こんにちは。ジモコロの記事を若者向けに発信するインスタマガジン「Re:youth」編集長の京野桜大(キョウノオウタ)です。
僕は最近、モヤモヤしています。例えばSNSやYouTubeを見ていても、気づけば自動でレコメンドされている。ついついクリックしちゃうけれど、それは「自分が見たいもの」ではなく、「見たいと思わされているもの」。アルゴリズムに好奇心を支配されちゃってないか? と感じるんです。
自分が見てる世界、知ってる世界より外に全然広がっていかないな…と悶々としていたとき、こんな風に言ってくれた知り合いがいました。
「世の中のトレンドを追うのではなく、自分軸で物事を考えて生きたほうが面白いよ」
そう言ってくれたのは、店を持たずに日本のみならず世界各地に出張して料理をふるまう「出張料理人」のソウダルアさん。
ルアさんは僕にとって尊敬する大人のひとり。たとえ年の差が20歳以上離れていても、出会った頃から対等に扱ってくれて、19歳の自分を僕をひとりの人間として見てくれます。
そんなルアさんと話がしたくて、墨田区京島にあるアトリエにお邪魔しました。
「trip」と名付けられたルアさんのアトリエ。取材日は知り合いのアーティストが組んだという竹のやぐらで埋め尽くされてました
話を聞いた人:ソウダルアさん
出張料理人/現代美食家。大阪出身。全国各地でその土地の素材のみを扱い、風土と歴史が交差する料理を和紙の上に表現する。その他、芸術祭でのレストランプロデュース、食による地方創生、フードエッセイの連載、映画出演など、あらゆる食領域で活動。現在は東京都墨田区京島にアトリエを構えながら、新たな食事のあり方を提案中。
情報過多のネット時代、自分軸で生きるのって難しくない?
「ルアさん、よろしくお願いします」
「オウタとはよく会ってるけど、こうやって改まって話すのは新鮮だね」
「ルアさん、この間『自分軸で生きたほうが面白い』って言ってくれたじゃないですか。あの話を今日はしたくて」
「オウタと最初に会った中高生向けのビジネスキャンプでも、似たようなことを言った気がするな」
「数年前に僕が参加してて、ルアさんはゲストだったんですよね。大人たちがビジネスについて熱く語っている中で、ルアさんだけが『もっと好きに生きていいんじゃない?』って言ってて、衝撃でした」
「キャンプに参加している若い子たちがあまりにも真面目で驚いちゃったんだよね。上の世代が作った社会問題を若者が解決しないといけない! と思っていることに違和感を感じて」
「中高生で起業家を志すような子たちは、まっすぐ社会問題に取り組もうとしてる人が多いですね」
「真面目なのは素晴らしいと思うけどね。大人も『出資してあげる』みたいに上から接するじゃなくて、優秀な若者にはお金なんて好きなだけ渡したらいいのにって」
「すごいこと言ってる人いるな! って驚きました(笑)。ルアさんの若い頃とは違いますか?」
「今はスマホがあれば何でも調べられちゃうから、ネットから情報を得ただけで満足したり、学んだことを行動に移す前に止めちゃう人が多い気がする。それと比べて、ネットがない時代はとりあえず行動するしかなかったからね」
「僕ら世代はネットから情報を受けとることに慣れてて、誰かの意見や考えに引っ張られちゃうことは多いかもしれません。自分で『こうじゃないかな?』って思う前に、『これが正解らしい』と先に情報を得ちゃうというか」
「それはしんどいよね〜。ただボーッとする時間もあんまりないんじゃない?」
「同級生を見てても、学校や塾が忙しくて、日々自分と向き合う時間がほとんどないように感じます。空いてる時間にSNSを見ても、すごい情報量が流れてきて。そんな中で自分の頭でまず考えるって難しいな〜と僕自身思いますね」
「SNSは便利な一方で、 頼りすぎると理論武装ばかりで行動が伴わない、頭でっかちにもなっちゃうよね。だからネットで得る情報を鵜呑みにしないで、実際はどうなのか自分で行動して確かめることが大事だと思うな」
「やりたくないこと」を先に決めると生きやすい?
2022年に約3週間、戦時下のウクライナへ渡り、避難民の方々と料理を通して交流したルアさん
「ルアさんは10代の頃に不登校や家出を経験されたそうですが、どんな学生時代を過ごしたんですか?」
「幼稚園初日の集団登園するタイミングで、『ちょっと合わないかもな』と感じたんだよね」
「初日から(笑)。 どんなところが合わないと思ったんですか?」
「それまでは自由に過ごせていたのに、幼稚園に入った瞬間、いきなり集団行動しないといけなかったり、年上の子が年下の子どもを引率したりすることに違和感があって」
「みんなと一緒に行動しなきゃ、って空気が合わないなと」
「脇目をふらずに頑張りましょうって言うけど、脇目をふりたい人間だったから(笑)。みんなと決まった道を歩きながら『あっちの道の方が面白そうなのに、なんで行っちゃダメなの?』って」
「そんな子どもだと、好奇心をつぶされそうになった経験はなかったですか?」
「たくさんあったよ。物心ついた頃から好奇心が旺盛で、そんな自分を見て周りからあれこれ言われたこともあったけど、『俺のこと面白くないっていう奴は面白くないわ!』と思って、あんまり気にしてなかった(笑)」
「無敵のマインドだ…..」
「でも、今までただ自由奔放に生きてきたわけじゃなくて、社会人として働いた経験もあるし、その中で自分の好奇心にはできるだけ素直に従ってきただけだよ」
「自分を殺してた時期はなかったですか?」
「たくさんあったよ! 10代でアルバイトの身分なんかだと、組織に合わせざるを得ないし。俺の場合は自分を殺すのは向いてないなと気づいて今みたいになってるけど、それもその人の性質しだいだと思うんだよね。組織に合わせるほうがパフォーマンスを発揮できる人もいると思うし」
「組織に合わせるのは向いてないなって人は、どうすれば生きやすくなると思います?」
「自分のやりたいことを考える前に、『やりたくないこと』を決めておいたほうがいいと思う」
「やりたくないことを決める」
「若い起業家の子に『こういう事業をやりたいけど、どうやったらできると思いますか?』って相談されることも多くて。でも、やりたい理由を聞いたら、意外と答えられない人が多かったんだよね」
「それこそ他人軸で、世の中的にこれをやったほうがいいらしい、からスタートしちゃってるのかもしれないですね」
「自分の中に判断できる軸がないと、例えば事業がうまくいってオファーがたくさんきた時、取捨選択ができなくてパンクしちゃう。判断軸は『やりたい』だけじゃなく、『やりたくない』でもいいと思うんだよ。そこから自然と自分にできることが見えてくる」
「なるほど。あとは『自分はこれができない』って認めちゃうのも大事かもしれませんね。僕自身がそうで、自分の得意不得意を理解してからのほうが、あんまり悩まずに物事を選択できるようになりました」
自分なりの正解に、失敗しながらたどり着くしかない
「最近、自分も含めて何か問題が起きたときにすぐに答えを求めようとしちゃいがちだなと思ってて。ある本で、これは『ポジティブ・ケイパビリティ』の話だと知ったんです」
「どういう意味なの?」
「すぐに答えを出そうとする問題解決能力って意味らしいです。逆に『ネガティブ・ケイパビリティ(=どうしようもない事態に耐える能力)』って言葉もあって、今は後者がすごく大事じゃないかなと」
「たしかに、日本は自然災害も多いし、そういう時に必要なのはネガティブ・ケイパビリティかもね。日本独自の美しさの概念の中には、形あるものはいつか壊れる諸行無常の感覚もあるし」
「生き方にも通じる話だなと思ってて。昔と違って『こういうルートをいけば正解』って生き方もないじゃないですか。だったら、正解かわからないけど、自分の行きたい道を行ってもいいのでは? って思ってます。僕自身、中卒でフリーランスの選択をしましたし」
「答えが出るのって気持ちがいいんだけど、 ネットでは自分の求める本当の正解は見つからないんだよね。料理で例えると、自分史上、最高のシチューのレシピはネットには載ってなくて、失敗と試行錯誤を繰り返しながらたどり着くしかなくて」
「ルアさんは普段から色んな場所に行って料理をされていますが、知らない土地ってどんな材料やお店があるのか分からないじゃないですか。どうやって下調べするんですか?」
「いや、あえて事前に調べないようにしてる。実際に行ってみて、地域の人たちの話を聞いたり、畑の野菜を収穫させてもらったりしながら、その土地によって違った味わいや調理方法を提案してるね」
「偶然の出来事を大切にしてるんですね」
「やっぱり仕事も人生もその都度、起こったことに対応していくほうが面白いと思うんだよね。 偶然を積極的に生み出すためにも、自分は料理する場所を定義していなくて。そんな風に『わからない』を楽しむことが人生を豊かにするコツなんだと思うよ」
大切なのは答えじゃなくて「問い」
ルアさんが各地で行うインスタレーションの様子
「とはいえ正解かどうかわからない状態って、不安になると思うんです。宙ぶらりんというか」
「そもそも、世の中で白か黒かはっきり分けられることのほうが少ないと思うんだよね。例えばフードロスの社会問題も、ただ生産する量を減らせばいいって話じゃなくて、それで職を失う人が出てきたり、いろんな要因が絡まり合ってる」
「だとしたら、問題や違和感にどう向き合うのがいいんでしょう」
「答えを探すより、『自分はどう思うか』『自分なら何ができるか』って問いかけるのが大事なんじゃないかな」
「なるほど。今の世の中ってついわかりやすさが求められがちですけど、わからないことはわからないままでいいのか……」
「また料理で例えるけど、『どうやったらこのイカをうまく煮込めるか?』って考える時間って楽しいんだよね。失敗したら次はどうしたらうまくいくか、また考えて。レシピを見て先に正解を知るより、自分で試行錯誤するほうが面白いと思う」
「失敗したからこそ、身につくこともある……」
「そこに人生の面白みがあるんだよね。もちろん自分なりの答えを見つけるのもいいけど、それはその時代の最適解でしかなくて、時代が変わると別の答えに変わる可能性もある。そこに気をつけなきゃいけないね」
「ルアさんと話して、まだまだ人生経験が浅い僕が悩むのは当たり前で、『若いうちに何かしらできるなんて、思わないほうがいいんだ』と思いました」
「こちらこそ、今日は話せて楽しかったよ。またいつでも遊びに来てね」
<お知らせ>
能登半島地震で被災された方を応援する、ルアさん企画のクラウドファンディングも実施中です。期間は2/18(日)まで。
☆ジモコロのインスタマガジン『Re:youth』も更新中です!
この投稿をInstagramで見る
撮影:たかはしじゅんいち
構成:吉野舞