
ステッカーやTシャツ、キーホルダーなど、ファンにとっては応援のために欠かせないアイテムである「グッズ」。
アイドルやスポーツの現場だけでなく、最近ではラジオやPodcast、YouTube番組などのグッズを見かけることも増え、コンテンツと同じくらい存在感を放つようになってきました。特にPodcastのようなマネタイズが難しいコンテンツにとって、グッズは重要な存在のよう。
今回は、ミュージシャンや文筆家、俳優などとして幅広く活動しながら、会社員としても働き、以前からグッズの企画・制作も数多く手がけてきたマーライオンさんに、「売れるグッズの作り方」を聞く……予定でした。

撮影:ともまつりか
が、話は「営業」や「ディレクション」、さらには「人とのコミュニケーションの取り方」へと展開していくことに。
複業ミュージシャンとして活動してきたマーライオンさんのグッズ論は、ものづくりの話でありながら、実践的なビジネス論でもありました。
AIやSNSが発展したこの時代に忘れがちな大切なことが詰まった、マーライオンさんのインタビューをお届けします!
話を聞いた人:マーライオン
ひなまつり生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。NIYANIYA RECORDS主宰。
2014年のデビュー以来、ポッドキャスト、文筆、俳優などジャンルを越えた活動を展開。2018年発表のミニアルバム『ばらアイス』はROSE RECORDSよりレコード化され話題を呼んだ。2024年にはデビュー10周年を記念し、渋谷WWWにてワンマンショーを開催。
2025年には全国13都市弾き語りツアーを完遂。同年、劇伴を担当したドラマが「東京ドラマアウォード2025」を受賞し、映像音楽作家としても確固たる評価を得る。
2026年1月、活動の拠点として「株式会社ごきげん社」を設立(代表:小川理俊)。現在はライブ・劇伴制作を主軸としつつ、企業の営業支援やグッズ・企画制作・プロデュースなども手掛ける。シンガーソングライターとしての感性と、現場で培ったビジネススキルを掛け合わせ、多角的な事業を展開している。https://gokigensha.jp/
グッズは、いちばん低いハードルで、作品を広める装置

——今日はよろしくお願いします。マーライオンさんのグッズも色々持ってきていただいたのですが、どれもかわいいですね。
そのアクキーは「ささきえり」さんというイラストレーター・アニメーション作家さんのイラストで、配信アルバムのジャケットをグッズ化したんです。ライブの物販だけじゃなく、文学フリマのようなイベントにも出店するんですけど好評ですよ。
——ミュージシャンやアイドルだとグッズは当たり前だったと思うんですが、裾野がすごく広がっている感覚があって。芸人さんがライブに合わせてグッズを出したり、文学フリマでも、個人の作家さんが本と一緒にアクキーみたいなちょっとしたグッズを売っているのを目にしたり。

増えてますね〜。特にPodcastやラジオ番組など、単体でのマネタイズが難しいジャンルほどグッズの重要性は上がっていると思います。
僕がマーライオンとして活動をはじめた2009年ごろは、Tシャツを作るだけでもハードルがすごく高かった。でも今はツールやサービスが格段に進化して、誰でも比較的簡単に、手頃な価格でつくれるようになりました。
——画像1枚あれば、Tシャツや雑貨を簡単に作れるサービスも出てきてますもんね。
僕はつい最近までグッズの作成・販売を手がける会社に勤めていて、人気のPodcastや芸人さん、YouTuberさんのグッズの企画・制作を担当してたんです。元々、個人活動でもグッズのプロデューサーみたいな動きもしてたんですが、そこで、グッズはいろんな意味で創作活動を支えるものだなと再認識して。最近では自分の音楽活動のグッズもより積極的につくるようになりました。
——グッズのプロデューサーって、具体的にはどんなことをやるんでしょう。
商品企画からプランナー、WEBディレクター、営業まで、グッズに関わるすべての業務ですね。会社で一番最初に担当したのは、とある人気芸人さんが世に出はじめた頃のグッズだったんですけど、これがすごく好評で。「この人のグッズがあれば絶対売れる!」と思って提案したので嬉しかったですね。
——「この人のグッズは売れるはず」って、何か自分なりの基準があるんでしょうか。
有名かどうかやファンの数は、正直あまり関係ないと思っているんです。重要なのは、その人やコンテンツを通じての「記憶に残っている場面」とか「フレーズ」があるかですかね。
例えばYouTuberさんだと、本人たちは意外と気づいてないけど、一視聴者からすると強烈に印象に残っているシーンや言葉がある。それを結晶化したみたいなグッズが生まれたら、ファン冥利に尽きるじゃないですか。絶対買っちゃう。そういう、いちファンとしての視点も持ちつつ、ディレクションしていました。

最近では、自分のグッズもだいぶ増えましたね。EPのジャケットと同じイラストを使ったハンカチとか、アクリルキーホルダー、音源のダウンロードコードが印刷されているポストカード。あとは詩集とか、日記のZINEなんかもつくっています。
——バリエーション豊かですね。ミュージシャン視点だと、グッズはどういう位置付けなんでしょう?
最近痛感してるんですけど、今みたいに配信が主流になってきた時代に、お客さんの心を留めておくのってすごく難しいんですよね。その点、グッズは手元に残るじゃないですか。
たとえば、ステッカーをスマホケースに入れていたら、その人はスマホを見るたびにコンテンツのことを思い出す。友だちに「それなんのグッズ?」と聞かれたのをきっかけに、今まで僕を知らなかった人が曲を聞いてくれるなんてこともあるかもしれない。
だから、グッズをつくる上で大事にしているのは「その人の活動の魅力を、一番低いハードルで伝えることができるか」ですね。それはクリエイターとしても、クリエイターをサポートする側としても意識しています。
「ゴールを示して、余白を残す」イラストディレクション術

マーライオンさんのアルバム『ばらアイス』のジャケットイラストを使ったグッズ(イラスト:oyasmurさん)
——グッズのプロデュースが仕事になった経緯も気になります。
僕のアルバムジャケットを描いてくれたイラストレーター、oyasmurさんからの一言がきっかけです。
元々、自分の作品を作る際、イラストレーターやデザイナーさんと直接やりとりしてディレクションすることが多かったんですね。そんな中で、oyasmurさんが「マーさんはイラストレーターさんとの接し方が抜群にうまい。そういうお仕事に就いたほうがいいと思います」と言ってくれたんです。
当時は、ちょうど転職を考えていたタイミングで。そういうクリエイターさんとのやりとりを活かせるなら、と思い、グッズ制作の会社に入りました。
——oyasmurさんに大絶賛された「イラストレーターとの接し方」、すごい気になります。
これはあくまで僕のやり方なんですけど、
・方向性や構図はかなり具体的に伝える
・その上で、「イラストレーターさんに膨らませてほしい余白」を1〜2箇所残す
みたいなことは意識してます。
——かなり具体的ですね。
あんまり言語化したことがなかったんですけど、これって、「どこまでこだわるか」「ゴールはどこか」「目指したい世界観」を整理して、丁寧に丁寧に依頼するってことなんじゃないかと思っていて。
クリエイターにとって一番しんどいのって、発注側のスタンスが見えないまま投げられる仕事なんじゃないかなと思うんですね。

マーライオンさんのオリジナルアクリルキーホルダー
——「発注側のスタンスが見えない」というのは?
まずは、発注側の力の入れ方ですね。雑に言ってしまえば、向こうが「完成さえすればいい」と思っている仕事もあるわけじゃないですか。逆に、とことんこだわりたいと思って依頼している場合もいる。
次に、目指しているゴールはどこか。どんな世界観のものを制作したいのか。この2つがわからない仕事って、けっこう多いんですよ。
——クライアント仕事で、発注側のゴールがふわっとしているのはあるあるかもしれませんね。発注者に具体的なイメージがないと、いくらヒアリングしても、途中でちゃぶ台返しが起きたり、最後まで暗中模索になってしまう……。
そうなんですよね。本来は発注者が船のオールを持たないといけないのに、クリエイターに丸投げになってしまっている。でも、イラストレーターさんには、本来はイラストだけに専念してもらいたいじゃないですか。
——創作に集中できる環境を、発注側がつくるという。
僕も最初からうまくできたわけじゃなくて、いろんな失敗をした上で学んだことなんですが、今は自分が迷っていたり、ゴールが見えない状態では依頼しません。発注って、事前準備が本当に大事だと思うんですよ。
——それは受注するクリエイターさんからしたらやりやすいし、力が発揮できますよね。
なんならイラストレーターさんだったり写真家さんに断られたら、その企画をおじゃんにするぐらいの気持ちでいないとダメだと思ってて。
なので、自分のアルバムジャケットをお願いしたかったイラストレーターさんが、数年先まで仕事が埋まっていてNGだったことがあって。そのアルバムは一旦、お蔵入りにしました。
——えええ! それくらいの気概で。

僕、みんなもっと気持ちよく仕事ができるといいなと思ってるんですよ。
とあるミュージシャンのお仕事でイラストレーターを探していると相談が来た時に、パッと「あの人だ!」って浮かんだ方を紹介したことがあって。紹介したイラストレーターさんは、そのミュージシャンの大ファンだったんです。イラストも素晴らしくて、みんな幸せにお仕事できた。
——それは、本当にみんな幸せな現場ですね。
そうそう。もっとそういう幸せなマッチングができればいいなと思っているんです。つい先日、独立して自分の会社を立ち上げたんですけど、関わる全員を「ごきげん」にしたいから、社名は「株式会社ごきげん社」にしました。
——いい社名!
ごきげんなマッチングを生むには、SNSではわからない部分を知っておく必要があるなとも思っていて。SNSでもイラストレーターさんは探せるけれど、個展などに実際に足を運ばないとわからないこともありますよね。原画の色味とか、イラストレーターさんの人柄とか。
なので、いいなと思っていたり、仕事で関わったクリエイターさんの個展やイベントにはできるだけ足を運ぶようにしています。
——「発注は準備が大事」とおっしゃっていたのは、そういった普段のインプットも含まれるんですね。
営業を教えてくれたのは、保険会社で出会った「師匠」

——マーライオンさんと話しているとビジネス感覚を感じるんですが、それってどこで養われたんですか?
最初に入った会社で、保険の営業を3年やっていた影響が大きいですね。そこで出会ったお客さんが、僕に営業のいろはを教えてくれたんですよ。
——お客さんが?
入社当初、直属の上司があまり仕事を教えてくれるタイプじゃなかったので、ひたすら我流で営業をしていたんです。そんなある日、飛び込み営業をした家のおじいちゃんが、楽器をやっていることを知って。僕も音楽をやっていたので「よければ聴かせてくれませんか」ってお願いしたんです。
80歳から楽器をはじめたらしいので、てっきりカバー曲をやると思ってたんですよ。そしたらオリジナル曲を演奏しはじめたので、びっくりして。でも、それがめちゃくちゃいい曲で感動してしまいました。
——もしかして、その人が営業を教えてくれた人?
そうなんです。おじいちゃんが好きなことを教えてくれたから、僕も自分のことを話したくなったんでしょうね。自分が会社に勤めながら創作活動をしていることや、いろんなことを話したんですよ。
そうしたら「わたしが営業のいろはを全部教えるから、仕事に疲れたり悩んだらまたここに来なさい」と。そのおじいちゃんは、大手企業を定年退職した元経営者だったんです。
——なんと!

お客さんとの距離感や、声のトーン。営業に必要なものは全部教えてもらいました。結果、あり得ない数字なんですけど、生命保険の飛び込み営業で1時間半に1件契約を取れるようになって、社内表彰も受けました。街の一区画がまるまる僕の担当になったこともありますね。そのおじいちゃんが、僕の営業の師匠です。
——漫画みたいなエピソードですね。その師匠もすごいですが、マーライオンさんの素直さもあった気がします。
社内が殺伐としていて、なるべくオフィスにいたくなかったというのもあって(笑)、よく師匠の家に通ってましたね。暑い日や寒い日にもよく逃げ込んでました。
師匠は、パートナーさんもお子さんも亡くされて、家にひとりで暮らしていたんですよ。それで、僕が来るのを楽しみにしてくれていた部分もあったのかな。営業のことだけじゃなく、おしゃべりしたり、ゴディバのチョコレートを一緒に食べたり、新曲を聴かせてもらったり。僕の社会人生活のなかでも強く印象に残っている出来事です。
——教えてもらった営業の技術は、今でも生きていますか?
めちゃくちゃ生きてます。たとえば去年1年間で試しにデータを取ってみたんですけど、僕のグッズブースに立ち寄ってくれた人のなかで、実際にグッズを購入してくれた確率は89%でした。
——かなり高確率では?
だと思います。そこでの接客で大事にしてることは色々ありますが、たとえばお客さんが「アーティストの会話を楽しみたい人」か「話しかけられるのが苦手な人」かが、瞬間的にわかるようになったんですよ。一辺倒にお客さんみんなに話しかけるのではなくて、それぞれの人が、心地よくグッズを見れるように適度な距離感を意識したのはよかったのかなと。
そういう意味でいうと、営業術と言っても極意があるわけではなくて、相手をちゃんと見て接するということが一番大事なのかもしれないですね。
経験をすべて生かしたら、自分にしかできない仕事になった
——ここまで出てきた営業やディレクション術も、今のマーライオンさんの活動につながっていますね。
本当に、いろいろな場所で、徐々に徐々に吸収していった感じですね。僕は、16歳からソロミュージシャンとしてライブハウスに立ったので、逆に言うと社会人として右も左もわからない状態で世に出ているんです。
なので、年上のバンドマンにも、スタッフにも、とにかく話しかけてました。気難しそうな人でも喋りかけてた。その会話のなかで、いろんなことを教えてもらいました。マナーとか、ライブ出演のオファーの仕方とか、気持ちよい仕事ってなにか、とか。
どれも社会人の基礎みたいなことだけど、ふと忘れてしまいそうになる大事なことばかりですね。
——先ほどの師匠だけでなく、いろんな師匠のような先輩がいたんですね。
反面教師になった先輩もいました。僕は22歳の時にディスクユニオンのレーベルと契約して、アルバムも3枚出させてもらったんです。ただ、このままだと駄目になるなという予感があって。
それは、自分が音楽をはじめてから出会ってきたミュージシャンのなかには、売れようとして失敗して、それ自体はぜんぜん格好悪いことではないんですけど、その反動でときには人を傷つけてしまうような振る舞いをしてしまう先輩も見てきていたから。
「売れる」ことや、ただ音楽を続けていくことだけが目標になってしまう難しさも知った結果、就職を選んだという理由もあるんですよね。兼業ミュージシャンとして、働きながら活動を続けるのは大変でしたけど、これまで出会った人に教わったことが今の僕を形成しているのは事実だと思います。

——高校生からライブハウスに立った経験も、就職した経験も、つらい思いもすべて糧になってるんですね。
もちろん反面教師だけではなくて、こういう人になりたいと目標にしている人もいます。例えば、クリープハイプの尾崎世界観さん。バンドが今の編成になる前後の頃に付き合いがあって、すごいいろいろなことを教えてもらいましたね。
たとえば、尾崎さんに「男性のソロミュージシャンは本当に大変だ。時間がかかるから、ねばれよ」って言われたことがあって。その言葉を胸に、就職してからも音楽は続けてました。
——尾崎世界観さんといえば、自著が出版された時に、1年間働いていた加藤製本(東京に新宿区にある製本会社)に出向いて、上司に挨拶したというエピソードが印象的で。
初めて知りました。アツイですね。尾崎さんらしい話だなと思います。
——尾崎さんのようにオフラインでのやり取りを大事にする部分は、マーライオンさんの話にも出てきましたね。
結局、最後に残るのはそこなのかなと思っています。AIは便利だし、うまく使えば仕事を効率的にしてくれる。でも、実際に会って得る情報とか、あるいは来てくれて嬉しいっていう感情とか、そこが仕事をする上ではすごく大事なはず。
——オフラインでのやり取りを日々重ねているから、「この人とこの人はマインドが合うんじゃないか」みたいな、ごきげんなマッチングができるわけですね。
そうですね。個展に行く、現場に行く、直接顔を合わせる。その小さな積み重ねをしてきた結果、僕にしかできない方法でたくさんの人の制作をサポートできているんだろうなと思います。
——なんだか今、すごく大事な話が聞けた気がします。
僕も今日話していて、尊敬する人にも、反面教師にしている人にもなにかしら教わっているんだなと気づきました。そういう意味では、僕には本当にたくさんの師匠がいるんだなと思います。

撮影:番正しおり
構成:荒田もも



































