ローカルプレイヤーの皆さんに、地元のおすすめおやつと、それにまつわるエピソードを教えてもらう企画。今回おやつを紹介してくれるのは、石川県金沢市にアトリエを構える漆芸家の高橋悠眞さんです。

教えてもらった輪島市の柚餅子総本家中浦屋の「丸柚餅子」は、工芸や茶の湯文化が盛んな石川県で生まれた、絶品おやつ。昨年2024年元旦に発生した能登半島地震で工場等が被災しましたが、歴史ある味を守ろうと、近くに工房を借りて40年ぶりにすべて手作業で仕込みを行ったそうです。

 

おやつを教えてくれた人:高橋悠眞さん
1988年東京都 生まれ。2015年東北芸術工科大学 芸術学部美術科工芸コース卒業。2018年金沢卯辰山工芸工房修了。現在、石川県金沢市にて制作活動を続ける。
Instagram:@urushi_freaks

 

工芸と茶の湯の街

漆芸家の高橋悠眞さんが金沢に移住したのは、2015年。東北芸術工科大学を卒業後、金沢卯辰山工芸工房で3年間工芸を学び、そのあと作家として独立した。

鮮やかな色漆と、変塗(かわりぬり)という漆の技法を使い、現代の生活にも溶け込むようにつくられた工芸品は、どれも自由で、かっこいいデザインのものばかり。

江戸時代に加賀藩前田家が各地から名工を招き、工房をつくって手厚く支援したところからはじまった石川県の工芸文化。その姿勢は脈々と受け継がれ、今も全国から工芸作家が集まる土地になっている。

工芸の歴史があり、設備が使える環境や県の支援があり、制作を行う仲間も多い。工芸作家にとって居心地のいい場所なのだ。

高橋さんも、ガラス作家であるパートナーの杉原倫子さんも、今では作品づくりで生計を立てられるようになった。それでも、アルバイトは月に数回続けている。アトリエに篭って制作に集中しがちなふたりにとって、バーや喫茶店での接客は、世の中のリアルな流れを知るための大切な時間なのだという。

高橋さんがバーで働きはじめてから知った、輪島市の伝統菓子がある。それが柚餅子総本家中浦屋の丸柚餅子。秋に収穫された旬の柚子の中身をくり抜いて餅米を詰め、数回蒸したあと、半年間寝かせるという手の込んだ製法でつくられた餅菓子だ。ゆっくり寝かせた柚餅子は、ぎゅっと硬めの食感と、濃厚な味、爽やかな柚子の香りが合わさった、今まで食べたことのない絶品の菓子だ。

そのままで食べるのも、さっとオーブンで焼くのも、お吸い物に入れてもおいしい。バーでは、チーズの上に丸柚餅子を乗せたメニューを出していて、これがワインによく合うのだとか!

柚餅子総本家中浦屋は、昨年2024年1月1日の能登半島地震で、生産工場1つと店舗4軒が被災し、販売の停止を余儀なくされた。それでも100年以上続くお店の味を守ろうと、11月には近くの工房を借りてすべて手作業で仕込みを行った。昨年4月から、中浦屋の新工場をつくるための復興ファンドも開設している。

茶器だけではなく、お茶や菓子の味もあってこその金沢の茶の湯文化。その歴史が、長く続いて欲しいと思う。

 

石川県から、世界に漆を発信する

高橋さんに今後工芸作家としてやりたいことを聞くと「今、自分の好きなことをやって生活ができているので、これ以上なにか望むとバチが当たりそうですけど。ただ、漠然と『海外で個展をやってみたい』とは思っています」と返ってきた。海外移住は考えていますか? という問いには「10年間住み続け、お世話になった金沢の土地から海外に発信したいと思っています」。

「今は、インターネットで世界と繋がることができる時代。自分の作品を海外に送ったり、海外から自分のアトリエに見学に来たりする。そうやって、文化や言語がどんどん混ざって、SF的に言うと均一化していく世界になっていく予感があります。

そうなった時に、土地に根付いているというのが、ひとつ重要なアイデンティティになると思うんです。自分にとっては、石川県で漆をやることに意味がある。今いる土地や場所を大切にしながら、世界と繋がっていければうれしいですね」

 

柚餅子総本家中浦屋「丸柚餅子」
オンラインストア:https://nakauraya.base.shop/2