まちづくりの王様!ポートランドはなぜスゴいのか調べてみた

2018.08.28

まちづくりの王様!ポートランドはなぜスゴいのか調べてみた

先進的なまちづくりを進める都市として、世界中から注目を集める町、ポートランド。その魅力を探るべく、編集長・柿次郎が現地へ突撃! ポートランドの現状とこれからについてのお話を伺ってきました。

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    こんにちは。ジモコロ編集長の柿次郎です。

    僕は今アメリカのポートランドという町にいます。

     

    みなさんは、ポートランドがどんな街か知っていますか?

     

     

     

    ふらりと入った町中のサードウエーブのコーヒーショップがこんなにオシャレだったり、

     

    リンゴで作られたお酒・シードルの飲み比べができたり、

     

    味のあるビンテージ雑貨が山ほどあったりする、素晴らしい町なんです。

    実はこのポートランドはアメリカで数ある大都市を尻目に、全米で最もイケてる町として、世界中から大注目を集めているんです。

     


    ポートランドのあるオレゴン州は、地図の赤色の部分!

     

    オシャレな町なんて、どこにでもあると思うじゃないですか。
    でも、ポートランドがめちゃめちゃイケてるのには、こんな理由があるんです。

    ・町中に自然が豊かに隣在する、健康的でエコな環境
    歩いて暮らせるように設計された町づくり
    ・DIYやアウトドア、ローカルファーストなどの多種多様なカルチャー
    全米一とされるバリスタによる、数多くのサードウェーブコーヒー
    クラフトビールや地元産オーガニック食材、新鮮食材によるレストランなどの豊かな食文化

    ね、すごくないですか? オシャレなだけじゃないんです。

    今回は、僕が実際に経験したポートランドを紹介させてください!

    歩いて一周できる町・ポートランド

    ポートランド国際空港から都市部までは、直通の路面電車で40分ほど。
    この「MAXライトレール」と呼ばれる路面電車は町中を通っており、そのほかにもバスなどの公共交通機関が非常に充実しています。

     


    自転車専用の道路が街中のいたるところに!

    町中でいたるところで見かけたのが、自転車に乗った人々。
    このポートランド、「自転車の町」と呼ばれるほど利用者が多いんです。バイクシェアと呼ばれる自転車のシェアリングサービスが定着していますが、2018年8月には電動キックボードのシェアリングサービスも開始したそう。

     

    市街地を回るバスには、自転車も取り付けられる仕組みも。自家用車を持たずに生活できるよう、様々なところに工夫が見受けられます。

     

    そして、コーヒーショップの数もすごい。

    そのほとんどが個人店なのですが、コーヒーのクオリティも店舗のデザインも全てがハイレベル。

     

    もともとポートランドはきこりの街だったそう。小物などのインテリアやDIYにもこだわりが…!

     

    ポートランドはクラフトビールの種類もめっちゃ豊富。缶ビールまでおいしい!

    種類が多いだけじゃなくて、消費税・酒税がかからないので安く購入することができる!

     

    もちろんクラフトビール専門店も!

     

    また、タイ料理イタリアンアルゼンチン料理モロッコ料理など、多様な文化が混ぜ合わされたレストランが街中に並んでいます。

    地元のオーガニック食材を多く使用したローカル食「ノース・ウエスト料理」はなんとも新鮮な味わい! ポートランドは、ピザやハンバーグも地産地消をコンセプトにしたものが多いんです。

    さらに町中には、地元アーティストによるウォールアートが至るところに! 徒歩で巡ることのできるコンパクトな町には見どころが多くて、全く飽きません。

     

    とにかく、町が米国の他の町に比べてとてもクリーンで、空気もおいしい!

    アメリカの「一人旅人気スポット」として毎年1位に選ばれるくらい安全なポートランド。もちろん普通に観光するだけでも楽しいのですが、どうしてこのような町が生まれたのか、気になってきませんか?

    というわけで今回、ポートランド在住の国際プロジェクトコンサルタント/企画コーディネーター会社代表である山本彌生(やまもと・やよい)さんに、ポートランドの文化的な背景についてお話を伺いました。

     

    お話を聞いた方:山本彌生さん

    「行政」「ビジネス」「学術リサーチ」「メディア」4分野のカスタムメイド企画コーディネートを行うπ型企業「PDX COORDINATOR, LLC」の代表。ポートランドに20年以上在住している経験を生かし、日本とポートランドを橋渡しをしている。信頼を元にしたクライアントはリピーターも多く、国家単位から個人まで。「ビジネスを超えたクライエントへのサービス提供」と「持続可能な信頼関係の構築」をモットーに幅広く活躍中。

     

     

    何もない町、ポートランドが変わった理由とは

    「はじめまして! 実際にまわってみて、ポートランドはどういう印象でしたか?」

    「全てのものが洗練されていて、素晴らしい町ですね…文化の積み上げがあるというか」

    「みなさんから、よく文化の町って印象をお聞きするんです。でもポートランドって、1970年頃はそういうものが何もない町だったんですよ」

    「え!?」

    「元々の木こり文化が根強くて、地味で質素。ちょっと不愛想に見える人が多い町。サンフランシスコのような、ITや文化で栄えようとする華やかな近隣都市との格差が著しく、西海岸の主流都市としては、とり残されていた都市なのです」

    「めっちゃ意外です!」

    「ポートランドのあるオレゴン州としては、どんどん輸出をして町を活性化させたかったんですが、当時、輸出できるものとしては材木くらいしかなくて

    「近隣都市が成長を遂げていく中で、まさに取り残された田舎町だったんですね」

    「材木の他は干し草、芝、木、小麦とか、それくらいだったそうです」

    「本当に素朴ですね。そんなオレゴン州やポートランドが、今のようになるには何か理由があったんですか?」

    「大きなきっかけとなったのは、公害問題です。当時は郊外に大きな家を持ち、自動車で移動するのが基本とされていた時代でした。でも通勤、通学による大量の車移動によってひどい公害被害が発生して。さらに町の中心部に住む人が減ったことで、中心部の夜はゴーストタウン化し、ダウンタウン地区の衰退も起きました」

    「環境的にも、文化的にも町が死んでしまったんですね」 

    「はい。そこでポートランドの市民が立ち上がり、新しい市長を選出しました。人々が住みやすい町を作ろうと、生活環境の改善や公共整備を住民が主体的に働きかけ続けたんですね」

    「なるほど、市民の力で」

    「約40年かけて作り上げられた『生活のしやすい町』は、住民自ら町を作りあげようという意識の賜物だったんです。その後、米国経済の変化や環境問題への関心が高まったこともあり、世界中からポートランドが注目され、人がどんどん流入してきました」

    自分らしく生活できる場所として、そんな生活に憧れる人たちが流れてきたんですね」

    「そうなんです。また物価も落ち着いていたため、都会すぎないローカルな暮らしの雰囲気を好む人々にも向いていたわけです」

     

    注目されることで起こった「ジェントリフィケーション」問題

    「そんな形で注目を浴びたポートランドですが、2010年頃にいくつかの問題が起こりました」

    「問題? オシャレになりすぎとか?」

    「違います(笑)!実は、人が増えすぎたんです」

    「え、人が増えるっていいことじゃないんですか?」

    「適度な人口増加は町にいい働きをもたらすのですが、それが過剰になると困りますよね」

    「確かに。人が多いところって、せわしないもんなあ」

    「通勤交通ラッシュ問題に加え、物価の上昇なども生まれました。さらに深刻な問題となったのがジェントリフィケーション問題です」

    「ジェントリフィケーション! なんかかっこいい響きですが、どういう意味なんですか?」

    「こちらを見てください」

     

    「響きのかっこよさに騙されていたけど、結構深刻な問題じゃないですか…!」

    「そうなんです。昔からの住民が住みづらくなってしまい、元々あった文化と地域の崩壊のような多くの問題が起きました。地域開発による問題は新しい形に変化して、アメリカのあちらこちらに火種を抱えている状況でもあります」

    「ということはポートランドってもう終わっちゃったんですか?」

    「終わっていませんよ(笑)!もちろんこうした問題によって、ポートランドから出て行く人も増えましたが、それでも違うタイプの人たちが新たに移り住んできています」

    ポートランド住民が大切にする「概念の受け入れと分かち合い」

    「地域文化が破壊されてしまったのに? 」

    「ポートランド市は、市民からの声によってその失敗を認め、今までの開発担当行政局を閉局したんです。そして、完全に新たに立ち上げた振興局とともに再びポートランドの持つ価値を再認識して、様々な問題の対策に乗り出しました」

    「役所を閉局しちゃったのはすごい。 新たな価値観を得るために住民たちは行政と戦い、ポートランドという町が建て直されていったわけですね」

    『戦う』というのは少し違う気がするんですよ

    「え?」

    「確かにポートランドの住人は『健やかな日々の営み』を大切にしています。ただそれ以上に彼らは人に対しての『思いやりと温かさ』、そして『概念の分かち合いと受け入れ』を意識しているんですよ」

    「概念の分かち合いと受け入れ?」

    「まずそれぞれが異なる価値観を持つことを受け入れ、お互いに考えや立場の違いを理解しようと努める。価値観の押し付け合いがないことが、健やかな生活を営むための第一歩。だから住民たちは戦って勝ち取るのではなく、互いを尊重して、より良い結果を共に模索していくことを選んだんです」

    「なるほど。それこそが新しい価値観だったんですね」

    「そうなんです。その結果、リーマンショックによって、従来の資本主義的な価値観に疑問を持つようになった知的階級の人たちがポートランドに興味を持ちました」

    「問題を解決することで、また新たな人たちが興味を抱くようになったんですねと」

    「はい。彼らが特に興味を持ったポイントがこちらです」

     

    「こうした環境が、資本主義や混沌とした都市の暮らしに嫌気がさして『新たな価値観』を探す人たちにとって、とても魅力的に映ったんです」

    「確かにこう見ると、めっちゃ惹かれるなあ…」

    「日本の都市部でもそういう風潮が徐々に生まれていますよね。アメリカでは2008年に起きたリーマンショックによって、その傾向は顕著になりました。背伸びをしないで住むことができる町であることが、新しい価値観を尊重するのに適した場所だったんだと思います」

    日本のローカルがポートランドから学べること

    「日本では2011年の東日本大震災、アメリカではリーマンショック。『大きな変化』で新しい生活の価値観が生まれてきたのは、なにか象徴的な感じがしますね」

    「私もそう思います。だから日本のローカルはポートランドのこうした経験から学べる要素が多くあるはずなんです

    「確かに。ではポートランドの事例をふまえて、日本のローカルが進めるべきことは何なのでしょう?」

    「ジモコロ読者の皆さんへお伝えしたいポイントはふたつあります。まずは、モノではなく、「新しい価値観」を中心とした地域ブランド力を高めること。ポートランドにて起こった問題は、せっかく積み上げてきたローカルや地域文化の価値を押しやって、急激に都会化しようとしてしまったことが要因の一つです」

    「確かに現状の日本にも通じるところがあるなあ」

    「現在の日本の地域をめぐる状況は確実に変わってきていますよね。人々の意識の変化と“地方創生案“によって、地域ブランド論はみんなで考え直す時期にあります。新たな時代のブランド論は、“モノだけ主人公“や”ゆるキャラ“等が中心となるのではなく、地域そのものを対象とするものです

    「場所と人々が主役ということですね」

    「そうなんです。それが『持続可能』な町おこしにつながっていくんですよ。これからのブランディングは、その場所ならではの『歴史』『資源』『人々』をつなぎ合わせた物語をいかに魅力的に出来るかということがカギになってきます」

    「物語を作っていく…」

    「そして二つ目のポイントは、『π(パイ)型人材』の獲得。そして彼らの意見を積極的に取り入れていくことです」

    「π型人材?」

    複数の専門分野を持ちながらも、違う分野への知見や知識が広い人のことです。これまでの日本では職人など、一つの専門的な知識や技術を極めた『I(アイ)型人材』が重宝されていました。でもこれからは異なる分野を横断して、世界を広げていけるπ型人材が重要なんです」

    「めちゃくちゃすごい人に聞こえますけど」

    「このπ型人材のキモはそこではなく、一番大事なのは『人々との交流』をするスキル。これからの時代、基本的な専門分野に加え、人と交流する能力が大切なんです。町づくりにおいては、複合的なスキルが必要になるので、そういう人たちを集めることができれば、それぞれの地域のブランディングも広がるのではないでしょうか」

    「そんな優秀なπ型人材なんて、あまりいないんじゃないですか?」

    「そうですね。でも、皆さんがπ型に変化することは可能なんですよ。持続可能な取り組みをすることで、一歩ずつ成長してゆく。日本にいると、1つを突き詰めることだけに集中しがちですが、まずは少しだけ自分の枠を超えて、いろんな経験をしてみるというのも大事なことですね。それによって、見えてくるものは多いはずです」

    「そういう経験を少しずつ増やし続けていくことで、価値観も多様化してゆくと!」

    「はい。私はポートランドに留学を決めたとき、そして生活を始めたとき、毎日が本当に怖くて、出来ない自分に自信がもてなくて、逃げることばかりを考えていました。でも、少しずつだけど問題を超えていくことで、見え始める新しい景色に涙したのを覚えています」

    「彌生さん自身も、壁を一歩ずつ乗り越えていったんですね」

    「実はね、柿次郎さん。そんな私も一度は人生を諦めようと思った節目があったんですよ」

    「え…!? 」

    「ガンの診断を受けて、手術後ずっと寝たきりの生活の時期があったんです。その間、ポートランドの生活環境、食材、人、コミュニティ、それぞれの素晴らしい事柄が相まって、今では普通の人以上の健康を与えられて生活を送っています。だから私は、この多くの恵みを返すために地域コミュニティーの為に努めているんです」

    「その経験が、価値観を広げていった…」

    「はい。多様な価値観を受け入れることで、人としてはもちろん、町の文化的な豊かさもどんどん増していくんです。ポートランドの魅力も多様な人たちがどんどん集まってきたことで生まれているんですから」

    「まずは新しい人や価値観を迎え入れることが第一歩なのかもなあ」

    「そうですね。様々な考え方の人たちがお互いに尊重しあって生きることで『幸せ』の形も増えていくと思うのです。一人一人が精神的な自由を持てるようになること。それが一過的なブームに流されることがない、持続可能な町づくりの第一歩なのだと思います」

    「ふむふむ」

    「今、私たちの住んでいる世界は複雑で不確かなもので、ともすれば日々変転することに心を囚われがちです。そんなとき、かけがえのない何かや生活と仕事のヒントとなるものがポートランドにはあると思っています」

    「探し物はポートランドにある、ということですね」

    「はい。私も、この風通しの良い町で心身ともに潤いを覚えるようなお話をひとりでも多くの方としたいと願っています」

    おわりに

    今では全米で住みやすい都市No.1と言われるポートランドにも、過去の失敗経験がありました。

    しかし、失敗を失敗として終わらせることなく、過去の反省として受け入れ、新しい街づくりを進めつづけたことで今のポートランドがあるような気がしました。

    「リーマンショック」と「東日本大震災」によって生まれた『新しい価値観』。

    偶然にも共通項が多い日本のローカルがそこから学び、生かせる事例はたくさんあるかもしれません。

     

    プレイスという地域づくりに興味を持たれた方は彌生さんが執筆に携わった本『プレイス・ブランディング』をぜひご覧ください。今回の記事は初心者編となっていますが、本の中身はさらに掘り下げた内容となっています。

    それではまた!

     

    ライティング協力:浅田よわ美
    写真:小林直博

     

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    この記事を書いた人

    徳谷柿次郎
    徳谷柿次郎

    ジモコロ編集長。大阪出身。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。

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