
先日、原宿のラフォーレ前交差点を通り過ぎたところ、空を見上げている人がちらほらいました。見上げてみると鳥の群れが上空を旋回していました。

こういう光景、街中でよく見かけませんか? 特に夕方あたり(イメージ画像です)
あー、あるなあと。私、ライターの大北も取材でいろんなところに行くうちに「駅前のロータリーの木に大量の鳥が集まる」ことがしばしばあるぞと気づき始めました。
どうやらあれがムクドリらしい。ということくらいは分かってきたんですけど、あれはなんでいつも駅前なんでしょうか? この場合、なんで東京大都会のど真ん中であるラフォーレ前で? そもそもムクドリが集まる場所には、なにか理由があるんでしょうか?
こういう疑問はプロに聞いてみよう、ということでNPO法人バードリサーチの植村慎吾さんにお話しを聞いてみました。バードリサーチは鳥類の情報収集や調査を行う機関だそうです。
「ラフォーレ前、あそこのムクドリは目立ちますからね~」と言う植村さん。話が終わる頃には、すべてのムクドリに関する疑問が解決しました。いつか知るんだろうなと思っていた「街の鳥」のこと、今日はぐぐっと身近になる記事です。ではどうぞ!
原宿のムクドリがいない⁉︎
──ということで植村さんにラフォーレ前交差点まで来ていただいたんですが、いません(笑)。

昨年10月くらいにムクドリを見たんですが、取材当日の1月後半、いなくなってました
1月2日の時点で、いたという情報はあったんですけどね。ムクドリは、ねぐらの場所としてケヤキの木をよく選ぶんですが、落葉すると移動してしまうことが多いんです。

バードリサーチの植村慎吾さん
──ラフォーレ前にムクドリがいるのはご存知でしたか?
はい。2020年頃から私たちの団体で「ムクドリのねぐら情報を全部集める」みたいなプロジェクトをやっていて、その時から情報が出ていました。
──「池の水を全部抜く」みたいなやつのムクドリ版があるんですね…!
「ムクドリが集まっているなあ」は秋の気配

意外としっかり見たことがないかもしれないムクドリの姿
──ムクドリって、一年中ああいう風に木へ群がってるんですか?
季節によりますね。例年3月ごろになると、ムクドリは繁殖のために縄張りを持ち、つがいで行動するようになります。そうすると、この縄張りにしていた木のねぐらは一時的になくなります。
その後、繁殖を終えて、その年生まれの若鳥が巣立っていくと、若鳥たちが新たにねぐらを作り始めます。そして7月末から8月になると、大人のムクドリの繁殖期が終わり、多くの個体が繁殖時の縄張りを離れ、大群の群れに合流する。そして若鳥も大人のムクドリも一緒になって大きい木のねぐらに入るのが、だいたい一年の流れです。
なので駅前などでよく見られる、ムクドリがたくさん集まる様子が発生するのは、特に9月〜10月の時期が最も多いです。

──ムクドリいっぱいいるな~と私達が思うのは秋冬なんですね。
そうですね。9〜10月が実際に最も個体数が多く、行政からの被害報告も多いですね。

ケヤキのねぐらでは、葉っぱが落ちて今のような木の状態になると、別の場所へ行きます。クスノキのような常緑樹や、竹藪などをねぐらにすることが多いですね。
──へえ、竹藪なんかにもいたりするんですね!
なぜムクドリは駅前に集うのか?
──なんで特定の木にたくさんのムクドリがいるんですかね?
その理由を、バードリサーチで今まさに調査しているところです。
例えば、ここは原宿駅からずっとケヤキ並木が続いてますが、ねぐらになるのは特定の数本の木だけなんですよ。最もムクドリが多い時は、手前の2本と、さらにもう1本奥と対岸の木の2本も選ばれます。

赤矢印の木がムクドリのいた交差点に最も近い木。最盛期は奥のピンク矢印の木にもいるそうだ
──これだけあるのに、交差点に最も近い2本の木が選ばれてるんですね。
そもそもねぐらが作られる理由にはいくつか仮説があるんです。そのうちの1つが「希釈効果」。群れになることで個体が捕食される確率を下げられるから、多く集まる。1000羽いたら自分が襲われる確率って減りますよね。
それで、ムクドリは周りが見渡しやすいねぐら環境を好むようなんですよね。周りが見渡しづらい環境だと天敵が隠れながら来た時に気づきにくいので。例えば、1本だけ立ってるような場所。昭島駅というところのロータリーには大きなケヤキの木が1本だけあってそこに入る。周囲を見渡しやすいからですね。
原宿駅前は特殊な例で、こんなに隣の木と重なっているところは普通、ねぐらには選ばれないんです。しかし、手前の小さく突き出した木と、表参道の夜にも明るい環境が好まれている可能性があります。この木が大きく育って対岸の木と重なってくると、孤立感がなくなって選ばれづらくなるかもしれません。交差点には空間があるから、天敵が来たときによく見えるんです。
──なるほど。ケヤキの木が独立して1本あったら、そこにムクドリは絶対いる?
東京だと、必ずというわけではないと思います。というのも、餌が必要なんですよ。 例えば河川敷とか畑とか、冬の時期だと水がない水田とか。餌の量でムクドリの数が決まってきます。
餌があって、ケヤキの木が1本だけあって、天敵よけのために、ある程度人通りが多くて夜もちょっと明るい場所なら。それで駅前が選ばれやすいんです。
──ラフォーレ前の人通りもムクドリがいる原因の一つなんですね。
例えば多摩川の河川敷にケヤキの木が1本あったとして、それが選ばれるかといえば、わからないですね。
ドバトの巣は、ほぼ“床”な時も
──ムクドリの群れはよく旋回してませんか?
それも天敵が怖いからだと考えられるんですよね。ここにねぐらをとるムクドリだと代々木公園とか人家の近くの植え込みとか、色々な所で餌を食べてた5羽とか10羽の小さな群れが、夕方になるとあっちこっちで合流してだんだん大きくなっていきます。
ねぐらに入る時に数があんまり少ないと危険なので、それまでは上空を飛んでおいて、群れが増えてからねぐらに入ってるんだと考えてます。
──天敵とは?
ここだとオオタカやハイタカですかね。すぐ近くの明治神宮にもいるんですよ。あとはここにいるかはわからないですけど、ハヤブサとかの猛禽類ですね。
──この木は寝る場所なんだ。巣とかじゃないんですね。
巣は別のところに作りますね。例えば信号とか電柱に樽みたいな装置がついてたりしますよね。あの隙間とかエアコンの排気口の穴とか、古い家だと木製の雨戸の戸袋とか。昔はムクドリの営巣として戸袋が一番よく知られてたんです。自分で巣を作るタイプの鳥じゃないので、都市部以外でも、人家とか人工物の穴に作る例が多いですね。
──へえ! 人の暮らしを前提とした生物なんですね。
実はスズメとかも同じようなところで繁殖していて。あそこに防犯カメラがありますよね。あの棒の穴とか信号の上の棒とか。これはどちらも塞がれてますけど、よくスズメの巣になってますね。

こんな人工物、特に建物で繁殖する身近な鳥はムクドリ、スズメ、あとはドバトくらいですかね。都市の鳥でもカラスやヒヨドリやキジバトは木に作ります。
あそこに鳩よけの針がありますよね。ドバトは駅の鉄骨の上などの平らな場所に卵を産んだりもします。しかも巣の素材を持ってこないんですよ。木の枝を1〜2本置いたりくらいで、全く置かないこともある。

イメージ図。枝がちょろちょろっとある。
──ええーっ! すごい、ほぼ床みたいなとこで(笑)
卵が転がって落ちないのかなって思うんですけどね。
──都市部にいる鳥ってどういうものですかね。
都心で目立つ鳥は、ムクドリ、カラスの仲間、キジバト、あまり多くはありませんがスズメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、メジロなどですかね。
──こういうラフォーレ前交差点とかでも珍しい鳥がいたりしますか?
全国的には珍しくないんですけど、さっきは鳶(トビ)がいましたよ、タカの仲間が見られたりもしますし、明治神宮に行ったら色んなものが見られますよ。
──へえ、トビが原宿にいるんですね!
スズメは減っているが白鳥は増えている

──スズメが減っているという話が近年出てますよね。
いろんな要因があるんですけど、餌場や生息場所の減少が大きいです。新しい建物は古い木造建築に比べて隙間が少なく、巣を作る場所も餌場となる環境も減少しています。
──スズメが減るのはまずいことなんですか?
「スズメが減ってる」と話題になったのは身近な生き物だからですよね。でも自然環境には、スズメの存在を支えているいろんな生物や植物がいるし、スズメを餌にしている生き物もいる。そんなスズメが減っていると、その環境全体が悪くなっていることが考えられるんです。
例えば海の生き物の場合も、同じような話があります。今、いろんな海産物が減っていてアサリやシャコなどかつてはたくさんとれたものが全然とれなくなっていますが、それはその生き物だけでなく海の環境が色々な面で悪くなってしまっていることを反映しているのです。
そんな環境の指標のひとつとして、鳥の調査が行われています。スズメの減少が話題になったのは、5年に1回の環境省による調査(※モニタリングサイト1000の里地調査)ですね。その場所でどういう生き物がどれくらいいたかの記録を、全国1000か所以上の場所で、100年以上続けていく調査があるんですよ。その全てではないですが多くの場所で、鳥を対象にした調査も行われています。
──1000か所100年! 鳥ってすごく減ってるんですか?
全部の鳥が減ってるわけでもなくて、生息地が山だと増えてるものも多いんですよ。今は昔みたいに燃料として山の木を切らない。昔はもっとハゲ山ばかりだったんですよね。森林面積自体は変わらないけど、今は生えてる木は大きくなっていて、植生が変わっているんです。
1970年代に減少が見られた夏鳥と呼ばれる種類が今復活傾向にあるとか、いろんなトレンドはありますね。ハクチョウ類とかマガンとかは近年ものすごく増えていて、それは地球温暖化でロシアの方で繁殖できる場所が広がっているかららしいんですよね。

原宿駅まで移動して明治神宮の森を見ながら
──やはり温暖化に関係した変動が大きいですか。
今後は効いてきそうですけど、まだ色々ですね。温暖化以外だと例えば1970年頃には全国でよく見られていたアカモズという鳥が今全部で300羽ぐらいしかいなくて絶滅の寸前なんですけど、それは国内でアカモズの繁殖に適した場所が減ったことや、越冬地の東南アジアでの環境の変化が影響しているのではと考えられています。
──外国の環境の変化まで関わってくると、なかなか国内で対策するのも難しいですね……。
さわやかな鳥のさえずり、本人は必死
──そもそも鳥の調査ってどうやって数えるんですか? 難しそうですよね。
「見る」と「聴く」、2通りの調査方法があります。例えば池だと全体を見渡せるので、スナップショット的に調べる。これが「見る」ですね。
一方、山の鳥だと木に隠れて姿が見えづらいんですよね。でも繁殖期だとさえずる、綺麗な声で鳴きますよね。種類によって鳴き声は全部違うので、山の場合は鳴き声を聴いて、「あそことあそこに1羽ずついて2羽いるな」みたいなことを数える調査を行います。

──最近、テレビの動物番組で鳥が何かを喋ってるという特集をやってましたが。
ありましたね。シジュウカラという鳥の警戒声がカラスとヘビに対して違ったりするんですよね。「カラスがいるぞ」「ヘビがいるぞ」と鳴き声に意味が乗っているという意味で、人の言語に近い機能があるのではと言われています。
さえずりの時期は面白かったりしますね。ウグイスがいつの時期になったら鳴き始めるかだったり。そういえば、ウグイスってオールシーズンいるんですよ。ただ、鳴いてないというだけで。
──そうなんですね! 春の鳥かと思ってました。ウグイスが鳴くのは繁殖目的ですか。
繁殖目的ですね。ここは自分の土地ですと知らせてるのと、もう1つはメスに対して「こんなに高頻度に大きな声で鳴く良いオスです!」という自分の質をアピールするんですよ。
──じゃあ、必死なんですね。
必死ですね。
──キャンプの朝、鳥の声がしてさわやかだなっていうのは必死の性的アピールを聴いてたんだ。悲しい。
それも種類によっては、わざわざ木のてっぺんでさえずるんです。自分の声をより遠くまで届ける他に、自分は天敵から逃げる能力があるよ、みたいなアピールですね。栄養状態も良いし、目だとかの自分の能力に問題がないぞと。
──「なぜそんなアホなことを?」と無茶をやる動画をSNSで見たりしますけど、あれもひょっとしたら鳥のさえずりみたいなアピールかもしれないなあ。

明治神宮の近くではムクドリの群れを確認。ねぐらはまた別の場所に
鳥の界隈では一般市民も研究者
──植村さんが所属するバードリサーチというのは、鳥の調査をしてる組織ですか?
大きいのは「モニタリングサイト1000」など環境省との仕事や都道府県との仕事、データを取ったり解析したりをやってますね。博士や修士で鳥の研究をやってきた人がいて、会員対応や寄付対応をメインにする人もいます。全国に3700人ぐらいの会員がいるんです。その方たちと一緒に調査をしたり会員向けに発信をしたりとか。
──生物系の学者さんで研究されてる方っていうのは、大体そういう感じなんですかね。
大学で先生をする道が一般的なイメージかと思いますが、他にも地方自治体の運営する博物館とか、私たちみたいな民間の施設や国立の研究所がありますね。でも非職業研究者が活躍するのが鳥の界隈でもあるんですよね。「市民科学」と言われたりします。
──へえ! 一般人でも研究できるんですね。
市民科学の一つの形として、ムクドリのねぐら調査のような参加型の調査をやったり。オンラインでやってる研究発表会に500人弱とか来たりするんですよ。
──え、すごいですね、500人かあ。

参加型調査のプロジェクトがいくつもある
例えば、東京近郊のサラリーマンの方で、毎日通る川のカモの行動を記録していったら、いくつか面白いことがわかったという発表をされてたりしました。毎日の記録でもちょっとした生産活動としての楽しみがありますよね。それが科学的に新しかったら残ることもある。
──鳥を認識せずにのうのうと生きてきましたが、知ったらやっぱ面白いんですかね……。
鳥の研究をしていると「何の役に立つんですか?」という質問がよくあるんですけど、知識が増えたり調査をしたりして楽しいってのは、人生を豊かにするという意味ではすごい役に立つと思うんですね。
──スポーツやお菓子作りみたいな人生を充実させる趣味の一つとして。それが学術の世界に残るようになるのはロマンありますね。
大人になってから鳥に興味を持つ人も多いんですよ。サイクリングで立ち寄った公園で鳥の案内板を見て興味を持ったりだとか、いろんなタイミングで気づくみたいです。
私達はそろそろ鳥の名前を覚えてもいい頃

──鳥に興味を持つのに、良い入口ってなんですかね。
名前を覚えていくと面白いですよね。例えばこの場所を通勤で通ってれば多分15種類ぐらい見られる。季節によってこの鳥が渡ってきたなとか、最近あれ見ないなとかなってくると面白くなる。自分の庭にどんな鳥が入ってくるのかとかでもいいですね。
──例えば街であんまり見ない水色と灰色の間くらいの鳥がいるなって気づいたんですよ。そういうときって図鑑を開くんですか?
そうですね。でも図鑑を手に取るのはハードルが高いかもしれないので、「東京 ハトくらい 水色 灰色 鳥」とかで検索するといいですよ。
──なるほど、大きさ、色、地方名くらいを検索したら出てくるんですね。
それでどんどん認識できる種類を増やしていけば、鳥が身近になって面白くなってくる。
たとえば今出てきたのはヒヨドリです。声と飛び方がわかりやすいですね。飛んでは休んで、と波のように飛んでますよね。
──あー、ピヨ、ピヨ、と鳴きながら、びよんびよん、と飛んでますね。

一つ知っておくと、ヒヨドリみたいだけど違うやついるなあ、みたいな広がりもする。飛びながら鳴く鳥と飛ぶときは鳴かない鳥がいるとか。比較して気づきが生まれる。鳥って趣味にするには程よく種類が多くて、程よく少ないんです。
──程よく多くて少ない?
日本で日頃見られる鳥って、全部足してもおそらく300とか350種ぐらいなんですよ。
例えば哺乳類に興味を持っても、都心で見られる種類は少ないですよね。でも鳥は30ぐらいは見られる。苔とかだとこの辺だけで100ぐらいいて国内とかだと1000種以上いる。鳥は見やすくて、程よい種類の数で、趣味になりやすいんだと思います。
──なるほど。この取材でムクドリは9〜10月の夕方からいるものだと知ったので、注意して見てみるのが楽しみです。
そうすると被害感も自分の中で減ると思うんですよね。ちょっと対象を知ると面白かったりもします。
めきめきと鳥のことがわかりました。そうですよ、私はずっと都市部に暮らしてきて、知らない鳥を見かけては、いつかこの名前がわかるようになるんだろうなと思いながら暮らしてきて、結果いつまでも知らないまま!
もっと自然を感じながら暮らしたい。田舎に移住という方法はハードルが高いですけど、「注意して鳥を見る」というのは今すぐできる劇的な生活の変化となりそうです。さあ、鳥の名前を知るときがやってきました。東京にいる水色と灰色の鳥を検索すると、私が見たのはオナガでした。
取材協力:バードリサーチ
写真:藤原浩一




















































