
スーパーのお惣菜コーナーで、チョコ味のごま豆腐を見かけたんです。これは一体何??

『ショコラ胡麻どうふ ゴディバ監修』。一体どうしたんだ
ごま豆腐ってお坊さんが修行中に静かに食べるものじゃないのかな。どうしてゴディバが監修…?
調べてみると福井県のメーカー・ふじや食品がスイーツ系ごま豆腐というものを出していて、SNSで話題になったりもするそうです。

いちご大福、よもぎ、塩まめ大福……???
あ~もしかしたらあれですか、話題性を優先させた商品ですかね、と話を聞いてみたらなぜこんなことしてるかわかりました。
これは伝統食ならではのジレンマから来ているものだったんです。お坊さんしか食べて来なかったからこそのスイーツ化なんですよ。ええ、詳しくは本編を。
SNSでバズった「チョコミント胡麻どうふ」
──スイーツ系ごま豆腐はSNSでも話題になったそうですが。
そうですね。SNSで一番最初に反響をいただいたのは「チョコミント胡麻どうふ」です。

──すごい。今聞いても驚きのある商品名ですね。
中島:そうなんです。会社でも賛否あって。ごま豆腐がただでさえニッチなのに、そのさらにニッチなフレーバーにしてどうするんだと。
──(笑)。なんでそんなことになったのかを聞けるのが楽しみです。
東北のくるみ豆腐にヒントを得た

ふじや食品商品企画開発室の中島靖浩さん
──そもそも最初にスイーツとしてごま豆腐を発売されたのはどういう経緯なんですか?
最初はスイーツではなかったんです。「くるみ豆腐」という岩手県の郷土料理がありまして、ごま豆腐と同じようにすりつぶしたくるみを固めた甘い料理なんです。
うちの東北の営業マンから作ってほしいという声があって、くるみ豆腐を出しました。たしかに東北エリアでそれなりに売れたんですけど、全国的に見ると全然でしたね。
──東北の甘いお惣菜文化が由来なんですね。そこからごま豆腐になったのは?
ごま豆腐自体は年々右肩上がりで伸びてまして、かぼちゃ味だとか甘いごま豆腐に挑戦したこともありましたがうまくいかなかった。東北の成功例を全国的に展開しようと、品揃えの一つとして2019年に『くるみ胡麻どうふ』というのを出したんです。
そしたら少しずつ他のエリアでも広がって売上の柱の一つになり、そこから品揃えを広げていったんです。

岩手県のくるみ豆腐から生まれた『くるみ胡麻どうふ』はロングセラーに
──へえ、東北出身者の人が全国にいたのかな。これはスイーツとして発売されてるんですか?
普通はごま豆腐に付けてある「味噌だれ」もないので、弊社としてはスイーツとしての提案だったんですが、パッケージには書いてなかったんです。
ごま豆腐だと思って買った人から「甘いからおかずにならない」とか「ごま豆腐だと思ったら違ってがっかりした」とか、最初はネガティブな声をすごくたくさんもらってましたね。作り手としてもおかずなのかスイーツなのか、まだはっきりできてなかったんだなと。

従来のごま豆腐。味噌だれがついておかずとして食べるのが一般的
──ははは(笑)。売る側も「これなんかすごい甘いけどいいのかな?」というか。
今となってはありましたね。
スイーツとして振り切る
──そこから今みたいに振り切ったのはどのタイミングなんですか?
2019年の「くるみ胡麻どうふ」の翌年に、もう完全にスイーツとしてやっていこうと和菓子系を出しました。よもぎ餅をイメージした「よもぎ胡麻どうふ」や、桜餅イメージの「さくら胡麻どうふ」ですね。
──なるほど、このあたりがごま豆腐として想像できる限界ですね。スイーツならお客さんに受け入れられました?
小豆も入った甘いごま豆腐とパッケージには書いてはいたんですけど、そんな細かいところまで見ないのかもしれませんね……。
──まだまだお叱りの声が届いたんですね(笑)。
『よもぎ胡麻どうふ』という名前であんこが入ってたらスイーツと認識していただけると思たんですが、「甘くておかずにならない」という声はちょこちょこいただいてました。その後に「越前庵甘味茶屋」というロゴも作って甘味を前面に出してやるようにしました。
──腹をくくって、これは甘味なんだと。

「甘味茶屋」と左上にロゴがあるのは和風スイーツごま豆腐。いちご大福や塩豆大福モチーフが現行のラインナップ
そんな風に、和系のスイーツをやってて、洋風もチャレンジでしてみようかとなりました。ごまという素材はチョコレートとも相性がいいですし、洋風の味にも合うんです。それで、その後の2021年頃に出したのが「ショコラ胡麻どうふ」と「モンブラン胡麻どうふ」ですね。

──これはなかなかごま豆腐から離れてきましたね。ここで一回、立ち止まらせてもらいたいんですが、なぜスイーツ系に舵を切っていったのかというところなんです。

こちらはブランド監修シリーズとなった現在の『ショコラ胡麻どうふ』。「ごま豆腐」と言わなければだれもわからない
スイーツごま豆腐とはなにか
──そもそも甘いごま豆腐にチャレンジしたりもしてたんですよね。なぜ甘くするんですか?
ごま豆腐って珍しい食べ物で、甘い味も塩味も両方合うんです。基本的には味噌だれやわさび醤油につけておかずとして食べるものですが、きなこや黒蜜をかけたりしたらデザートになる。
だったら最初から甘いごま豆腐でもいいんじゃないかというところが発端ですね。

プリンよりももっちりした独特の食感がある
──もともと甘くして食べる文化があったんですかね?
どうなんでしょうね。ごま豆腐はもともと精進料理なんです。福井県だったら永平寺の周辺、和歌山だと高野山、その辺りで修業をしているお坊さんたちが肉を使わないタンパク源として食されてたんですが、甘くしてたかはわからないですね。
ただ社内では「ごま豆腐はきなこも合うよね」みたいな感覚は当たり前のようにありましたね。

従来の胡麻どうふシリーズの裏にはアレンジが書いてある。そこにモンブランなどスイーツ化する提案も
──そうか~、僕がまだごま豆腐をそんなに食べてないだけかもしれないですね。
あ、そうだと思います。実を言うと、自分も今の会社に入るまで、ごま豆腐って食べたことがなかったので。
──正直ですね(笑)。
初めて食べて「なんだこれ?」と、正直に言うと戸惑いの方が大きかったですね。そもそも初めて食べるものだったんで。もちろん、ごま豆腐ファンの方々も昔からいらっしゃいますが。

「ショコラ胡麻どうふ」を食べる。「ごま豆腐」という字面が浮かんでくる
──甘いのが合うのだとしてもですよ、スイーツ化を進める理由というのはなんなんですかね?
さっき自分もごま豆腐を食べたことがなかったと言いましたが、ごま豆腐の課題はそこなんですよね。ちょっと敷居が高い。
若い世代だと食べたことがない方も多いので、とにかくごま豆腐を知ってもらうには、まずはカジュアルにスイーツからやってみようと。スイーツで認知してもらって、伝統的なごま豆腐に興味を持ってもらいたいと考えたんです。

濃厚さはあるけど植物性ならではのスッと後に残らない感じ。だんだん「うまあ」に変わっていく。もう少しでごま豆腐を忘れられそうだ
街のお豆腐屋さんが玉子どうふを発売する

──たしかにごま豆腐という何百年もすでにあった料理で、ここから急に爆発的にヒットすることはなさそう。なのでスイーツ……いや、まだ素直になれないところがありますね。
ふじや食品さんはどういう経緯でごま豆腐を作っていったんですか?

創業当時、町のお豆腐屋さん時代
弊社のルーツは、町のお豆腐屋さんなんです。大豆のお豆腐ですね。現社長が言うには、昭和28年の創業当時は町ごとに一軒の豆腐屋さんがあって、隣の町で商売すると非難されるような状況だったらしいんですね。
──町のインフラ的なものとしてのお豆腐屋さん。社会も商売も全然違いますよね。
それが昭和30年代に入ってくると、スーパーマーケットが全国的に出店し始めます。弊社もスーパーマーケットで全国展開できる商品をと、創業社長が目をつけたのが玉子どうふだったんですね。

1973年に発売された、個包装の「ちびっ子玉子どうふ」
料理屋さんで食べるものだった玉子どうふをプラスチックカップで家庭で食べられるようにして、昭和46年に法人化し、全国展開していったんです。次に製法の似た茶碗蒸しを始めて夏に玉子どうふ、冬に茶碗蒸し。さらにアイテムを拡大していく中の一つとして、1984年にごま豆腐が出てきたんです。
──ごま豆腐がスーパーに登場したのは40年くらい前なんですね。意外と最近。
なぜごま豆腐だったかははっきりしないんですけど、同じころに出したのが「かにみそどうふ」という地元・越前海岸のかにを想起させる珍味でした。ごま豆腐も福井の一品として発売したんでしょうね。
──福井県では、ごま豆腐がよく食べられているんですか?
郷土料理といいますか、永平寺周辺のお土産物店や、サービスエリアでよく売られていますね。メーカーも永平寺のある福井と高野山のある和歌山に多いです。売上でいっても人口の割にごま豆腐の売り上げは高いですから、食べられている方も多いんでしょうね。
「バズる=売れる」ではない
──そしてもっと知ってもらおうとスイーツごま豆腐として洋菓子系にも進んでいったと。だんだん納得できてきました。モンブランまで来ましたが。
その後に「チョコミント胡麻どうふ」ですね。チョコミントという味には、根強く支持されているファンの方々、いわゆる岩盤支持層がある。その方たちが少しでも話題にしてくれたらと思って出したんです。
──それで、まあみんなびっくりしたわけですね。
発売して二日後ぐらいには「どこで売ってますか?」と問合せが来ましたね。その後も毎日のように来るので、SNSを見てみたら話題にしてくれてる人が多くて。
でも、バズる=売り上げというわけでもないんです。今でもシリーズの中では「くるみ胡麻どうふ」が圧倒的ナンバーワンの売り上げなんですよね。
──ええ~、くるみが意外と! その後はどんな味を展開していったんですか?

夏にチョコミントがあって、冬に同じくファンの多いラムレーズン味。和菓子系でも塩豆大福みたいな「塩まめ胡麻どうふ」。それから「きなこ餅」や「珈琲あずき」「いちごラテ」とかやってますね。和風と洋風のラインナップに加えてここ1、2年は有名ブランドの監修商品を出してます。
ごま豆腐でソーダを表現する孤高の難事業
──監修商品は、またなぜ始まったんですか?
そもそもが若い人にも食べてほしいと地元の福井県立大学の学生と一緒に商品開発をして、クリームソーダ味のごま豆腐を出したんです。

──すごいですね、クリームソーダ! 簡単にできるんですか?
これは苦労しましたね。
──ごま豆腐でソーダですもんね(笑)。
もちろん実際には炭酸は難しいんですけど、味とか風味っていうんですかね。そこの部分で「なんとなくシュワシュワするよね」と感じさせるのが非常に難しくて。
──すいません、すごい問題設定のプロジェクトXだなと思ってしまいまして(笑)。ごま豆腐でソーダ、絶対難しいですよね。
さらに学生からの案でクリームソーダのクリームとソーダ部分を分けようと。設備も改造しながら試行錯誤を経て二層にすることに成功しまして。これが今の「ショコラ胡麻どうふ」にもつながっています。

この辺りまで記事を読んだあなたは、もうこれがごま豆腐だとしても違和感はないだろう
──いや、本当に独自商品を持つメーカーさんには誰も経験してない悩みがありますね。
その後が不二家さん監修の「milky(ミルキー)胡麻どうふ」ですね。企画室のみんなでアイデア出しの会議をするんですが、これは入社一年目の社員の発案なんです。
彼女が「ふじやに入ったって言うと、ペコちゃんの不二家と間違えられる。皆さんそういう経験ないですか?」と言ったら「あるある!」「俺もある!俺もある!」みたいな感じで大盛り上がりしまして。
──(笑)。ふじや食品あるあるで。
だったら“ふじや”同士でと、ダメ元で不二家さんにアプローチをしたら監修していただくことができたという感じですね。
──ふじやあるあるから生まれた味ですね。すごいな。

その後はリプトンさん監修の「ミルクティー胡麻どうふ」、森永製菓さん監修の「ミルクキャラメル胡麻どうふ」とサクマ製菓さん監修の「いちごみるく胡麻どうふ」が続いて、ゴディバさん監修の「ショコラ胡麻どうふ」まで来ています。
お問い合わせやメールでも「次は何が出るのか楽しみにしてます」とか、SNSを見ていても「ふじや食品が今度はまたこんなことやってくれた」とか。そういう声はいただいてますね。
──となると、話題作りが目的になってきます?
いやいや、ちょっと敷居の高いごま豆腐をスイーツとしてカジュアルに楽しんでもらえたらというのが一番の目的なので。やはり食べてもらって美味しいものじゃないといけないんですよね。
例えば「コーラ胡麻どうふ」とか「ラムネ胡麻どうふ」とかも社内ではやってみたんですけども、全然美味しくできなくて。なので商品化するのは斬新な組み合わせだけど、食べたら美味しい。そこは譲れないところですね。
──コーラのごま豆腐……すいません、まだ慣れないですね。いちいちおもしろくなってしまいます。ごま豆腐ってごまをすりつぶして固めたものですよね?
でんぷんで固めるのはわらび餅、ごま豆腐、葛切り(餅)とかいろいろありますけど、ごま豆腐の特徴ってなんですかね?
ごま豆腐も食感はでんぷんで調整していますが、ごまの濃厚さ、油脂感やコクといったものが一番の特徴ですね。
──例えば豆乳とかも味のバリエーションがたくさんありますよね。ごま豆腐も意外といろんな味に合う、プレーンな食材だったということでしょうか。
それはあると思いますね。ごまは普通の料理に隠し味として使われたりもしますが、これは素材の良さを邪魔せずにコクや深みを出しているんですね。いろんな素材と相性がいいんです。
ヘルシーなスイーツとして時代と合う
──「ショコラ胡麻どうふ」のパッケージには「130キロカロリー」と書いてありましたが、味の濃厚さと比べるとカロリー控えめな印象ですね。
そうなんです。実際聞いてても、そういったスイーツとしてはカロリーが低いことからスイーツ胡麻どうふを支持していただく声が多いですね。私も甘いものが大好きなんですけど。夜遅い時間でもごま豆腐くらいだったら許されるかなと思って食べてます。

1984年の発売以来、売上が上がっているのは、ごまの「健康」というイメージが広まったこともあると思います。大手メーカーさんでも、ごまの成分をアピールした健康食品やサプリがあったり。消費者の皆さんの健康志向や美容意識も高まっていますから。
──セサミンのサプリが宣伝をがんばるほど、スイーツごま豆腐が売れてしまうということになるのかもしれませんね(笑)。今後はどんな展開をされるんでしょう?
できるかわからないですけど、コンビニのレジ横で小さな羊羹が置いてありますよね。あんな風に、片手でさっと食べられるようなごま豆腐ができれば、アウトドアだったり行楽だったり、活躍の場も広がると思うんです。そんな風に、ごま豆腐が食べられるシーンをもっともっと広げていきたいなっていうのはありますね。
──すごい! まったく想像してない未来でした。
ちょっと探偵気分になっていいですかね。すべてわかりました。ごま豆腐ってすごくおもしろいポジションにあるんですよ。
伝統食で何百年もあったものなのに、お坊さんしか食べてこなかった。だからこそ、認知が低い。ということは固定観念がまだそんなに強くない。つまり、いろんなことをやっても許されるんです。その上おもしろいことに、ごま豆腐は素材の度量がめっちゃ大きかった。なのでスイーツという分岐をし始めた。
というのが現在なんじゃないでしょうか。和食ってもう研究しつくされて、未開拓なものなんてないなと思ってましたが……ありますね。伝統的イメージなのにこれからの食べ物という、一種の矛盾を抱えた食品でした。
編集:友光だんご








































