
子育て中の人であれば、必ず直面するであろう「子どもの教育方針どうする?」問題。
お受験をさせたほうがいいの? 習い事は?
どれくらいお金をかけたらいい?
子どもの自主性ってどうやって育てるの?
我が子が1歳になったばかりの僕も、さっそく直面しています。子どもの教育に関連する本やSNSの情報を見ても、いろんな意見がありすぎて、「何が正解なんだ?」と頭を抱える日々。
そんな時に出会ったのが、『コロコロイチバン!』でコミカライズもされている「カンジモンスターズ」開発者の森本佑紀さん。こちら、「漢字」をモチーフにしたカードゲームなんです。


手札をめくって、より強い漢字モンスターを召喚するカードゲーム。遊びながら漢字も覚えられる! カードにはさまざまな漢字がモンスターとして描かれ、なんとも子ども心をくすぐるデザイン
2022年に発売された「カンジモンスターズ」は、じわじわ人気を伸ばし、つい先日発表された「小学生が実際に遊んでいるカードゲーム」の調査では、ポケモンカードや遊戯王に続いて10位にランクイン。これまでに累計3万個が発売され、各地で大会やイベントも開催。教育現場でも導入が進んでいます。
そんなゲームの生みの親である森本さんは、2014年に教育系ベンチャー企業「tanQ(タンキュー)」を立ち上げ、学習塾や親子向けの学習サービスなどを手がけてきた方。「カンジモンスターズ」には、勉強嫌いだった自身の学生時代の経験も反映されているそうです。
そんな森本さんに冒頭の悩みを相談すると、「教育はなにもできない」と挫折した時のこと、そして、“無職の父”から受けとった意外な教育観を教えてくれました。

話を聞いた人:森本佑紀さん
タンキュー株式会社代表。東京都渋谷区を拠点に活動。新卒で広告代理業を行う外資系ベンチャー企業に入社し、営業や人事を担当。その後友人とtanQ株式会社を設立。現在は、漢字の部首を合体して戦うカードゲーム『カンジモンスターズ』を開発し、親子で楽しめるイベントを各地で開催中。
教育に“正解”なんてあるんですかね?

——僕は昨年、初めての子どもが生まれまして。今から将来のことを考えちゃうんですけど、特に悩むのが「教育の正解がわからない」ってことです。
森本:たとえば「苦労しない生き方」とか「成功するための教育」とか、そういうのが「正解」ですかね。
——そうですね。
森本:まあ、考えちゃいますよね。でも、哲学者のミシェル・フーコーは「社会から逸脱した人のうち、認められた人を成功者、認められなかった人を犯罪者と呼ぶ」という意味合いのことを言っているんです。要は、世間で言うところの成功も失敗も「道から外れる」って意味では同じということ。
——すごい言葉。そういえば「天才と馬鹿は紙一重」って言葉もありますね。
森本:何が言いたいかというと、「この社会で成功できる人間」が教育のゴールになった瞬間、無限に合ったはずの子どもの可能性が一気に絞られる気がするんです。
生き方って本当はとても多様なのに、「偏差値は高いほうがいい」「社交的なほうがいい」とか、正解が親によって決められちゃうわけじゃないですか。
僕は以前、学習塾を開いていたんですが、いろんな生徒と向き合って痛感したことがあって。教育には、正解があるどころか「なにもできない」と気づいたんです。
——教育には、なにもできない……?
学習塾を経営して辿り着いた「育てるのは無理だ」

森本:当時、うちの塾には学校や、一般的な塾の教育方法が合わない子どもたちが集まってきていたんです。不登校の子や、ADHDの子も多かったんですが、その子たちと、かなり深いレベルで関わりました。
今思うとやりすぎていたのかもしれないですけど、いじめを受けている子、家族と上手く行っていない子の家に毎日通って話をしたり、自死を止めたりしたこともありました。
そういう日々を過ごした結果、僕が出した答えが「教育ってなにもできない」で。
——無力さを感じたってことですか?
森本:うーん、というより「“育てる”なんておこがましすぎる」みたいなことですかね。

——おこがましい。
森本:当時の僕がやっていたのは、正解ルートから逸脱をしない方法を伝える教育でした。でもそれって、どうしても子どもの進む道を固定化しているような気がして。
その子がどう成長するかって、本来、その子自身にしか描けないはずなんですよ。なのに、本来はあったはずの「その子らしい生き方」を、無理やり矯正してしまっているように感じたんです。
子どもの偏差値を上げ、名門校に導くような、正解ルートへ導く教育を否定しているわけじゃないです。ただ、僕にはできないなと。
——たしかに、僕もジモコロの取材で、いい学校やいい会社に入らなくても面白い人生を歩んでいる人にたくさん出会ってきました。
森本:勉強ができないと不幸かというと、そんなことないんですよね。その子なりに毎日楽しく生きているかもしれないし、上手く人の輪に入れない子も、この先、その孤独によって共鳴する仲間ができるかもしれないじゃないですか。
その子たちが幾通りもの道のなかから自分なりのルートを見つけられれば、それでいいよなって。そう思った瞬間に「教えることなんてないな」と。それで、急に「俺、何したいんだろう?」って思ったんですよ。
——急に矢印が自分に戻りましたね(笑)。
森本:そうなんです(笑)。改めて考えてみると、僕がやりたいのは「新しいものの見方」をおもしろがること。そして「本やアニメ、ゲームなどの伝わりやすいパッケージにして提供する」ことだと思いました。
その後のいろんな経緯は端折るんですけど、その結果、生まれたのがカンジモンスターズだったんです。
——ここで繋がるんだ。でも、なんで漢字のカードゲームに?
漢字って、めっちゃゲームじゃん!

せっかくなので、カンジモンスターズをプレイしながらインタビューを続けます
森本:漢字って、めちゃくちゃ面白いんですよ。「文字が世界を憶(おぼ)えている」という言葉があって。
——かっこいい。
森本:これは松岡正剛の『白川静 漢字の世界観』(※)という本の文章です。この本が僕の漢字に対する思いを180度変えました。
僕らは、文字を利用して世界を記録するものだと思っているけれど、文字自体が世界を記録しているんだと白川静は語っている。つまり、3500年以上の価値観やその時生きていた人たちの想いを漢字は覚えている。
言葉を使うのは、そうした価値観や想いを召喚することでもある。どうですか? 漢字って、めっちゃゲームじゃないですか?
——たしかに!!! そんな風に漢字を見たことがなかったです。カンジモンスターズのカードに描かれているのは、漢字の記録している「世界」をキャラクター化したものってことですね。
(※)白川静(1910〜2006年)は、「白川文字学」を創始し、『字統』『字訓』『字通』の「白川三部作」で知られる漢文学者。本書は、編集者の松岡正剛がつくった「白川文字学」への入門書。

例えば「火」と「大」のカードが合わさると「赤」となり、技を出すことができる。1ゲーム5分ほどで、子どもから大人まで、誰でも簡単に遊ぶことができる
森本:そういうことです。漢字が嫌いな子どもって多いんですよね。「書いて覚えないといけない」「つまらない」って思ってる。でも、全然興味を持てなかった漢字を「おもしろい!」と思えるようになるってすごくないですか? それこそ、僕が伝えたいことなんです。
——「面白くない」と思っていたものを、面白がれるようになる。
森本:人生において、大事なのは好奇心だと思うんです。つまり、いかに面白がれるか。
それこそ「人生つまらない」と絶望していた子でも、なにか好奇心を持てる好きなものが見つかれば、人生の目標が生まれますよね。「人生の正解」に囚われすぎると、子どもが本来持っている好奇心が自由に育たないんじゃないか? というのが、今の活動に至ったきっかけでもあるんです。
——つまり、 カンジモンスターズは好奇心を育てるカードゲームなんですね。

森本:なので、まず大前提として、カンジモンスターズは勉強のためにつくってないんですよね。遊びとしてちゃんとおもしろくないものは意味がないと思うので。
『ポケットモンスター』の生みの親である田尻智さんの言葉に「おもしろいゲームは『動詞』で表現できる」というものがあるんです。たとえば、ポケモンは「交換する」、マリオは「踏む」。
——本当ですね。一つの動詞で表現できる。
森本:なのでカンジモンスターズは「めくる」にしました。
——「めくる」?

手札を「めくる」と、より強い漢字が召喚できる。遊びながら漢字も覚えられる(Youtube「【カンジモンスターズ(カンモン)】ルール説明!」より)
森本:カードゲームって、手札を相手に見せないように持つじゃないですか。あれ、子どもには難しいんですよね。手が小さいこともあって、どうしてもカードを上手に持っていられないんです。
だから、カンジモンスターズでは手札をなくしました。山札をめくって、そのカードで勝負する。できるだけルールはシンプルに、かつ大人がやっても楽しめるように。そこまで考えて設計しています。
——漢字を勉強しはじめるのって小学校入学前ですよね。そのくらいの子どもでもできるようにしていると。

森本:任天堂の宮本茂さんの「ゲームの対象年齢を限定しない」という考え方を胸に刻んでいます。カンジモンスターズも「誰でもできる」が絶対的な条件ですね。
今、流行しているカードゲームって、やりこむと意外とルールが難しいんですよ。それがマニアにとってはたまらないと思うのですが、カンジモンスターズはあえて引き算を重ねました。その結果、知名度も上がってきて「小学生が実際に遊んでいるカードゲーム」調査の10位に入ったんですよ。

——着実に広がってますね。
森本:コロコロコミックの兄弟誌『コロコロイチバン!』ではコミカライズがされていて、この監修も僕が担当しています。いつかアニメ化するのが夢なんですよね。
週刊コロコロコミックでは、コミカライズ作品も連載中!
——メディアミックスも! 学校との相性もよさそうです。
森本:授業でもカンジモンスターズを使ってもらえるように、学校向けのレンタルも積極的に行っています。カードゲームは持ち込み禁止な学校が多いですけど、カンジモンスターズならOK、というところも少しずつ増えていて。
授業で遊んでもらって、元々の漢字の部首の意味を知るだけでも、字を覚えるのが楽しくなるんじゃないかと思います。なかには、デッキにない漢字のオリジナルカードをつくって来てくれる子もいるんですよ。
——カードゲームを通じて漢字に興味を持ってもらえるとうれしいですね。

初めてのプレイで、森本さんに勝利! 確かにこれは誰でも楽しく遊べる!
進学校でバキバキに折れた自己肯定感と、20歳の「陰キャデビュー」
——けど、「子どもの好奇心を育てたい!」でこういうカードゲームを作れちゃうのもすごいなと思います。
森本:このゲームをつくったのも、父親に受けた教育がきっかけになっていて。僕の父親ってずっと無職で、めちゃくちゃ僕と遊んでくれたんですよ。

——気になる話が出てきました。
森本:僕が生まれ育ったのは大阪なんですが、喧嘩が当たり前の、治安がよくないエリアで。「荒れに荒れまくっている地元の中学には進学させたくない」という理由で、親は僕に中学受験をさせたんです。
それで受験勉強をはじめたらなぜかみるみる学力が伸びて、大阪でも屈指の難関校・大阪星光学院に進学できたんですよ。
——地元からの脱出を。
森本:ここからがキツかったんです。みんな有名塾に通っていて、親は医者や弁護士が当たり前。「教科書にお父さんが載っている」って言っている子もいて。かたや、僕のお父さん無職。なんか違うな? と思いました。家庭環境も、教育にかけられてるコストも。
——お父さんが無職で名門校に行った森本さんもすごいと思いますが……。

森本:僕にとってなにより衝撃だったのは、テストで赤点を取った時に「森本はほんまあかんやつやな」って言われたことです。
通っていた地元の小学校はずっと学級崩壊の状態だったので、先生の話を理解するだけで褒められていましたし、なんなら僕が先生と生徒の通訳係をやっていて重宝されていました。
「先生が並んでほしいって言ってるよ〜」「先生がプリント回収してって言ってる〜」って僕が叫ぶと、みんな言うことを聞いてくれる。
——小学校では優等生だったんですね。
森本:だから、「ほんまあかんやつやな」と言われた時、意味がわからなかったんです。テストの点と、人としての評価って、なんの関係があるの? って。成績で評価が決まるって価値観も知らなかったんですね。
けど、中学校では「あいつはダメな学校に行ってるからアホや」「できそこない」みたいな言葉が生徒の間でも飛び交っている。じゃあ僕の生まれた地域は一体なんなんだ? と、それから勉強が全く好きじゃなくなったんです。
一応は大学にも入れたんですけど、本当に毎日無気力で、大学に行くふりをして漫画喫茶に行っていました。
——エリート教育を受けるなかで、自己肯定感をバキバキに折られてしまった。
森本:もう折られまくりです。でも、ある日、漫画喫茶で『サラリーマン金太郎』を読んで「意外と社会に出て働くのもおもしろそうだな」と思って。
あ、そういえば俺、経営学部だったなと思って、授業を受けてみたら、ものすごくおもしろかったんですよ。三品和広さんという有名な教授でした。
人生で初めて授業がおもしろいと思った僕がなにをしたかというと、授業が終わったその足で図書館に行ったんですよ。今まで漫画しか読んでなかった僕が、授業に関連しそうな本を片っ端から読んでいきました。
——おもしろいって感動が、学びの気持ちを呼び起こしたんですね。
森本:そう。おもしろいと思えたら、人は勝手に知りたくなるんですよ。そんなわけで、高校までは死ぬほど陽キャだったんですけど、大学では一日中ひとりで本ばかり読んでいる陰キャに生まれ変わりました。陽キャの陰キャデビューです(笑)。
無職の父から与えられていた、至上の教育

森本:その後、友人に誘われて、教育系の会社を立ち上げました。これがうまく行きかけたんですけど、仲間と意見が食い違って分裂してしまって。自分なんかがメンバーをまとめることはできないと思ってしまって、代表を降りたんですよ。
——二度目の挫折を経験した。
そうですね。自己肯定感がすごく下がってしまっていました。その時、ちょうど僕の30歳の誕生日だったんですけど、いきなり親父が「飲むぞ」って東京に来たんです。
——お父さんはその時も無職だったんですか?
森本:はい。僕、親父がすごくコンプレックスだったんですよ。同級生の親は医者や弁護士、かたや、うちの父親は1円も稼いでない。で、家でテレビ見て文句言ってたりするんですよ。正直、親父みたいにはなりたくないって頑張っていたところもありました。
そんな親父と初めて肩並べて飲んだその日に、僕、思わず聞いたんです。「親父ってなんで生きてんの?」って。
——すごいストレートに。お父さんはなんて?
森本:それが、びっくりする答えでした。

「決まってるじゃん。お前らが胸張って生きてるのがうれしいんだよ」と。
——おおお……
森本:父のお母さんは小さい頃に死んで、お父さんからはネグレクトされ、常に孤独と希死念慮と共に生きてきたそうです。そんななか、僕の母と結婚した。そしたら、義母がすごく愛をくれる人で、こういう幸せな家族もあるのかと驚いたんだそうです。
それで、自分の子どもが生まれたら、できるだけ一緒に過ごしたい。それ以外なにもいらないって思ったんですって。
——お父さんにとっては仕事より、家族や子どもと過ごす時間が大事だったんですね。
森本:幸い、家は持ち家だったので、贅沢しなければ生きていけたんですよね。飽きるほど市民プールに行って、キャッチボールして、プロレスして、格闘技見て寝る。それが俺は幸せだった、と飲みながら話していました。
そのとき初めてわかったんです。「自分が享受できなかった『よい教育』を、安価で多くの人が受けられるようにしなければ」と思っていたけど、違う。俺、めちゃくちゃいい教育を受けてたじゃんって。成績だけで判断されることなく、時間と愛情を注がれてたじゃん、って。
——……ちょっともう泣きそうです。そういう愛情の形って、子どもの頃はなかなか気づけないですよね。
森本:いま思えば、子どもの頃に父と一緒に過ごした時間は、めちゃめちゃ楽しかったんです。その日以降、「教育に正解がある」という固定観念は消えて、「あなたが生まれ育った環境で受け取ってきた輝きに気づいて、育んでいこう」に変わったんです。それがカンジモンスターズにもめちゃくちゃ反映されてます。
——正解を与える必要なんかなくて、元から「好奇心」という最高の宝石を子どもは持っている。あくまで、そこに気づくための手助けがカンジモンスターズ。

森本:そうですね。それと、親子が一緒に心を動かせる瞬間を作れたら、もう十分だなと。僕、夏目漱石の「月が綺麗ですね」という表現がすごく好きなんですよ。
——「I love you.」を和訳したってやつですね。
森本:そうです。教育って、どうしても生徒に対して先生が正面から向き合う構造になってしまうと思うんです。でも、教えるほうも教えられるほうも、それがしんどくなる時ってあるじゃないですか。
——どうしても、評価する、される関係性になってしまったり。
森本:でも、「月が綺麗ですね」って、相手に向き合うんじゃなく、同じものを一緒に見つめている状態じゃないですか。月を通して、確かに感情や思考を共有している。そんな風に、親子で同じ風景を共有するための道具としてカンジモンスターズを使ってもらいたいんです。
親御さんは本当に、日々大変じゃないですか。頭ごなしに子どもを怒ってしまうこともあるはず。でも、カンジモンスターズみたいなクッションがあれば、「これ、おもしろいね」「むずかしいよね」って会話が柔らかくなるんじゃないかな。それができたら、もう十分だなと思ってます。
構成:荒田もも








































