度』という、有志の人たちが交代制で店番するシステムをとっています。登録してくれている人は100人以上いるんですよ。お店番を終えた後や、お店番さん同士で集まる時はKANATA cafeに行くことが多いですね。
カウンター席もあるので、一人でゆっくり本を読むのもおすすめです」

KANATA cafe
神奈川県横浜市港北区菊名1-7-13 トヨアキビル1F
https://www.instagram.com/kanata.cafe/
菊名池公園

TERA COFFEEのすぐ脇にあるのが「菊名池公園」。
「井の頭公園をすごくちっちゃくした感じの公園」と鈴木さん。
プールやグラウンドがあり、ベンチもあちこちに設置されている地元の公園で、老若男女が集まって、思い思いに過ごす場所になっている。
「保育園の子たちが遊びに来ていたり、広場で体操やゲートボールをやっている人がいたり、夕方は小学生が遊んでいたり。池の前のベンチにふたりで座って喋っている人や、本を読む人、ぼーっとしている人がいたり。朝から晩まで、うまいこと入れ替わって、みんなで公園を使っている。お金がなくても楽しめる場所って、年々減ってきてしまっている気がするけれど、すごく大切ですよね。
私は仕事に行く時と帰る時、必ず菊名池公園を通るのですが、いつも『うん、今日も平和だな。よしよし』と心のなかで頷いています(笑)。妙蓮寺の平和な空気感を象徴する場所だと思います」
菊名池公園
神奈川県横浜市港北区菊名1-8-1
https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/kurashi/machizukuri_kankyo/jimusho/koen_ryokudo/map-seach/d-3/kikunaike.html
横浜・妙蓮寺で読む、おすすめ本 2選
『湖まで』

歩いていった先に大きな水の塊があることは安心だった。
海でも川でも湖でも。
ひとと出会い、土地に触れ、わたしはわたしになっていく。
みずからの世界の扉をひらく全5篇。(版元HPより)
「大崎清夏さんの作品は生活綴方でもすごく人気なんです。この『湖まで』は、大崎さんの初の小説集。読んでいて頭の中で景色が広がるようでした。
不思議な読みごこちの作品で、はじめの「湖畔に暮らす」は特定の場所のことを書いているのではなくて、主人公の宝子が自分の身体のなかに発見した湖のことなんです。そんな“自分のなかの湖”を意識しはじめてからの話。
水辺って、不思議ですよね。山を見てぼーっとすることって私はあんまりないんですけど、水辺はいくらでも、なにも考えず見つめていられるじゃないですか。
菊名池も、夜に近くを通り過ぎようとすると、コーヒーを啜りながら池を見つめている会社員の方の後ろ姿が見えたりします。ただただ池があるっていうだけなんですけど、そこに惹かれる。おもしろいですよね。
菊名池公園は池で、この小説は湖なんですけどね。この作品は、『大きな水の塊』を眺めながら読むのにぴったりなんじゃないかと思って、おすすめします」
『湖まで』大崎清夏/palmbooks
『文集・妙蓮寺』

この文集は、妙蓮寺に住んでいたり、住んだことがあるひとたちが、この街について書き、綴ったものである。好きな場所でも、嫌いな場所でも、思い出深かったり、妙に気になっていたりする場所について、妙蓮寺のことを知らない人へ、いつか様変わりしてしまうであろうこの街に住むいつかのひとへ、来訪を喚起する目的ではなく、あなたにとっての妙蓮寺を、ぼくらの街のことを書いてほしい。そう依頼して書いてもらった。 この本ができる前とその後で、妙蓮寺の風景はきっと、少しだけ、変わったものになる。(版元HPより)
「生活綴方の出版部でつくった本を、全国のイベント出店で手売りすることが多いのですが、『横浜から来たんです』と言うと、キラキラした横浜を思い浮かべる方が多いんです。横浜駅前とか、ベイサイドとか、中華街とか。
『そっち側じゃない横浜なんです』っていうのをどう説明したらいいのかな、と思いつくったのがこの『文集・妙蓮寺』。だから、表紙がお饅頭の包み紙みたいな地味な色でしょう(笑)。
紹介されているのは地味なスポットかもしれないけれど、執筆陣が実感を伴って書いてくれています。妙蓮寺に遊びに来て、ちょっとでもおもしろいなと感じたらこの本を読んでみてもらうと、より街を深掘りできるんじゃないかなと思います。
私は妙蓮寺に住んで10年になるんですけど、すっかり帰ってきた時に安心できる場所になりました。仲間のあいだでは『村』って呼んでるんです。都市部に出かける用事があると『都会は楽しいけど、はやく村に帰りたいね』って笑い合ったりしていますね。そんな村の、ゆったり安心できる様子が伝わる本になっていると思います」
『文集・妙蓮寺』/生活綴方出版部
https://tsudurikata.life/goods/td2506140/
鈴木さんも、自身の“作ることが好きな人生”と絡めて、妙蓮寺の「割石金物店」について綴っていて、これがとても素晴らしいエッセイだった。
書店での勤務は、生活綴方で5店舗目になるという鈴木さん。
お店の経営まで含めて「自分ごと」と感じて書店で働くのは初めてだという。
「今までは最低でも20人は従業員がいる大きな書店に勤めていたんですが、現在は、石堂書店は3人、生活綴方の正式スタッフは私1人です。どちらも私が店長を勤めていますが、自分の行動次第ではお店が潰れるかもしれない。そういう意味では自分ごとですし、切実ですね。
そんななか、出版部をやったり、リソグラフの印刷機を貸したり、全国にイベント出店したり。あの手この手で、自分たちの本屋を潰さないように試行錯誤している。私たちはかなり最先端のことをやっているよね、って仲間とよく話すんですよ」
「潰したくない」と思うのは、書店はどんな人でも受け入れ、たくさんの刺激をもたらしてくれる大海原だと思うから。
「ただただ本を眺めに来てくれるだけでもうれしいです」という鈴木さんの声を思い出して、たびたび妙蓮寺に訪れてしまいそうだ。

本屋・生活綴方
神奈川県横浜市港北区菊名1-7-8
https://tsudurikata.life/
X:https://x.com/tsudurikata
Instagram:https://www.instagram.com/tsudurikata/














































