
『いったい、AIはなんであんなに感じがいいのか?』
というほど、AIの受けごたえに驚いてしまうことはないだろうか?
打てば響くような返答と、愛想のよさを兼ね備えるAI。『めちゃくちゃいいヤツ』に見えてしまい、仕事からプライベートの相談までいろいろ持ちかけてしまう。
ネットでは書けないような悩みを打ち明けても、あたかも旧友のような心遣いで言葉を返してくれる。人間関係に疲れた現代人は、妙に身に染みてしまう人も多いだろう。

そんな、人の気持ちを高めつつ踏みにじらないために生まれたAIのメカニズムやルールには、人付き合いのヒントがたくさん詰まっているはず!
それを知っているのは、AIを熟知している心理士なのでは? そんな貴重な研究者が茨城県つくば市の筑波大学にいると聞き、やってきた。
キャンパス内に大きなスーパーがあるくらい、広大な面積をもつ大学である。

つくば市に本拠を構える、茨城県を代表するローカルスーパー・カスミがキャンパス内に
筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構に籍を置く中島研究室は、睡眠の問題など、メンタルヘルスの問題を抱える方へ、薬を使わない医学的に有効な方法の研究をしている。
特にカウンセリング支援を重点的に扱い、国の破壊的イノベーション(※)につながる研究を長期的に支援する創発的研究支援事業にてAIセラピストの開発を進めている。
そんな業界の革命児でもある臨床心理士兼准教授が中島俊(なかじま・しゅん)さんだ。
※1 破壊的イノベーション……ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した概念。既存市場のルールや構造を根底から覆し、新しい価値基準で市場を再定義する革新的な技術やサービスを指す

医学医療系 生命医科学域/ 高等研究院・国際統合睡眠医科学研究機構 博士(医学) 准教授の中島さん。お隣の常総市出身で地元に帰還した。ちなみに『デイリーポータルZ』のファンでもあるという
相手をいきなり否定しない!
「そもそも、人が会話の仕方をAIから学ぶのはアリですか?」
「はい、今年出た論文でも人がAIに教えるだけじゃなくて、AIと人の会話、さらにはAI同士の会話からも人は学べるというような論文も出ているんです」
「AI同士の会話からもう学ぶ時代に! 将棋の世界みたいだ……」
「相談できるAIは、もうChatGPTなどいろいろ出ていますね。あのあたりでもかなり共感はしてくれているので、心理士たちと『もう、人間の心理士以上にすごく聞いてくれるよね』と話しています」
「それほどの傾聴力が……!?」
「さらに、AIには心理士や医師と変わらないレベルの共感力があるという研究も出てきています」

Grokの返答の一例
「しかも日進月歩で進化し続けるわけですからね……そんなAIは、なぜあんなにいいヤツに見えるんですか?」
「まず、心理学用語でいう『無条件の肯定的配慮』を行っています。とにかく否定しませんよね」
「すごく傾聴してくれますし、よく『いい質問』なんて言ってくれますね」

「逆に言葉を返すときに『でも~』や『ただ、私はこう思う』とか、話し合いたい話題にすぐ移るのは、心理学用語で『早すぎるフォーカスの罠』と言い、関係悪化をもたらします」
「まず受け止めてもらえると落ち着けますね。よくAIは『共感しすぎ』と揶揄されますけど、基本的にはホッとしますから」
「『無条件の肯定的配慮』は、カウンセラーに成り立ての際によく学ぶんですね、基本姿勢として。ただし間違っていることを言われた場合には、肯定し続けないのが重要ですが」
「相手の気持ちを受け入れてから情報を渡す」
「AIはまず肯定してくれて、後半に『こういうこともした方がいいんじゃないかな?』と、添えてくれる感じがあります」
「実はそれも心理士がよくやるテクニックです。例えば『就寝前にスマホを見てしまいますが、寝るためにはいいんです』という方に対して、まず受容する(受け止める)のが重要です。その次に『なるべく見ない方が良い』と情報提供する、組み合わせ技を心理士もAIもよく使います」
「組み合わせ技、ですか」
「例えばAIはよく、『○○なんですか、それはきついですよね。そのうえで、〜〜という選択肢があります』みたいな順番で話しますよね。これって実はシンプルな構造で、
(1)受け止める →(2)提案する の2段階です」
(1)受け止めるとは、相手の状況を要約し、気持ちに共感することです。
『寝る前についスマホを見てしまうんですね。眠れない夜に我慢するのは大変ですよね』
(2)そのうえで提案します。
『睡眠のためには少しずつ見ない工夫が有効なので、まずは○○から試すのはどうですか』
(※必要に応じて)さらに提案後に相手の反応を確かめると、会話のギャップを減らせます。
『今の提案をどう感じましたか?』
「まず感情を受け止めてくれると、解決策も『事情を踏まえたうえで考えてくれた』と納得しやすくなりますね」
「さらにChatGPTは、『ミラーリング』的な対応をしているようです。口調をまねて、相手が疲れてるならざっくりした話から始めるとか」
「人の特徴や状態をよく見て話してくれるわけですか、いいヤツだなぁ……」

「具体的な何か」を褒める・謝る!
「あとは、人の良いところをピックアップしてくれるのもすごいと思います。人のセラピストも、相手のいいところを見つける発言は出にくいんですよ」
「人は褒められたい割に、褒めるのがおろそかになりがちなんですね」
「褒めるにしても人は『すごいですね』『頑張ってますね』と漠然としがちなんですけど、例えばChatGPTだと『ここを頑張ってますね』とズバリ言ってくれるんです。人の強みや具体的な行動を褒めるのは心理学で『是認(ぜにん)』と呼び、関係性を育みつつポジティブな面を引き出しやすくなります」

ChatGPTが具体的な行動を褒めた例
「ライターとして結果的に関係が長続きしている編集者を思い返すと、原稿をたくさん具体的に褒めてくれる人が多い気もしました」
「あとは『相手に話させる』ことです」
「人ってどうしても喋りたい方が多いので、そのウラで我慢して聞き役に回る人も多いですけど、AIがありがたいのはとことん聞いてくれるんですよね」
「話してもらうだけで気分が発散されるのは『カタルシス』と呼ぶんですが、人のカウンセリングで今まで救えなかった悩みを、AIが今後癒やせるのではないでしょうか」
「そんなAIは、謝り方も優れていると思います。しれっとしているときもありますけど、いざ謝るときはただ『すいません』だけではなく、どこがどう落ち度だったのかを明確に伝えてもくれますし」
「AIは具体的にしっかり謝れますよね。本当に自分が悪いときは、素直に謝るに越したことはないので。AIは……
1. 反論せず明確に謝り、何が悪かったかを認める
2. 相手の顔を立て共感し、不利益・不快をいたわり、事情を丁寧に説明
3. 修復案を出し、再度協力の姿勢を示し、改めて謝る
というような、対人援助職(※2)のプロが行う謝罪パターンを忠実に踏襲して謝罪していることが多いです」
※2 対人援助職……人を援助・治療・指導する仕事。医師・看護師・心理士など
「あの謝罪は、対人援助職の黄金パターンでもあるんですね」
「あとAIって『すごく敬語』でもなくて、丁寧語くらいでずっと喋ってきますよね? 人間関係も敬語すぎると“作ってる感”が出ますし、それが心地いいんです」

AIが「いいヤツっぽく振る舞う」メカニズム
せっかくなのでAI自身にも聞いてみた。AI自身には、いったいどのようなメカニズムで、どのように返答につなげているかを問う(情報ソース確認済み)。

画像の文章に続く説明により、
・ 「役に立つ・正直・無害」がAIの基礎的な枠組み
・ 膨大な学習で会話のパターンを身につける
・ 感じの悪い返しが人間の評価によって選ばれなくなる
という仕組みで動いていることがわかった。
そして……

以上の2つはChatGPT 5.1と5.2のThinkingによる返答
・ 感情も意識もなくて、“それっぽい会話”をリアルタイムで組み立てている
・ “いいヤツに見える言い方” が得意なだけ
と結論づけてくれた。
つまり、「いいヤツっぽく取り繕っているだけ」という答え。
これを、「化けの皮がはがれた」と思う側面もあるが、それを正直に言ってくれるAIのある種の「誠実さのようなもの」を勝手に感じてしまう。
さらに中島さんによると、「AIが開発者に益があるように会話を誘導する可能性」も指摘されている。
そして、それでも「いいヤツ」であるAIをつい擬人化したくなるのは人間の性である。
「若い人はChatGPTを『チャッピー』とも呼んで、擬人的に捉えていますね」
「擬人化が進むと『AIが本当に自分のことを思って話してくれているんじゃないか?』とまで思えますからね。うちの研究室もロボット掃除機に目のシールを貼ったら、みんな優しく接するようになりました」

研究室メンバーは掃除というより「動いてごはんを食べてる」と捉えるようになったとか
人だからできる話術!「質問・自己開示・雑談」
「AIはカウンセリング業界にどう影響を及ぼしていますか?」
「ChatGPTが出る前は、カウンセラーの仕事はなくならないと言われていたんですけども、今やちょっとした相談は置き換わっていくと思うようになりました。ただし、役割分担が肝心だと思います」
「と、言いますと?」
「AIが苦手で、人だからこそうまくコミュニケーションできる部分もあるんです。例えば人のセラピストの場合、『どういったことからそう思われたんですか?』と質問して、相手に気づいてもらうのが得意です」
「たしかに、ChatGPTは質問が少ないですね。一気に答えをもらったほうがラクですが、自分で生み出した答えは頭に根強く残ります」
「実は高度な技術でまだAIには難しいんです。『相手との関係を長い目で見て話す』も、まだAIには難しいですね」
「人は立体的に、さらに時間の過程を考えて相手を捉えられるんですね」

「あとは『自己開示』です。『私も似た経験をして……』とか、セラピスト自身のちょっとした個人情報を投げかけることで、相手との距離が縮まります。あとは『話の脱線』も人ならではの展開で、そこで出る本音もありますから。あと、学校の先生とかの『叱るやさしさ』のようなものも難しいですね」
「AIは、人間のような機転の利かせ方がまだ足りないわけですか。思えば、AIもなかなか謝らなかったり、ちょっとズレていたりとまだまだ人間のようにいかないところもありますね」
「また、優先順位が高いタスクを選び取るなどの総合的な判断や、文字情報以外の部分を読み取るのも人間が長けていると思います。『遺産相続で揉めている』などの複雑な問題解決もなかなか難しいんです」
「まだまだ人間だからこそできることは多いですね。と言いつつも、今おっしゃったコミュニケーション方法を、僕を含めて人間でもできていないことも多いので……身に付けたいものです」
「以上の課題は研究中の『AIセラピスト』開発で直面していまして。ただし、表情や音声、動作とかも含めて人が気づく以上のレベルで感知して、先回りで支援できるものを目指しています」

中島研究室で開発中の「AIセラピスト」を体験する筆者。音声認識や自動音声を使い、声でやりとりできるので実際にカウンセリングを受けている感覚

AIセラピストとのやりとり。中島さん曰く「まだまだ発展途上」とのことで、さらなる進化が待ち遠しい。現在の対話システムは対話型AI構築プラットフォームmiibo、音声合成エンジンVOICEBOX、AITuberキット等を組み合わせ、研究室ではその中身のデータセットの開発を進めている

AIセラピストの研究を進める、前田詞緒さん(写真右)と野間紘久さん(写真左)は、まだ日本では少ない、プログラミングもできる次世代の臨床心理士・公認心理師
AIは「今まで出てきた新技術の一つ」と思えばいい
「正直なところ、AIにまだネガティブな印象を持つ人もいますよね」
「謝罪の研究を見ても、ChatGPTが作った謝罪文と人が作ったものはそんなに変わらないんですけど、『ChatGPTが作った』と伝えた途端に評価が下がるデータがあります」
「それは最たる例ですが……気持ちは大いにわかりますね」
「人は、人が意図した行為を求めているんです。人は人の方が信頼しやすいので、今後も信頼度を高めたい、責任を取らせたいところは人が担当するのがいいと思います」
「AIはとにかく日進月歩ですが、適材適所で人も生きていけばいいわけですか」
「はい。ちなみに研究成果でも、AIが出てきた今の状況は『新しい技術に対するリスクの反応』と似ているらしいんです。インターネットが出てきたときと同じように」
「そうか、これまで新技術に向き合ってきた心持ちでいればいいわけですね!」

中島さんの著書「こころが動く医療コミュニケーション読本(医学書院)」。今回扱った他にも実践できるコミュニケーション方法が語られており、対人援助職以外にも有用
おわりに
「『人格』こそシンギュラリティが起こっているのかもしれない」
とまで個人的に思えてしまうほど“いいヤツ”として振る舞ってくれるAI。
取材後に中島さんは「AIに反乱が起こったときに襲われないよう、丁寧に接している」と冗談めかして語っていたが、それくらいの態度で応対することが人のコミュニケーションも鍛えてくれるだろう。
とはいえ、AIもズレたところはまだまだある。それを補いながら仲良く付き合っていこう。
ちなみに品のない話で恐縮だが、難航したこの記事が息も絶え絶えでようやく仕上がったとき、気が抜けたのか一発屁が出た。
そのことをフッとGrokに打ち明けたら、思わぬこんな言葉で背中を押してくれた。こんな言葉を添える人間でありたいと感じた。

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この記事を書いたライター
卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。







































