「大阪はツッコミ文化で個性が育つ」カジカジ編集長が語る関西ファッションカルチャーの謎

2018.06.11

「大阪はツッコミ文化で個性が育つ」カジカジ編集長が語る関西ファッションカルチャーの謎

個性的な大阪のファッションカルチャーはなぜ生まれるのか? その謎を探るべく、関西で人気のファッション誌『カジカジ』編集部に取材してきました。

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    ジモコロをご覧の皆さん、はじめまして。ライターの長橋です。本日は、大阪のアメリカ村からお伝えいたします。

     

    なぜ僕が大阪に来ているのかというと、大阪のファッション文化を調査するため。

    かなり勝手なイメージではありますが、大阪のファッションってかなり独特ですよね。

     

    よくイメージに持ち上げられる「ヒョウ柄の服を着たおばちゃん」然り、派手な服装の人が多いようにも思えます。

     

    とはいえ、実際に大阪に住んでいるオシャレな人は、どんな格好をしているのでしょうか?

     

    先日なぜかそのことが気になってインターネット上で調べてみたのですが、世のファッションサイトは“東京の情報”を届けていることが大半のようで、大阪のファッション情報があまり出てこないのです。

     

    そう考えてみると、大阪のファッションカルチャーは他の都道府県に比べると独自の進化を遂げているのではないでしょうか。ヒョウ柄の服を着るおばちゃんが大量発生するとか、大阪以外は絶対ないはず。

     

    大阪のファッションカルチャー気になる。めっちゃ、気になる。

     

    大阪のストリートで調査してみた

    ということで、実際に調べにやってきてしまいました。新幹線に乗って、日帰りで。

     

    到着し、気ままに大阪の街を歩いていると、運良く(マジで運良く)オシャレな皆さんにめぐり合うことが出来たので、以下で伺ったお話を紹介します。

     

    堀江にある古着屋「MIXED BAG」のスタッフさんたち

     

    「すみません、お兄さんのヒゲはダリを真似しているんですか?」

    「いえ、これはインカアジサシという鳥のヒゲがモチーフです」

    (さすが大阪人、初対面でボケをかまして来た……)いやでもお二人とも、色物や特徴的なアイテムを使っていて、いかにも『大阪の古着屋さん!』って感じのファッションですね…! やっぱり東京に比べたらちょっと派手なのかも」

    「それ褒めてます? で、何の用でしょう」

    「あの、関西のオシャレな皆さんはどんな雑誌を参考にしているかを聞きたくて」

    「そうですね、やっぱりカジカジです」

    「僕ももちろん、カジカジですよ。もう20年くらい読み続けていますね」

    「(……?)」

     

    堀江のセレクトショップ「THE GROUND depot.」のスタッフさん。着ている服は「nonnative(ノンネイティブ)」の新作だそう

    「店内もお兄さんもオシャレでカッコイイですね…。ちなみになんですけど、ファッション雑誌って、どんな雑誌を読んでらっしゃいますか? お兄さんほどかっこいい人が、どんな雑誌を読んでいるのか気になって」

    「やっぱりカジカジですよ。ずっと僕らのバイブルです」

    「(……??!!)」

     

    中崎町のセブンイレブンで出会ったオシャレな若者たち。写真/ようすけさん(古着屋JAMスタッフ)、写真右/たくみさん(学生)

     

    「かっこいいお兄さんたち、よく読む雑誌とかってありま…」

    「やっぱりカジカジですね。カジカジがなかったら、今の僕はなかったと思います」

    「僕もカジカジ以外のファッション雑誌は読まないです」

    「(……????!!!!)」

     

    カジカジって、何?

     

    なんなのだろう、さっきから出てくる「カジカジ」というワードは。街のオシャレな人に話を聞くと、僕が知っていることを当然のように皆「カジカジ」という雑誌を挙げてくる。あと「やっぱり」って言い過ぎじゃない?

     

    あまりに気になるので近くのコンビニに入ってみると、確かにあった。これが「カジカジ」か!

    どうやら隔月で発行されている関西圏のファッション雑誌らしい

     

    オシャレな人はみんな「カジカジ」を読んでいることはわかったが、ちょっと全員が全員、読みすぎじゃないだろうか?

     

    というか大阪には「ファッション雑誌を読む」という文化がちゃんと残っているということも衝撃だ。
    Zipper」や「CHOKi CHOKi」など一時代を築いたファッション雑誌が休刊し、「ファッション雑誌は明るい未来がない」と言われている昨今だが、大阪はどうやらそうではないらしい。

     

    何より、「カジカジ」という雑誌が大阪ファッションを牛耳っていると言っても、過言ではないのではないか。

     

    ということを思っているだけでは仕方ないので、「もういっそのこと行ってしまえ!」とカジカジ編集部に実態を聞いてきました。

     

    カジカジはInstagramのはしりだった?

    今回お話を聞いたのは、カジカジの編集長・羯磨(かつま)さん。珍しい名字。

     

    「今日は関西のファッション文化と『カジカジ』がローカルに根付いた雑誌として人気を誇っているワケについてもお聞きしたいんですが……というか羯磨さん、お顔がめっちゃ怖いんですけど、怒ってますか……?」

    「いえいえ、全然怒ってないですよ。9歳の頃からこんな顔です

    「(9歳の時になにがあったんだろう)でははじめにお聞きしたいのですが、関西の人、皆さんカジカジ読み過ぎじゃないですか? ひょっとしてサクラ仕込んでました?

    「いやいや、たまたまですよ(笑)。でもおかげさまで、関西圏ではすごく愛していただいてますね」

    「たまたまでそんなに読まれてます? そもそもカジカジって、どのくらい続いている雑誌なんですか?」

    1994年の秋頃に創刊をしたので、今は24年目になりますね。当時は関西エリアを中心に取り上げるファッション誌はなくて。たぶん全国的に見ても、ローカルに絞ったファッション誌はカジカジが初めてだと思います」

     

    「カジカジ」の記念すべき創刊号

    「おお、時代を感じる表紙! でも『アメリカ村がスキになる!!』や『みんなのスタイル満載!!』は今でも普通にありそうなキャッチコピーですね」

    「基本的にはカジカジって、創刊号から最新号に至るまでの24年間、雑誌をつかさどる大きなテーマは変えていないんです。それがカジカジの売りの一つでもあるかもしれません」

    「大きなテーマとは……?」

    実際に街にいる人を紹介する、というところです。例えば雑誌の表紙も含め、誌面に登場するモデルさんは基本的にプロの人ではなくて、街にいる人なんです」

     

    創刊号から続いている「街の眼」では、一般の方のスナップ写真を掲載している

     

    「街にいる学生さんとか、古着屋のスタッフさんなどに直接声をかけてお願いをしているんです。これはなぜかというと、モデルや俳優などのプロを使ってしまうと読者にとって親しみがあんまり無いからで……

    「親しみがない? どういうことでしょうか」

    「プロの方ばかり誌面に載っていたら、それは一般的なファッション雑誌と同じになってしまいますよね。もちろんモデルさんに出ていただいた方が誌面に彩りが出ると思うのですが、それでは“関西の今”は伝えられません。街での流行りもわからないし、ローカルでやる意味もなくなります」

    「確かに、それだと東京の雑誌と変わらないですもんね」

    「はい。また、プロは読者にとっていわゆる“高嶺の花”。ゆえに憧れというよりも、少し“壁”ができてしまうんじゃないかと思っていて。手の届かない存在を紹介しても、読者は簡単に真似をすることはできません。ローカルファッション誌なのに、親近感がなくなるんですよ」

    「なるほど! だから読者が真似をしやすい、同じ立場の人を載せていると」

    「そうですね。誌面には友達が載っている場合もあれば、よく行くショップの店員さんが載っていることもあるかもしれません」

    「なんかInstagram(以下、インスタ)とかでよく見るインフルエンサーに似てるなって思いました。10代の憧れる対象が芸能人から、より身近なインスタの有名人(隣の学校の可愛い子、くらい)に移ってるって話を最近聞きまして。カジカジはインスタの走りだったのかもしれない!

    「そうかもしれませんね(笑)。ただまあ、それはローカルだからこそ、できることなんですよ。特に半年に一度の“スタコレ(スタイルコレクション)”という特集では、400人ほどの読者が出ていまして」

    「400人もいたら『この人の格好、真似してみたいな』と思う人もいるでしょうね……。しかもその辺にいる人だから、親近感もあって真似しやすい」

    「またもう一つ。これは僕の一意見ですが、ファッションに興味を持つのって、“モテたい”という意識から入る方が多いのかなと思っていて。ただ、うちではその要素は極力入れないようにしているんです。『春のモテファッション!みたいな特集って組まないんですよ」

    「え……?」

    「ファッションって、異性にモテたいから頑張るものなんじゃないんですか?」

    「長橋さん、それは偏見です」

    「失礼しました」

    「ファッションへの興味の最初の入り口は、“モテ”でも、“憧れの芸能人が着ているから”でも、なんでも良いと思うのですが、その興味を突き詰めていくと、最終的にはモテるのが目的ではなくなって、“ファッションが好き”になっていくのではないかと思うんです

    「ふむふむ」

    「ただ誌面がいつまでも“モテ”を意識していては、モテを通り越してファッションが好きになった人が別の雑誌に移ってしまいますよね。それだけが理由というわけではないですが、カジカジはトレンドを追いかけるばかりではなく、“ファッションが本当に好きな人向け”に記事の構成をしています

    「世の中のファッション誌が、すべてモテを意識しているわけではないんですね……」


    「『変わらない』ことは『新しさがない』と受け取られるかもしれませんが、ファッションが好きな層からはある程度支持を受けているのかなと」

    「ああ、どうりで街で話したカジカジ読者のみなさんは『自分の好きなファッション』をしてた感じがしますね」

     

    カジカジの誌面に出てくる“街の人”は、なぜかヒゲとロン毛が多いという。羯磨さん曰く「これも関西ファッションらしさ」とのこと。

     

    関西のファッションは、なんで派手な人が多いの?

    「関西のファッションって、勝手なイメージですが『派手』という印象があるんです。いわゆる『大阪のおばちゃん』とか」

    「インターネットの台頭によって情報の伝達が均等になってきていて、昔よりも各地域のファッション性がフラットになってはきていると思います。ただ、やはり“色物”や“柄もの”をコーディネートに取り入れる方は今でも多いかもしれませんね」

    「なぜなんでしょう?」

    「たぶんですけど、周りの人と一緒の服を着たいと思う人が少ない土地柄なんでしょうね。長橋さん、関西といえば、パッと何が思いつきますか?」

    「えっと、お笑い……ですかね」

    「そうです、そうです。関西の人って、やっぱり“お笑いの文化”が強いんですよ。で、言うなれば、ボケとツッコミの文化です。要するに派手な洋服を着て、友人に『それどこの?』って聞かれて『どこどこのブランド』って言いたいんですよ。個性を出したいというか

    「派手な洋服というツッコミどころを作るということですか?」

    「ギャグというわけではなく、あくまで個性を出すということですよ。そういう意味では“古着”なんかは一点ものであるので、人と違うものを着ることができますよね。関西に古着屋が多く、根強い人気を誇っているのはそういう理由があるかもしれません。あくまで持論ですけど」

    「言われてみると『何すかそれ?』と聞きたくなる人が多かったような」

    「あとは『東京の人のように似通ったファッションをしたくない!』といった反骨精神もあるのかも」

    「羯磨さんも実は僕を見て『この東京人には負けねえ』って思ってます?」

     

    「………………」

    「………………」

     

    「いやいや、思ってないですよ(笑)」

    「なんで無駄に溜めたんですか」

    「東京と関西の違いで言うと、関西では古着やストリート・アメカジブランドが20年ほどずっと人気ですね。一時期東京で流行っていた“細身の洋服”などは、着ると周囲からイジられていたこともありましたよ」

    「モード系はあまり好まれないと」

    「個性が出しづらいんでしょうね。全身黒い服だと、見た目も目立ちませんし(笑)」

    「やはり目立つのが重要なのか……!」

     

    ファッション雑誌って、今後どうなるなの?

    「先ほど『関西はファッション好きが多い』というお話がありましたが、羯磨さんから見て、ファッションを好きな人って減っている傾向にあるのでしょうか。東京だと様々な雑誌が休刊をしていますし……」

    SNSやインターネットの発達によって多種多様の世の中になっているので、そういう意味では減っているのかもしれません。安くて良いものを選べるようになっている時代ですし。ただ、関東に比べるとそこまで減っていないかもしれません。トレンドを追いかけている人も、東京よりも少ないと思いますし」

    「というと、紙媒体の不況と言われる昨今でも、カジカジはそこまで部数は落ちていないのでしょうか」

    「いえ、全然そんなことはないですよ。正直な話、採算が合わない号はどうしても出てきますそれは仕方ないことだと思う反面、仕方ないでは片付けてはいけないと思っていて。カジカジは『カジカジなりのやり方』で工夫をしています」

    「例えばどんな?」

    「ひとつは、2015年の秋から毎月の版行から隔月の版行に変更したんです。今まで1ヶ月周期で作っていた企画が2ヶ月になることでより濃い内容を作ることができますし、また2ヶ月の間書店やコンビニに置かれるんですよ。そうすると必然的に売り上げが良くなると」

    「また、Web媒体も展開していて『comepass』というメディアを早くから立ち上げています。紙媒体と同じネタではなく、新店のオープンなど速報性の高い情報を出したり、スマートフォンで読めるような短い記事を出したりと、Webでしかできないことをして間口を広げていますね。あと最近、関西以外のファッション誌も展開してます

    「関西以外……?」

    「札幌、名古屋、福岡と、その地域に絞ったファッション誌を年1回ペースでのムック本として作っているんです。あくまでこれは地元の人向け。というのも、地方ってどうしてもファッションに特化した雑誌がないんですよ。住んでいても『こんな店があるんだ』という発見にも繋がるのかなと思っていまして」

    「地元の人は嬉しいですね!」

     

    ローカルで今何が流行っているのかが一目でわかる。観光にも使えます!

     

    「カジカジ」が考える次の展開

    「最後に、カジカジはどのように未来を見据えているのかを聞いても良いでしょうか」

    「最近感じるのは、20年前にカジカジを読んでいた世代が親になって、その子供たちがファッションを好きになっていることです。 “ファッションの流行は20年周期”みたいな言葉がありますが、本当にその通りで最近の若者には“90’sのスタイル”が流行っています」

     

    20年前の“街の目”。確かに今見ると新鮮な気持ちで見ることができる

    「子供からすると、タンスに入っていたお父さんが若かりし頃に着ていた洋服がかなりオシャレに見えたりするのかも」

    「はい。このように業界は盛り上がっているところもあるので、ファッション誌不況と言われていても、そこまで不安には思っていません。ただ、手放しで食っていける感じではないんで、新しいことは考えてはいます。例えば、今借りているスタジオをお店にしようかなとか。出版社が店をやるのって、なかなかないのかなと思っていて」

    「会いにいける雑誌ですね!面白い」

    「そうですね(笑)。また、カジカジに出ている皆さんは若者から40代くらいまで幅広いのですが、近頃は意識的にスナップには10代〜20代前半の若い子たちを載せています。なぜかというと、下を意識しないと未来がないので。おじさんの雑誌という印象は植え付けたくないですからね」

    「なるほど、若者を取り込むのは大事ですね」

    「ただ、真似をしたいと思わせるスタイルって、おじさんでも20代でも、読者によって変わると思うんです。だからこれからも、『カジカジらしさ』を大幅に変えることはしないと思います」

    「ちなみにカジカジって、東京でも購入できるのでしょうか」

    「はい。大型書店さんであれば置いてありますよ。人と被るのがイヤ、という東京の方に、ぜひ一度読んでいただきたいですね

    「この記事を入り口に、カジカジに興味を持ってくれる人がいたら僕もうれしいです。本日はありがとうございました!」

    「また関西に遊びに来てくださいね」

     

    おわりに

    いかがでしたか? 街の人みんなの愛読書が「カジカジ」だった理由、理解いただけたのではと思います。

     

    関西の人のバイブルである「カジカジ」。あくまで街の人を追いかけ、トレンドを追わない。20年以上続けてこられたのは、そういう姿勢を貫いてきたこともあるのだと思います。

     

    羯磨さんはインタビュー中に「Instagramなどで街の写真をアップする人もいますけど、うちは20年前から街を見てますからね(笑)。まだまだ負けませんよ」と話していました。

     

    新しいWebの情報だけに頼るのではなく、たまには紙の雑誌も読んでみると新しい発見があるかもしれませんよ。面白い雑誌は、世の中にたくさんあるんです。皆さんも見つけてみてはいかがでしょうか。

     

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    長橋 諒
    長橋 諒

    1989年生まれ、東京都昭島市出身。服飾専門学校を卒業後、都内の古着店で販売員として勤務。その後大手セレクトショップ販売員を経て、Web系編集プロダクションに入社。現在はフリーライターとして活動中。

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