こんにちは。ライターの吉野です。突然ですが、私は物心ついた頃から疑問に思っていることがあります。それは……

 

どうして女性はブラジャーをつけなきゃいけないの?

ブラジャーって本当に必要なものなの??

 

ということ。なぜなら私は10代の頃からブラジャーの締め付け感が苦手で、大人になった今でも日中、仕事の時以外はほとんどブラジャーをつけない生活を送っています。

 

そんな中、私なりにブラジャーをつけないのが「変じゃない」と思っている理由はいくつかあって。先日、ジモコロ編集長のだんごさんに話してみると……

 

「たしかに、ブラジャーって欧米から広まったものだよね。昔の日本の女性はつけてなかった?」

「そうなんです! 着物が普段着だった日本ではからだのメリハリを見せる必要がなく、昔は『下着を身につける』という概念さえなかったそうで」

「へー! じゃあ日本の女性がブラジャーをつけ始めたのって意外と最近の話なんだ」

「はい。それに最近は海外の女性を中心に『女性がブラジャーをつけなくてはいけない』という考え方に意義を唱えた『Free the Nipple(乳首に自由を)』というムーブメントが起こったり、あえてブラをつけないファッションが流行ったりしていて。なので、今まさにブラジャーの必要性を再確認する動きがあるんですよ」

「なるほど。そういえば女性の下着について、ちゃんと考えたことないな。どうして日本でブラジャーがつけられるようになったのかも知らない」

「そしたら、せっかくの機会なのでだんごさんも一緒に下着について勉強しに行きませんか?」

「そうしましょう!」

 

ということで今回、日本を代表する下着メーカー「株式会社ワコール」の東京支社でお話を伺うことに。

話を伺ったのは、ワコールの広報担当・田村帆乃佳さん。

 

ブラジャーをつける必要性があるのかないのか。日本で普及した経緯とともに、普段はなかなか聞けない下着に関するあれこれを聞いてみようと思います。

ワコール東京支社。建物のデザインを手がけたのはカプセル型の集合住宅「中銀カプセルタワービル」などで有名な建築家の黒川紀章さん

 

ブラジャーってどんな種類があるの?

「今日はよろしくお願いします。さっそく目の前にきらめく下着たちが……!」

「ちょっとドキドキしますね」

「こうみるとどれも同じように見えるんですけど、特徴や機能は違うんですか?」

「ブラジャーにはワイヤーブラノンワイヤーブラスポーツ用のブラ寝るとき用のブラなど多くのタイプがあって、タイプによって作りが違います。いくつかのブラジャーを簡単に説明していきますね」

「よろしくお願いします!」

「こちらはワイヤーブラになります。一般的に『ブラジャー』と聞くとこのタイプを想像される方が多いのではないでしょうか。ワイヤーブラでも谷間を造形するものや、脇をすっきりさせるもの大きな胸を小さく見せるものなど、沢山の機能があるんですよ」

ワイヤーブラ

「あ、これはワイヤーが入っていない『ノンワイヤーブラ』ですよね。初めてノンワイヤーブラをつけた時、一般的なものと比べて『ブラってこんなに楽なんだ!』って衝撃を受けたのを今でも覚えています」

ノンワイヤーブラ(GOCOCi)

「ノンワイヤーブラは、ワイヤーの圧迫感が苦手な人や楽なブラジャーを着用したい人にオススメですね。ちなみに、ノンワイヤーにも色んな種類があって、海外では総レース素材も販売されているんですよ」

総レースノンワイヤーブラ(HANRO)

「トップが透け透けじゃないですか!それってつける意味があるんですか?(笑)」

「はい。他のブラジャーと同様にバストの揺れを抑えるのはもちろん、服の下に一枚挟むことで、服とトップが擦れるのを防ぐこともできるんですよ。それに総レースってエレガントな雰囲気があるので、自然と気分を上げてくれたりもします」

「たしかに、下着って普段は誰に見せるものでないからこそ、本当に好きな物を身に着けられる自由さがありますよね」

「まさにそれが下着の醍醐味だと思います。他にも、運動する時にオススメなのが『スポーツブラ』。スポーツブラは一般的なブラジャーと比べて、運動している時のバストをホールドし、ズレやムレを抑える設計になっています」

スポーツゆれケアブラ(CW-X)

「どうして運動の時に普通のブラジャーじゃなくて、スポーツブラを着用するんですか?」

バストには筋肉がなく、運動などで鍛えることができないため、揺れにくくするには外部からのサポートが必要で。それにスポーツ時のバストは普段の生活の時よりも大きく揺れますし、揺れ方が異なります。そのためスポーツ時のバストをしっかり支えるスポーツ用のブラジャーが必要なんです」

「そう言えば、私の周りには寝る時もブラジャーをつける人がいるんですけど、睡眠中もつけていいんですか?」

昼間と就寝時ではバストにかかる重力の向きが違うので、就寝時に昼用ブラをつけるのはおすすめできません。締めつけ感が少なく、夜のバストを適正な位置で支える夜用の『ナイトブラ』をつけるのがいいと思います」

ナイトブラ

「こんなにもブラジャーに種類があったなんて思いもしなかったなあ」

 

時代を反映して歩んできた日本のブラジャー

「でも、元々は着物文化だった日本で、どうやってブラジャーが誕生し、一般的に広がっていったんですか?」

「まずご紹介させて頂きたいのが、日本にブラジャーを広めたワコール創業者の塚本幸一(つかもと・こういち)です」

塚本幸一さん(提供:ワコール)

「彼は第二次世界大戦の中でも悲惨なものとして知られる『インパール作戦』の数少ない生き残りでした。『生かされたからには何かをしなければ』という想いから、帰国後すぐに、アクセサリーなどの女性向け服飾雑貨の商売を始めました。そんな中、日本人女性が戦後間もなくオシャレする姿を見て、とても衝撃を受けたそうなんです」

「戦争中はファッションを気にする余裕なんてなかったですもんね……」

「はい。その時に『女性が美しくいることは世界の平和につながるんだ!』と思い、女性の美しさに繋がるビジネスを行っていくことを決心しました。そして1949年に、ブラジャーの前身となる『ブラパット』を取り扱い始めたんです」

「ブラパットですか?」

「螺旋状のアルミの針金が生地で包まれたものです。当時のブラパットは今のブラジャーのようにサイズが沢山あるわけではなく、サイズは一つだけだったんですよね」

ブラパットのレプリカ。触ってみると想像以上に硬い!

「サイズが一つだけ! それまではブラジャーを身につける機会がなかった日本人女性に、限られたサイズしかないブラパットは受け入れられたんでしょうか?」

日本に欧米の文化が入ってきたことで洋装に憧れる女性も多くて、すごく売れたそうです。着物はからだの凹凸が少ない寸胴体型のほうが似合うんですけど、洋服はからだのシルエットが見えたほうがきれいに着こなせます。なので、ブラパットという新しいアイテムを試してみる女性が多かったみたいですね」

「日本人女性のファッションの洋装化とともに、ブラパットが広がっていったんですね。当時は今みたいに誰も手に入れられる価格だったんですか?」

「いえ、1949年頃の民間労働者の月収が約8,800円に対して、ブラパットの値段は約250円と、贅沢品だったようです」

「その後、年月がたつにつれてブラパットからブラジャーにはどのように進化したのでしょうか?」

「ブラパットは直接衣服に縫い付けて使用していたのですが、より手軽にブラパットを使用してもらう事を目的に、ブラパットを入れる内袋がついたブラジャーをつくり販売しました。1960年代になると今のものに近いストレッチ素材のブラが発売され、からだになじみやすい快適なつけ心地のものになったんです」

「なるほど。ブラジャーがどんどんつけ心地のいいものに進化していったんですね」

「そして、1980年代はシェイプアップブームから、からだのラインを意識する、いわゆるボディコンシャスなファッションがトレンドでした。『セクシー』という言葉が誉め言葉として受け入れられ始めた中、ワコールではセクシーでカラフルな『シェイプブラ』を発売したんです」

(提供:ワコール)

「女性が自分のからだをポジティブに表現することに目覚めたんですね」

「はい。1990年代になるとバブル期から続くボディコンブームとスーパーモデルへの憧れから、メリハリのあるボディラインが好まれていました。その頃に発売したバストを寄せてあげて谷間をメイクする『グッとアップブラ』は、発売開始から約5年間で累計1,000万枚というワコール史上最大のヒットを記録しました」

(提供:ワコール)

「当時、みんな本当に欲しかったものだからそれだけ売れたんでしょうね」

「さらに2000年代になると、それまでのカリスマ的存在の有名人にみんなが憧れて真似をする傾向から、次第にニーズの多様性が重要視されるようになってきたんです」

「『みんなちがってみんないい』といった様に、多様性に寛容な社会に変化した頃ですよね」

「はい。そのためキャッチコピーもブラジャーの機能性よりは、気分も感性も心地よくなるようなマインドに働きかけるものが生まれました。これは令和のブラジャーの価値観にもつながっています」

 

男性用レースからジェンダーレスなものまで。最新の下着事情

「時代とともに下着のデザインが大きく変化した中で、最近はどんな下着が出てきているんですか?」

「最近はシルエットをキレイに見せる機能と、ここちよいつけ心地を両立するブラジャーも出てくるようになりました。こちらは『ハグするブラ』といって、脇にあるシートが体温で柔らかくなり、からだに馴染むことで、まるでブラにハグされているような一体感と安心感のあるつけ心地なんです」

『ハグするブラ』

「体温で! それはすごい……」

「だんごさんもいらしてるので、女性用の下着だけでなく男性用の下着もご紹介しますね。今男性用の下着でヒット商品となっているのが、ワコールメンのヒット商品となっているのが総レースのボクサーパンツ『レースボクサー™』です」

「え、これ男性用なんですね!」

「デザインが華やかなので間違える方も多いのですが、男性用の下着です。見ての通り総レースなので通気性がよく、裾部分に縫製がないのでアウターにひびきにくくなっています

「たしかに触ってみると、めちゃ伸びますね! どういった経緯でレースのボクサーパンツが生まれたのか気になります」

「これまでレース=女性向けというイメージが強かったんですけど、社員から『男性もレースの伸びの良さや履き心地の良さを体感してもいいのではないか?』という声があがったんです。初めは社内でも色んな意見があったんですけど、2021年に試しに販売してみると、約10日間で約3カ月分の販売予定枚数を終了するほどの人気になりました」

「需要があったんですね。そういえば、最近ワコールからユニセックスのパンツが販売されたニュースを見て『洋服だけでなくパートナーと下着をお揃いにできるんだ!』と驚きました」

ファッションブランド『beautiful people』とのコラボパンツ。S〜LLまでを1サイズで対応しており、あらゆる体型の人でも履けるデザインになっている

「ワコールからこれだけ男性も履ける下着が出ていたとは知らなかったです」

「女性用の下着は様々な種類があり選ぶ楽しみがある一方、男性用の下着って女性用と比較すると種類が少ないので、男性も女性同様に下着を選ぶ楽しさを体験していただけたらと思いますね」

「時代とともに変化する価値観を柔軟に取り入れながら、下着の機能や素材は変わっていったんだなあ」

 

ブラジャーをつける理由について真剣に聞いてみた

「ブラジャーの種類と歴史について色々と聞いたところなんですけど、実は私、普段からあまりブラをつけていなくて。ちょっと極端かもしれませんが、ノーブラという選択肢もあると思いますか……?」

「もちろんです。ノーブラがその人にとって快適であれば、そのままでいいと思います。絶対にブラジャーをつけないといけないことはありませんから」

「つけなくてもいい! そしたら、ブラジャーの役割って一体……」

「ブラジャーの主な役割はバストの揺れを抑えて、快適に過ごすことができるようにすることなんです。他にも、バストと洋服の摩擦を抑えたり、衣服のシルエットを美しく見せたりする働きもありますね」

「ブラジャーの役割のひとつがバストの揺れを抑えることなら、バストが小さい人は必要ないですよね。つまりバストが小さければブラはしなくてもいい!?」

「バストの揺れはバストの大きさは関係なく、また、先ほどお伝えした通りブラにはさまざまな役割があるので、それを踏まえたうえで自分に合うブラをつけることをおすすめします」

「小さいからブラジャーはいらないというのは、違うということですね」

「よくお客様の中にも『サイズを測りに行きたいけど、触られるのが苦手で……』と言って、自分のサイズを把握していない人も多いんです。でも、今は3Dスキャナーを使い、簡単に無料でセルフ計測できる『SCANBE(スキャンビー)』というサービスもあるので、一度試してみてほしいですね。自分に合ったブラジャーをつけることで、つけないよりも快適に過ごせるなんてこともあるので」

SCANBE(スキャンビー)(提供:ワコール)

「実は私、今までブラジャーのサイズをきちんと測ったことがなく、適当にサイズを選んでいました。だからずっとつけ心地が悪かったのかもしれないな……。きちんと測ってみると、自分に合ったものが見つかるかもしれないので、一度お店に寄ってみようと思います」

「それこそコロナ禍でリモートワーク導入の際に、仕事のオンオフの切り替えのために下半身のシルエットを整える『ガードル』を家で履く社員もいて」

「部屋着のまま仕事してても気分がシャキッとしないですからね。下着で気合いを入れるのはよさそう」

「下着って気分転換ができるアイテムでもあるので、仕事で気合を入れたい時やデートの時などその日の予定に合わせて活用するのもいいと思いますよ。まずは色々と試してみて、自分のからだに合ったものを探してみてください」

「今日は下着に関する悩みを話せて良かったです。ありがとうございました〜!」

 

まとめ

これまで苦手意識しかなかったブラジャーですが、その歴史や機能をきちんと知ると、「もしや今まで自分のサイズに合っていないものをつけていたから、窮屈に感じていたのかも……?」と感じ、まずは一度、ちゃんと自分のバストのサイズを測ってもらおうと思いました。

もしこれを読んでくれている人の中で私と同じように、ブラジャーが苦手な人がいたら、まずはきちんと自分のサイズに合うものを身につけた上で、ブラをつける・つけないの判断を自由にしてもらえたらいいなと思います。

 

ブラジャーは今回紹介された種類以外にも、ホールド系からリラックス系まで様々なものがあるそう。それなら一度試さずにはいられないですよね。ワコールさん、親身に話を聞いてくださり本当にありがとうございました!

撮影:橋原大典(@helloelmer