
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回は、大阪府は駒川にある「toi books」の磯上竜也さん。
toi booksは、今月10月1日に大阪の本町から駒川に移転してきたばかり。お店としては新天地でのスタートだけど、約10年住んでいて愛着もあるという周辺エリアについて磯上さんにお話を聞いた。
文芸書を中心に、新刊、古本問わず扱っているtoi books。
店名はよい本は“答え”だけではなく、新たな“問い”を与えてくれるものだ、という思いが由来。書店という開かれた場で、各自の必要な問いを探しに来てほしいと願いながらお店を開いている。
大阪有数の活気ある商店街を通って、toi booksへ
toi booksの最寄りは、近鉄南大阪線の針中野駅と大阪メトロ谷町線の駒川中野駅のふたつで、どちらから歩いても駒川商店街を通ることになる。
大阪三大商店街のひとつ駒川商店街は全長730mもの、大阪有数の大きな、そして活気ある商店街。アーケードのなかには新旧さまざまな店が軒をつらねる。
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後ほど改めて紹介するけれど、今回「toi booksの周辺で読むおすすめの本」として磯上さんが選書してくれたのは『ローベルト・ヴァルザー作品集 4』。このなかに「散歩」という中編作品が収録されている。
スイス出身のヴァルザーは散歩好きな作家だそうだ。彼が書く作品もまるで散歩のようで、作中でもいろいろなものに興味が目移りするし、要点が掴めなくなることもままある。でも、そんなとりとめのなさを許す、というよりは愛している印象を受ける。
多くのお店がひしめく駒川で、たくさん目移りしながら散歩や読書を楽しむのに、ぜひこの記事を参考にしてもらえたらうれしい。
toi booksの磯上さんが教えてくれた、大阪・駒川のお気に入りの場所
1.「駒川商店街」
駒川商店街を歩くことは、そのまま一つの体験だと思う。
(……)
どんな店が賑わっているかとか、一番目立つ軒先にどんな商品が並べられているかとか、キョロキョロと視線を動かしながら、たくさんの情報を受け取っている。聞こえてくる音や会話や、匂いや、すれ違う大勢の人の姿から、今この時の大阪の生活の感触が伝わってくるような気がして、いつもうれしくなる。
━━スズキナオ「あの商店街の中のtoi books」(toi books移転開店記念購入特典)より
まず磯上さんが紹介してくれたのは、先ほども書いたtoi booksのある駒川商店街全体。新旧入り混じったお店がたくさんあり、おすすめをひとつに絞ることはとても難しいんだとか。大阪在住の文筆家スズキナオさんが書いているように、歩くことそのものが楽しい体験になる商店街なのだ。
また、活気ある商店街には、おいしいごはん屋さんも多い。
「『更科』は日々通うのにとてもいい定食屋さん。丁寧につくられたメニューは、どれもとても安心する味です。
『木下商店』のホルモン焼きは、すぐに完売するほどの人気商品。
『龍福(豚まん専門店龍福 駒川店)』の蒸し立ての豚まんもとてもおいしいです。
今年オープンした本格的なカンボジア料理が楽しめる『カンボジア料理なーが』もぜひ」

喫茶かしはらの席からは、商店街を眺めることができる
読書を楽むのに最適な、素敵な喫茶店もたくさんある。
「『SHIBA coffee』は、現オーナーの祖父母が営んでいた『喫茶芝』の味を受け継ぎながら今の時代に合うような雰囲気にリニューアルしたお店。
レトロな雰囲気が好きであれば『喫茶バンカ』。モーニングが人気なので、toi booksに来る前に寄ってもらうのもいいと思います。
『喫茶かしはら』は商店街の一番大きな交差点に面している、2階にある喫茶店。窓際の席で商店街を眺めながらコーヒーを啜るのも、商店街の一つの楽しみ方だと思います」
駒川商店街
http://komagawa.net/
2.長居公園
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toi booksから10分ほど歩いたところにある長居公園。
65.7ヘクタールもある大きな公園で、なかにはセレッソ大阪のホームスタジアムである「ヨドコウ桜スタジアム」や、季節ごとにいろいろな草花を楽しめる「大阪市立長居植物園」、クジラの骨格標本やナウマンゾウの実物復元模型など、圧巻の展示が見どころの「大阪市立自然史博物館」もある。
中央広場の芝生に寝転んでゆっくり本を読むのもおすすめ。

長居植物園で見ることができる、「生きた化石」とも呼ばれるメタセコイヤ

自然史博物館に展示されている、くじら骨格標本

同じく自然史博物館にある「たぬきになる体験ができる展示」
長居公園
大阪府大阪市東住吉区長居公園1-1
https://nagaipark.com/
3.TAKARA confections

toi booksから歩いて15分ほど。
今年の3月に新しくオープンしたお菓子とコーヒーのお店「TAKARA confections」。ヨーロッパの郷土菓子に着想を得た、けっして派手ではないが、ひと口一口をゆっくり味わいたくなるような、日常的に食べたくなるようなケーキが人気だ。
「お菓子やコーヒーがおいしいのはもちろん、お店の佇まいや、落ち着いた空気感もあわせてすごく好きなので、ぜひちょっと足を伸ばして訪れてみてほしいですね」
磯上さんのお気に入りはザッハトルテ。
さらにTAKARA confectionsから7分ほど歩くと、新刊・古書問わず扱う書店「LVDB BOOKS」がある。
「『LVDB BOOKS』は、個人的に大阪で一番かっこいいと思っている本屋さん。海外から買い付けたアート書や写真集も多く並んでいて、エッジが効いているんですよね。いつ行っても本当に楽しい。ぜひ一度足を運んでほしい書店です」
TAKARA confections
大阪府大阪市東住吉区南田辺1丁目9-7 コーポ水都
https://www.instagram.com/takara_confections/
LVDB BOOKS
大阪府大阪市東住吉区田辺3丁目9−11
https://www.instagram.com/lvdbbooks/
大阪・駒川で読む、おすすめ本 2選
『新・大阪学』

「大阪というと、どうしても“食いだおれ”だとか、“お笑い”だとか、華やかで賑やかな部分をピックアップされることが多いんですよね。『新・大阪学』は、そんなステレオタイプな大阪像を、民俗学者である畑中章宏さんが解きほぐしていく民俗学的大阪ガイド。
「美食」「デザイン」「女性」「リベラルアーツ」「非主流」「ハイブリッド」「越境」「多国籍」という8つのキーワードを通じて大阪が語られていて、読み終わるともっとこの土地が持つ文化や歴史を知りたくなる。そんな一冊です」
『新・大阪学』
畑中章宏 著/SBクリエイティブ
『ローベルト・ヴァルザー作品集 4』

「この作家がめちゃくちゃ大好きなんです。日本の本屋のなかで、toi booksが一番ヴァルザーを売る店になれたらいいと思っているくらい。
『散歩』という中編が収録されているのがこの『ローベルト・ヴァルザー作品集 4』。ヴァルザー自身がすごく歩く人で、他の作品のなかでもよく散歩のシーンが出てきます。
生きていると『自分の人生の意味は? 目的は?』ということを考えてしまうシーンも多いと思うんですね。でも、ややもすれば軽視されがちな、その場その場で感じられる喜びや、なにも求めず、ただただ歩くこと。そんなもののなかにこそ喜びがあるとヴァルザーは考えている。
だから、作品のなかで意味を結びそうになると、あえてまったく違う方向に進んだりするんです。なにを書いているかわからないともよく言われるんですけど、楽しみ方が掴めるとおもしろい作家でもあります。
ヴァルザーを読んでいると、いろいろなところを歩いてみたくなる。旅に携えるのにもぴったりの一冊なのではないでしょうか」
『ローベルト・ヴァルザー作品集 4』
新本史斉╱F・ヒンターエーダー=エムデ 訳
鳥影社
https://toibooks.thebase.in/items/28910277

移転前の本町のtoi booksは2階に位置していて、知っている人がわざわざ来てくれるようなお店だった。
駒川の店舗は1階で、商店街を通りかかる人がふらっと中に入ってきてくれることも多い。磯上さんは、偶然入ってきてくれた人たちにも楽しんでもらえるような選書を意識しはじめたのだという。
多くの人に本の魅力を伝えるため、広く開かれた書店でありたい。それと同時に、いつもtoi booksらしさとはなにか考えていたい。そんな思いを抱きながら、toi booksはこれからも、おもしろくて新しい書店に進化していく。
toi books
大阪市東住吉区駒川5-14-13
https://toibooks.thebase.in/
X:https://x.com/toibooks
Instagram:https://www.instagram.com/toibooks/















































