リスペクト。

それはみんなの元気の源。

贈ったり、贈られたりしながら、リスペクトの気持ちがめぐる世界って、温かみがあっていいですよねぇ。

ジモコロ編集部の徳谷柿次郎です。今回、僕はそんなリスペクトを本のつくり手に届けることができる、ある取り組みを紹介したいと思っています!

それが「Culti Pay(カルチペイ)」

これは「芽」のようなイラストの下にあるQRコードを通じて、読者から著者へ、直接「送金」できる仕組みなんです。

著者は本の巻末などに、自分の口座につながるQRコードを記載して、次のように読者に支援を呼びかけます。

Culti PayのQRコードは現在、「みんなの銀行」というデジタルバンクにつながっています。

その口座を著者と読者がそれぞれに持つことによって、口座間の送金とメッセージの送付が簡単に可能になる仕組み。

デジタル送金というと、PayPayみたいなもの? って思うかもしれないんですけど、PayPayなどの個人間送金用QRコードが時限付きであるのに対して、みんなの銀行のQRコードは個人口座に対して必ず一つ与えられるものなので、無期限。

著者が存命で口座が生きている限り、10年後でも、20年後でも、思い立ったときに送金できるのも特徴です。

 

読者は自分にいい影響を与えてくれた本のつくり手に「送金+メッセージ」というかたちで直接恩返しができる。著者は読者からの温かい支援を力に変えて、さらなる創作活動に励むことができる。

まさに「リスペクト」がめぐる仕組みです

 

考案したのは、編集者で作家の藤本智士さん

藤本さん(写真左)と、柿次郎(写真右)

藤本さんは著書「取り戻す旅」の巻末にこのCulti Payを記載し、自著専門の出版レーベルを立ち上げ、新しい出版にチャレンジしています。

 

今回ジモコロでは、藤本さんの取り組みに賛同する古書店「バリューブックス」の飯田光平さんと、印刷会社「藤原印刷」の藤原隆充さんを交えた座談会を企画。

藤本さんにCulti Payの成り立ちや思いを聞きつつ、みんなで出版のあり方について考えてみました。

☆話を聞いた人

編集者。1974年生。『Re:S』『のんびり』編集長。自著『魔法をかける編集』『アルバムのチカラ』等の他『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)『かみきこうち』(神木隆之介)などを編集。

1990年、神奈川県藤沢市生まれ。オンライン書店の株式会社バリューブックスに所属。『ゆる言語学ラジオ』『コテンラジオ』『ゲームさんぽ』といったクリエイターの支援を担当しつつ、自身も YouTube 番組『積読チャンネル』を運営。

1981年、東京都国立市生まれ。藤原印刷専務取締役。企画段階から仕様の提案を得意とし、個人法人問わず個性的で創発的な本づくり「クラフトプレス」をサポート。印刷屋の本屋、工場を開放した体験型イベント「心刷祭」など立ち上げ。共著に『本を贈る』(三輪舎 2018年)。二児の父。

 

出版システムを変える「実験」

20 年地方を旅し、本をつくり続けてきた藤本さん。自身の原点でもある自由で行き当たりばったりな旅をするべく、青森〜岩手を旅した4日間の記録を綴った『取り戻す旅』

「Culti Payについて、藤本さんがnoteにまとめてくれたものを読みました!」

「ありがとう」

「とても興味深い取り組みだなぁと思いつつ、出版流通の複雑さもあらためて感じて」

「そうやねぇ。ざっくりと経緯をお話しさせてもらうと、まず前提として、僕は、本って刷りすぎやなーと思ってて」

「世の中に出回ってる本が多すぎるという?」

「うん。出版点数という意味じゃなく、一冊あたりの本の刷り部数が多すぎると思ってます。その原因が現在の出版ビジネスの構造にあるのかなと」

「出版ビジネスの構造、僕の理解ではこんな感じです!」

【著者】→《出版社》→《取次会社》→《書店》→【読者】

まず著者がいて、その本を一緒につくる出版社がいる。その次に、その本を全国の書店に卸す取次がいる。そして、書店がその本を読者に届ける、と。

出版ビジネスの構造図

「そうそう。そのなかで、たくさんの本が刷られて、たくさんの本が廃棄されてる現状があるわけやね。それを実感したのが、17年前に『Re:S』という雑誌を僕がつくったときで」

「日本全国の『ローカル』に着目した先駆的な雑誌! 僕も大好きです」

藤本さんが2006〜2009年に制作していた雑誌『Re:S(りす)』。発行元はリトルモア

「ありがとう。そのときにね、書店で平積みされている有名な雑誌と、僕がつくる雑誌の大きな違いが、刷り部数であることを知ったの」

「刷り部数。『Re:S』はどのくらい刷っていたんですか?」

「頑張って1万部近く刷ったと思う。雑誌としてはかなり少ないんだけど、それでも1万部は自分のなかではかなり思い切った数字だった」

「インディペンデント系の雑誌で1万は普通にすごいなーって思います」

「でもね、当時全国に書店が1万数千軒あったわけ。1万部程度だったら各店舗に1冊ずつ配っても足りないし、1冊入荷してもらったところで、棚にスッと入れられて終わり

「切ない……!」

「雑誌を売るためには、書店でどういう風に展開してもらうかってとても大事なのね。だから有名な雑誌は大量に刷って、書店でいい場所に平積みされるように営業をかけていく。実売4万部の雑誌を8万部刷るとか、普通にあるんだよ

「すごい世界。じゃあ売れ残ったものは?」

「再出荷される本や雑誌も一部あると思うけど、最終的に断裁処分、つまりほとんどが廃棄されてる

「廃棄ってことは……捨てられてる!?」

「日本の出版流通のシステムには『返本』っていう仕組みがあって、書店で売れ残った本や雑誌は取次を介して出版社に差し戻される。そこでなんらかの廃棄処分がされているはずだよ」

「知らなかった……」

「でもそうやって文化を築いてきたのが雑誌なんだよね。そして、その雑誌を売るために成熟していったのが日本の出版ビジネス。だからとてもサイクルが早い。新刊が売れてなんぼの世界と言ってもいい」

「そこには書籍も含まれるってことですよね?」

「そう。その新刊がどれだけ売れたかで、著者には印税(※)が支払われるけど、僕はその仕組みにも違和感を持ち続けていて」

※……印税は「著作権の存在する著作物の発行にあたって、出版者から著作権者に支払われる一定率の著作権使用料」(日本大百科全書/小学館)のこと。通常、出版物の価格の5~10%を著者が受け取る。

「違和感、ですか」

「そもそも多くの著者はビジネス目的で本を書いてないと思う。というのも、それこそ初版から万単位の本を刷ってもらえる著者なんて一握りだし、そもそも初版から印税を10%貰えている作家さんだって少ない」

「そうなんですね」

「そんななかで、世の中の多くの書き手は、それまで生きてきた人生の知見を世の中にシェアしたいと、ある種、利他的な気持ちで本を出版してる」

「たしかに僕の自著も自分の人生の集大成みたいなものでした」

「だよね。だからこそ、その一冊にとって大事なのは、プロダクトとしての本もそうだけれど、本来、一番大切なのはその中身であり内容だよね」

「ですね」

「だけど現状は、そのコンテンツに対する著者への還元が著者印税のみだから、つまり、新刊として出版されるタイミングにしか発生しない。わかりやすくいえば、僕の本をブックオフで購入しても、図書館で借りても、著者には一切還元されないよね」

「確かにたまにXで著名な作家さんが『新刊買って! 図書館で借りないで!』とかポストされてるのを見ますね」

「そうなんだよ。それってその作家さんがケチだとかせこいとかっていう話じゃなくて、構造がそうだから、その人もそう言っちゃうんだろうなって思うわけ」

「なるほど」

「これだけ経済格差が広がる世の中で、僕は、古本屋や図書館はより一層大切な存在になっていると思う。だからこそ、古書店も図書館も肯定するための、出版や著者への還元の仕組みを誰かがつくらないと、ってずっと考え続けてきた」

「そういうことか」

「いま現在はお金がないっていう若者が、大人になって再びその本に出会った時に、当時この本に救われたなあと思って、著者に感謝のメッセージと送金をする。そんなふうに、読者がその本とどこで出会おうが、どのタイミングであろうが、直接的に感謝を伝える窓口を作った。それがCulti Pay」

「理解しました! ちなみにこのサービス名、どういう意味なんですか?」

「culture(文化)の語源でもあるcultivate(耕す)とpay(支払う)を合わせた、造語です。QRコードから芽が生えているようなイメージにしているのは、QRコードの『コード』=『耕土』という意味も掛けてる」

「文化、耕す、支払う。いいキーワードですね」

「うん。だけど実際に運用することで何か不具合がおきないか、まずは実験する意味もこめて、自分の本『取り戻す旅』に実装させて、ゆるやかに書籍を流通させはじめてる」

「実際やってみてどうですか?」

「正直、良いことしかない。友人に本を借りましたというメッセージとともに、北海道の女性が1000円送ってくれたり、数年前からファンで応援してますというメッセージとともに、埼玉の男性が3000円送金してくださったり、何よりメッセージがともにくるのが嬉しくて」

「すごい。それは嬉しいですね」

「この実験的な取り組みに賛同してもらって、今回とても大きな協力をしてくれているのが、そもそもは僕が一方的に憧れて、リスペクトしているバリューブックスと藤原印刷というふたつの会社なんだよね」

「どういう関わりなのかめっちゃ気になってきました。お二方にも話を聞いていきます!」

 

リスクを背負って「抗う」印刷会社

「では、藤原印刷から。藤本さんの方から今回の関わりを簡単に説明してもらっていいですか?」

「藤原印刷には『取り戻す旅』の印刷をお願いしてるんやけど、何が僕のなかでフィットしたかっていうと、まずは『心刷(しんさつ)』っていう会社のポリシー」

「心刷。深い言葉の響きですよね」

「一人ひとりのつくり手を大切にして、一冊一冊に心を込めて刷るっていうのが、シンプルにすばらしいなぁと」

「ありがとうございます」

「その上で、実際に『クラフトプレス』っていう言葉を提唱して、個人やスモールチームがつくるインディペンデントな本の印刷を積極的に行ってる。それでちゃんと実績を出しているところもすごいと思う」

藤原印刷が印刷を手がけた「クラフトプレス」の一部。本をつくる人を増やすことを目指している

「僕も自分の出版レーベルの本づくりでお世話になりました!」

「僕はCulti Payを通じて小さなつくり手を応援していきたいし、つくり手へのリスペクトがぐるぐると循環するようないい仕組みをつくっていきたいと思ってるから、まさにそういう考え方ともつながるなぁと」

「なるほど。藤原印刷は今回、純粋に印刷会社としての関わりなんですか?」

「そうですね。もちろん藤本さんの企画に賛同していて、Culti Payがもっと広がったらおもしろいなという思いで、僕たちなりに新しい取り組みをさせてもらいました」

「ほうほう、具体的にはどんなことを?」

「実は今回、サステナブル文脈の観点からも、通常のインクではない『まぜまぜブラック』と名付けたものを使わせてもらっていて」

「まぜまぜブラック? なんかかわいい名前」

「子どもの頃、いろんな色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたりしませんでした?」

「あ〜しましたね」

「そうすると、最終的に黒っぽくなるじゃないですか。あの原理で、余ったインクをちょっとずつ混ぜて、黒っぽくしたのが『まぜまぜブラック』ですね」

「まぜまぜブラック」を使った藤本さんの著書。とっても読みやすくていい感じ

「めっちゃおもしろいアイディア! パン屋で言うところの、パンの耳みたいなものってことですよね」

「そうですね。これまでどこかで使ったインクをほかの印刷物に転用するというのはやったことがあったんですが、余ったインクを全部混ぜて黒にするというのは、初めての取り組みで」

「柔軟な発想ですよね」

「同じものは二度とつくれないので、増刷のときは微妙に色が変わるんですけど

「それも味があっていい! 廃インクの再利用は環境負荷の軽減にもつながりますし、ビジネス的にも合理性があるなと」

「はい。ただ、合理性という観点だと、著者サイドと印刷会社ってちょっと立場が違うかもしれないなぁと思ってて」

「というと?」

「さっき、本が捨てられているっていう話がありましたけど、印刷会社としては、捨てられようがなんであろうが、たくさん刷った方が儲けられるんです

「あ〜短期的な視点ではそうかもしれないですね。でも、藤原印刷はつくり手に寄り添う小規模な印刷物もたくさん手がけて、それがブランド力にもなってる」

「これはちょっと大きな話になっちゃうかもしれないんですけど、僕は、一人ひとりのつくり手が、本をつくってよかった〜と思わない限り、本という文化がしぼんでいくんじゃないかと危惧してるんです」

「めちゃくちゃ大事な考え方ですね。視点がでかい!」

「藤本さんの取り組みは、一人ひとりのつくり手を大切にすることでもあるし、それはきっとこれからの本の文化にもいい影響を与えてくれると思います」

「さすが『クラフトプレス』の会社。既存の出版システムを敵に回しても大丈夫ですか?」

「防衛トークですが、敵に回すつもりはないです(笑)。ただ、システムは時代環境によって変わっていくもので、現システムの綻びを新しい仕組みが生まれてカバーしていくのは自然な流れだと思っています。たくさん刷って儲けたいですけど、それ以上に大事にされる本を増やしたいんです」

「それ、印刷会社の経営者のセリフ?(笑)って思うけど、そういうところが最高すぎる会社」

 

古書店から見る、出版ビジネス「刷りすぎ問題」

選書家としておすすめの本を紹介するYouTubeチャンネル「積読チャンネル」も人気の飯田さん

「続いて、バリューブックス飯田さんに話を聞きましょう!」

「うん。僕のなかでバリューブックスを大きく印象付けたのが、飯田くんが書いた本が再生紙になる過程の記事なんよね」

古紙回収に回った本は、数々の工程を経て、再生紙へと生まれ変わっていく。詳しい工程についてはぜひ記事を!

「あれが、僕が長年思ってた『刷りすぎ問題』を事細かに説明してくれる、僕にとっては、めっちゃスッとする記事で。それがとてもよかったから、一緒に何かできないか提案させてもらって」

「今回バリューブックスは、どんなかたちで藤本さんの本と関わるんですか?」

「藤本さんの本をバリューブックスから買ってもらった場合、売値の33%を藤本さんに還元することにしました。本が何回転しても、その売値に対して33%バックします」

「33%!!」

「著者印税ってマックス10%やからね? とんでもない還元率」

「直接的な利益はほとんどないんですが、うちはそれで会員登録が増えて、ほかの本も売り買いしてもらえるようになったらいいなと思ってるので大丈夫です。広告費みたいな考えですね」

「藤原印刷といい、バリューブックスといい、いい意味でイカれた会社が集まってる!」

「シンプルにCulti Payを応援したい気持ちからそうさせてもらってます。何より、藤本さんがおっしゃってた『刷りすぎ問題』とか、僕自身も感じてきたことでもあって」

「確かに本の刷りすぎって、最終的な受け皿でもある古本屋さんが一番感じるところかもしれない?」

「実際、うちは一日に2万冊以上も本を古紙回収に出しています」

「一日に!? ヤバいですね……」

たくさん刷られた本は、市場で価格が付かないんですよ。もちろん企業努力もしていますが、刷られ過ぎているのが根本の問題なので限界もありますね……」

「罪悪感あります?」

「ありますけれど、そもそも『こんなに刷らなくてもいい状況にできないのかな』とは思います。うちは本が最後にたどりつく場所なので、罪悪感は出版社の方が感じているかも知れないですね」

「実際に本をつくってる人たちですもんね」

出版社も、ずっと本を保管してはいられないんですよね。本は資産に見なされてしまうので、税金対策として断裁せざるを得ない。刷った本はずっと持っていればいい、といった簡単な話ではないんです」

「そうなんだ!」

「だから、前に書いた記事のなかで『本の95%はちゃんと再生紙になってますよ』っていうことを伝えたら、出版社の人から『ちょっと救われました』みたいな声もいただいて」

「出版社の人でも、廃棄された本の行先はブラックボックスだったんだ」

「出版社って新刊からしか利益を出せないので、在庫がなくなったら増刷するしかないんです。出版社も本を余らせたいわけじゃないですが、刷り過ぎてしまったら断裁せざるを得ない。その繰り返しなわけです」

「構造的なジレンマがありそう」

「ちょっと恐ろしい話ではあるんですが、、最近、本離れが進んでるって聞くじゃないですか?」

「聞きますね、みんな本を読まなくなってると」

「実際、日本全体の本の売上って90年代をピークに下がり続けてるんですけど、それと反比例するように書籍の出版点数は増え続けていたんです。2013年くらいで出版点数は少しずつ減ってますが、それでも年間6万点以上出版されてる。これって30年前のほぼ倍の数字なんですよ」

出版市場(推定販売金額)の推移。紙の書籍と雑誌が減少する一方、電子コミックなど電子媒体が増加していることがわかる(グラフはHON.jp News Blogの記事より)

「そんなに新刊って出てたんだ」

「僕は古本屋だから思うことかもしれないけど、そんなに刷らなくても、本って市場にはいっぱいあるわけですよ」

「読みものが足りないってことはないでしょうね」

「問題なのは、新刊からしか利益を生み出せない構造であって、出版社が中古から利益を得られるようになったらいいじゃないですか」

バリューブックスでは、古本が売れたときに本の作り手へと還元する「本の循環」を生み出すべく、さまざまなチャレンジを行っている。詳しくはバリューブックスHP

「確かに。そろそろ構造から逸脱した出版社が出てきてもよさそう」

「そこにCulti Payがどんな影響をもたらすのかっていうのは興味深いなぁと」

「飯田くん、僕の違和感を言語化するのめっちゃうまい」

「出版流通の外側から全体を俯瞰する会社、バリューブックス。藤本さんのまわりの人たち、頼もしすぎる!」

 

魂がへばりつくもの、本

「藤本さんのこの取り組みって、大事な問題提起ですよね。出版システムは必要な側面もあるけど、もっとシンプルにつくり手にリスペクトして、つくり手に直接お金渡せたらいいじゃんっていう」

「そうですね。でもそのシンプルなリスペクトをないがしろにしちゃうような、無用ないがみ合いをよく耳にしますよね。先ほど、藤本さんが言ってくれたような、図書館で読まないで~とか、立ち読みやめて~とかそういう」

「ネット上でも定期的に荒れますもんね」

「でも、つくり手はどんなかたちであれ、読んでもらえたらうれしい。藤本さんの取り組みは、そのつくり手の気持ちにまっすぐリーチした仕組みでそこがいいなと思って」

「それはほんとにそうなんだけど、僕は今、別のことも思ったんですよね。それは本という商品の特殊性で」

「特殊性」

「僕らは無意識に『本はすばらしい』っていう前提を共有してるじゃないですか。でもこれが家電だったら、『この冷蔵庫のつくり手に還元したい!』て思うひとは少ない。そう思ったっていいはずなのに」

「その視点は確かに。本だから、そのつくり手に還元したいみたいなところはあるかも」

本はどうしても著者の分身のように感じられるというか、つくり手の魂がへばりつくものなのかも知れない。そういった特殊な商品だから、様々な思いが生まれたりぶつかったりしてしまうのかも」

「それは実に腑に落ちる言葉だよね。本っていうのはそういう特殊なものでもあるわけで、収益のためとか、右肩上がりの成長のためだけに、消費されていいものじゃない」

「真摯にものづくりに向き合ってる人は首を縦に振りまくってるだろうな」

「だから僕は抵抗の意味も込めて、極力、重版もしたくない。それやったら負け、くらいの価値観を提示したい」

「違和感に立ち向かう、パンクなCulti Pay。自分の本に入れたくなってきたな〜」

 

すべてのつくり手をリスペクトする

「ところで柿次郎さ、自分の本どのくらい刷った?」

「4000です」

「めっちゃしんどくなかった?」

「しんどかったです。全国を渡り歩いて、営業して。3000の壁を感じました」

2023年に著書『おまえの俺をおしえてくれ』をインディーズ出版した柿次郎

「そうやろ。そう考えるとさ、取次さんってすごいよね。全国の書店に綺麗に配本してくれるんだよ。でもさ、そのためには、柿次郎の4000部っていう部数は、取次さんに扱ってもらうには中途半端すぎる数だよね」

「ですね。取次さんを頼って書店に卸してもらっても、埋もれちゃうだけという気がします」

「村上春樹みたいな大作家とかじゃなかったらさ、『普通』の著者は数千部スタートだよね。でもそういう部数感で回していく正解を、いまはあらゆる著者や出版社が、みんなして探ってるんだと思う」

「わかります。いまは独立系書店さんも増えて、直接取引してくれる本屋さんも多いですしね」

「僕は今回、文学フリマというイベントに初出店して、この新著をデビューさせたんだけど、そこに集まるような小さな版元さんや書き手の方にCulti Payのことを話すと『え、これ私もやっていいんですか?』って言われる。当然、やってほしいんだよ!

「僕も本出したときにこれあったら、絶対入れてました」

「ただ、一冊もやってないうちから人に勧めるのも無責任やなって思うから、まず自分がやってみることにしただけで、確かな手応えを感じている今、とにかく多くの人に勝手に使って欲しい。データダウンロードできるページもあるので」

「たくさんのつくり手に広がる可能性ありますよね、これ」

「だといいな。それでいうと、僕は本の著者に限らず、編集者もデザイナーもカメラマンも、いろんな人がCulti Payを使ってくれたらいいなと思ってて」

「おお!?」

「実際、一冊の本にはいろんな人が関わってるわけやけど、この人の仕事すごくいい! って思ったときに、個別にチャリンってできたらどう?」

「めっちゃいいと思います! チャリンされた方もうれしいはず」

「映画でもエンドロールの最後にCluti PayのQRコードが出てきて、みんながそれを読み取ってドネーションするみたいな世界があってもいいやん」

「そう考えるとCulti Payって、あらゆるつくり手への『リスペクト』を促すツールでもあるのかもしれないですね!」

「そう、僕はこれを今実験的に自分が関わってきた本づくりの分野で実装しているけど、大きな視点で言えば、あらゆるものづくりに転用できる」

「いいですね、ものづくりの発展に寄与するアイディアだ」

「従来の仕組みにはもちろん尊さもあるけれど、時代は変化してる。型にはまってものづくりをするんじゃなくて、Culti Payという便利なツールを使って、もっとみんな自由になればいいと思う」

「自由!」

「リスペクトを送り合って、囲い込む経済からシェアしあう経済にしたい。そうやって、みんなが気持ちよくものづくりができる世の中になったら、めっちゃいいなあって思ってる」

 

☆お知らせ

・藤本智士さん著『取り戻す旅』の販売ページはこちら

 

・9/4に長野・御代田でトークイベント「これからの出版とお金の仕組み”Culti Pay”の話」を開催予定! 詳細とイベント申込みはこちら

構成:根岸達朗
イラスト:松元ミシリ(Instagram