
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。
今回お話を伺ったのは、香川県高松市にある「本屋ルヌガンガ」の中村勇亮さん。ともに元書店員である中村さん夫妻が、2017年に「これからの街の本屋」をつくろう、とスタートしたお店だ。
売れ筋に左右されない選書は、まるで友人宅の書棚を眺めているかのようでわくわくする。ふらりと立ち寄れる「誰かにとっての馴染みの本屋」であれるように、8年間夫婦でお店を続けてきた。
現在、開催中の「瀬戸内芸術祭2025」へ向かう人々も多く訪れる高松で、本を片手に楽しめるスポットを中村さんに紹介してもらった。
海の城下町に、個性的なお店が増えている
観光名所でもある高松城は、瀬戸内海に面し、お堀には海水が流れる「海城(うみじろ)」。海と城、そして町が一直線に並んだ、全国でも珍しい「海城町(うみじろまち)」であり、いつでも海に行けるのが高松の魅力ですね、と中村さんは言う。
※高松城(玉藻城)は現存しておらず、天守台のみが残っている。写真は高松城エリアに何個か残る「やぐら」。海域などの監視などをするのに使われた。
「海辺で読書をしている人もよく見かけます。僕は夜に海へ散歩に行くことが多いのですが、瀬戸内海越しに向こうの島の灯りが見える景色が好きなんですよね。高松の街で飲んだあと、海辺を散歩するのも気持ちがいいです」
本屋ルヌガンガがあるのは、高松駅から歩いて20分ほどのエリア。繁華街のメインストリートから少し外れるぶん、家賃も安く、周りに個性的なお店も多いのだという。
「『天国喫茶ぱらいそ』はパフェが人気で、いつも行列ができています。『fragrant』はバターや卵、乳製品、白砂糖を使わない『植物性焼き菓子』のお店。アメリカや中南米の雑貨を扱う『porte(ポルテ)』も好きですね。
飲み屋さんだと、『時宅(じたく)』もよく行きます。おにぎりや味噌汁などの家庭料理がおいしくて、地元の若者でにぎわっていますね。
昔のもっと栄えていた高松も知っているので、少しずつ廃れていくさみしさも正直あります。一方でおもしろいお店がどんどん増えているので、そこはすごく楽しいですし、一緒に盛り上げていきたいですね」
3年に一度、瀬戸内海の島々を舞台に開かれる「瀬戸内芸術祭」。会場である島へ向かうフェリーの発着地点であり、芸術祭の玄関口でもある高松では、フェリーが出る前の朝の時間帯や、島から戻ってきた夜、街で過ごす人も多いそう。
本屋ルヌガンガがすすめる、高松のおすすめスポット
「三びきの子ぶた」
昔から通う地元の人も多いカフェ&フルーツパーラー。昭和23年創業の青果店が発祥で、フレッシュな果物を使ったフルーツジュースやパフェ、ケーキ、サンドイッチなどが楽しめる。
「私が子どもの頃からあるパーラーです。放課後に学生たちでにぎわっている光景をよく目にしますね。小学6年生のうちの娘も、友だちとよくお菓子を買いに行っています。私はサンドイッチが好きで、なかでもお気に入りなのは『BLTサンド』です」
三びきの子ぶた
香川県高松市常磐町1丁目4-9
「SALON NAKAZORA」
「珈琲と本と音楽」をテーマに営業する「半空(なかぞら)」。その姉妹店として、「空白と対話の時間」をテーマに、2022年にオープンしたのが「SALON NAKAZORA」だ。
「静かにコーヒーやお酒を飲みながら、読書して過ごしたいなという人は、ぜひ行ってみてほしいお店です。
店内にはたくさんの本が置かれていて、読書好きにはたまらない空間だと思いますよ。僕のお気に入りメニューはラムレーズンのチョコレートパフェです」
ジモコロでは過去に「半空(なかぞら)」を取材したことも
SALON NAKAZORA
香川県高松市丸の内6-28
「桜製作所 高松店」
木と対話しながら家具制作を行い、世界的に評価されているジョージ・ナカシマ。1990年に亡くなったあとも、彼のデザインした「ナカシマ」の家具をアメリカの工房以外で唯一つくり続けている「桜製作所」のショップだ。
「桜製作所本社の「ジョージ ナカシマ記念館」もすごく素敵なのですが、街から少し離れた場所にあるので、高松の街歩きついでならこちらのショップへ。アートや家具がお好きな人にはオススメです」
このお店のすぐ近くにある高松市立中央公園には、世界的な彫刻家であるイサム・ノグチのデザインした遊具が。そしてその向かいの香川県庁舎は、丹下健三の設計によるもの。
「県庁東館には桜製作所の手がけた家具や猪熊弦一郎の壁画もあり、は中に入って見学することもできます。瀬戸内芸術祭もいいですが、高松の街でアートを感じるのにおすすめのエリアですね」
桜製作所 高松店
香川県高松市天神前4-32
※現在は、水、木、金のみの営業(催事期間中は休みなしで営業)。
年に数回、作家個展を開催。詳しくはHPをご確認ください。
高松で読むのにおすすめの本
『怪獣を解剖する』
怪獣学者の本多昭(ほんだあきら)は、“トウキョウ”と呼ばれる超巨大怪獣の死骸の、解剖調査現場に呼ばれる――。/ 超厚【232p】で描かれる、空想研究エンターテインメント!(版元HPより)
「怪獣が出てきて、アクションがあって、事件が起きて……と、あらすじだけ見るとドタバタ活劇みたいなんですが、民俗学的な視点や、ジェンダー、震災や労働問題などのテーマが随所に散りばめられている。エンターテインメントとして楽しみながら、深く考えることもできるいい作品です。
作者のサイトウマドさんはご近所さんで、お店にもよくいらっしゃいます。漫画の中に高松の商店街の風景も出てくるので、街を歩きながら探してみると楽しいと思いますよ」
『怪獣を解剖する』
サイトウマド 著/KADOKAWA
『カヨと私』
小豆島でヤギと暮らす──どっちが飼い主?!でもそれでいいの。だって私もヤギになって、一緒に美味しい草を食べて、頭突きしあって、日向ぼっこして暮らしたいんだもん。(版元HPより)
「こちらも香川ゆかりということで、小豆島で『カヨ』と名付けた雌のヤギと暮らす内澤旬子さんの本です。内澤さんは『世界屠畜紀行』という世界の屠畜現場を取材したルポルタージュが有名な作家さんで、よくお店にも来てくださいます。小豆島での暮らしは猪を赤ちゃんから飼ったり、DIY精神に溢れていていつもすごいなと思っています。
この『カヨと私』は読んでいてすごく心が安らぐ本で、瀬戸内海を眺めながらのシチュエーションにぴったりだと思います。ちなみに内澤さんの最新刊は『私はヤギになりたい』。こちらもいいタイトルですよね(笑)」
『カヨと私』
内澤旬子 著/本の雑誌社
個性的なお店を巡り、本を片手におだやかな瀬戸内海を眺める。そんなゆったりとした時間を過ごしたい人は、ぜひ高松へ。本屋ルヌガンガで、素敵な本との出会いがあるはずだ。
本屋ルヌガンガ
香川県高松市亀井町11番地の13 1F
https://www.lunuganga-books.com/
Instagram:@lunuganga_books
構成:友光だんご