
ジモコロ編集長の友光だんごです。今日は岡山の日生(ひなせ)という町へ名物の「カキオコ」を食べにきました。
カキオコとは、牡蠣がどっさり入ったお好み焼きのこと。冬から春先にかけて、牡蠣のシーズンになると全国から観光客が日生へやってきます。

ブリッブリの牡蠣がこれでもかと載せられたカキオコ。これがウマいんですよ……
カキオコを堪能した帰り道に、道ばたで妙な看板を見つけました。

「かなり アブナイ」という文字とともに、謎の動物の像。よ〜く見ると、下のほうに「BIZEN中南米美術館」という文字も。

中南米って、ブラジルとかチリとかの? 僕は岡山出身ですが、中南米と縁が深いって話は聞いたことないな……。
妙に気になるBIZEN中南米美術館。なんとここ、日本で唯一、世界でも有数の「古代中南米文化」をテーマにした美術館だったんです。
古代中南米文化って? なぜ岡山のこんな場所に? 気になったのでインタビューしてきました!

マヤ文明は「チョコレート文明」⁉︎

中はこんな感じ。色々気になるものが並んでますね。

巨大な石碑や、

鳥に人面に猫、独特の壺たち。

呪いで壺にされた古代の方……?
「古代中南米ってたしか、マヤ文明とかインカ帝国とかだっけ」
「よくご存知ですね」

「館長の森下です。あとはアステカ文明、ナスカの地上絵も日本で有名な古代中南米の文化ですね」
「看板に惹かれて来ただけで、その言葉以上の知識はあまり……」
「日本の学校ではほとんど教えませんからね。でも大丈夫です。私が解説しながらご案内するので」
「館長自ら解説を」
「はい、うちのコンセプトの一つです。ではさっそく」

「これはなんだと思いますか?」
「絵入りの土器ですね、鮮やか。なんだろう」
「古代マヤ文明の王族たちは、この器でチョコレートを飲んでいたんです」
「チョコレートを飲む?」
「しかもこのサイズの器で、1日に30杯ほど飲んでいました」

同サイズのレプリカで実演させてくれました。これで1日30杯!
「さすがに肥満と糖尿病一直線では?」
「チョコレートといっても、カカオをパウダーにして、お水を入れて、食紅や花びら、バニラや唐辛子を加えたドリンクです。今でいうチョコレートは、カカオに牛乳や砂糖をたっぷり加えたものなので、別物ですね」
「意外とヘルシーそう。とはいえ30杯は飲み過ぎでは」
「チョコレートは南米で5000年以上前から飲み始められ、元々は胃痛などの薬として使われていました。それがやがて、美容や長寿の効果が注目されるようになった。当時、世界の平均寿命は30歳前後なんですが、チョコレートドリンクを常飲していたマヤの王族は60〜90代まで生きていました」
「平均寿命の倍! 今でいうと200歳、300歳とかまで生きてたってことですよね」
「これはカカオに含まれる強力な抗酸化物質、カカオポリフェノールの効果なのではと考えられます。チョコレートは王様の長寿に欠かせないもの。朝から夜まで飲み続けるため、家来が専用の容器を持ち歩いていたそうですね」

「こちらがチョコレートを入れて持ち歩く専門容器」

この中にチョコレートドリンクを入れていたそう
「1日中チョコレートをがぶ飲みして長生き。すごい話だ」
「マヤの王族といえば、こんな話もありますね」

「なにやら不穏な字面が見えますが」
「マヤの王様は神様を下ろすために、お酒を浣腸していたんです」
「やばすぎる」
「当時の王様は神職。儀式でジャガーのような神様のコスプレをして踊ったのですが、トランス状態になるため蜂蜜酒が使われました。しかし、当時の蜂蜜酒は3%くらい。度数が低くなかなか神様が下りてこないので、浣腸したんですね。経口摂取より、素早く血中にアルコールが流れますから」
「さっさと酔うため直腸から。世紀末の飲み会みたいなことしてますね」

尻から酒を飲む王族の土偶。この表情である
「こんな変なやり方をしてるのは中南米でもマヤだけです。3%だからいいですけど、ビールくらいの度数でも直腸吸収は急性アルコール中毒になりますからね。真似したら絶対ダメですよ」
「絶対しないです」

「そして、マヤの儀式で使われていたのがこちらの笛です」
「これも本物ですか?」
「グアマテラで出土した本物です。貴重ですよ」

「じゃあちょっと吹いてみせますね。よっと」
「!!??」

「この笛はですね、ここに口を当てて……」

「吹いちゃった! 貴重な本物なのに大丈夫ですか?」
「これもうちのコンセプト。体験型の展示なんです。笛ならどんな音か気になるでしょうし、感動を共有したいじゃないですか」
「サービス精神がすごい」

さっきのチョコレート容器も実物を出してくれてました

そういえば展示品のキャプションもだいぶキャッチー
バブルの煽りで家業は終わり。赤字の美術館を継ぐことに

「館長みずから案内してくれるし、本物で実演してくれるし、だいぶ変わった美術館ですね。看板の『かなり アブない』の意味がちょっとずつわかってきました」
「そうですか。この美術館では中南米11ヵ国の考古学美術品、約2700点を収蔵・展示しています。国内外の研究者も出入りしていて、東京の博物館に展示品を貸し出したり、日本にある中南米の大使館と共同事業も行ったりもしています」
「言い方がアレですけど、すごくちゃんとした美術館なんですね。館長は中南米の専門家なんですか?」
「はい。メキシコ大学で2年間勉強しまして、いまは放送大学で古代中南米の歴史について教えています」
「館長も本物だ。でも、日生は岡山の中心部からだいぶ離れた場所じゃないですか。交通の便もいいわけではないですが、どうしてここに美術館が?」

「ここは私の祖父が1975年に作った場所なんです。祖父は50年以上前に日生で漁網の会社をつくって、国内だけでなく海外にも事業を展開したんですね。そこから多業種に展開し、戦後は20社以上の企業を設立して『森下グループ』となっていました」
「日生にそんな一大グループがあったとは!」
「海外に向けて漁網を売り込んでいた頃、祖父がよく南米へ行っていたんですね。南米は漁業大国ですから」
「そこで中南米の文化との出会いが?」
「はい。きっかけとなる人物がいて、ペルーで最も成功した日系実業家の一人と言われる天野吉太郎氏です」
「すごそうな人が出てきた」
「天野氏は小さい頃から考古学者になるのが夢で、私財を投じて政府から権利を買い、遺跡を発掘し、ペルーに『天野プレコロンビアン織物博物館』を作りました。取引先のひとりだった天野氏の影響で、祖父も中南米の美術品をコレクションするようになったと聞きます」
「それで地元である日生に美術館を。そういえば大企業って美術館や博物館を作りがちですよね。文化的社会貢献というか」
「そうした面もあったかもしれませんね。昔はここが観光バスのルートになっていて、岡山駅から毎日のように団体の観光客が来ていました。しかし、観光バスの路線が無くなったあたりからお客さんも減り、その後は集客にも苦戦するようになったんです」
「日生って土地自体、車じゃないとなかなか来づらい場所ですからね〜」

日生は昔から漁業が盛ん。漁協による市場「五味の市」には新鮮な魚を求め、多くの人が訪れる
「私は大学を出たあと家業を継いだんですが、40歳のころにバブル崩壊の煽りで、森下グループは事業をすべて売却することになりました。それで、この大赤字の美術館だけが残ったんです」
「大変!!!」
「大変でしたねえ(笑)。ですが世界的にみても貴重な美術館ですし、なんとか残したい。そこからはコストカットと増収に取り組みました。ただ、立地的に入館者数を増やすのにも限度がある。そこでチャレンジした一つが『ゆるキャラ』でした」
「ほう……?」
美術館再生計画! ゆるキャラとコミュニティに活路

「こちらが当館の誇る、ゆるキャラ『ペッカリー』です」
「ぬいぐるみに本にパーカー。グッズ展開がすごいですね」
「この子は、美術館で一番人気の『ペッカリー像』をキャラクター化したものなんです」

「あ〜この像! そういえば看板に載ってましたね」
「エクアドルの遺跡から出土したペッカリー(野生の豚)がモチーフの土偶です」
「絶妙なかわいさがありますね。古代中南米のセンス!」
「そうなんです。ペッカリーのファンが徐々に増えていた12〜13年前、ゆるキャラブームが起きていました。『これはチャンスかも』と、ペッカリーの着ぐるみを作って、いろんなイベントに連れて行くようになったんです」

(写真提供:BIZEN中南米美術館)
「すると人気になりまして、出版社から本も出版されました。ペッカリーは9歳の男の子で、歌がうまいんですよ。森口博子さんや、ふなっしーとも共演しています。ふなっしーとは仲良しですよ」
「ゆるキャラの交友関係があるんですね」
「今でもゆるキャラ好きな方たちはたくさんいますよ。ペッカリーのファンクラブ会員は1000人近くまで増えて、彼を目当てに県外から美術館へ来てくれるお客さんも増えたんです」
「ということは、ゆるキャラで赤字脱出に成功?」
「ただ、まだ美術館の運営は厳しい。そこで、最近取り組んでいるのが『マヤ文字ドネーション』です」

「LINEスタンプみたいな絵が並んでる。これがマヤ文字なんですか?」
「はい。マヤ文字は紀元3~10世紀のマヤ文明古典期に完成し、各王朝で盛んに使われたもの。表意文字と表音文字から成り立つ混合体系文字で……わかりやすくいうと、マヤ文字のうち表音文字を使うと日本人の名前をマヤ文字に置き替えることが可能なのです」

上のマヤ文字は向かって左上、左下、右上、右下の順で『しょ う へ い』と読めるそう
「へー! このアイコンみたいなの一つひとつが音を表してる、みたいなことですね」
「マヤ文字の仮名は一つの音に十種類ほどのデザインがありますので、『しょ う へ い』の組み合わせは十の四乗で、一万通りの異なるデザインで表せます」
「なるほど!?」
「なので、同じ『しょうへい』さんでも、その方だけのデザインで、世界にひとつのマヤ文字のお名前を作ることができます。そんなマヤ文字を制作し、記念品と共にお届けする……というのが『マヤ文字ドネーション』なんです。マヤ文字は私が描いてます」

「ドネーションだから、このお金で美術館を応援できるみたいな意味も?」
「はい。はじめたきっかけが新型コロナによる入館者減だったんです。ペッカリーなどで入館者もかなり増えていたところに、コロナは大きな痛手で。ドネーション(寄付)してくださった方は、スペシャルサポーターとして、『ヤシュ・ナーブ村』の村人になっていただき、村人向けの情報を受け取ったり、特別なイベントに参加できたりします」
「つまりコミュニティですね!」
「そういうことです。村人の方だけが来館時に体験できるものもあります」
「商品や企業のファンを増やし、コミュニティを育てるってマーケティングでも盛んな手法ですけど、めちゃくちゃそれをやってますね。すごいな」
美術館が大変な時代。サービス精神でサバイブしていく

「今の時代、美術館をやっていく難しさも感じますか?」
「そうですね。美術館や博物館はどこも大変だと思いますよ。昔から大企業が芸術文化支援として運営するケースは多いですけど、どこもお金に余裕がなくなって、株主からも採算性を問われてしまう。地方に移転したり、辞めたりしちゃう話もよく聞きますね」
「都会の施設ですら大変なのに、ここは立地のハードルも大きいですよね」
「だけど、来てくださった方は面白がってくれますし、むしろお叱りを受けます。『入館料が安すぎる!』と」

「それ思ってました。館長が案内もしてくれるなら、1000円くらいとってもいいような」
「地方は1000円を超えると人が来ないんですよ。こういう文化的なものを伝える難しさがありますが、地方でも自力でやっていけるモデルを作りたい。そのためには、他がやらないことをやるのが大事だと思うんですよ」
「他がやらないことをやる。その一つが体験型の展示なんですか?」
「はい、あのスタイルは祖父の頃からなんです。祖父の場合、これぞというお客さんには所蔵庫の中へ招いて秘蔵品を見せていました(笑)。私自身、祖父のコレクションを子どもの頃に触って感動したのが原体験。あの感動をお客さんにも知ってほしいんです」

「ガラス越しでなく、目の前で体験してほしい。村人の方には触ってもらうと言ってましたけど、おっことしそうになったりしません?」
「心配なときは、受け止められるよう私が下で手を出して待機してます(笑)。私自身、博物館や美術館が好きでよく行くんですが、自分が『いやだな』と思ったことも、ここではやらないようにしてるんです」
「自分がいやなこと。例えば?」
「例えばおしゃべり。もちろん騒いで周りに迷惑をかけるのはNGですよ。でも、素晴らしい展示を見て、声を上げたり、一緒にいる人と感想を言い合って感動を深めるのは、より展示を楽しむことにつながると思うんです。だから、うちはおしゃべりOKにしてます」
「たしかに美術館って静かなイメージがあります。監視スタッフの方がいて、ちょっとピリッとしてたり……」
「他にも、薄暗い美術館も多いですが、うちは明るい照明を心がけています」

写真撮影も原則OK!
「あとは、監視スタッフも置いてません。代わりに私がいて、質問があったらどんどん聞いてOK。むしろ横について案内します。マーケティングの感覚で言ったら、お客さんに喜んでもらうことが一番じゃないですか」
「ここはサービス精神の塊ですね」
「ビジネスの世界では普通かなと思いますけどね。あとは、外に出てPRするのも頑張っています。2023年には東京国立博物館の『古代メキシコ展』の会場で講演をしたり、つい先日、銀座三越で開催されたチョコレート展では、チョコレートの歴史を解説する展示をお手伝いしました」
「最近、チョコレートのイベントも盛り上がってますよね。カカオ90%みたいな商品も増えて、世の中的にも健康志向だし、マヤのころにチョコレートのポジションも回帰しているのかも」
「そうかもしれません。古代中南米は掘れば掘るほど面白い文化なので、一人でも多くの方に魅力を知っていただけるように頑張ります」
おわりに

「地方でも、自力で文化施設がやっていけるモデルを作りたい」という館長の言葉が強く心に残った取材でした。BIZEN中南米美術館では定期的に新しい企画展をやっているそうなので、また遊びに行こうと思います。
また、館長は古代中南米の王族たちをめぐる歴史小説を執筆中で、夢はコミックス化だそう。とにかくサービス精神満点な館長なので、ぜひBIZEN中南米美術館へ会いに行ってみてください!
取材協力:BIZEN中南米美術館
https://www.latinamerica.jp/
※原則、事前予約が必要です。館長による館内ツアーを希望の方は予約を!・ペッカリー公式X
https://x.com/HESOINOSHISHI
撮影:淺野陽介(公式HP)













































