
「電話応対コンクール」というものを流れてきたニュースで知りました。調べてみると、電話応対業務のスキルアップのためのコンクールを日本電信電話ユーザー協会という団体が開催しているようです。

電話応対って、会社で電話をとって「大北はただいま不在で……かけ直させましょうか?」とかですよね。そのコンクールってなんなんでしょう?
サイトを見ると選手は◯◯県代表、株式会社△△と所属が記されていて、甲子園みたいな印象を受けます。コールセンターの人たちが熱く1コール目、甲子園でいう白球を追って涙を飲むような?……いやまさかまさか。「新入社員は全員出なさい」とか言われて業務の一つとして出るあたりが現実的なところでしょう。
そして、あれ? と思ったのは高知出身の千谷須美子選手。所属が「個人」となっています。他は企業ばかりなのに……もしかしてこれガチ勢なんじゃないでしょうか。
興奮してきました。やはりこれはただの仕事ではなく、甲子園みたいな土を持ち帰るくらい熱い大会なんじゃないでしょうか。ということで、電話応対全国大会に個人で出場しつづける千谷さんの話を聞きました。
そして仕事のメディア『ジモコロ』らしく、全国大会プレイヤーから学び取った電話応対のコツを惜しみなく放出します! 明日からできる! 特に第一声ですよ!
電話応対の甲子園とは何なのか?

高知県の代表であり個人で出場する千谷須美子さんにお話をうかがいました
──電話応対コンクールって甲子園みたいなものなんですかね?
高知県は県大会だけですけど、東京や大阪はその前に地区予選もあります。よく『電話応対の甲子園』って言われますよね。
──やっぱり甲子園なんですね。
多い時は全国で参加者が1万人を超えてましたね。コロナ禍を経た今は全国で5000~6000人ぐらいに減ってるんですけど。
──多いですね! 甲子園は3500校前後らしいです。千谷さんはなぜ出場してるんですか?
きっかけは本当に偶然だったんです。私は病院勤務なんですが、受付業務でたまたま案内の郵便物を開封したんですよ。「コンクール」って書いてあるけど、なんだろう?って。
──きっかけはダイレクトメール。
「どうしてこんなことを始めたの?」って、ほんとによく人に訊かれるんですけど(笑)。ある程度の歳を重ねると「これから自分がこの職場でどうなっていくのか」というのがなんとなく見えてきますよね。
私、それまでなんとなくでぼーっと過ごしてきたなって。仕事も家庭もあって、それなりに一生懸命過ごしてきたけれども「……なんか違うよね? 自分?」とふと考えたんだと思うんです。何かに挑戦してみたいと。それで、思い切って応募してみたんです。
──慣例の業務ではなく、自主的に出たんですね。
県大会は企業さんの中に私一人ぽんと飛び込んだ状態でね。他の選手には講師の先生だったり応援の方がいて、優勝の発表があったら「おー!!」ってすごい歓声が上がるんです。ああ場違いなところに来てしまった、こんなにみんなが真剣に取り組む場所だったんだ…!? って思って。でも、その県大会で3位入賞したんですよ。
──才能があった(笑)。
そこでやめられたらよかったんですけど(笑)。次の年になってもね「今年の問題なんだろう?」「この問題だったらみんなどんな風に言うんだろう?」って聞いてみたくなって。
──競技としての興味が続いたんですね。コンクールでの問題がどういうものかも気になります。
あなたはこういう会社でこういう仕事です、という設定で3分間、電話応対していくんです。問題自体はその年の4月に発表されるんですよ。
──事前に発表が。相手がどんなことを喋るかまで決まってるんですか?
昔は模擬応対者(相手)のセリフがあらかじめ決まっていて、その答えを引き出すような応対をこちらがしてたんです。作ってきた台本を本番で間違わずに再現するようなことですね。でも、リアルな電話応対を考えるとおかしいですよね。
なので5、6年前ぐらいからは、本番で何を訊かれるのかはわからなくなりました。スクリプトと呼ばれる台本には最後までの大まかな流れは書いてあって、相手が「よかった」「検討して申し込もう」という気持ちまで持っていくという大きな目的自体は決まってるんですけど。
──みんなが見てる場で電話応対をするんですよね。
千谷さんが出場した大会の様子
そうです。舞台の上に電話のあるデスクがあって、助手さんはいるけれど何も喋らない。みんな舞い上がってしまうので。別の部屋に模擬応対者がいて、審査員も別の部屋にいて音声だけで審査をするんです。
──ほんとに舞台で。電話応対の晴れ舞台ですね。
土佐のはちきんが全国大会へ電話しに行く
──そこから今に至る流れは? 病院は法人会員をやめられて、個人会員として参加されるんですよね?
1年目に3位を頂いたんですけど、2年目は箸にも棒にもかからない。普通は心折れるんでしょうけど、もうこれはやりきらんとやめれん、って思いがむくむくっと湧いて。もうね、土佐のはちきん丸出しですよ。はちきんのおばちゃん丸出し(笑)。とにかく全国の舞台に行くまではやめれんと思って。3回目でやっと高知県代表になるんです。
※土佐のはちきん…高知県の女性の県民性、男まさりな女性を指す言葉
──全国はまた違う世界が?
本当に場違いなところに来たなと。
──また(笑)。
なにしろ働いていたのは地方の中心部から離れた個人病院で、大学卒業してからそこしか知らない私がね。全国放送のCMで流れるような大企業のコールセンターの人たちがいるんです。
全国に支店があるから県代表に何人かいて、事前に選手を集めて合宿まで行うそうなんですよ。その選手たちが発声練習していてね。もうこれはとんでもないところに来たなと。すごいプレッシャーですよ。

コールセンターの強豪たちが集う全国大会(※イメージ画像です)
──スポーツの強豪校は事前練習で相手をビビらせるためにちょっと派手なことするっていう話がありますもんね(笑)。
もう高知の伊野商業がビギナーズラックで出たみたいな状態でしたよ。
※1985年春の甲子園で高知県代表として伊野商業が出場し、みごと優勝した
──ははは。全国大会ってみんなお金を出して行くんですか?
旅費も宿泊費も協会から出ます。当日は配信があるから情報を遮断するために控室で缶詰になって。出場順を決める抽選では1番を引くと拍手が上がります。開会式終わってすぐ出ないといけないので「がんばってね」という意味で。お互いライバルなんですけど、同じ苦労してるので連帯感もあるんですよ。
──世間からしたらちょっと変わった人たちでもありますよね。
私も普段、車の中でも何をしながらでもブツブツやってるから、わかんない人から見たらどんな風に見えるんやろうって思うんです。犬の散歩しながらブツブツやる人もいたり、選手あるあるなんですけどね。

──選手には男性もいます?
増えてきました。10年ぐらい前はほぼ女性でしたけど。男性がまたいい成績を取るんですよ。
──何県が強いとかあるんですか? コールセンターは沖縄が多いとか聞きましたけど。
沖縄も強いですね。長く続けて出てる方がいて。でもやっぱり東京、大阪の大都市は強いですね。会社が大きくて環境が整っているのか。あと長野ですとか。
やっぱり何度も出てらっしゃる方がいますよ。回を重ねて趣味になってるわけじゃないんですけど、もっとできるはず、もっとスキルアップできるって。
電話応対コンクール優勝・準優勝者によるYouTubeチャンネル『電コンマニアのおしゃべり広場』には出場選手の世界が垣間見える
──千谷さんのその後は?
10位以上(現在は20位以上)が入賞ですけど敗退。それを4回繰り返しました。そりゃ限界あるよねとも思ったんですけど、入賞で名前を呼ばれて見る景色はどんななんだろう?って思ったんですよね。
県代表になると協会から講師の方をつけていただけるんです。2人3脚で熱心にやってくださる先生の恩に報いたい気持ちもあって。それがやっと一昨年、5位で名前を呼ばれたんです。もう、夢のようでしたね。これが憧れてた世界なんだと思って。これで引退できると思ったんですけど……なんとその次の年が高知での開催だったんですよ。
──やめられない(笑)。
欲が出て、地元で優勝して卒業したい(優勝・準優勝は出場できない)と思ったんですよ。「ここまで来たらもう絶対できるわよ」って先生も言ってくださるんですけど15位でしたね。
AI時代にも残る電話応対

──練習ってどういったことされるんですかね。
例えば今年だったら「お客様の笑顔を届ける応対を」というのがメインテーマなんです。ここへ近づけるためにどうすればいいかをすごく考えますね。
質問をするパターンは無限にあって3分ですからタイパも考えないといけない。たとえば商品をお薦めするにしても「肉汁たっぷりで」を「肉汁がジュワっと」とか擬音やオノマトペを入れたりその人の個性がありますよね。
毎年4月に問題を見てしまったら頭から離れないです。普段の生活でも「その言い回しいいな」とか常にアンテナを張ってる状態になって、通勤時間の車の中でブツブツ言って練習してます。
──審査ではどういうところを見られるんですか?

音声だけですから、いかに言葉に感情を載せていくかが大事なんです。それと近年必ず言われるのはAIにできない対応をすること。相手の呼吸を感じて返答したり、相手の気持ちに寄り添って答えを変えるのは人間にしかできないことですから。
10年前ぐらいのコンクールで評価されていたのは、詰まらないことや間違わないこと、変な癖がないこと。でもそれが変わってきましたね。
全体の印象として温かい感情がこもっていたり、もう一度話をしたいと思わせる通話だったりすると30点の加点部分に影響を与えます。減点方式の基礎部分の70点は全国大会に出る選手だったらできてますからここが大きい。
選手にとったら大変ですよ。自分の普段の業務と全く違う設定で、何を訊かれるのかもわからないし。なんでもいいからとにかく無事に「それでは失礼します」と受話器を置きたいとだけ願っていますね。
笑顔のような笑声の出し方
──自分が出ると考えると、まず敬語とか難しそうですよね。
敬語は最初は苦労しましたけど、今は日常生活でも困らなくなりました。何度も声に出すうちに自然に出てくるようになります。これはメリットでしたね。
──基本スキルってどういうところですか?
まず滑舌ですね。車の中で「あいうえお」とか発声して訓練しますね。歯がパって見えるぐらいの口を開けて喋れとは言われますけど、普段そこまではね。あとは「笑声(えごえ)」ですね。
──えごえ!? 初めて聞きました……!
やっぱり声にも表情があって。笑顔を思い浮かべるようなイメージの声が大事なんですね。特に第一声。第一声で最初の印象で5点ぐらい変わりますから。普段の電話でもやっぱり最初に出る声は気をつけます。
──どうやったら笑声になるんですか? 高い声?
ワントーン高くとは言われますけど、やっぱり気持ちの問題ですね。コールセンターでよくやられている、鏡を置いて笑顔になりながら発声する練習は確かに変わると思いますよ。「おはようございます」って。それだけでも印象が違いますよね。

──今出していただいた声でもすごい変わりますね。いくつか動画見たんですが、皆さんきれいな声で。酒焼けしたような声の方は一人もいなかった。
優勝や準優勝された方はいい声ですね。印象加点でやっぱり有利ですから。ガラガラ声の人は全国大会では見ませんね。でもね、私自身、年齢を重ねて声が低くなってくるんですけど、そういう自分の年相応の経験から出る言い回しがないかなっていうところは考えています。
──なるほど、言い回しでカバーしたり。「それは大変ですねえ」と言ったり、皆さんすごく共感をされてる印象がありました。
「相手の気持ちに寄り添う」のをどう音声として表現するのかは問われますね。「さようでございますか」と言うところを「それ素敵ですね」とそこまで言う人もいる。それも個性ですよね。
声だけで相手の感情に寄り添う方法

──大会での経験は、千谷さんの今の業務でも役立ってますか?
病院でご家族様と面談して調整していく業務なんですけど、言葉には困らなくなりましたね。
──会社で電話を使う人は、取り次ぐだけの人も多いですよね。
取り次ぎにしても、その人がその会社で接する1番最初の人じゃないですか。だから会社の顔なんですよ。いかに笑声で感じよく取り次ぎできるかっていうのが営業として大事だから会社の方は力を入れるんだと思います。
──一般的な電話業務の人がすぐできるようなコツってありますかね?
電話をとる前に、ちょっと深呼吸を。敬語を間違えたらどうしよう、なんて自分のスキル以上のものを出そうとかしないで、自分にできる限りのことをしたらいいなと思います。
──感情を載せるために必要なことってなんですか?
まず聴くこと。聞くじゃなくて聴く、傾聴する。一生懸命相手の声を聴くと相手が何を求めているのかがわかるので、それに合う音声で応える。相手が怒ってるのに「そうですね!」って言ったら余計怒るでしょ。相手の感情を読み取って、その感情に沿う声色で返す。
<千谷さんに学ぶ電話対応のコツ>
①電話をとる前に、ちょっと深呼吸
②まず“聴く”。声から相手の感情を読み取る
③第一声は「笑声(えごえ)」を意識。ただし、相手が怒っている場合はその感情に沿う声で
──怒ってる人に対してどう接するのかとか難しそうですよね。
もうえらいえらい電話になってしもうた、ってこっちも嫌になりますよね。だけど、とにかく聴くしかない。その1つ1つに「そうでございますね」とか「申し訳ございません」とか、色々言葉を変えながら少しでも収まるように持っていくしかないんですよね。
──ああ、そうやってるんですね。でも「寄り添う」って毎回気持ち添わせてたら大変ですよね。
やっぱり仕事で見も知らぬ相手に感情まで全部持っていくのはなかなか難しいですよね。そこをどうやって声で表現していくかっていうのはベテランになったらできるのかなと思うんですけど……まだそれしか言えませんね(笑)。コールセンターの方は特に大変ですよね。
──全部ため口で感情を寄り添うのと、全部正しい敬語で仏頂面で喋ってるのだと、どっちがいいんですかね?
それもね、やっぱり相手によりますよ。例えば私も地元のおんちゃん、おばちゃんに敬語を使って「さようでございますか」って言ったら怒られますよ。相手が親しみを持って砕けた言葉で言ってきたら「おんちゃん、ほいたらね」っていう方がいいですよね。
──なるほど、電話は相手があってのことですよね。今日教わったことってすぐにでも導入できるようなことですかね。
そうだと思いますよ。電話って声だけだから、声に対してどういう風に表現するかだけなんで。
メールやテキストメッセージが主流となった今でも電話は生き残ってます。電話には声と相手があって、逆に言うとそれしかないんですね。自然にはなかったことなのに、今後も残る。とても不思議なコミュニケーションの形です。
音にどれだけ気持ちを込められるかを競いあっているこの大会も不思議なんですけど、そんな不思議なものに自分を見出した人たち。そこに!? と思うからこそ、一生懸命取り組む姿は美しいものですね。








































