こんにちは、ライターの吉野です。私は現在オランダで暮らしており、オランダの公用語であるオランダ語を猛勉強しています。

ところでみなさんは、日本語がアメリカ国務省の調査で「世界一難しい言語」にランキングされたこともあるのを知っていますか?

3種類ある文字表記(ひらがな、カタカナ、漢字)や複雑な文法、オノマトペなど、実は難易度の高い日本語。私も今だに分からない漢字を調べたり、敬語の使い分けにこんがらがったりと、母国語であっても日本語ってめちゃくちゃ難しいなと感じます。

また、オランダに来てから海外の友人に「日本語を教えて!」と言われるのですが、英語で日本語を説明するのはとても難しく、「やっぱり言語の教育はプロに任せるべきだ……」と痛感しています。そんな時、日本語を教えるプロ「日本語教師」の仕事が思い浮かびました。

名前は聞いたことあるけど、そもそも仕事内容についてよく知らない日本語教師の仕事。どんな国で働いているのか、気になるお給料事情など……。そこで実際に、海外と国内で日本語を教えている人たちに色々と聞いてみると、日本語教師という仕事の醍醐味が見えてきました。

もちろん面白いことだけじゃなく、大変なこともある日本語教師の仕事について詳しく聞いていこうと思います!

今回、対談をお願いしたのはこちらの3人!

▼登場人物
鎌谷茉於さん
29歳。中国江蘇省在住。日本の美大を卒業後、美術制作会社での勤務を経て、昨年から中国の大学で日本語を教えている。中国の伝統建築が好き。

いろはさん
28歳。国内在住。大学卒業後、シンガポールの語学学校に勤務。現在はオンライン日本語講師として働いている。YouTubeチャンネルでオンライン講師のノウハウなどを発信中。

堂野絢子さん
32歳。ポーランド・ワルシャワ在住。新卒で入社した一般企業を退職後、ワルシャワにある日本語学校に勤務中。趣味はバレエ鑑賞。

 

海外の人が日本語を学ぶ理由って?

「今日は各地からお集まりいただきありがとうございます。まずは今働いている場所と日本語教師の仕事を選んだ理由を教えてください!」

「私は2019年から約1年半、シンガポールの日本語コースがある語学学校で働いていました。その後帰国し、今は週に4日、オンライン授業でアメリカやヨーロッパの方などに日本語を教えています」

オンラインでの授業風景

「私は現在、上海から高速鉄道で約3時間のところにある淮安市(わいあんし)の大学で日本語を教えています。2年前まで日本の会社に勤めていたんですけど、『母国語を教える仕事って面白そうだな〜』と思い、元々興味のあった中国で日本語教師の求人を見て応募し、今に至ります」

「私も元々、日本で会社員をしていたんですけど、海外で働きたかったのと『自分のスキルで稼げる仕事をしたい!』と思い、この仕事を選びました。ポーランドを選んだ理由は、就職活動していた時、X(Twitter)で『今ワルシャワの日本語学校で講師を募集しているよ』と教えてもらったのがきっかけです」

「SNSで就職先を知ったんですね! ポーランドってヨーロッパの中でも日本語熱が高いと聞くんですが、本当なんでしょうか?」

「はい。実際にワルシャワだけで日本語学校は10校ほどあったり、私の学校でも生徒が400人以上いたりと想像以上に日本語が人気です。生徒の年齢層は8歳から70歳ととても幅広く、日本のアニメを観て日本語に興味を持った人も多いんですけど、なかには歴史などの文化から日本語を学び始めたという人までいます」

ポーランド在住4年目になった堂野さん

「なるほど。中国はどんな子が日本語を勉強しているんですか?」

「私は日本でいう教育大学にあたる『師範大学』に勤めていて、学生は主に10代から20代前半の子たちです。中には日本語教師を目指している子もいるんですけど、一方で大学受験で試験で高得点を取るために、英語ではなく日本語を選んだという学生もいます

「日本の大学でも同じような理由で外国語を勉強している学生が多いですよね。学歴が職業に直結するアジアではそれは仕方のないことなのかも……」

「そうですね。約10年前までは今住んでいる地域に日本語教師が6人もいたんですけど、今は私ひとりだけなんですよ。その理由は昔は日系企業に就職すれば、高いお給料がもらえていたんですけど、今は海外に行かなくても国内でもいい仕事が見つかるからで。国の経済発展もあり、仕事のために日本語を選択する人は昔より多くありませんね

「中国語って日本語と同じ漢字があるので、他の国と比べて日本語の学習方法が少し違うと聞いたんですけど、実際にどうなんでしょうか?」

「漢字圏で学習方法も変わってきます。中国の場合、ひらがなとカタカナだけを習って、漢字の書き方などは教えないで授業を進めていくんです。海外の方が一番苦戦する漢字を理解できるのは大きいので、中国の方は日本語を習得しやすいと思います。どんな理由であれ、日本語を身に付けてほしいので毎回楽しい授業を心がけています!」

中国の日本語の教科書

 

日本語教師は自分のペースで働くことができる仕事

「日本語教師になるためにはどんな資格が必要なんでしょうか?」

「主に3つの条件のいずれかを満たす必要があります。ひとつ目は年に1度行われる『日本語教育能力検定試験』に合格すること。ふたつ目は文化庁に届出が受理された420時間養成講座を修了することです。後は大学で日本語教育コースを取得するのも手ですね」

いろはさんのYouTubeには日本語教師になる方法を紹介した動画があります。オススメ!

「日本語教師向けの試験ってどのくらい難しいのか気になります」

合格率は25%〜30%程度と難易度は高いんですけど、しっかりと対策すれば合格できると思います。 試験のコツは、毎日少しずつの勉強を長期的に続けることだと思います。私の場合は1日1時間ほどの勉強を5ヶ月ほど続けて合格しました」

「最近はこの条件以外にも、修士号を持っている人を希望する求人が増えていて。私も『大学院を出ていた方が日本語教師としての仕事の幅は広がるだろうな〜』と思い、日本語教師としてのスキルを磨くために大学院進学も考えています」

「分かります。やっぱり日々間近で勉強している人を見ると、自分も勉強したい欲が出てきますよね。なので、私もポーランド語を日々勉強中です」

「ちなみに、日本語教師のお給料事情ってどんな感じですか? 海外移住の場合、住居などをサポートしてくれるものなのでしょうか」

「うちは年に1回、約8万円の飛行機手当や交通費を支給してくれます。家も大学側が提供している宿舎に住んでいるので家賃はなく、光熱費だけを払う感じです。お昼も学食で300円ほどで食べられるので節約できて助かっています」

中国での学食。メニューは「烤盘饭(カオパンファン)」という、好きな食材を選んで炒めてもらえるもの

「それはうらやましい……。私の職場は比較的ポーランドの日本語学校の中では給料が高い方なんですけど、日本みたいな完全な一人暮らしは金銭的に難しいので、外国人同士でシェアしています。あまり贅沢はできないけど、生活を切り詰めなくても暮らせる額はもらっています」

「私も似たような感じです。それに日本語教師って案外ワークライフバランスが取りやすい仕事だと思っていて。仕事量が多すぎず、授業以外の作業も年次を重ねるごとに時間がかからなくなっていくし、なにより授業以外の時間は自由なのでストレスなく働けています」

日本で学生さんとプリクラを楽しむいろはさん

「後は、未経験者でも挑戦しやすい業界ですよね。それに日本語教師って何歳からでもなれるんです。もちろんそれなりに勉強は必要ですが、人とコミュニケーションを取ることや言葉について考えることが好きな人にはピッタリだと思います」

休日にバレエ鑑賞を楽しむ堂野さん

「日本語教師ってすごく忙しそうなイメージだったけど、意外とワークライフバランスが整っている仕事なんですね。海外で働く際の仕事候補のひとつになりそう!」

 

気持ちの表現や四季折々の言葉など。日本語を教えることの難しさ

「日本語って日本人でも難しいと思うんですけど、日本語を教えるのってぶっちゃけ大変じゃないですか?」

「もう苦戦だらけです(笑)。日本語って意識せずとも感覚的に理解している部分が多く、そこにぶち当たった時は悩みます。以前生徒からひらがなで発音が同じ『づ』と『ず』の使い方について、例えば『つづる』などの『つ』『づ』が連続する場合に、どうして『つずる』という表記にはならないのかって聞かれたことがあって、答えられなかったんです」

「たしかに、どうしてなんだろう……」

「最初は連続する時は前の音と同じひらがなを使うものだと思ったのですが、『いちじるしい』などは『いちぢるしい』と表記しないですよね。そこで気になって調べてみると、一概にルール化できないことから、日本語界でも未だに決まった説が確立されていないそうです。そんな風に日本人が深く考えていないところを指摘されると、いつもハッとさせられます」

「日本語って難しいんだなあ」

「私は気持ちの表現や四季折々の言葉など、日本語でしか表現できない微妙なニュアンスを教えるのが大変だなと思っていて。例えば、先日学生さんに『木漏れ日って光とは何が違うんですか?』と質問されたのですが、『木漏れ日』という単語は日本にしか存在しない表現なんですよ。そんな質問を受けると、説明するのは大変ですが、毎回学びがあります」

「たしかに、日本語特有の美しい表現って日本人ならではの繊細な精神が現れているなあ。それに英語って好きなものは好き、嫌いなものは嫌いというハッキリとした表現をしますよね。あんまり中途半端な表現は少ないというか……」

「そう、やっぱり英語と比べると日本語は抽象的で曖昧なのが特徴で。だからこそ英語よりも、日本語だけで説明した方が自然と覚えられやすいので、最初から授業は無理やり日本語で行うことも多いです」

「そしたら、やっぱり日本語を外国の方が一から学ぶのは無謀なんでしょうか?」

「いえ、実はそうでもなくて。日本語って初級は構造がシンプルなんですよ。例えば、『わたしは(ほん)を(よむこと)がすきです』の構文を覚えると、『わたしは(おんがく)を(きくこと)がすきです』などど、本を読む、音楽を聞く、映画をみるなど、決まったフレーズとそれに伴うルールが分かれば、動詞や名詞などを入れ替えるだけで色々なことが伝えられるので、意外と入口は優しいんですよね」

「学習と言えば、私の海外の友人はアニメや漫画から日本語を学んでいる人が多いんですけど、アニメから日本語を学ぶのって効果的だと思います?」

「はい。ただアニメの日本語って少し特徴的なので、そこは注意しないといけないかな。前に学生がアニメの影響か『俺がやってやるぜ!』と言っていて違和感がありました(笑)。できるだけ自然な日本語を話してほしいので、私は授業前に『アニメと実際の日本語はどう違うのか?』について説明しています

「話し方に気をつけさえすれば、アニメでは日本語の文法を学べたり、楽しく勉強できたりとたくさんのメリットがあるので、アニメや漫画は語学を学ぶ上で最高の教科書だと思います!

「ちなみに今、皆さんの国で人気のある日本アニメって?」

「ポーランドは『鬼滅の刃』や『僕のヒーローアカデミア』などかな。最近は『葬送のフリーレン』が人気で、特にジャンプの掲載作品がよく知られています」

「中国では圧倒的に『クレヨンしんちゃん』と 『名探偵コナン』が支持されています。日本語を勉強していない子でもしんちゃんは大好きで、中国のショッピングモールに行くと、しんちゃんグッズがたくさん売っているんですよ」

「懐かしの名作から最新作まで! やっぱり日本のアニメって世界中で愛されているんだなあ」

 

日本語教師の仕事を通して知った「日本の良さ」

「日本語教師をやっていて良かったなと思う瞬間ってありますか?」

「普通に生活をしていると、出会えないであろう性別や年齢、国籍など様々な人たちと日本語を通して出会えることですね。生徒さんから自分が想像もしていなかった話を聞くことができるので、視野が広がりました」

「私は学生と一緒に旅行に行ったり、学生から言語を学べたりして日常的に国際交流ができるのが楽しいです。他にも、頻繁に中国語を使うようになって発音が良くなったからか、よく現地の人に間違われます(笑)」

「私はコロナが明けて、日本旅行に行く学生から『日本語が通じました〜』って報告がくると嬉しいです。それに海外の生徒を通して、改めて日本の良さを感じられたのもこの仕事の魅力だと思っていて」

「日本の良さですか?」

日本って私たちが思っている以上に、ポーランドの方々から愛されているんだって気が付いたんですよね。ポーランドではアニメを始めとする、日本建築や日本食など『日本=素晴らしい国』といったイメージがあるみたいで、『いつか訪れてみたい!』と言ってくれる方がすごく多いんです」

(写真左)ワルシャワの雪景色 (写真右)トラム

「そうそう。間違いなく、日本の良さに気付けるのが日本語教師の仕事の醍醐味だと思います。なのでもっと多くの人に日本語教師の仕事について知ってほしいです!」

「海外の素晴らしさにはすぐ気付けても、自国の良さにはなかなか気付けなかったりしますよね。それに気づけるのが日本語教師の仕事の魅力なのかなと思いました。みなさん、今日はありがとうございました!」

 

まとめ

その国の言葉が分かれば、その国のことは分かると言います。改めて海外で日本語に関する本を読んでみると、日本語に詰まっている日本人特有の美意識や伝統に気付くことができました。これからも日本文化と切り離せない日本語に愛着を持って、海外の友達にいくつか教えてみようと思います。

今回インタビューを受けた方のSNSでは、海外生活や日本語教師の仕事について発信しているので、気になる方はそちらもチェックしてみて下さい。

 

〈SNSはこちら〉

いろはさん

kirakiraboshi_95 – iroha【日本語教師】

堂野絢子さん
ᴀʏᴀᴋᴏ ᴅᴏɴᴏ 🍓 (@ayako.dono.15) • Instagram photos and videos