こんにちは、ジモコロ編集長の友光だんごです。2024年1月に発生した震災以降、ジモコロ編集部は能登に足を運び続けています。この夏、自分として震災後三度目となる能登へ行ってきました。

理由は二つ。東京から飛行機で意外と近いらしい、と聞いていたこと。もう一つは泊まってみたい宿があったこと。

震災から1年8ヶ月、いまの能登がどうなっているのか? 旅行しても大丈夫? そんな風に気になってる人も多いかと思うので、ひとりの旅の体験としてお伝えしたいと思います!

※取材は2025年8月初旬に行いました

 

羽田から約1時間。あっという間に能登へ

「のと里山空港」(以下、能登空港)と羽田空港間のフライトは現在、1日2往復。震災直後の2024年4月には1日1便で再開し、同年10月には2便になっていたようです。

空港HPより

飛行機に乗って離陸し、本を読んでたらあっという間に着陸準備。地震の影響で滑走路には起伏がまだあるようで、着陸時にはそこそこ揺れます。

昨年5月に能登へ行った際は、新幹線で東京駅から金沢駅まで2時間半、そこから車で3〜4時間ほど。道路がまだ復旧途中だったこともあり、かなり遠かったですが、あの道のりに比べたら飛行機の55分はほんとに一瞬です。このルートを知ると、能登へ行くハードルがグッと下がりそう。

能登空港でなるほどと思ったのが、道の駅や行政サービスなど、いろんな機能が集約されている点でした。

空港の売店は道の駅でもあるらしい。能登のお土産がいろいろ売ってました

この売店で売ってたソフトクリーム、抜群でした。おすすめ!(撮影:編集部)

帰りの空港では、パスポートの更新に来た能登在住の知人にもばったり遭遇。そんな風になっているのも、能登空港の立地もあるのかなと思いました。

地図を見るとよくわかるんですが、奥能登と呼ばれる「輪島市」「珠洲市」「能登町」「穴水町」の4市町から、能登空港はちょうど真ん中あたり。車でも輪島市内まで30分、珠洲市内まで40分ほど。行政サービス機能がここにあると、たしかに便利なはず。

 

空港の外には「NOTOMORI」という施設も。地元の飲食店が集まったフードコートや、ワークスペースが入った複合施設です。

着いたのはフードコートの営業時間外でしたが、奥のスペースで行政関連のセミナーのようなものをやっていました。

2日目に再訪した際、NOTOMORI内にある「SMOCO」のコーヒーで一服。地震で店舗が全壊し、空港で営業再開したコーヒースタンド。車で奥能登を回っていると空港は休憩地点としてちょうどよく、何回も立ち寄ることに(撮影:編集部)

今回、現地での移動はレンタカー。空港から輪島や珠洲へのバスも出ているようですが、現地での移動は車があったほうが便利です。ちなみに、空港にはニッポンレンタカーとトヨタレンタカーが。まだ荒れている道も多いので、レンタカーの保険にはフルで入っておくことをおすすめします!

 

輪島朝市はいま……

空港からまず向かったのは輪島市。まだ復旧工事中のところも多いものの、以前来た時に比べると、かなり工事が進んでいる印象です。


道中に見かけた仮設住宅らしき建物

お昼時ということで、輪島キリコ会館の近くにあるレストラン「mebuki」へ。ここは地元でフレンチのお店を構えていた池端隼也さんが、震災後に炊き出しを行っていた仲間とはじめたお店だそう。

ミックスフライ定食を注文

サクサクふわふわのエビフライ、ウマ〜! ランチタイムの店内はにぎわっていました

次回はぜひ夜にも来てください!とのことで、また必ず来ます。

その後に向かったのが、輪島の朝市通り。2024年の5月に訪れた際にはまだ焼けた建物も残っていた輪島朝市通りがどうなっているのか、気になっていました。

車を走らせ、この辺りだったなというところまで来たのですがなぜか見当たらず……あれ……。

しばらくぐるぐる走り回って気がつきました。ここが朝市通りなんだ。

火事で焼けた建物の解体はすべて終わったようで、広大な空き地のような姿に。夏草が一面に生えていました。

2024年5月に訪れた際の朝市通り(撮影:橋原大典)

以前とは景色が一変していて、しばらく呆然としてしまいました。前回の火事の爪痕が強烈に残った姿も衝撃だったのですが、今回は「なにもなさ」に何も言葉が出ず。

この土地の復旧は行政や地元の方を交えた議論が進んでいて、ニュースを調べると、まずはメインストリートである道路の復旧から行われるよう。近くのギャラリーカフェの方に聞いたら、隈研吾さん設計の施設が建つらしいという話も。

次に来た時には、どんな風景になっているんだろう。この猛暑のせいもあるとは思いますが、街を歩いている人はまばら。とにかく今よりも人が増えていてほしい、と心から思いつつ次の目的地へと向かいます。

 

「あの夏休みのような時間」を過ごせる古民家宿「TOGISO」へ

今回の旅での大きな目的地は、輪島から車で1時間ほどの志賀町(しかまち)にある「TOGISO」という古民家宿でした。

この宿のことを知ったのは、オーナーさんのSNSがきっかけ。

震災直後から、能登に関する発信を日々行っていて、なにより投稿に添えられている能登の風景がどれも本当にきれい。HPにある「波音だけが聞こえるこの家で、あの夏休みのような時間を過ごしませんか。」というコピーにも惹かれます。

ついに念願叶ったところ、たまたまオーナーさんもいらっしゃるということで、お話を聞くことができました。

こちらがTOGISOオーナーの佐藤さん。せっかくなのでと、まずは現地を案内してくれることに。

「立派な囲炉裏ですね!」

「ここは昔の地主さんの家で、築90年の古民家なんです。30年間、空き家になっていたので、当時の日本の家がタイムカプセルみたいに残っていたんですよね。家具や調度品はいろんなところから集めて、ちょっとずつ手を入れてます。元のつくりを活かしつつ、必要なところはリノベーションもしていますね」

「ここはキッチンをリノベして、カウンター付きのカフェスペースに。飲食営業の許可もとる予定で、ゆくゆくはポップアップで飲食出店なんかもできるようにもしたいんです」

庭には立派な蔵や、

海に面した納屋も!

「納屋の2階、すごいローケーションですね。壁がないから海が一望できちゃう」

「天気がよければ、水平線に漁火(いさりび)が見えるんですよ。イカ釣り漁船の。ここで夜にビールなんか飲んだら最高ですよ」

「ロマンしかない……」

納屋の配置には土地柄が表れているそうで、赤崎はとにかく海からの風が強い場所。母屋への風をやわらげるため、海側へ風除けの納屋や蔵が建てられることが多いんだとか。

続いて、赤崎の集落も案内してもらいます。

玄関脇に、なにやら仮面がディスプレイされた立派な家に。どんどん入っていくけど大丈夫なのかな……。

中に入ってびっくり!!!! 壁一面に多種多様な仮面が。

「ここ、元々は地元の校長先生のご自宅だったんです。立派な建物ですよね。仮面は船乗りの人たちからもらったお土産らしいです」

「よく見ると、日本っぽくないものもかなりありますが」

この赤崎という集落は、かつて遠洋漁業の船乗りさんたちが多く住んでいたんです。何ヶ月も船に乗って、それこそ南極まで行ったり。なので、皆さん帰ってくるときには海外のお土産と一緒だったそうなんですね」

「それでこんなにあるんですね」

「いかにすごいお土産を持って帰れるか船乗りさんの間でエスカレートして、生きたペンギンを持って帰ってきた人もいるって話を聞いたこともあります。何十年も昔の噂ですけどね(笑)」

「昭和の逸話すぎる! この建物も佐藤さんが借りているんですか?」

「そうですね。TOGISOを初めてしばらくすると、『この物件を買わないか、借りてくれないか』みたいな相談が地元の方から来るようになって。いまは納屋も含めると建物としては合計で7軒くらい、僕が管理してます

「へー! いまは空き家も全国的に相当増えてますもんね」

「この赤崎でも高齢化とともに人が減ってるので。そんなところに『東京から来た佐藤に言えば、何でも引き取ってくれるらしいぞ』となってるんでしょうね。宿だけじゃなく、つい先日、新たに古物店もオープンしました

震災後に蔵からレスキューされた歴史ある輪島塗や九谷焼を、お土産として購入できるお店「TOGIZO」。TOGISO前の土蔵を改装してオープンし、PayPay決済の24時間無人店舗として営業中

 

「さて、ひと釣り行っときますか?」

周りの案内が終わった後、佐藤さんが「一杯どうです?」のテンションで言いました。そういえば、佐藤さんのXでもよく海の写真が上がっていたな……。

ぜひ!と答えて、近くの港へ。のどかな景色。

「夕飯の時間もあるので、サクッとやりましょう! 15分だけね。釣れなかったら終わるので」

と言いながら、どんどん準備をしてくれる佐藤さんと宿のスタッフさん。

ちなみにTOGISOでは釣りや磯・ビーチ遊び、カヤック、テントサウナなどの体験も可能で、道具もすべてレンタル可能。

今回はテトラポッドの隙間に糸を垂らしてカサゴを狙う「穴釣り」にチャレンジ。釣りは素人だけど、たった15分で釣れるのか……?と思いつつ、待つこと数分。

釣れました! 15センチくらいのカサゴをゲット。無邪気に喜んでいたら、よく釣れる穴へさりげなく案内してくれていたことが判明。ゲストを喜ばせるための佐藤さんのおもてなし力がすごい。その後、15分で3匹を釣り上げたところで、宿へ戻ります。

 

古民家、囲炉裏、能登の夜は更けて

車で10分の温泉で風呂タイムをはさんで、いよいよ夕食。

「囲炉裏がいいですよね。ただ暑いですよ! 覚悟してください!

そう言われながら、夕食が始まります。

とりあえずビールで乾杯

ここからのおもてなしがまたすごかった。

佐藤さんが地元のスーパー「トギストア」さんに手配してくれた刺し盛!

能登牛や野菜、そしてさっき釣ったカサゴを囲炉裏で焼く。テンションが上がる光景だ……。

これはもう、ビールが美味くないわけがありません。祖父母の家もこんな立派な古民家じゃなかったですが、夏休みに親戚の家へ遊びに来てる気分です。最高。

囲炉裏を囲みながら、話はいつしか佐藤さんの人生に。

佐藤さんはもともと東京のIT企業で会社員として働きながら、個人事業として都内の古い物件を買い、リノベして貸し出す不動産業をおこなっていたそう。なかなか好評で、次々と物件は増えていったものの……

「東京だと『面』にならないんですよね。なかなか同じエリアや並びでいい物件が出て来ないから、どうしても『点』と『点』になっちゃう。それより、もっと『面』のまちづくりがしてみたかった。しかも、誰もやっていない場所でやりたかったんです。それが赤崎だった」

「赤崎とはどうやって出会ったんですか?」

「インターネットで探しました。当時は30代半ばくらいで、老後のことも考え始めて『将来は海辺の古民家で暮らしたいな』と(笑)。千葉や神奈川など東京近郊の方が便利だし、残っている古民家もあるんですけど、すでに誰かが何かやっているところも多い。けど、日本海側は寒さや雪など気候の厳しさもあるので、手つかずの場所が残ってたんです」

「それが赤崎だった。冬は風が大変って言ってましたね」

冬はなかなか大変ですけど、夏は天国ですよ。この時期はしょっちゅう海へ行って、素潜りで魚を突いてます。東京の家と能登を行き来してるんですが、こっちにいる時も平日はリモートワークで会社員の仕事をしてて。昼休憩には海へ入って、夕飯のおかずを狙うんです

「すごい生活!」

「昼休憩の1時間で獲った魚を捌くところまでやらないといけないんで、めちゃくちゃ忙しい(笑)。海が荒れてて全然ダメな日もあるけど、自然には勝てないんで。今日も明日もダメでも、次にまた来た時の楽しみができた。そういう向き合い方をしてます」

2017年にTOGISOとなる古民家を購入し、東京から通いながら改修を進め、2020年春にTOGISOをオープン。同時期にやってきたコロナ禍に苦しめられながらも営業を続けてきた2024年1月。能登の震災が起きました。

「幸運なことに、赤崎は震災直後も電気が通ってたんですよね。被害の大きかった輪島や能登町にも車で1時間ほどだから、震災直後は災害対応のプロフェッショナルの方々の拠点として、TOGISOや所有している他の物件を使ってもらったんです」

「空き家が佐藤さんの元へたくさん集まってきていたのが活きたんですね」

「僕は山形出身なんですが、東日本大震災のときって、山形が復興に関わる人たちの拠点になったんですよ。太平洋側の被害は大きかったけど、山形は道路もほぼ無事だったので。その経験があったので、すぐ動けましたね」

「まさに復興における縁の下の力持ちというか」

「TOGISOの建物も地震の被害はありましたけど、修繕にすぐ動いたので役に立てました。震災前は月20万、年間240万円くらいをTOGISO関連の予算と考えてたんですが、震災後の1年半ちょっとで2000万円くらい使ってしまいました。10年分を前倒しした感じです

蔵に保管されていた輪島塗の漆器をレスキューし、職人とコラボしながらランプシェードにリメイクし、販売もしている。https://togiso.base.shop/

「オープン直後にコロナが来て、震災があって。正直、しんどくなるときはないですか?」

使ったお金は無駄にならないんで。費やした分、土地の価値として残っていく、と信じてやってます。『よくこんなことできますね』と言われることもあるけど、必死に生きてますよ」

「もっと能登に人が来てほしいって気持ちもありますか?」

「そうですね。正直、まだまだ人は少ないです。けど、ここには素晴らしい景色があるし、海に入って、魚を獲って、こうして囲炉裏を囲むような田舎ならではの時間の過ごし方ができます。まずは遊びにきて欲しいです!」

道中、道の駅で購入した日本酒「能登初桜 + 天狗舞」。能登半島地震で被災し、全壊となった珠洲の酒蔵「櫻田酒造」の杜氏である櫻田博克さんと、石川県白山市にある酒蔵「車多酒造」が共同で醸造したもの

 

能登で行ったおすすめスポット

翌朝。佐藤さんの話を反芻しつつ、TOGISOを後にして珠洲方面へ向かいました。ここからは、まわったスポットを順不同でダイジェスト的に紹介します。

いろは書店(珠洲)

創業76年の町の本屋さんで、震災により店舗は全壊したものの、仮店舗で営業中。夕方になると地元の子どもたちが次々と訪れていました。

このいろは書店は、町の小さな本屋さんながら人気漫画とも縁が深いんです。少年ジャンプで連載されていた漫画『暗号学園のいろは』(原作・西尾維新/作画:岩崎優次)の謎解きイベントではゴール地となり、SNSで話題に。

また、主人公の地元として珠洲がモデルとなっている『スキップとローファー』(作:高松美咲)の作者サインが店内に飾られ、既刊もたくさん平積みに。聖地として訪れるファンも多いんだろうな。

せっかくなので、能登ゆかりの本を購入。『君は放課後インソムニア』(作:オジロマコト)は、能登の七尾市が舞台。『すずらへん』は、2012年から珠洲市で古本屋を営む方による、震災直後から2025年春までの日記をまとめたZINE

 

かど長食堂(輪島)

撮影:編集部

輪島にある老舗食堂。昨年、漆芸家の桐本さんの取材時に教えてもらったのですが、当時は地震の被害により休業中。営業再開していたので1年ぶりにやっと行けました。

撮影:編集部

見てください、このツヤツヤのカツ丼。絶品でした。店内のテレビでは、ちょうど甲子園で石川県代表・小松大谷高校の試合が。旅先で見る甲子園中継っていいもんですよね。

 

やぶ椿(珠洲)

撮影:編集部

二日目の夜、珠洲でふらっと入ったお酒も飲めるカウンターのお蕎麦屋さん。餃子や焼きイカなど、一品料理もそれはもう美味しくて。輪島に比べて珠洲は夜にやってる飲食店がまだ少なめな印象だったんですが、ここに辿り着けてよかった。

 

最後に食べた蕎麦がもう絶品で。おろしそば、美味しかったなあ……。

 

ねぶた温泉(輪島)

同行していたライターの谷頭和希さんが昔、家族旅行で行ったという思い出の温泉で日帰り入浴。震災後はクラファンを経て再開したようです。かなりのアルカリ泉で、泉質は最高。HPを見ると昔から漆職人の肌荒れを癒してきた逸話もあるそうな。

 

スズレコードセンター

地震や水害のあと、残された写真や映像をデジタルデータで保存し、人々の交流を進める「奥能登アーカイブ」の拠点としてこの5月にオープンした場所「スズレコードセンター」。気になっていたのですがタイミングが合わず、訪れた日は定休日。次回は必ず! 

 

おわりに

輪島や珠洲の各地をまわりながら、TOGISOで囲炉裏を囲みながら、能登の復興への道のりを考えた旅でした。

能登はいまだ復興の途上にあります。ただし、新しい動きも生まれているし、人の営みも続いている。能登に関するニュースを見ていると、焦りや無力感のような感情も湧いてきます。だからこそ今、「まずは行ってみる」ことが必要なのではないでしょうか。

画面越しの情報だけでなく、現地の様子を実際に見て、現地の人に話を聞くことでわかることは確実にあります。なにより今の能登には、まず「人が増える」ことがなにより大切なはず。この記事も微力ながら、その力になればと願っています。

取材協力:TOGISO https://togiso.jp/

撮影: 杉山慶五

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