
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回おすすめスポットを教えていただいたのは、東京・西荻窪にある「BREWBOOKS(ブリューブックス)」の店主、尾崎大輔さん。
この街に住んで15年になるという尾崎さんに、西荻窪の楽しみ方を紹介してもらった。
適度な刺激にあふれた、居心地のよい街「西荻窪」

網の目のように広がる路地裏、緑豊かな善福寺川の長閑(のどか)なたたずまい、古くから続く喫茶店に闇市の面影をとどめる飲み屋街。どこへ行くにも何をするにも居心地がよく、同時に適度な刺激にあふれた街。なんともいえないこの独特な雰囲気は、学生時代に旅したパリやバルセロナ、ロンドン、そして日本各所の名所を訪れたときに感じたどんな街の匂いにも負けないものがある。
目黒雅也『西荻さんぽ』(亜紀書房)より
西荻窪に馴染みのある人でこの街を“にしおぎくぼ”と言う人は珍しい。大半が親しみを込めて“にしおぎ”と呼んでいる。
そんな西荻の街を、一言で表すのはとても難しい。
駅前には活気ある飲み屋街があり、北へ行けばアンティークショップが並ぶ。昔ながらの町の本屋さんも、個性的な古本屋さんもたくさんある。たくさんの要素が混ざり合っていて、住む人、訪れる人によって見える景色が違う街なのだ。
一方で、西荻を愛する人たちが口を揃えるのは「住みやすい」「居心地がよい」街だということ。
「一度住むと、みんな長く居ついちゃうんじゃないでしょうかね。僕も、20代後半で引っ越してきてから、気づけばもう15年くらい経ちますね」
荻窪と吉祥寺という大きな街に挟まれた「谷間」のような西荻は、家賃も比較的安価で、長く続く個人店も多い。2018年にオープンしたBREWBOOKSも、今ではすっかり西荻と本を愛する人たちが集まる場所になっている。
BREWBOOKS 尾崎さんが教えてくれた、西荻窪のお気に入りの場所
酒屋の喧騒は読書のBGM「炭火焼鳥 どん」
BREWBOOKSから徒歩6分ほど。賑わいの中にありながら、不思議と落ち着く居酒屋「炭火焼鳥 どん」。
「いつも賑わっている地元の人気店です。人と一緒にも来ますし、一人でフラッと行って読書しながら静かに飲むこともあります。お店の和やかな喧騒が、本を読むのにすごくちょうどいい塩梅なんですよ。いい意味でほっといてくれるのも居心地がいいですね」
尾崎さんがビールや日本酒に合わせる定番は、ちくわの磯辺揚げ。
「揚げたてでサクサク。行ったら必ず頼んじゃいます」
炭火焼鳥 どん
東京都杉並区松庵3-32-11 サンパレス松庵105
https://www.instagram.com/sumibiyakitoridon/
スパイスと日本酒の意外な出会い「CURRY BAR シューベル」

スパイスを使ったアテは、どれも個性があってお酒が進む。写真は6種盛り
「ここは本当におすすめ」と尾崎さんが話すのが、スパイス料理とお酒を楽しめる「CURRY BAR シューベル」。
「カレーはもちろん美味しいんですけど、僕が好きなのは『アテ』。スパイスをふんだんに使ったお酒に合うアテがプレートに何種も並べられているメニューです。真鱈子のアチャールや、鶏レバーのスパイス煮。これにフルーティーな日本酒を合わせるのが、たまらなくおいしくて」

「本日のジャケ買い」という名前も素敵な、お酒のメニュー表。スパイス料理に合う日本酒のバリエーションも豊か
店主は元バンドマンで、音楽好きが集まる場所でもある。最近では、これまでのカレーをまとめたZINEも制作。西荻のクリエイティブな熱量を感じるお店だ。
「店から近いので仕事が終わった後に寄ります。西荻の飲食店は、店主との距離感が近すぎず遠すぎず、フラットなのがいいんですよね」

CURRY BAR シューベル
東京都杉並区西荻南1-23-11
https://www.instagram.com/shubell/
ピリリとからしが効いた豆腐がおすすめ「まめなとうふ店」

尾崎さんが好きだという「からし豆腐」。岐阜や京都の郷土食をアレンジしたもの
西荻窪駅の南口と北口からそれぞれ徒歩数分の場所に一店舗ずつお店を構える「まめなとうふ店」。国産在来種の大豆にこだわり、消泡剤を使わないなど、誰もが安心して食べられるとうふは、さまざまな世代のお客さんから支持を得ている。他にも油揚げや揚げ物、お惣菜なども販売。


豆腐や湯葉を使ったお惣菜やおいなりさん、濃厚な豆乳も人気
「本当においしいお豆腐屋さんです。個人的に好きなのは『からし豆腐』。豆腐にからしが詰まった商品なんですが、けっこうからしが効いていて。パンチがあっておいしいんです。お酒のアテにもぴったりだと思います」

まめなとうふ店
西荻南口・本店:東京都杉並区松庵3-38-20 KURA尾崎
北口・とうふ工房:東京都杉並区西荻北4-1-10
https://www.instagram.com/mamena.tofu/
西荻窪で読む、おすすめ本 2選
『傷病エッセイアンソロジー 絶不調にもほどがある!』

ある冬の日のこと。
初めて自分のために救急車を呼んだ。
大きな病院に搬送されて、そのまま入院となった。
(…)
狭くて白い病室で「ここで死ぬのは寂しいな」と思った。
同時に「このこと、どう書いてやろうか」と企む自分もいた。
春になる頃、一人で書いても満たされなかった。
いろいろな人の、
個別具体的な心身の有り様を読ませてほしいと思った。(『傷病エッセイアンソロジー 絶不調にもほどがある!』本文より)
昨年、尾崎さんが心臓発作で入院したのをきっかけにつくられた『傷病エッセイアンソロジー 絶不調にもほどがある!』。作家の星野文月さんと共同で企画・編集し、書店と同名のレーベル「BREWBOOKS」から出版されたZINEだ。
「たくさんの方に寄稿をお願いするとか、そういった本のつくり方は普段はしないんです。でも、この時期は自分の病気に対する不安が強くて、いろんな人の『傷病に関するエピソード』が読みたかったんですよね。結果、すごくいいアンソロジーができました。みなさんのエッセイが全部よくて、つくってよかったなと。怪我の功名というと変ですが、自分が倒れた経験があったからこそできた本だとは思います」
収録されているエッセイや漫画は病や怪我をテーマにしているが、どこかユーモラス。各エッセイに添えられた、思わずくすりと笑ってしまうイラストは堀道広さんのもの。随所にこだわりが見える装丁は、BREWBOOKSの過去のZINEも手がけたブックデザイナーの飯村大樹さんが担当している。
生きている限り、いつも健康でいられるわけじゃない。それでも、俯いた顔を上げて前向きに暮らしていこうと思える、希望に満ちたアンソロジー。
2025年10月の発売から、わずか1ヶ月ほどで重版が決定するほど売れ行きは好調。今も全国の書店で販売中だ。
『傷病エッセイアンソロジー 絶不調にもほどがある!』
発行:BREWBOOKS
企画・編集:尾崎大輔、星野文月
イラスト・題字:堀道広
装丁:飯村大樹
『西荻さんぽ』

ランチするなら、ハシゴするなら、
骨董買うなら、本屋へ行くなら……
──”ニシオギ” という手がありますよ。吉祥寺の隣でにぎわう素敵な小道の光る街・西荻。
西荻生まれの著者が綴る偏愛イラストエッセイ。(版元HPより)
「西荻といえば、やっぱり目黒さんのこの本ですね。ガイドブックとは違い、目黒さんの視点から見た街の記憶や思い出が綴られているんです」
西荻窪で生まれたイラストレーター・絵本作家の目黒雅也さんの、西荻偏愛イラストエッセイ。飲み屋や喫茶店、公園やバス通りなど、西荻のスポットを多く紹介していて、読むだけで西荻を散歩している気分になれる。
「この本がおもしろいのは、街のスポットがたくさん紹介されているのはもちろん、かつての西荻の思い出まで描かれていることですね」
目黒さんの記憶を通して街の背景を知ることで、より深く西荻を楽しめること間違いなし。ぜひ、西荻散歩のおともにして欲しい一冊。
『西荻さんぽ』目黒雅也(亜紀書房)
「お客さんと店主」ではなく、「人と人」の関係性で

BREWBOOKSでは、クラフトビール等のドリンクを片手に店内で過ごしてもOK
独立系書店と呼ばれる書店では、書籍の著者が登壇するトークイベントを開催することも多い。そんななか、BREWBOOKSがトークイベントを開くことはあまりない。読書会や短歌部、著者が一日カウンターに立つ「本屋スナック」など、お客さんがやりたいイベントを実現する場になっているのだという。
「トークイベントを企画するのがそもそも苦手だというのもあるんですけど。トークイベントってどうしても話す側、聞く側という関係になるじゃないですか。この店では、コミュニケーションの形が双方向であって欲しいというか。誰かの話を聞くだけじゃなく、自分の話を聞いてほしい人もいますから。誰もがフラットに集まって、輪になって喋れる場所でありたいなと思っています」
『絶不調にもほどがある!』に次ぐ、新たなZINEの構想も膨らんでいるそう。そちらも楽しみに待っています!
西荻の街で、美味しいご飯を食べて、お酒を飲みながら本を開く。そんな時間を過ごしに、ぜひBREWBOOKSを訪ねてみては。

BREWBOOKS(ブリューブックス)
東京都杉並区西荻南3−4−5
https://www.brewbooks.net/
X:https://x.com/_brewbooks
Instagram:https://www.instagram.com/_brewbooks/









































