こんにちは。
ライターの小林です。

僕はファッションが大好き。いつも家のクローゼットはパンパン。ラックにもTシャツが山のように積み上がっています。学生時代には、とことんめかし込んで街中に出て行って、ストリートスナップされることを待っている、なんてちょっと香ばしいエピソードも……。

そんな僕が、昔からよく買っていたのが『古着』。
かつてスナップされたときのページを掘り起こしてみても、身につけていたアイテムはほぼ全て古着でした。

でも、古着って『〇〇年代もの』みたいな語り方があったり、『アメカジ』みたいなジャンルがあったり、なんだかよくわかっていないまま着ていたのも事実

いったい古着って、ファッションの世界にどう取り入れられてきてきたんだろう。古着は人々のおしゃれの価値観をどう変えてきたのだろう

話を聞いた人:安田美仁子(やすだ・みにこ)

突撃洋服店代表。渋谷生まれの神戸育ち。1985年に古着店『突撃洋服店』創業。買い付けから店舗ディレクションまで一貫して行っている。近年は映画やドラマ、アーティストへの衣装提供も。
https://www.instagram.com/minikoyasuda/

そこでこの方に話を聞くことに。ファッション業界で『古着』というジャンルが一般的になる以前の1985年から、約40年間『突撃洋服店』という古着屋を営み、現在はPOP UPという形態に絞って各地でライブイベントのように古着店を展開しています。

そんな古着の世界のど真ん中で活動してきた安田さんの視点から、古着カルチャーの歴史や今の世の中における古着の可能性について、お話をお聞きしました。

 

古着人気に火が付いたのは、デザイナーズブランドへのアンチテーゼがきっかけ?

小林「そもそも古着カルチャーが始まったのって、いつ頃なんでしょう?」

安田さん「いわゆる一般の人が気軽に古着を採り入れ始めたのが1980年代後半。それまでは古着というと、一部のマニアな人が好むジャンルだったんです。『昔の映画で、あの俳優が着ていた服がほしい』みたいな」

小林「『オードリー・ヘップバーンが身につけていた、あのドレス』『ジェームズ・ディーンが着ていた、あのジャケット』みたいな感じですかね」

安田さん「そうそう。現代でも名作と謳われる数々の作品が生まれた1950年代くらいのアイテムが人気を集めていました。嗜好品というか、時代性を楽しむために古着を選ぶ、みたいな感覚だったのかもしれないですね」

小林「ちなみに、みんなが古着を採り入れるようになった1980年代後半には何があったのでしょうか?」

安田さん「1980年代は、COMME des GARÇONS、Yohji Yamamoto、ISSEY MIYAKEのような、デザイナーの個性やコンセプトを前面に出したデザイナーズブランドが時代を牽引していて。雑誌に取り上げられたり、みんなが身につけるようになったりして、世の中にデザイナーズブランドが一気に広がっていきました」

小林「僕もそれらのブランドの服、買ったことあります! その頃に一世を風靡していたんですね。でも、それらのデザイナーズブランドの盛り上がりは、古着カルチャーとどんな関係があるのでしょう?」

安田さん「ひとつは、デザイナーズブランドが一気に盛り上がって、一気に失速したこと。というのも、デザイナーズブランドのアイテムって値段が高いじゃないですか。当時でも1着4〜5万円はしていたと思います」

小林「たしかになかなか手が出しにくい値段」

安田さん「そうした背景もあって、“デザイナーズブランドっぽい”安いブランドや服が増えていったんです。そこで同時に『そもそもデザイナーズブランドを買う理由ってなんだっけ?』とか『わざわざ高い服を買わなくてもよくない?』みたいに感じる人も増えてきた。あと、ファッション業界全体がデザイナーズブランドに乗っかっていこうとするような商業主義的な動きに疲れてしまった人が出てきました

小林「たしかに一気に流行ると、冷めちゃいそうですね」

安田さん「しかも、ちょうどその頃に『アメカジ』という新しいジャンルが入ってきたり、ロックバンドなどに触発されて服を選ぶ人も増えてきたりして、ファッションのジャンルが多様化していったんです。そんな流れも相まって、80年代後半から古着ブームが巻き起こりました

小林「なるほど。ファッションの多様化が、古着ブームを後押ししたんですね」

 

PUFFYや『CHOKi CHOKi』のおしゃれキングが、ファッションアイコンに

小林「僕が生まれたのは1990年なんですけど、その頃にはもう古着カルチャーが形成されていたのでしょうか?」

安田さん「90年代というと、女性2人組ユニットの『PUFFY』が人気でしたよね。彼女たちのファッションって、古着のデニムを履いて、ちょっとメンズライクな感じ。カジュアルなストリートスタイルが流行っていた時代でもありましたよ」

小林「PUFFY、懐かしい……!」

安田さん「それで当時は、『アパレルブランドに提案されたものを着るのがおしゃれ』という時代から『素人でもコーディネート次第でおしゃれになれる』という時代に切り替わったタイミングかもしれません」

小林「僕がおしゃれに目覚めたきっかけが『CHOKi CHOKi(※)』というファッション雑誌で、中学生のときめちゃくちゃ貪り読んでいたんです。そこでは『おしゃれキング』と呼ばれる読者モデルのコーディネートが注目を集めていたり、街中の人の着こなしを取り上げたスナップページに誌面が割かれていたりした記憶があります」

※CHOKi CHOKi:1990年代後半から2000年代にかけて人気を博した、日本のメンズファッション誌。原宿・渋谷を中心としたストリートファッションを軸に、一般の若者をモデルに起用する『読者モデル』文化を確立した。美容室スナップやヘアスタイル特集にも強く、ファッションとヘアを一体で提案。等身大で真似しやすいスタイルが支持され、多くの若者のファッションバイブルとなっていた。

安田さん「それがちょうど2000年代頃ですよね。『私はこういう着方をする』というスタイルが如実に出てきた時代かなぁと思っています。たとえば『CHOKi CHOKi』で言うと、男性がレディースのアイテムを着るようになったきっかけをつくったりとか」

小林「うわぁ、僕もまさにそれです。『CHOKi CHOKi』に影響されて、レディースのピチピチのスキニーデニムをよく履いていました」

レディースのスキニーデニムを愛用していた時代

安田さん「ただ、ジャンルの違いこそあれど、昔から洋服の着方自体は大きく変わっていないんですよね」

小林「と、いうと?」

安田さん「結局、『オードリー・ヘップバーンのようなファッション』『COMME des GARÇONSのようなファッション』『PUFFYのようなファッション』『『CHOKi CHOKi』のようなファッション』……そうやって人はみんなアイコンを求めるんです。何かしらのお手本がほしいんですよね」

小林「僕のレディースのスキニーデニムなんか、まさにそうですね」

安田さん「そう。古着を扱っている身としては『もっと自由に自己表現してもいいのに……』と思うこともあるんですけど、憧れのアイコンを探して着てみるのももちろん素敵なことだと思いますよ」

 

「大枠の正解」を提示するようになってしまった、古着屋の今

小林「ふと思ったんですけど、昔だったら圧倒的に人気のブランドや雑誌があったけれど、令和の今ってそういった絶対的なお手本がないような気がします」

安田さん「そうですね。メディアも乱立しているし、SNS上にはいろんなスタイルが上がっているし、お手本があちこちにある状態とも言えそうです」

小林「となると、みんな自由に自己表現できるようになっている……?」

安田さん「うーん、どうなんでしょうね。逆にお手本が多すぎて、『果たしてこのファッションは、自分が能動的に選んだものなのだろうか?』という悩みを持っている人も多そうな気がします。

私のPOP UP古着屋に来る服飾系の専門学校生たちを見ていると、どうも心地よく自己表現できていないというか、『このファッションは、誰かの真似なんじゃないか』みたいに悩んじゃう人も多くて

小林「今って自分らしさを大切にする風潮が強まっていますもんね。若い子は特に『人と被りたくない、心地よく自分らしさを表現したい。でも、どう表現したらいいかわからない』みたいな状況かもしれませんね」

安田さん「本当はどんな服やコーディネートでもいいんですけどね。『これが自分らしいファッションなんだ!』って自分自身でジャッジできない人が増えているように思います。
そういう状況だから、古着屋は『大枠の正解』を提示するようになってきていて……

たとえば、ラルフローレンのシャツを色やサイズ違いで、ずらっと並べたりして『この中からあなたの好きなものを選べば間違いないですよ』という提案の仕方をしている。でも私は、古着屋ってそれでいいんだっけって思うことがあります」

小林「絶対的な正解がなくなって、ファッションを楽しめる自由を得られたはずなのに、結果的にみんな同質的なファッションになってしまっていっている」

安田さん「そうですね。『この店の、このセレクトの中から選べば安心だ』という、まさに『大枠の正解』の中で服を買う若者は増えています」

小林「たしかに最近、僕も特定の古着屋でしか服を買わなくなっているかもなぁ」

安田さん「昔はよく『古着屋巡り』なんてカルチャーがあったのに、そういう現象はすっかり減った気がしませんか? たぶんそれは、特定のお店で用意された『大枠の正解』で満足してしまうからかもしれません。『大枠の正解』の外側にこそ、心地いい自己表現があるかもしれないのに

小林「もともと古着って自分らしさを表現しやすいものであったはずなのに、なんだか皮肉ですね」

安田さん「だから、私のお店では、ブランドやジャンルごとに服を並べることはしないんです。メンズ、レディースという分け方もしないし、ジャンルもテイストもさまざまに感覚的に並べています。そうすると、若い人たちはびっくりするんですよ。『こんな売り場、見たことない!』って」

 

小林「たしかにふらっと立ち寄った古着屋で、ふと目に入って手に取ってみたらビビッと来る、運命の一着ってありますよね」

安田さん「そうそう。だから、突撃洋服店でも、なんとなく訪れた人が、パッと手に取ったアイテムを気に入って高揚している瞬間を見ると、とっても嬉しくなりますね」

 

古着は社会的規範から個人を自由にしてくれるもの

安田さん「古着って若い人がハマる印象がありますが、むしろ最近は、50〜60代の方が古着を楽しんでいる姿もよく見かけます

小林「そうなんですね!」

安田さん「突撃洋服店に訪れる方も派手なアイテムを楽しそうに身につけている年配の方も多いです。きっとそれは、年齢的に社会的役割から解放されたことも大きいのかなと思っていて」

小林「社会的役割からの解放でファッションを楽しめるように?」

安田さん「子育てを終えたり、キャリアの競争から降りることができたりする中で、やっと社会的な立場や肩書きで自分らしさを定義するのではなく、一人の人間として自分らしさを確認したり、掴めたりするようになったんだと思います」

小林「あぁ……たしかに今の僕は『子どもと歩いていても恥ずかしくない、父親らしい格好をしなきゃ』とか『プレゼンをするときは、クリエイターっぽいユニークなファッションをしよう』とか思っちゃってるかもしれないなぁ」

古着を手に取りながらしみじみ

安田さん「そうなんです。小林さんが今おっしゃったような、『父親だから』『この立場だから』という基準こそが、いわゆる『大枠の正解』なんですよね。

結局ファッションもビジネスだし、たくさんの人に商品を売らなければならないので、業界的にも『大枠の正解』を売りがち。でも、私は古着屋で『これまで無難なビジネスカジュアルの格好ばかりしていた』という方が、遊び心のある柄シャツを手に取って、心が解放されていくようなシーンも見てきました」

小林「たしかに古着って、間口が広いというか、『誰が・どんなアイテムを・どうコーディネートするか』はかなり人それぞれな気がしますね。『こう着なきゃ』っていう規範があまりない」

安田さん「私の古着屋を始めた40年前から『ジェンダーフリー』を謳っていましたし、これはメンズとレディースの中間を取るような『ユニセックス』とは全く別の概念。そもそも服を着る時は、メンズやレディースとかを考えなくていいんです。その人が『なんかいいな』とピンとくればそれでいい。もうそれだけ」

安田さんが取材のために持ってきてくれた古着も系統も柄も実にバラバラ

小林「そもそも『男らしい服ってなんだっけ?』『女性らしい服ってなんだっけ?』とすら問わせないというか」

安田さん「まさにその通り。本来古着って、そういった社会的な役割から個人を自由にしてくれる可能性があるはず。なので、これからも突撃洋服店でも、そういった提案をしていきたいと思いますね」

 

最後に

安田さんと話しているなかで気づいたのは、本来ファッションってもっと心地よい自己表現だったな、ということ。そして、古着はその自己表現をもっとも促してくれるものだったな、ということ。

取材後、僕は安田さんの『突撃洋服店』で一本のパンツを買いました。

商品名は『楽しさしかないパンツ』。
もっとファッションって自由でいい、楽しんでいい。このパンツを履くたびに、そんな気持ちを思い出させてくれそうな気がします。

『男だから』『父だから』『クリエイターだから』……ついそんな社会的な立場や肩書きに囚われそうなときには、この1本をラックから取り出して履いて、自由に生きたいと思います。

撮影:荒田もも