みなさんこんにちは。ライターの風音です。季節の変わり目、衣替えのシーズンですね。
ところでみなさん、衣替えのたびに「この服気に入ってはいるんだけど、去年1回も着なかったな」「まだ全然着れそうだけど、なんかピンとこないんだよな」という服たちが出てきませんか?
思い出があるし、捨てるのは忍びない。売るとなったらタダ同然の値段になりそうだし、とりあえずクローゼットに入れるものの、結局着ないまま次の季節を迎える……。
これまでそんなことを何年も繰り返していた私ですが、最近その悩みから解放されたんです!
それは、長野県松本市にある古着屋「Monique vintage store」のおかげでした。
外から見ると一見普通の古着屋さんですが、2023年9月から店内に工房を構え、「リペア・リメイク」「古着の買い取り」のサービスを行っています。
店主の和泉澤沙知(いずみさわさち)さん、景山範子(かげやまのりこ)さん は、松本出身の幼馴染同士。東京の服飾専門学校卒業後、2006年に地元・松本にUターンし古着屋をオープン
「もう着ないかも……」という服を持っていくと、「また着たい!」と思える服にリメイクしてくれます。
オーバーサイズの古着のTシャツを、スリット入りの細身のタンクトップにしてもらい、お気に入りの一着に
おばあちゃんにもらった手編みのニットを組み合わせて、オーバーサイズのセーターにリメイクしてもらった人もいるらしい……!
でも、リメイクサービスを利用する機会が増えてから、新しく服を買う頻度が減ってきた気が。あれ? 本来、服を売るのが古着屋さんの仕事のはずなのに、それで大丈夫なの?
もともとある服を売るよりも、わざわざ持ち込まれた服にリメイク・リペアのサービスを施すのは手間も時間もかかるはず。とってもありがたいけれど、どうしてこんなサービスを始めたんだろう?
お話を聞いてみると、こんなことがわかってきました。
・「誰かが手放した服」で溢れている世の中への疑問
・アメリカの買い付け先で「古い服」が見つからなくなってきた?
・いい古着は地元に眠っているのかも
・一着の服をいつまでも「お気に入り」のままで着続ける工夫
「一着の服を長く大切に着る」ためのヒントを、お二人から聞いてみましょう。
生き残るためのリペア・リメイク技術が強みになった
「元々、私がMoniqueさんに通い始めたのは商品のラインナップが気に入っていたからなんです。古着はどこから仕入れているんですか?」
「店で扱っているのは主にアメリカ古着で、1960年代から1990年代頃のカジュアルな服です。商品は直接アメリカまで自分たちで買い付けに行っています。アメリカ古着にこだわっているというよりは、アメリカにはいろんな国の古着が集まってくるから面白くて」
「そもそも古着って、買い付けしてからはどういう流れでお店に並ぶんですか?」
取材時に来ていたTシャツも、以前「Monique」さんでサイズをリメイクしてもらった古着
「まず、一度に段ボールに二十箱ぐらいの古着を買い付けしてきます。ジャンル別に分けて洗濯をしてから、ほつれや破れ、汚れを修繕します。ステッチが取れているのを縫い直すこともあるし、ファスナーを取り替えたり、ボタンを変えたり」
「デザインがかわいくてもサイズが大きすぎる場合は、日本人の体型に合うようにサイズごとお直しすることもありますね。買い付けの時点で、ある程度は『これは後で直せそうだから買っちゃおう』とリペア・リメイクのイメージをしています」
「えっ、古着屋さんって、買い付けてきた古着をそのまま販売しているものだと思っていました。それだけの手間がかかっているんですね」
「うちで扱う古着はちょっとでも気になる部分があれば手を入れるので、そのまま出すってことはないかも」
修繕の過程で取り外したボタンは、捨てずに別のリメイクで再利用
「うちの場合は、さらに、お店で売れ残っている在庫をリメイクすることもあります。例えば、その服はもともと一枚のチュニックだったんですが、丈が微妙でなかなか売れなくて。そこで、ウエストでカットして上の部分をブラウスにしたんです」
「下の部分を捨てるのがもったいなかったから、肩紐を付けてビスチェにしてみたんだよね」
一着のチュニックが、ビスチェ(左)とブラウス(右)に生まれ変わった
「どっちもかわいい! 二着それぞれ買い付けてきたんじゃないんですね」
「それこそお店をオープンしたばかりの頃は、せっかく高いお金をかけて買い付けに行っても、服が売れ残ってしまったらお金にならないので。『なんでこの服は売れないんだろう?』と二人で考えてはリメイクして、売り切ろうと必死でした」
「そうか、どうして古着屋さんがリメイクのサービスを? と思っていたんですが、特別新しいことを始めたわけではなくて、もともとは売り切るための努力だったんですね」
「そうそう。私たちがお店をオープンした頃から比べると、松本にはここ数年でかなり古着屋さんが増えてきたんです。お店を続けていくためには、なにか変えないといけないなと」
「自分たちだけにできることを押し出していきたいなと考えた時に、私たちがこれまでやってきたリペアやリメイクの技術は強みなのかもしれないと思って」
「いい古着」は地元に眠っている? 地元での買い取りをスタート
「それから、古着屋さんを続けていく中で、年々『私たちはこのまま服を売り続けていていいのかな?』という疑問が大きくなっていたんです」
「それはどうしてですか?」
「買い付けにいくたびに、誰かがいらなくて手放した服たちが、ものすごく大量に積まれているのを目の当たりにするんですよ。それを見ていると、『世界中の人の分の服は、もうこの世に足りているんじゃないか?』という気持ちになってくるんです」
アメリカでの買い付けの様子
「私たちはもともと古着が好きだったけど、ほとんど新しい服を買わなくなったよね。下着や靴下は新調するけど、普段着ている服はほぼ古着だけ。今ある服を少しでも長く着たいという気持ちにシフトしていきました」
「ここ数年は、わざわざアメリカまで行っても、買い付け先がいわゆるファストファッションの服で溢れていて、『古くていい服』を探すのがかなり難しくなってきた。最近出たばかりのデザインの服も山ほどあって。『このままでいいのかな?』ってモヤモヤがあったよね」
「一方で、お客さんからは『大事に取っておいた古着をリサイクルショップに持って行ったらタダ同然の値段になっちゃった』『最近着なくなった古着があるんだけど、捨てたくない』という声を聞いていて。だから、リペア・リメイクと買い取りのサービスを始めたんです」
「なるほど。でも、なぜ地元の松本で買い取りを?」
「アメリカ古着は、古着ブームで日本にもたくさん流れてきているはずなんですよ。アメリカに買い付けに行っても見つからないなら、日本で探してみてもいいのかもしれない。買い付けはこれからも続けるけど、自分たちの近くで眠っている古着を見つけたくて」
「実際に買い取りサービスを始めてみたら、本当にみんな本当にすごくいい古着を持ってきてくれたんですよね。日本どころか、松本の街にいい古着が眠ってた」
「へー! すごく面白いですね」
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「可愛らしすぎて着なくなった」という地元のお客さんから買い取った古着のチュニック。袖にシミがあったためノースリーブにし、ほつれた刺繍を直して店頭へ
「古着好きな人ほど、『捨てたらもう手に入らない』ってわかってるから、着なくなった服でもいい状態で大事に取ってあるんですよね。私たちは2006年からここで古着屋をしているんだけど、常連さんたちも歳を重ねるに連れてライフステージや好みが変わっていて、『もう着なくなったけれど取っていた』という人が多かったんです」
「年齢とともに着る服のテイストが変わってくるの、すごくわかります」
「ダメージやシミがあると、お直しの手間がかかる分だけ買取価格は少し安くなってしまうけど、ちゃんとお値段つけて買い取りをしています」
「買い取りに出すつもりで古着を持ってきてくれた人が、『やっぱりまた着たい!』って結局リメイクの依頼をしていくこともあるんですよ。買い取りで出たお金を別の古着のリメイク代に使ってくれることもあるし」
「すごい、服の循環が生まれてる!」
「一着の服を長く大切にしたい」という価値観を持つ人が増えている?
「Moniqueさんが街にあることで、『着なくなったから捨てる』以外の選択肢ができたんですね」
「買い取りよりも、リメイクの方が反響がありましたね」
「たとえば、県外に引っ越した元常連さんが、リメイクのサービスを始めた投稿を見て、わざわざ松本まで来てくれたんです。それが、おばあちゃんにもらった手編みのニットのリメイクの依頼で」
「全部手編みですごくかわいかったんだけど、どれも袖や丈が短かかったり、虫喰いやシミが結構あったりしたんです。そういう部分を取り除いて組み合わせて、パッチワークのセーターにしました」
子供サイズだった五着のニットを組み合わせて、ゆるっと着られる二着のセーターにリメイク
「えー、素敵! そんなこともできるんですね」
「うちのサービスを利用してくれる人は、こういう思い入れのある古着を持ってくる人が多いですね。いわゆるお直し屋さんは世の中にすごくたくさんあるけど、センスや服を扱う感覚が近い人に頼みたいと思ってもらえているのかな」
「松本の野外音楽フェス『りんご音楽祭』とコラボしたリメイクグッズも作成していましたよね。あれはどういう経緯で実現したんですか?」
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過去のグッズの在庫をリメイクしたTシャツやサウナハットは、開場直後に完売したアイテムも出るほどの大好評だったそう
「主催者のdj sleeperがもともとうちの常連さんで。リメイクのサービスを始める前から、個人的にお直しの依頼を受けていたんです」
「フェスのグッズって、当日以降は一気に売れなくなるから、大量に生産されては終了と同時に大量破棄されてしまうことが多いらしくて。りんご音楽祭は、開催年度をプリントせずにシーズンアウトを防いだり、在庫をオンラインショップで販売したり、なるべく廃棄をしないための工夫を重ねてきたけど、過去の在庫がまだたくさん眠っているという相談をされたんです」
「そこから、『服をゴミにしたくないよね』という思いでコラボが決まって。約一年間かけて試作を繰り返し、去年から販売を始めました。」
「たしかに過去のフェスTシャツってなかなか買いづらいし、リメイクはすごくいいアイデアですね!」
サイズの異なるTシャツ2枚を手作業で組み合わせていく
「最初の年は、リメイクとはいえ在庫だし、数千円の値段を出して買ってくれる人がいるのかなと不安でした。でも、無事に完売して。古いものを長く使うとか、捨てないっていうところに共感してくれているのかなと」
「地元でそういうコラボができたのはすごくよかったよね。グッズをきっかけに、古着やリメイクの考え方をちょっとでも知ってもらえたらうれしいし」
『ご近所物語』に憧れた二人の古着屋が、地元の成功事例になるまで