除雪=大変。

雪国で暮らす上で欠かせない「除雪作業」ですが、移住視点でもひとつのハードルになっているのは間違いありません。

大阪→東京と都市生活から離れて、2年前から平均積雪量58cmの長野県信濃町に移り住みました。10年に一度のレベルと言われた2022年は月間積雪量が172cm。住み始める直前だったんですが、冬場のリノベ作業に追われていた知り合いの大工は、死に近づいた顔をしていたのを強烈に覚えています。

実際、2022年に移り住んだ人が、除雪機を持たず人力の雪かきで立ち向かった結果、心が折れてしまって住むのを諦めたなんて話も耳にしました。そりゃ、除雪は大変だし、雪の降らない地域に住みたい気持ちはよくわかります。

それでも今回は、あえて”除雪のおもしろさ”について語りたいと思います。

なぜ一定の人類が雪深いエリアに住むのか? 近代的な視点で「便利/不便」の判断基準だけでは見えてこない価値観が、田舎暮らしの中には潜んでいます。

利便性を追求した都市生活は本当に快適なのかどうか。ここも一度疑ってみませんか。たとえば、田舎における「朝の除雪作業」と都市における「満員電車通勤」を天秤にかけたら、いまの私であれば前者の方が自分ごと化して取り組めます。

検索してもなかなか出てこない当事者たちの声。ジモコロで全国の文化に触れてきた元編集長の徳谷柿次郎、そしてお隣の豪雪地・長野県飯山(積雪4m!)で生まれ育ったカメラマンの小林直博と共にざっくばらんに除雪トーーークをしました。

<除雪ハイライト>
・除雪は「死なないため」にやる
・雪国での除雪コミュニケーションには、「自力で除雪を頑張ってる姿勢」が大事?
・雪国移住の除雪費用は最低100万円はかかる覚悟を!
・除雪には瞑想の効果がある? いのちと向き合うマインドフルネス
・冬眠期間と除雪の大変さを超えた先にある、春の芽吹き

暮らしに自然の困難を迎え入れる重要性について、みんなで考えてみましょう!

 

豪雪地域での除雪は「生きること」と直結する

「小林くんと除雪について対談できる日がくるとは」

「いや〜、ホントですよ。ジモコロ初期の柿さんは東京の三ノ輪に住んでましたもんね」

「あの時点で災害に強い土地に移り住みたいと考えてたんだよね」

「たしかに信濃町は湖も近いし、土も豊かだし、サバイブしやすい環境ですね」

「そうそう。標高も700mぐらいで高地だし、最近の夏の暑さが異常だから、雪が降る土地のほうがトータル的に考えたら強いと思う」

「わかるっすね〜」

「とはいえ、雪国に住む以上は避けて通れないのが除雪。今は除雪機があるけど、昔の人は馬とか人力でやっていたのかな? 想像つかない」

慣れた手つきで除雪機を操る小林くん

「うちのばあちゃんは、人の通り道はひたすら『かんじき』で雪を踏み固めてたって言ってましたね。それを『道踏み』って言うんですけど、おれが小さい頃も『道踏みやるぞ』ってよく一緒にやりました」

長靴の下に着用して雪を踏み固める「かんじき」

「そもそも除雪しないわけか。じゃあ、地上から4〜5メートル以上積もった雪の上を歩いてたの? すごい絵面!」

『奥信濃 冬物語』(著:鈴木政秀)より、昔の長野の冬景色。すごい絵面!

「逆に現代は、限りなく平地になるまで除雪しようって価値観になってるよね」

「現代は車社会だからでしょうね……。昔は雪の上を歩いて移動できればよかったけど、今は車が動かせないと流通もインフラも全部が死ぬ。だから、行政の除雪予算とかもすごい額ですもん」

「たしかに、時代の変化によって除雪の重要度も変わるのか」

「だから、雪国における『除雪』の概念をどう伝えるかっていうと、『死なないためにやってる』の一言に尽きるわけですよ」

「死なないためっていうのはさ、具体的にはどういう優先順位なの?」

まず、人が家に出入りできる! 当たり前ですけど、これが最優先ですね。ぶっちゃけ、外出の用事もなくて人が来る予定もなければ、庭に雪が1メートル積もろうが別に問題ないですね」

「うんうん」

「おれもめちゃ雪が積もってるのに、全然除雪しないときもありますよ。でも、急に外出しなくちゃいけないときとか、配達がくるとか当たり前にあるじゃないですか。そういうとき除雪してないと大変ですよね。おれの家は除雪に大体1時間くらいかかりますし」

「小林くんの家だと、ガレージと母屋の間をまず除雪しないといけないんよね。そこの雪を放置すると、車も出せないし、マジで家に閉じ込められる」

小林くんの自宅からガレージまでの道。飯山は、冬場は一晩で1メートル以上の雪が積もる

それから、おれの家で言うと、1階の周りが雪で埋まってくると家の中に日の光が入らなくなるんすよ。昼でも家がどんより暗くて、なんかイヤで。この感じは一度経験してみてほしいですね」

雪で埋まりかける、小林家の1階の台所

「え~、なるほど!? それはイヤだ!」

「だから、外に出る用事がなかったとしても、家に光をいれるために除雪しちゃいますね」

 

まずは自分で頑張る姿勢を見せてからこその助け合い

「じゃあ、冬場はもう一切外に出ないで在宅で仕事する、食料とかも買い込んでおく、日光が入らなくても気にしない!って人は豪雪地帯でも除雪をしなくていい?」

「うーん、そうもいかないんですよね。屋根の下の除雪をサボると、そのうち屋根の上の雪と、屋根の下に落ちた雪が繋がっちゃいます。すると、どんどん屋根に雪が積もっていって、結果、雪の重みでまず軒がぶっ壊れます。軒や屋根が壊れちゃうと、そこから雪やら雨やら湿気で、家がどんどん劣化していっちゃいますしね。そうなるど、修繕費がえぐいですよ」

「家ごと雪に埋もれるどころか倒壊の可能性……!! 大変だからやらなきゃいい、とはいかないわけだ」

あとは、ちゃんと除雪をしないと社会的に死ぬっていうのもあるかもなあ……。別荘地にぽつんとあるような家ならともかく、集落の中だと除雪と地域社会は密接な関係にあると思います」

「やっぱり除雪関係のご近所トラブルってあるの?」

あんまり言いたくないですけど、ありますね。除雪機での除雪って、雪はできるだけ遠くに飛ばして、家の周りのスペースを極力広く確保したいんですよ。だから家同士が近いと、『お前ん家はこっちまで雪飛ばしすぎだ』で揉めるとかは全然ありますよね。あとは車道に雪飛ばしすぎ、水路に雪入れすぎ、とかも」

「なるほど……。俺の家は、割と隣の家と距離が離れてるからそれはないなぁ。あと、『冬場は畑の方に雪を飛ばしてもいいですか?』って一応事前に許可をもらってる」

除雪においては、どの方向に雪を飛ばすかが重大になる

「そう、それが大事っす。除雪するなら、絶対ちゃんと近所付き合いしてたほうが色々と楽ですね。しっかりコミュニケーションを取っていれば、ご近所トラブルは基本的にないんじゃないかな。むしろ、除雪機が雪で埋まって動かなくなっちゃったときとか、近所の人がトラクターで引っ張って助けてくれたりするし、助け合いが基本だと思いますね。」

「よくも悪くも、日々地域との関係性を保っておかないとだめなんだね」

除雪コミュニケーションにおいて、まずは『自力で除雪頑張ってる姿勢』ってすごい大事だと思ってます。想像できないかもだけど、雪国の冬ってまじで大変なんですよ」

「そうね、みんな大変!」

「そんな中で、自分だけ好き放題雪飛ばしたり、みんなの水路に雪入れたり、他人のふんどしで相撲とるみたいな除雪してると、社会的に死ぬかもっすね。80歳を過ぎたおじいおばあでさえ、自力でせっせっと除雪してますから。そういう姿をみんな認識しているからこそ、本当に困ったときはお互いに助け合う」

 

家を砕いても許される。家族から受け継がれる除雪の仕方

「そもそも、除雪のやり方ってどうやって学ぶの? 俺は移住してきた時に小林くんからいろいろ教えてもらえたけど、除雪ノウハウってインターネットに載ってるのかな」

「おれは調べたことないっすね。除雪の仕方は親父から学びました。」

「それは自分から『やりたい!』って頼んで教えてもらったの?」

「いや、中1になったぐらいのときに半ば無理やり覚えさせられましたね。それまでは、親父が除雪機、おれがスコップのツーマンセルで除雪を手伝ってたんですけど、もうスコップ役がイヤでイヤであからさまに態度に出してたら、親父に『除雪機触ってみるか?』って言われて触るようになりました」

「中1で!」

「最初は、親父に見てもらいながら簡単なところで練習しましたね。そのうちに、両親が仕事で帰りが遅い日とか、もう家に入れないくらい雪が積もっちゃって。おれが除雪やるしかない状況とかになって、一人でやるようになりました。だから自然と覚えましたね」

「中学生でも使いこなせるものなの?」

「慣れないうちは慎重にやるから大丈夫なんですけど、逆に慣れてきてから家の柱とか壁を何回も砕きましたね」

 「えぇ!!」

除雪機のオーガ(刃)が当たって歪んだガレージのトタン

「どうせなら、めちゃキレイに除雪をしたくて攻めすぎて……。でも、親父には全然怒られなかったです。『しょうがない、そういうもんだ。失敗してうまくなる』って

「やさしい。家の壁を砕いても、除雪のためなら寛容になるのか……。雪国の家族観みたいなのって、やっぱり雪が降らない地域とは変わってくるのかな」

「田んぼとか農業よりも緊急性があるから、その分団結感は生まれるかもしれないですね」

「除雪って、生命に直結するからね。さっきの話みたいに、やらなくても死ぬし、やっている最中も死と隣り合わせでしょ」

「屋根の下を雪かいていたら、屋根から雪が落ちてきて潰されちゃうパターンが一番あるあるですね」

「雪で圧死……! ほかにはどんな危険がある?」

「あとは、除雪機の下敷きになっちゃうパターンが多いです。バックしているときに足がズボッと雪に埋まっちゃったり、雪の塊で転んじゃったり」

「安全装置がついているとはいえ、油断禁物だよね」

「雪の量がやばい時ほど、早く終わらせたくておざなりになるんですよ。そういう時が一番あぶない。おれも、エンジンがフル稼働の状態で足を滑らせて、除雪機に巻き込まれそうになったことがあって……」

「ああ! 怖い!! いま金玉ひゅってなった!」

 

雪国移住には「除雪コンサル」が必要? 豪雪地帯の除雪のイロハ

「とはいえ、俺は信濃町の家で冬を迎えて二年目なんだけど、今年も雪が少ないから除雪自体も楽しめてる方なのよね。一方、小林くんの住む飯山は例年だったら信じられないぐらい積もる。大変じゃない?」

冬の飯山の風景

「雪が降ると、毎年大変だなって思いますよ。そもそも家のつくりも雪国仕様というか。一階が埋まっちゃうくらい雪が降るので、一階がガレージとか車庫で、二階に玄関があって出入りするみたいな家もありますね

「二階! 2mぐらい積もる前提の建築なんだ。日本海側は積雪量もそうだけど、雪質も違うのよね。信濃町はめちゃくちゃ湿った重たい雪が降るんだけど、この前北海道の道東の雪に触ってみたら完全にパウダーで水分量が全然違った! 雪にもいろんな種類があるって、雪国で暮らし始めるまでわからなかったなぁ」

「時期によっても変わってきますね。冬の始まりの頃に降る雪と、ハイシーズンに降る雪、3月に降る雪は違う。おれたちが住む地域は重たい雪が降るので、個人的にはディーゼルエンジンの除雪機のほうが、食いがよくて好きですね」

「そもそも、豪雪地方じゃない人からしたら除雪機で除雪をしないといけない感覚がわからない。何を買っていいかわからんし、新品で買うと100万円は軽く超えちゃう。俺は小林くんの紹介で中古の除雪機を買わせてもらったんだけど、30万もするの!?って思ったし」

小林くんの紹介で、飯山のおっちゃんから格安で譲ってもらったディーゼルエンジン搭載の除雪機

「14馬力でしっかりメンテナンスしてあって、30万円は相当お買い得ですよ!」

「屋根付きスペースに除雪機を保管しないといけないし、駐車場の確保に関しても物件によっては雪対策をしなければいけない。物置も寒冷地タイプを追加で買ったけど、割高だったもんなぁ。除雪の費用ってバカにできないね。地方移住って、家を建てたり車を買ったり何かとお金がかかるのに、さらに除雪機もとなると……」

「一式揃えるのはハードルが高いですね」

「こっちに来て痛感したのは、雪の降る土地に住むのは温暖な土地よりもお金がかかること。除雪機の燃料費、メンテナンス代、暖房のための灯油代、薪ストーブと薪代もなかなかね」

「車も四駆じゃないといけないし、スタッドレスタイヤに替えるのも必須ですからね。雪が降らないだけで数百万円は浮くんじゃないかな

「ほんまそう。ちゃんと暮らしを整えながら雪と向き合おうとすると、圧倒的にコストが高いかも。だから、豪雪地域の空き家を『え、200万!? 安い!』みたいなテンションで買うと危ない」

「雪に対するイメージが軽いほど、移住後のギャップはデカそうですよね」

でも実際、豪雪地帯出身じゃない人がそこまで想定して移住するって難しくない? たとえば、行政が除雪してくれる国道沿いに住めば除雪機はいらないでしょ。どのエリアに住むかの時点で相当、除雪ゲームのルールは変わってくる」

「移住のときって、不動産屋さんは雪の話はしてくれないんですか?」

「俺は全然聞かずに移住を決めちゃったからなぁ。でも、みんな大抵雪のないグリーンシーズンに家を買うから冬のことは忘れちゃう。で、いざ冬を迎えたらハードモードでゲームが始まるみたいな」

グリーンシーズンの柿次郎宅

「雪国に住むなら、家の周りの除雪の仕方も事前に把握しておいたほうがいいですしね」

「そうそう! 俺は、雪がない時期に『一番ちょうどいい!』と思ったところに物置を設置したんだけど、冬になってから除雪する上では不適切な場所だったってわかった」

「雪の経験値がないとわからないですよね」

「移住者向けの除雪講習を開いたらいいビジネスになるかもしれないね。除雪コンサルタント的な、家の状況をぱっと見て、1〜2時間アドバイスして数万円とか。除雪情報にはそれくらいの価値があると思う。だって間違えると余計に後出しコストがかかるから……

 

雪の降らない地域への憧れ。それでも雪国で暮らす意味

「いや~、この記事読んだ人はもう誰も豪雪地帯に移住してこないと思う(笑)」

「ほんとっすね(笑)」

「日本の中には、雪が降らないエリアもあるじゃん。そこに対して憧れたりしないの?俺はもう長野移住2年目で雪のない暮らしに憧れてるんだけど……」

「そりゃね、憧れますよ。雪が降るってだけでいろんな可能性がなくなりますからね」

「そうだよね。一年中晴れてる土地って、それだけですごい有利。俺は去年から畑をはじめたんだけど、5月頭でも雪が残ってて、そこからなんとか畑を耕してたらすぐ梅雨入り。種まきできる時間が短すぎて、クイックにやらないと畑が維持できない!」

雪さえ降らなかったら、何でもできるじゃん!って思いますよ。ビニールハウスは雪で潰れるから建てられない。鶏を飼おうとしても、鶏小屋が建てられない。使ってない土地をキャンプ場にしてビジネスを始めるのもいいなとか考えたけど、冬場はそこまでの道を除雪しないといけないと考えると絶対無理。何もできない」

「やっぱり誰も移住してこなくなるかも……」

「いやいや! 除雪のよさの話もしましょう!」

「除雪のよさ……、あるわ!」

「どうせ除雪しなきゃいけないなら、イヤイヤやるよりも、少しでも除雪はいいものだって思ってやりたいじゃないですか。おれはやっぱ除雪を通して、『人のありがたみ』を痛感しますね

「人の大切さを感じられること」

「さっきの話にも通じるんですけど、除雪してると『自分ひとりの限界』に何回もぶち当たるんですよ。大雪の中、除雪機が動かなくなっちゃったり、今日中に屋根の雪下ろししないとヤバいみたいなとき、自分ひとりじゃどうしようもできなくて、家族やご近所さんに助けてもらう。その瞬間、毎回『人のありがたみ』を最大級に味わえます」

「俺たちは人に助けられないと生きていけない……」

「昔、屋根の雪下ろしは、集落で今日はこの人の家をやろうってみんなで順番にやっていたらしいんですよ。自分ひとりじゃ限界があるっていうのは共通認識で、だったら協力してやろうと。今はそこまでのことをする必要はなくなりましたけど、その精神は今も集落の中で生きてるんじゃないですかね。他の地域に比べてうちのあたりが、近所の人たちとのコミュニケーションが活発なのは雪が関係してると思うんです」

「雪が降るたびに関係性が見つめ直されて、共生の意識が醸成されていくんだ」

「柿次郎さんはどうですか? 除雪じゃなくても、冬の良さとか雪の良さ、なにか感じません?」

「うーん……、冬に犬の散歩をすると、犬の足が汚れなくてうれしい!!

「(笑)」

信濃町の雪原をお散歩

「犬も楽しそうだし、雪を踏む音とか感覚も気持ちいい。そういう四季の変化を感じられるのはいいよね。あ、そうだ! 雪が降ると、犬のうんこの臭いがあんまりしなくなるんだよ」

「どういうことですか?」

「犬が出した直後のうんこを拾うとき、夏場はもちろん臭いがする。でも、冬は全然臭わない! 最高!」

「あぁ。雪は全部吸収してくれますよ。雪が埃を吸収するから空気がめっちゃ澄むし、景色も霞まないんですよ。冬の雪山とか超きれいでしょ。音も吸収するから、独特の静けさが心地いい。ほら、冬のよさも話そうと思ったらいくらでもあるじゃないですか!」

 

雪が全てを忘れさせてくれる。その先に春の芽吹きが

「あとは、土地的なよさはあるよね。これだけ除雪が大変でも、自然の中で暮らすことで得られる恩恵は大きいよ」

「前は除雪をしてて雪に憎しみを感じることも多かったんですけど、最近は『この雪は全部水になって山に還るんだよな』と思えるようになって、この気付きで憎しみは消えました。降り積もった雪がゆっくりと溶けて、山に保水されていく。それが田んぼや畑に流れていく。どんなに雪が多くても、これだけ雪があれば水に困ることはないよな、と思える

「安心感があるよね。やっぱり、東京を含めて、山に降った雪が何十年何百年かけて染み込んでみんなの飲み水を作ってる。それから、除雪が生活に組み込まれるようになってから、自分の内側に変化があったかも

「というと?」

「気を抜くと本当に危ないから、目の前の雪と除雪機に集中するでしょ。思考がもうそれ一本になる。俺は編集者だから、常に『あの企画考えなきゃ』とか頭の中でぐちゃぐちゃと何かを考えてるの。でも、除雪をしていると全部忘れられる

「たしかに、瞑想に近いものがありますね」

「最初は下手だからめっちゃ時間がかかるけどね。でも、慣れてくるとあっという間に二時間経ってる。我を忘れて、時間を忘れて、ずっと没頭できる。脳にいい気がするんだよね。思考が研ぎ澄まされていく感覚はほかでは得られないかも」

雪があると回りの情報量が一気に減るじゃないですか。景色の色も減るし、音もなくなるし、移動も減る。そうするとちょっと冬眠っぽくなりません? なんか全体的にシンプルになる気がしてて。そんなギア落としてる冬からの、一気に動き出す春の感じ、ヤバくないですか」

「それ! 俺も今年ようやく感じてきたんだよ! 春が来た時の、コントラストと感動がすごい。冬の間に溜め込んだものが整理されて、春の訪れと共に心身がそわそわしてくる。春の光を浴びると、テンションが躁状態になるんだよね。最近、ちょっと暖かくなってきたから、昨日なんか6〜7人にバーッと電話をかけちゃった」

「めちゃくちゃ躁ですね。でもわかりますよ」

冬の間にめちゃめちゃ思考がシンプルになるぶん、春になるとアイディアが無限に出てくる。山菜の芽吹きとかと一緒じゃない!?」

「絶対あるっすね。結局、人間も生き物だから」

「また次の冬がきて雪が降るようになったら、『雪のない地域に行きたい!』って思いながら黙々と除雪をして……、そしてまた春がきて、『春、最高!!!』って人間として生きている喜びを実感するんだろうな」

 

ポンッ!

 

構成:風音
撮影:平野理大