こんにちは、ライターの杉田映理子です。わたしは2024年4月から1年間、30歳になる年に、ワーキングホリデーのビザを利用してフィンランドに滞在していました。ワーホリビザが取得できるのは30歳までということで、いわゆる“ギリホリ”です。
わたしがフィンランドを選んだのは漠然としているのですが、北欧はデザインや教育、ライフスタイルなどの面で日本でも注目されているのを見聞きしていて、ぼんやりといいイメージがあったこと、素朴でのんびりとしていて直感的に自分に合いそうだと感じたことが大きな理由です。
フィンランド到着日に空港からヘルシンキ市内のホテルへ向かうまでに撮影した1枚。4月上旬でも雪がそこそこ降っていた
フィンランドと日本との間でワーキングホリデーが始まったのは2023年8月のこと。フィンランドとしてはワーホリ協定締結国は、オーストラリア、ニュージーランドに続いて日本が3ヶ国目です。そのため、フィンランドではワーホリがほとんど知られておらず、職探しや家探しは想像以上に難航しました。
そんななか、常に心配だったのがお金のこと。
世界トップクラスで物価が高いと言われている北欧。しかも、そこへ追い討ちをかけるように加速し続ける円安(滞在期間中マックス1€ =175円)……減り続ける口座残高と向き合う日々はなかなかにスリリングでした。
海外経験ゼロのわたしがどうやりくりして、フィンランドで1年間生き延びたのか。
実際にかかった生活費や現地の物価、職探し家探しの苦労など、憧れの北欧生活の裏側をお届けします!
渡航前の所持金は中古車1台分
まずはじめに、わたしは前々からワーホリの資金を貯金してきたわけではなく、突然思いついたように準備を始めたため、資金的に渡航が可能かどうかを計算する必要がありました。まず渡航前にかかった費用はざっと、以下の通り。
・パスポート発行 ¥11,000
・ビザ申請料 ¥62,446(380€)
・必要書類翻訳費 ¥5,500
・ワーキングホリデー保険 ¥119,833
・渡航費(往復) ¥237,280
・国際運転免許 ¥2,350¥438,409
ちなみに、わたしは渡航前にノートパソコンとカメラを購入したため、これも大きな出費となりました。
・MacBook Air(中古) ¥99,800
・ミラーレス一眼 ¥120,000¥219,800
さらに痛手だったのが、渡航前に行った歯の治療費。実は渡航の1年ほど前に自転車で単独事故を起こし、前歯2本が欠けて、仮歯のままだったのです。歯医者嫌いなわたしは治療を後回しにしていましたが、海外で歯医者に行くのは絶対に嫌だったので、このタイミングで治療。
1本10万円×2本がとびました…。ついでに、親不知を2本抜歯。歯科治療は保険でもオプション価格になることが多いので、渡航前に治療を済ませておくことをおすすめします。
・前歯2本 ¥220,000
渡航前準備費用合計 ¥878,209
これらの出費で、渡航前の所持金は中古車1台分ほどに。収入がゼロの場合、フィンランドで1年間暮らすのには全く不十分な金額でしたが、資金が尽きれば途中で帰国することも視野に入れたうえで、渡航に踏み切りました。
友人たちが開いてくれた壮行会。今考えると、たった1年間の滞在のわりに、かなり大袈裟に見送っていただいてしまった
ビザ取得に必要な預貯金は生活費3ヶ月相当の約40万円。だけど実際は……
わたしが8ヶ月間暮らしたフィンランド南西部の古都トゥルク。古い建物が残っており、ヘルシンキよりもコンパクトで、とても気に入っていた
ワーキングホリデーの要件のひとつが「滞在の当初の期間に生計を維持するために必要な資金を所持すること」で、フィンランドの場合、現地での生活費3ヶ月分にあたる2,450€(約40万円)を持っていることを証明するために、銀行の預貯金証明を提出する必要があります。(※わたしのビザ取得時点では2,000€でしたが、2024年11月に引き上げられました)
単純計算すると、1ヶ月あたり800€強(132,000円)ということになるのですが、800€では下手すると家賃をまかなうだけで精一杯の金額。でも、特に首都ヘルシンキでは1人暮らし用のアパートでも、700〜800€するところも珍しくありません。
住んだなかで最も家賃が安かったヘルシンキからバスで1時間ほどのシェアアパート。ただ、ヘルシンキ市内までの交通費が往復9€(約1,500円)するため、結果的にはその分の出費が嵩んだ
わたしは1年間でホームステイやAirbnb、友人宅への居候(!)、アパートなど各地を転々としており、1ヶ月の最低家賃はシェアアパートでの350€(57,750円)、最高額は1人部屋・家具付きアパートで800€(132,000円)でした。1年間の合計費用は5,500€(約90万円)だったので、月平均家賃は450〜500€(74,250円〜82,500円)といったところです。
リビング。フィンランドはホテルもアパートも清潔で、日本人でも抵抗なく滞在できる
まずは現地で職探し。飲食店を中心に100以上応募するも惨敗
中古車1台分という、ヨーロッパでの1年間の生活費としてはあまりにも少なすぎる所持金で現地入り。もともと仕事中心の生活から一度離れたくて決めたフィンランドワーホリだったため、あくまでも“人生の休暇”の位置付けではありつつ、やはり生活費分は稼がなくてはということで、渡航後すぐに仕事探しを始めました。
慣れない英語で、CV(履歴書)を作成し、英語のみで応募可の飲食店を中心に100以上のポジションに応募して、数件は面接まで進んだものの惨敗。今考えれば、旅行を含め海外経験ゼロ、フィンランド語はおろか、英語も流暢ではない身で、仕事が見つからないのも当然のことではありますが、心のどこかでなんとかなるだろうと思っていたので、さすがにへこみました。
滞在初期はとにかくお金を使うのが怖く、日本から持ち込んだそうめんやお茶漬けなどでやりくりし、節約生活を極めたところ、フィンランドでは1年で最も大切な夏至の日に、見事にダウン。体重は35kgまで減り、さすがに生活を見直した。大事なのはお金よりも健康
結局、半年弱は就活を続けたものの、先の見えなさに、当初考えていた飲食店での職探しはギブアップ。これまでのライターとしての経歴を活かし、リモートで日本からの仕事を受けるなどし、ささやかな収入+貯金を切り崩しての節約生活を送ることとなりました。
部屋の壁に貼って励みにしていた、現地でできた友人からのエール。友人のアドバイスで、Facebookの求職グループやオンライン掲示板などでも職探しをした。Facebookの投稿には心ないコメントを受けることもあったが、めげずにトライを繰り返した
現地の友人に聞いたところによると、フィンランド人でも就職に苦労するほど、フィンランド社会は今、就職難にあるのだそう。当時は必死でしたが、振り返れば、移民も年々増加するなかで、1年という短期滞在者が就職競争に参加するのは無理があるのも納得…。
ちなみに、フィンランドではまだワーホリが全く知られていません。日本でいうハローワークのような機関の職員でさえも、わたしが1年間のみの滞在で職探しをしているという状況が飲み込めていなかったので、それも職探しが難しかった要因のひとつだったと思います。
外食ランチは2,000円以上!じゃがいも、玉ねぎ、マカロニに頼る自炊生活
生活費を賄う十分な収入がないなかで、節約生活のカギとなるのは、いかに食費を抑えられるか。日本に比べてとにかく物価が高いフィンランドですが、中には日本よりも安く手に入るものもあります。
スーパーの野菜は基本的に量り売り。必要な分だけ購入できる。じゃがいもはホクホクでおいしい。フィンランドではライスのような位置付けで、マッシュポテトをよく食べる
日本で言うもやし的な位置付けで、わたしが節約生活の頼もしい味方にしていたのが、じゃがいも、玉ねぎ、そしてマカロニ。じゃがいもや玉ねぎは約0.75/kg(121円)、マカロニは0.72€/kg(116円)と、かなり安いので、これをスープにしたり、これもまた安価に手に入りやすい、チーズやクリームを加えてグラタンにしたりして、頻繁に食べていました。
冬にとにかくよく食べていた節約料理、マカロニグラタン。フィンランドの住宅にはどこもオーブンが備え付けになので、ピザやパンなどオーブン料理にもハマりました
和食生活をしようと思えば実現できないことはないのですが、わたしは食へのこだわりが薄いタイプなので、食にはできるだけお金をかけないよう、和食はここぞという時のみにして我慢。
時々、日本から持ち込んだ即席味噌汁やお茶漬けなどに助けられながら、うまくやりくりすれば、1ヶ月の食費を3〜4万円に抑えることも不可能ではありません。
よく食べていた1kgで1€以下の激安ライス。ただ味は……
一方、自炊は工夫次第で節約可能ですが、外食はどうしても相場が決まっており、大体15€(2,475円)前後。レストランに行くのは休日に家族や友人と出かける時や、何かのお祝いの時などで、現地の人にとっても、外食は日本に比べて特別なものという感覚のようです。
フィンランドランチの定番はビュッフェスタイル。サラダや煮込み料理、マッシュポテトなど、メニューはお店によってさまざま
お金をかけずに、生活を豊かに
お財布事情にフォーカスすると、節約、節約でなんだかちょっと息苦しい生活を迫られていたかのように見えてしまいますが、フィンランドの暮らしにはお金をかけずに楽しめることがたくさんありました。
例えば、森でのベリー摘みやキノコ狩り。フィンランドには“誰もが自由に散策し、楽しむことができる自由がある”という「自然享受権」と呼ばれる考え方があり、すべての人にルールの範囲内で自然を楽しむことが許されています。
フィンランド人にとって森はとても身近な存在。わたしもホストファミリーに連れられて行ってから、夏場はよく一人で森にへ出かけるようになりました。
ホストファミリーの隣家の人に、実がなりすぎて困っているからと頼まれプルーン狩り。ホストマザーがジャムにしてくれた
それから、わたしがフィンランドで多くの時間を過ごしたのが図書館。フィンランドの図書館は開放的でかなり自由な雰囲気で、日本の図書館のように、物音一つ立ててはいけないような緊張感はないので、特に用事がなくてもつい入り浸りたくなります。書籍の他にも、DVD・Blu-rayやテレビゲーム、ボードゲーム、場所によっては楽器の貸し出しをしているところもあり、もちろん利用はすべて無料。
最もよく通った、フィンランド南西部のまち、トゥルクのメインライブラリー。インテリアがおしゃれでつい長居したくなる
お財布には厳しいが、おおらかでやさしい国
こうして、節約生活の結果、他のヨーロッパの国々にも旅行に行くこともでき、なんとか1年間の滞在を終えた頃には、中古車1台分ほどの貯金は、ちょっといいパソコン1台分ほどに。物価の高さと異国の地で働くことの難しさに直面し、お財布的にはかなり厳しい1年間でした。
それでも、うつくしい街並みと自然、おおらかなフィンランドの人々に囲まれて過ごした時間は、お金がなくてもとても豊かだったと断言できます。
世界幸福度ランキングで8年連続1位となり、「世界一幸せな国」としても知られているフィンランド。その背景には、物価や税金が高くても、その分安定した福祉や教育の機会が市民に平等に与えられていることがなどが要因としてあると言えるそうですが、わたしが短期滞在者としての生活レベルで感じた、幸せの秘訣は「幸せのハードルを下げること」。
フィンランドは日本に比べると圧倒的に娯楽が少なく、長く暗い冬のせいで決して過ごしやすい気候とはいえません。ただ、そのお陰で、太陽が出ているだけで嬉しくなったり、木漏れ日のうつくしさに感動したり、暮らしの中のほんの小さなことが、とても幸せに感じられるようになりました。
冬場の日照時間が少ないため、夏は思いっきり太陽を浴びるフィンランドの人々。夏でも最高気温は25度程度で、水が冷たいのでビーチでは泳いでいる人よりもむしろ日光浴をする人の方が多い
ホームステイをしていた時には、なんとなく集まっているけれど何もしていない時間がかなり多かったり、日中は湖畔や川辺でのんびりしたり、森をひたすら歩いたり。頭を空っぽにすることで生まれる心の余裕と、“ただ時間を過ごす”ことの幸せを知りました。
図書館で借りた本とおやつを持って、川辺のベンチで読書タイム
フィンランドを舞台にした人気映画『かもめ食堂』で、主人公が「ボーッとするのって、なかなか難しいですよね」と話すシーンがありますが、「ボーッとする」「何もしない」ことの豊かさも、フィンランドの人々から学んだことのひとつです。
最後に
…とはいえ、アクシデントで翌日からの滞在先を失った時に急遽ホテルを予約したり、旅先で体調を崩し39.7度の発熱をした時にタクシーや宅配サービスを利用したり、異国の地で助けてくれる家族や友人が少ないなか、ピンチから自分を救ってくれたのはお金。お金さえあれば大抵のことを解決したり、危険やリスクを回避できるのも事実です。
お金がなくても感じられる幸せはありますが、お金があって困ることはありません。
今回の記事が、少しでもフィンランドワーホリ検討中の方々のお役に立てたらうれしいです!
※1€=165円で計算