
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。
富士山や南アルプスを望める景色が美しい街、静岡県藤枝市。かつての宿場町として栄えた旧市街地の商店街に、2026年、新しい文化の灯火がともった。

ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の後藤正文さんが中心となり立ち上げたNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」が、2026年3月22日にオープンした滞在型レコーディングスタジオ「MUSIC inn Fujieda(ミュージック イン フジエダ)」。

130年前に建てられた土蔵を改装したスタジオは、こだわりの音響設備を都内の約3分の1の価格で利用できる。「これからの音楽文化を育て、支えていくための場所でありたい」というコンセプトのもと、誰もが気軽に訪れ、滞在できる場として開かれている。
そのスタジオの敷地内にある書店が「SO GOOD books & styles」だ。

オーナーの岡田有祐さんは、後藤さんとは高校時代の同級生。昼休みにサッカーをやったり、放課後にだべってユニコーンをアカペラで一緒に歌ったりするような時間を共に過ごしたという。
元々、静岡市に店舗を構えていたSO GOOD books & stylesだが、後藤さんとの再会をきっかけに、MUSIC inn Fujiedaのオープンに合わせて藤枝市に移転することとなる。
「後藤くんとは20歳くらいからしばらく会ってなかったんです。でも、2年ほど前に静岡の店に遊びに来てくれて。それで話していると、藤枝でスタジオを始めるというんです。
ちょうど現地を見に行く機会があるというので同行したら、スタジオになる蔵の横にある3階建てのビルも借りることになって、たくさん部屋があるからどう使おうか考えてるんだよね、と。そのうちの一部屋を見て、そこでSO GOOD books & stylesをやる光景が浮かんだんです」

見学当時の部屋。「バンドTシャツを作れるシルクスクリーンの機材とか置いてあったらいいよね」「ライブラリーみたいに本が置いてあるのもいいよね」のように後藤さんと話していたイメージが、ここで一気に具体化した
「同級生の僕でも思うくらいなので、たぶんみんなそうだと思うんですけど、アジカンのゴッチ(※後藤さんの愛称)と一緒になにかできる機会なんて、そうそうないじゃないですか。なにか楽しいことが起きそうなこのワクワク感は、人生のなかでもそんなにないんじゃないかと思った。だから、藤枝に行こうと決意しました」
そんな風に話しながら、人気バンドへと駆け上がっていくアジカンの音楽を、実はある時から聴かなくなったんです、と不意にこぼした岡田さん。
「どこか嫉妬みたいな感情もあったのかな。俺が応援しなくても、とか思っちゃってたのかもしれません。でも、彼と再び連絡を取るようになって、久しぶりにちゃんとアジカンを聴いたらすごくよくて。素直に聴けるようになりました」
まだ後藤くんには言ったことないんですけどね、と少し照れるように岡田さんは笑う。
「久しぶりに会った彼は、学生時代と何も変わってなくて。また人生がこうして交わったのが嬉しいです」
本屋に居場所を見出していた少年時代

デザイン事務所を経営する傍ら、2022年にSO GOOD books & stylesをはじめた岡田さん。「本がとりわけ好きでもないんです」という岡田さんが、なぜ書店を開こうと思ったのか。
「小学生の時、横浜から藤枝に引越して来たんですね。それからは転校生という存在として、学校や地域のコミュニティにどこか馴染めない感覚を抱いていました。隙があれば、学校をサボるような子でしたね。
そういう時に駆け込む先は本屋さんでした。サッカー雑誌とか、いつか海外に行きたいなと思いながらワーホリの本を読んだりとか。本屋が自分の居場所だったんです」
上京してからも、書店は居場所であり続け、新たな世界への扉を開いてくれた。大学時代、下北沢や吉祥寺の書店でカルチャー誌やデザイン誌に出会ったことで、岡田さんはデザイン業界を志すようになる。
SO GOOD books & stylesは古本、古雑誌を多く扱い、旧店舗には貴重な雑誌のバックナンバーを求めて県外からのお客さんも多く訪れたそう。

岡田さんが特に好きな雑誌は、マガジンハウスから刊行されていた『relax』。この雑誌を若い世代にも広めたいというのも、書店をはじめた動機のひとつなのだという。
SO GOOD books & styles 岡田さんが教えてくれた、藤枝のお気に入りの場所
MUSIC inn Fujieda、そして SO GOOD books & stylesを出発点に、岡田さんのおすすめのスポットを教えてもらった。
MUSIC inn Fujieda

音楽活動と切っても切れない存在であるレコーディングスタジオだが、時代の変化とともに閉業が相次いでいる。そんな中、インディペンデントな音楽活動を応援したいと、スタジオ建設のための資金を後藤さんが中心となってクラウドファンディングで募集すると話題を呼び、3ヶ月で7,500万円以上の支援を集めた。

MUSIC inn Fujiedaは、明治時代に建設された製茶のための倉庫を改築してつくられた。外した床板はスタジオの壁に再利用するなど、もともとの建物のよさを生かす形でリフォームがなされている。
レコーディングスタジオとしての機能ももちろんこだわっている。2階部分を取り払った吹き抜けの構造は生ドラムのいい音が録音できる上、後藤さんの思いに共感した県内外の企業やミュージシャンからの寄付もあり、機材も充実。浜松の音楽メーカー「Roland(ローランド)」から機材協力されたほぼ全種類のBOSSのペダルエフェクターもレコーディング時に使うことができる。
ロックバンド「サンボマスター」も、MUSIC inn Fujiedaに機材を寄贈した

宿泊可能なコミュニティスペース

コミュニティスペースには、ロックバンド「ストレイテナー」のホリエアツシさんから寄贈された、和紙を使用したテーブルが
スタジオの使用料金も、都内の3分の1ほど。数日〜数週間に渡るレコーディングに挑むアーティストのために、施設内のコミュニティルームでは一泊2,200円という安価で宿泊することもできる。
スタジオの周辺には、書店SO GOOD books & styleをはじめとした、地域のお店やスポットがたくさんある。レコーディングだけではなくライブ等のイベントも行っていく予定だというMUSIC inn Fujiedaは、ミュージシャンに限らず、多くの人の旅の目的地になっていくことだろう。
MUSIC inn Fujieda
静岡県藤枝市藤枝1-4-12
カレー&レコード喫茶 ムー

SO GOOD books & stylesから歩いて5分。商店街の一角に、漂うスパイスの香りと共に佇むのが「カレー&レコード喫茶 ムー」だ。レコード店兼カレー店というユニークなコンセプトのお店で、かぐわしいスパイスの香りのなかでレコードを選ぶことができる。
「店主さんはもともと木こりをされていたという異色の経歴の持ち主。店内にはいつもいい音楽が流れていて、なんだかすごく居心地がいいんです」

カレーと喫茶の店 ムー
静岡県藤枝市藤枝4-1-16
https://www.instagram.com/currykissamu/
八千代 本店

SO GOOD books & stylesから徒歩だと20分ほど。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲「おかえりジョニー」のミュージックビデオのロケ地として、いまや全国からファンが訪れる聖地となったそば屋が昔ながらの佇まいの「八千代」。

店内には、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDやサイン、ファンが想いを綴れる「八千代ノート」が置かれている
「商店街の端にある古い蕎麦屋さんですが、ここのラーメンがなんとも不思議な味なんです。何から出汁をとればあの味になるんだろう、なんて仲間内で話題になっています。でもおいしい(笑)。
最近では店主さんが店内で『おかえりジョニー』を流してくれている時間もあって、アジカンのファンへのサービスもばっちり。僕らにとっては馴染みの、ファンの方々にとっては興奮できるいいお店だと思います」

八千代 本店
静岡県藤枝市本町3-2-263
バウムクーヘン専門店 リーベンローザ

SO GOOD books & stylesから、藤枝駅方面に向かって歩くこと20分。65年以上の歴史を持つ総合宴会場「小杉苑」の1Fにあるのが、岡田さんおすすめの「バウムクーヘン専門店 リーベンローザ」。
「母親が洋菓子職人だったので、僕、お菓子にはうるさいんですよ(笑)。リーベンローザのバウムクーヘンは本当においしいです。絶品のバウムクーヘンが何種類も並んでいて、バウムクーヘンを使ったスイーツをイートインもできる。
ここのオーナーさんは本が大好きで、SO GOOD books & stylesにも本を買いに来てくれました。デザインや美意識への愛情を感じる場所です」
リーベンローザ
静岡県藤枝市青木2-35-30 小杉苑 1F はれの季 小杉苑1F
https://www.lieben-rosa.jp/cafe/index.html
SO GOOD books & styles 岡田さんが選ぶ、おすすめ本 2選
『ライク・ア・ローリングカセット:カセットテープと私 インタビューズ61』湯浅学 著

「本と音楽は近い存在であってほしい」と語る岡田さん。1冊目のおすすめは、レコーディングスタジオの敷地内にある書店という環境にふさわしい、音楽にまつわる本。カセットテープを愛する各界の人々の手元に残る「秘蔵カセット」と、その思い出のインタビュー集だ。
「僕もバリバリのカセット世代なので、楽しく読みました。テレビの前にラジカセを置いて、母親が話しかけないように祈りながら録音ボタンを押したり、THE BLUE HEARTSのアルバムはカセットで買ったり。そんな思い出が蘇りました。友だちと交換した当時のミックステープを手元に残しておかなかったのが本当に悔やまれますね。
今はサブスクで簡単にプレイリストがつくれますから、ミックステープをつくる時間なんて無駄に思えるかもしれないけれど。膨大な時間をかけてこだわってつくった、ラベルも手づくりのミックステープを友だちに手渡すときはワクワクしました。そういった時間が、音楽への思い入れをより深くするんじゃないかと思っていて。
今って、そういうことをやりたくてもやれないくらい、みんな忙しそうじゃないですか。僕はそういう時間を取り戻したいんだよなと思って。そういう意味でも、すごく刺激を受ける本だと思います」
『ライク・ア・ローリングカセット ~カセットテープと私 インタビューズ61~』湯浅学 著(小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388899
『Re:INTRODUCED 語り直される「転校経験」』岡田有祐 企画

親の都合で離れた街。置いてきた友だち。呼ばれなくなったあだ名。新しい教室、新しい方言、新しい自分。転校をきっかけとして、かけがえのない子ども時代を切り離されてきた人たちがいる。思い出すたびに確かに存在するのだけれど、それを語る相手はいない。分かち合えない風景。それでも、そうした記憶も、きっと誰かの物語には呼応するのではないか。(本文「Introduction」より)
こちらは、岡田さん自身が企画・発行したZINE。子ども時代に転校を経験した9人が、当時の記憶を遡って語るインタビュー集だ。
学校というコミュニティのなかに、ある日突然マイノリティとして放り込まれる「転校生」という存在について語られる場は、意外と少ないのではないか。そんな思いから制作された。
「転校生の一番悲しいところは、自分の過去を知っている人が周りにいないということ。前に住んでいた地域の共通認識も、思い出も、『知らない』って言われちゃう。かといって、前の街にも、もう僕はいないわけじゃないですか。自分の存在がとても薄くなったように感じるんですね。
そういった、子どもの頃には誰にも言えなかった感情を、9人の大人に語ってもらいました。場に馴染めずに悩んでいる人たちに読んでもらるとうれしいな」
『Re:INTRODUCED 語り直される「転校経験」』岡田有祐 企画
SO GOOD books & stylesにて販売中

SO GOOD books & stylesでは、ただ本を買うだけではなく、リソグラフ印刷機を使ってZINEやライブのフライヤーを印刷したり、ミュージシャンのグッズをシルクスクリーン印刷したりもできる。今後は、こうした「つくる場所」としての機能もさらに充実させたいと話す岡田さん。
今後、様々なクリエイターが集まる場所に育っていくだろう静岡県藤枝市に、ぜひ遊びに行ってみてはいかがだろうか。

SO GOOD books & styles
静岡県藤枝市藤枝1丁目4番12号
藤枝江﨑新聞ビル 3F(MUSIC inn Fujieda内)
https://sogoodbooks.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/sogood.books/











































