
田舎で暮らしはじめてから、草の伸びる速さに驚いています。
春先に芽が出たと思ったら、あっという間に膝の高さを越えて、数週間後には全く別の景色になっている。除雪ほど命にかかわる事態ではないにしても、草刈りもまた田舎暮らしをするうえでは避けて通れない仕事のひとつ。
というわけで、今回は草刈りの話です。暑いし、虫もいるし、草刈りって面倒。でも、田舎暮らしには大切な作業だし、やってみると意外と面白い!
本や雑誌など、草刈りの専門情報は世の中にたくさんありますが、田舎で実践する生活者のノウハウは意外と少ない。身近すぎてあまり言及されてこなかった草刈りのおもしろさについて、みんなで考えてみましょう!
長野県信濃町に移住して4年目のジモコロ元編集長・徳谷柿次郎と、長野県飯山で生まれ育ち、草刈り歴20年の小林直博の2人で、田舎暮らしの生活技術としての「草刈り」について話しました。
※本記事では、「エンジン式草刈機」「充電式草刈機」と表記します
<草刈りハイライト>
草刈りをしないと、人の住む場所は自然に戻る

「さっきまで草刈りをしていない場所にいたんですけど、もうかゆい」
「本当だ。もう腫れてる」
「草刈りをする理由はいくつかあって、1つは蚊対策なんですよね。あと、草刈りをしていないと“ちゃんとしていない移住者”だと思われるんじゃないか? という不安もあるかも」
「草刈りって外作業だし、住民から声かけてもらうこともありますよね」
「草刈りは地域のコミュニケーションでもあるし、実際にやってみると草刈り自体が面白いんですよね」
「できればやりたくない作業なんですが、草刈りが終わった後の爽快感はすごいので、いざ始めると止まらないです」
「草刈りをしないと、ギシギシとかスギナとか、厄介な植物が出てくる。逆にこまめに刈っていると柔らかいシロツメクサが出てきたりして、いい感じの世代交代が起きる」
「自然の良さを享受するためには、手を入れないと始まらないですね」

まだかゆい
「小林くんが草刈りをする頻度はどれくらい?」
「俺の住んでいる長野県飯山地域だと5月末くらいから草刈りを始めて、夏は月2回くらい刈りますかね。あと、田んぼの草刈りもあります」
「僕は2〜3週間に1回くらいです。長く放っておいたら刈るのが大変で反省しました」
「地域や植生によっても時期や頻度は変わりそう」
「草刈りをしていない畑とか耕作放棄地って、どんどん荒れていくんです。あとから畑に戻そうとしても、根が張って大変になる」
「気を抜くと一瞬で伸びますからね。やっぱりこまめに刈るのが一番いい」
草刈機選びに、正解はない
「手で草むしりしたり、草刈り鎌を使う方法もあるけど、正直追いつかない」
「草が育ちすぎると、だんだん枝っぽくなってきますし」

肩掛け式の両手ハンドル草刈機。平地作業に向いている
「そこで登場するのが、草刈機です」
「草刈機は種類が多いから、選び方に迷いますよね」
「大きく分けると、エンジン式と充電式がある。一般的に、エンジン式はパワーが強いけど重い。充電式はパワーでは劣るけど、軽くて女性でも扱いやすい」
「柿さんはどんな草刈機を使っているんですか?」
「最初は、パワータイプのホンダのエンジン式草刈機を購入しました。でも、草刈り頻度を増やしたらマキタの充電式でも充分だなと。ただし、バッテリーは出力の高い6.0Ah、18Vの公式製品がマスト! 類似品はぜんぜんダメ! 騙されるな!」
「異常に安いバッテリーありますよね。俺は田んぼの周りに生えてくる細木も全部刈りたいので、エンジン式を愛用しています。パワーが圧倒的正義」
「エンジン式は重さがあるので、使用者にもパワーが求められますね」

柿次郎愛用、マキタの充電式草刈機。軽量で扱いやすい
「あと、エンジン式はメンテナンスが大変でした。しかもネットで購入したので、近所の農機具屋さんではメンテナンスしてもらえなくて」
「なるほど。店舗購入者や常連さんの対応で精一杯なのかも」
「エンジン式を買うなら、メンテナンス込みで面倒を見てくれる地元のショップで買うのが一番かも。マキタはホームセンターで3万円前後で売っていて、公式バッテリーが1個=1万円ぐらいする。充電器と合わせて初期コストは5万円ぐらいかかるかなぁ」
「飯山エリアは草刈機の販売店が少なくて、実物を見て買うなら農協やホームセンターですね。うちは農協で購入してアフターサービスも対応してもらっています。地域によって違いはあるので、土地の先輩に確認するのが良いですね」

充電式草刈機は電源コード式とバッテリー式の2種類がある
「2〜3週間に一回ぐらいこまめに草刈りをするなら充電式草刈機、1カ月以上経ってからまとめてやるならエンジン式みたいな用途かな。草が伸びすぎるとマキタだと太刀打ちできないこともある……」
「たしかにエンジン式と充電式、どちらを買うかは手入れをする場所にもよりますね。充電式だと対応が厳しい場所があるかも。草刈りをする場所と広さ、頻度に合わせて検討してもらえれば」
【用途による草刈り機の選び方】
エンジン式
・排気量25cc以下は一般的な農業用草刈りに最適
・排気量25cc以上は、竹・笹など林業用にも使用できる
充電式
・エンジン式よりも軽量のため、持ち運びがしやすい
・広い場所での作業よりも、狭い場所での作業など限定的な使用がおすすめ
参考:農文協(2024)「安全草刈りマニュアル」p.5
「住んでいる地域と土地のサイズでぜんぜん変わるもんね。うちの土地は全体で400平米もあって、お隣さんとの境界線、田んぼの用水路の畔、道路沿いとやるべき箇所が多い」
「そもそも最近は草刈り機の種類も増えてますよね。子どもの頃は、肩掛け式のビーバー(※北信・妙高・新潟の一部で使われている草刈機の呼称)か、背負い式ぐらいしか見なかったですよ」
「へー、そうなの?」
「今は手押し式や、ドローンみたいな草刈機もあるし、除草剤を使う人も増えました。価格も手頃になったし、この10年で進化してるっすね〜」

夏場でもきちんとした装備で安全な草刈りライフを
「どの道具を使うにしても、長袖長ズボンで作業したほうがいい。Tシャツ、短パン姿で草刈りしていた知り合いは、飛び石が腕にめり込んで痛そうだった」
「草刈り後は飛び散った草が全身に付着して青臭くなるので、防護した方がいいですね。刃に接触する事故もあり得るので、安全第一な装備は必須です」
「石やチップが飛んで失明の恐れもあるからゴーグルやメガネはマスト。斜面ならグリップの利く長靴、場所によってはヘルメットもいるね」
「道具も装備も場所に合わせて選択することが大切ですね」
草刈りは、地域になじむための入口でもある
「移住してから気づいたんですが、草刈りって自分の庭だけの話じゃない。さっきも触れたけれどうちの場合は、お隣さんとの境界線と、道路側の草刈りもしていて。歩行者がいるからいいプレッシャーになっている」
「自治は各々の意識が大事! そのプレッシャーがこまめな草刈りにも繋がりますね。柿さんの地域には、集落のみんなで草刈りをする慣習はあるんですか?」


草刈りビフォーアフター
「うちの集落では、田んぼの水を管理している場所があって、自然整備の一環として年に3回草刈りをします。予算がついていて、数千円の謝礼もある」
「うちも保育園や小学校の整備で、保護者が集まって草刈りをします。消防団の集まりでも自前の草刈機を使うし、生活の中に草刈りがある」
「犬の散歩で集落の土手を歩くんだけど、草刈りしていないと景色が美しくないんだよな〜〜。集落の景観が保たれているって住民にとってめちゃ大事だと思う。部屋が荒れてる感覚に近い」
「前に除雪の話をしましたが、草刈りと似てるところがあるかも」
「雪ほど緊急性は高くないけどね。除雪との違いは、お隣さんと顔を合わせて作業するかどうか」
「雪が深いと、各々で黙々と作業しますよね」
「その点、草刈りがあるおかげで集落のおっちゃんたちと話す機会がある。草刈りに顔を出すと、どんどん馴染んでいる感じがあって貴重な機会になっている」
「なるほど」

草刈りは地域の人との親交を深める場にもなり得る
「地域での草刈りが面倒だと感じる人もいると思うけれど、草刈りをしながら挨拶や近況報告も生まれるので、移住者にはありがたいね」
「草刈りは地域の米づくりにも影響しますからね。家の周りに田んぼがあるエリアだと水路周りをきちんと草刈りしないと、伸びた草にゴミが引っかかって、水の張りが悪くなる」
「それ、知らなくて実際に注意された。斜面の草刈りは面倒だから後回しにしてしまい、伸びた草を切ったら水路に入ってしまって、道具がないからそのまま放置しちゃって……」
「斜面の草刈りは大変ですよね」

斜面の草刈りは体幹が鍛えられる。きつい!
「草刈りが大変な場所ほど、草が柔らかいうちに刈らないと、その後の自分に返ってくる。でも、こまめに手入れしているからこそ田んぼの風景ってきれいなんだよね」
「最近は自然農法の一種で、野菜なんかはあえて草刈りせずに育てるって話もよく聞きますけど、ほとんどの田んぼは綺麗に草刈りされている」
「田んぼにかける美意識って他の国でもあるのかな」
「日本の風景として、無意識に刷り込まれている感じはありそうだなぁ」
「観光客や移住候補者が捉える自然の美しさって、この草刈りがないと絶対に得られないからね。いま移り住んだ土地もそうだもの」
「まちがいない」

草刈りは、田舎暮らしのリズムゲーだった
「ちなみに小林くんは、何歳から草刈りをやっているの?」
「たしか中学生から始めたから、草刈り歴20年くらいです」
「ということは地元のおじいちゃん達は草刈り歴50〜60年の大ベテランだよね。草刈りの上手さってどこで良し悪しが決まるんだろう」
「俺は、リズムだと思ってます」
「リズム?」
「草刈りは、リズムゲーなんで」

リズミカルに刈っていく、草刈り歴20年の小林くん
「新説だ。ひたすら同じ動きを繰り返すからか。基本的に、草刈機の刃は右から左に振るけど、左から右に戻す時も刈りたくならない?」
「あるあるですね。俺は草の表面をなでる程度に刈ります。左から右に戻すときに、草をたくさん巻き込むと、刃の回転が止まりやすいので」
「草が詰まって回転が止まるとリズムが乱れて疲れるし、快適な草刈りにはブレードの状態も大切ってわけか」
「そうそう。チップソーの場合は、ここにチップ(超硬刃)が付いているんですが、硬くて大きい石に当たると、摩耗したりチップ自体が飛んで切れ味が悪くなります。メンテナンスしつつ刃の状態を見ながら、交換時期は検討ですね」
※チップソー:草刈機のブレードのひとつ。耐久性があり切れ味もよい

刃に割れや欠けがないか定期的に確認する
「これが刃なの? ブレードにもたくさん種類があるんだ」
「ブレードも草刈機本体も、中古で安く購入して試すことも可能です。ただ、道具の状態を確認しつつ、きちんとセッティングすることが重要ですね」
「その人の体に合ったセッティングか〜〜。購入当初はハンドルの長さや角度を変えられることを知らなくて、今でもサボっちゃんだよな」
「それ、自転車のサドルを調整しないで乗っているのと一緒ですよ」
「分かりやすい例え! 3〜4kgの重さを同じ体制で振り続けるから、セッティングが合わないとかなり疲れる」
「初めて自分の身体に合わせたセッティングで草刈りしたときは、作業しやすくて感動しました」
「夫婦で共用にしていると毎回調整しないといけないから、草刈機は1人1台あってもいいくらい」
【リズムよく刈るポイント】
・ブレードはやや左に傾けた状態で、右から左方向へ刈っていく
・振り幅は1.5mが目安
・常に右足が前にある状態で、右・左・右・左とすり足で交互に足を運ぶ
参考:農文協(2024)「安全草刈りマニュアル」p.9
根こそぎ刈るか、 あえて残すか

「リズムも大事だけど、そもそもどこまで刈るかっていう問題もある。あえて10〜15cmくらい残す“高刈り”という方法もよく聞くし」
【高刈り】
地面から10cm程度高い位置で草を刈ることで、イネ科雑草の勢いを抑える方法。
「高刈りは、草刈機をちょっと浮かせて刈らなきゃいけないので苦手ですね」
「高刈りすることで次の草が生えづらくなって、結果的に管理が楽になるらしいけど難易度高い」

草刈機の使用時は、機種ごとの安全機能・取扱説明を確認し、防護具を着用しましょう
「高刈りってここ10年くらいで聞くようになったな。昔からある方法なんすかね?」
「起源には諸説ありそう。自然農法を実践している方の話では、草を膝丈で残すことで、野菜への影響が変わるらしいです。畑の周辺の草を根っこから刈ると、虫のコロニーがなくなって野菜に群がってしまうらしくて」
「野菜を守るために、虫の住処を残そうっていう発想もあるんだ」
「最近はYoutubeでも草刈りについて語ってる動画が100万回再生ぐらいされてるからチェックするといいかも。一気に刈りきらないで、段階的にやる方法もある。だから草を刈るといっても、根こそぎ刈るのか、あえて残すのかで考え方が全然違うんですよね」
「けど、根こそぎ刈ったほうが気持ちいいんだよな〜!」
「わかる〜!」
草刈りはめんどくさい。でも、やると気持ちいい

「唐突ですが、これから草刈りを始める人に、草刈り歴20年の小林くんからメッセージをお願いします」
「草刈り後の爽快感はたまらないです。作業後の風呂はめちゃめちゃ気持ちいいし、飯もうまいし、昼寝も最高です。スマホをいじりがちな現代人には、草刈り体験が必要」

「仕事で疲れてるときとか、頭の中がごちゃごちゃしてるときに草刈りをすると、すっきりするよね。目の前のことを片付けられる爽快感。落ち込みやすい人ほど、草刈りに向いてそう」
「成果が目に見えますもんね」
「あと、地域や家族の中でも『草刈りやってくれてありがとう』という感謝が生まれる。ちなみに、移住直後にお隣さんと仲良くするために『草刈りやっときましたよ』っていうのはどう?」

「最高だと思います。『ついでに広く刈っておきました』くらいがちょうど良い」
「そう考えると、草刈りにはいろんな“顔”がある。まず1つ目に、生活の不快感をなくすための手入れ。2つ目に、田畑を手入れして食物を手に入れるため。3つ目に、個人としての爽快感。4つ目に、地域とのコミュニケーション」
「田舎での生活に必須な草刈りですが、せっかくやるなら楽しんだほうがいい。安全に楽しい草刈りライフを送ってください!」

編集:岡部ベイコ
撮影:小林直博


















































