みなさんは「スナック」に行ったことありますか?

夜になるとネオンが灯り、カウンター越しに他愛もない会話が交わされる、あの場所。

たまにママに仕事の愚痴をこぼしたり、初めて会う人生の先輩に説教されたり、名前も知らない誰かと妙に深い話をしてしまったり。

ちなみに、この記事を書いている筆者も、10代の頃に知り合いに地元のスナックへ連れて行かれたのを皮切りに、気づけば全国のスナックにも顔を出すように。最近は「将来、スナックをやりたい」と言い出して周囲をざわつかせています。

近頃よく行く、大井町のカラオケ付きスナック

個人的にスナックの何が好きかというと、年齢も職種も全く違う人たちがひとつの空間の中、同じ会話で笑っているところ。

それにここ最近、同世代の友人の中から「スナックに行ってみたい!」という声を聞くことが増えて。特に学生時代にコロナ禍を経験した若者たちにとっては、「SNSでは味わえないリアルな会話ができる」と、スナックが見直されているそうなんです

そんな中、近年スナックが新しい形に進化していると知りました。

夜だけでなく昼に開かれる「昼スナック」や介護や高齢者の居場所づくりと結びついた「介護スナック」など、スナックはサラリーマンが仕事帰りに酒を飲む場から、人が集い、話し、関係を生み出す場所へと役割を広げつつあります

今、スナックはどこに向かっているの? そもそもどうして日本でスナックが生まれたの? スナックの“今”を知りたくて、この方に話を聞いてみることに。

約10年以上スナック研究を行い、『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』という本を出版している法哲学者の谷口功一さん。さっそくスナックの歴史と、その広がりについてお話を伺ってみました。

話を聞いた人:谷口功一(たにぐち・こういち)さん

1973年、大分県別府市生まれ。東京都立大学法学部教授。2016年より同法学部長。スナック研究会代表。著書に『日本の夜の公共圏』、『日本の水商売』など。全国のスナックを訪ね歩き、地域社会における夜の街の役割について研究している。

 

スナックは日本の「夜の公共圏」?

——私は10代の頃から地元のスナックに通っていて、今も地方にお邪魔すると、いいスナックを探すのが楽しみなんです。「カウンター越しにママと会話しながら飲む」という今のスナックの原型っていつ頃にできたんですか?

スナックの発祥自体は1964年ですが、今の原型は夜の街にカラオケが完全に定着し、全国の繁華街にスナックがたくさん入る社交ビルが建ちはじめた1980年頃でした。その後のバブル期に向けて社用族による利用がピークに達してゆこうとする端緒にあたる時期ですね。

居酒屋では個人的な話はしにくいし、キャバレーは料金が高いので、「一人でふらっと行けて、話を聞いてもらえる」場所として、スナックが当時の人々に求められたのでしょう。

——ちなみに今、日本全国にスナックはどのくらいあるんですか?

正確な統計はないんですけど、2015年には全国で約10万軒のスナックがあったとされています。これはコンビニよりも多い数なんですよ。数でいうと、首都圏みたいに人口が一極集中している都市に多いんですけど、実は人口あたりのスナック数が全国で最も多いのは「宮崎県」なんです。

——宮崎、意外ですね!

宮崎市には「ニシタチ(西橘通り)」と呼ばれる日本一のスナック街があって、今もまだ活気がありますね。あとは、漁業や農業などが盛んで現金収入が多い地域や工業地帯、原発関連や自衛隊基地の近くもスナックが多いですよ。

だけど、全国で7万軒ぐらいあったスナックが、コロナ禍を機に4万軒ぐらいまで減ってしまっています。

宮崎県最大の歓楽街、通称「ニシタチ」

——そんなにコロナ禍で減ったんですね……。

1980年に30歳だったママさんが今何歳かと考えると、かなりの年齢になりますよね。やっぱり夜遅くまでの立ち仕事は、高齢になるとキツい。それでも、常連さんから「辞めないでほしい」と言われ続けて、踏ん張ってきた人は多いと思います。ただコロナ禍をきっかけに、店を閉める決断をした人も少なくなかったんじゃないでしょうか。

——コロナ禍が多くのスナックにとって一つの転換期になったんですね。でもそもそもどうして、日本でこんなにもスナック文化が根づいているんですか?

私は「夜の公共圏」という言葉を使っています。「公共」という言葉を聞くと、広場や学校、公民館のような、明るくて、誰からも見えている場所を思い浮かべると思います。ですが人生の半分は夜。夜にみんなで集まってお酒を酌み交わすのも、市民としてれっきとした営みなんです。

社会哲学者であるユルゲン・ハーバーマスの『公共性の構造転換』(1962年)には、「ヨーロッパの市民社会ではパブやコーヒーハウスといった場で人々が集い、議論を交わすことから形成されていった」と書かれています。この考え方を日本に引き寄せると、スナックも同じような機能を果たしてきたと考えているんですね。

——たしかに。特に地方だと、夜に地元の人たちがスナックに集まって交流している姿をよく見ます。

なので、スナックは日常の延長線上にある「夜の公共圏」みたいなものなんです。特に地域住民のつながりが濃い地方では、生活圏の中にスナックが当たり前に存在していますからね。

例えば東日本大震災の際には、スナックが地域の情報交換の場として機能していたというエピソードがあります。まだ電気も復旧しない状況で、スナックで発電機を使って明かりをつけ、被災した人々が集まって話をしていたそうなんですね。

私たちの生活の中で、そういった「情報を共有できる場所」って実は少ないんですよね。なので、スナックは日常だけでもなく、非常時にも大切な公共空間だと思います。

 

スナックのママが担うもの

——私がいつも「スナックに行きたい!」と思う時、店の雰囲気やメニューよりもまずはママの顔が思い浮かぶんですよね。そんな風にスナックに欠かせないママの役割って、一体何なんでしょうか?

一言でいえば「差し配(さしはい)」ですね。カウンターの中からお客さんを俯瞰的に見て、どこに座らせるかから始まって、この人とこの人は横にしない方がいいなどを判断して場をコントロールする。何の職業か言いたくない人もいますから、そういう個人的なことを無理に言わなくていい空気をつくることも大事でしょうね。

——配慮の塊ですね! たしかに、私の憧れてるママさんはみんなそうかもしれません。

ちなみに、スナックの8〜9割が常連の売り上げで成り立っているのは、いわば「ママのファンクラブ」だからなんですよ。お店そのものというより、そのママに会いに来ている。だからこそ、スナックは事業として見ると、承継がすごく難しいんです。新しいママが屋号を引き継いだとしても、お客さんとの関係性まで以前と同じように再現することはできないですから。

——実は、私はいつか「スナックを経営したい」という密かな夢がありまして……。もちろん厳しい道だとはわかっているのですが、これからスナックを始めるという人に向けてアドバイスをお願いします!

あんまりお勧めはしないかなあ(笑)。やっぱり酔っ払い相手にする仕事だから大変ですよ。客がつくまでは時間がかかるし、またコロナ禍のようなことが起きれば、あっという間に厳しい経済状況になる。決して楽な商売ではないと思います。

——そうですよね……。でも、そういう大変さも含めて、やってみたい気持ちもあります。

そうですか。まあ、スナックは人についてくる商売だからこそ、やりがいもあるはずだと思うんです。魅力的な人がやれば、そこには必ず人が集まりますから。

ただ、個人的にはスナックって無理に残そうとするものでもないと思っています。

——え、無理に残すものではない?

伝統芸能じゃないんだから、スナックを無理に残して守ろう、みたいな考えはあまりないんですよね。どんな場所でも必要とされなくなれば、その時は自然に姿を消していくんじゃないでしょうか。

ただ、接待文化の減少やコロナを機にキャバクラのような業態は衰退していると聞きますが、私の教えている学生の中にも、スナックに興味を持つ人は多いですね。今の若い人はお金がないので自分たちではなかなか行けないだけで、吉野さんのような人は増えているはず。そこまで悲観しなくてもいいと思いますよ。

 

介護スナックや昼スナなど、新しいスナックの登場

——スナックは昭和のイメージが強い一方で、たしかに若い世代による新規開業も増えていますよね。

最近では、水商売っぽさを前面に出さないスナックを若い人が始めるケースも増えていますね。

例えば、国立の『スナック水中』(※1)や、JR東日本とコラボしていて、JR岩沼駅(宮城県岩沼市)の改札外にある『駅中スナック』(※2)など、禁煙でカラオケも無しのお店が現れています。お店をやっている人もお客さんも若くて、従来型のスナックと客層も全然違いますね。

(※1)スナック水中……東京・国立にあるスナック。経営者でありママを務めるのは、2022年3月に一橋大学社会学部を卒業した坂根千里さん。現在、同じ市内で2店舗目の運営も企画中だとか!

(※2)駅中スナック……宮城県のJR駅構内にある、次世代スナックベンチャーとJR東日本グループが手がける地域交流型のスナック。飲食店であると同時に、地域の人と旅人がゆるやかに交わる場としても機能している

——世代が違っても、人が集まる場としてのスナックの機能は続いているんですね。

ほかにも、スナックの主要顧客だった世代が高齢化して、夜早い生活になったので、昼間に営業する「昼スナ」も出てきています。

あとは要介護認定を受けた高齢者の方が介護士や看護師資格を持つスタッフに見守られながら、お酒やカラオケを楽しめる「介護スナック」も登場していますね。デイケア施設として、老人ホームからバスで送迎するケースもあるみたいですよ。

——介護スナック!? それはすごい……。

介護スナックは単に飲食サービスを受ける場ではなく、高齢者の方たちが遊びに行く場として成り立っているのが面白いところですよね。お酒を飲むかどうかよりも、誰かと同じ空間で過ごして、話をすること自体に価値がある。スナックの本質が別のかたちで表に出てきている感じがします。

——こうして色んなタイプのスナックが出てきているのを見ると、新たなスナック熱の高まりを感じますね。

そうですね。若い世代も、コロナ禍で思うように飲みに行けなかった結果、改めて人と集まって話す場としてスナックに関心を向けているのかもしれません。そう考えると、スナックは同じ形のまま残ってきた場所ではなくて、時代ごとに姿を変えながら、その都度必要とされ続けてきた場所なんだと思います。

——谷口さんは、これからスナックがどんな風に変わっていくと思います?

新しい道は大きく二つあると思っていて。一つは、高齢化社会が避けられない中で、先ほどの介護や福祉と結びつく形の介護スナックや昼スナですね。

もう一つは地域に根づいたまちづくり系のスナックです。今の優秀な若い人たちは官僚や大企業を目指すだけでなく、起業したり、地域に関わる仕事を選ぶことも多い。スナックも、そうしたまちづくりの文脈で選ばれている印象がありますね。

ただ一つ言えるのは、人が集まって、酒を飲んで、話をする場所そのものへの欲求は、どの時代にも必ずあるということです。だからスナックは、同じ姿のまま残るわけじゃないけれど、形を変えながらこれからも残っていくんだと思いますね。

 

まとめ

スナックに行くようになって知った、「マイク専用クッション」

これまでたくさんの人の生活に寄り添ってきたスナック。

谷口さんの話を聞いて、楽な商売じゃないこともわかったし、簡単にやりたいと言えるものじゃないとも思いました。私自身スナックをやるかどうかはまだ分からないけど、これからも通い続けたい場所であることは変わりません。

そう思うと、今夜はちょっと勇気を出して、久しぶりに近所のスナックの扉を開けてみようと思いました。みなさんも機会があれば、ぜひ一度スナックを覗いてみてくださいね!

谷口さんの著書