あの「がんこちゃん」もここから生まれた! 老舗の人形工房に聞く、かわいい人形の作り方

2022.10.27

あの「がんこちゃん」もここから生まれた! 老舗の人形工房に聞く、かわいい人形の作り方

「ざわざわ森のがんこちゃん」をはじめ、今も昔も子ども心を魅了するテレビ人形劇。かわいくて元気いっぱいのキャラたちは、どんな会社でどんな人たちが制作しているのでしょうか。新宿で50年続く老舗テレビ人形制作会社スタジオ・ノーヴァで、かわいい人形をつくる秘訣や制作に込めた思いを聞きました。

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    こんにちは。ライターの吉野です。

     

    私は普段からNHK Eテレで放送されているテレビ人形劇が大好き。

     

    特に『ざわざわ森のがんこちゃん』は平成生まれのバイブルと言ってもいいかもしれません。オープニングの歌詞にある「メゲない・ショゲない・ないちゃだめ」の言葉は、人生の心の柱になっているほど人形劇コンテンツから大きな影響を受けました。

     

    そんな中、テレビ人形劇を見るたびにずっと気になっていたことがあるんです。

     

    人形劇番組の制作現場ってどんな人たちが関わっているの? 

    テレビに出てくる人形はどうやって作られているの?

     

    「人形制作の裏側が知りたい!」と思い、今日は新宿にある52年の歴史がある映像人形劇の制作会社「スタジオ・ノーヴァ」の工房にやってきました。

     

    「スタジオ・ノーヴァ」は、NHKのテレビ番組『えいごであそぼ with Orton』や『連続人形活劇 新・三銃士』『おげんさんといっしょ』の人形など、誰もが一度は見たことがあるテレビやCMの人形制作を担当している会社です。

     

    「ノーヴァ」という名前を聞いたことがない人でも、制作物を見ると知っている方もいるのではないでしょうか?

    全ての制作物 | STUDIO NOVA

     

    そんな憧れの「スタジオ・ノーヴァ」制作チームの方にお話を伺いました。

     

    話を聞いた人

    (写真左)西村仁志さん……制作部部長。『ざわざわ森のがんこちゃん』で人形指導を担当。在籍14年目

    (写真中央)菅澤敬一さん……美術部。『銀河銭湯パンタくん』のキャラクターデザインを担当。在籍23年目

    (写真右)白岩七瀬さん……美術部。Eテレの教育番組やテレビCMでの人形制作を担当。在籍15年目

     

    人形制作は作って終わりではない!?

    「今日は子どもの頃に見ていた人形劇番組の制作現場に来れてとっても嬉しいです。あっ、アトリエにもかわいい人形たちがいる!」

     

    ノーヴァが企画した短い人形劇に登場するロボット人形

     

    「以前はノーヴァの設立母体でもある『人形劇団プーク』を取材していただき、ありがとうございました。実は、今回の取材のためにスペシャルゲストを呼びました」

    「スペシャルゲスト……!?」

    「それでは一人ずつ紹介しますね。一人目は『それいけノンタック』(NHK教育テレビ/1985〜1992年)からノンタックくんの登場です」

     

    「知らない! 優しい目に青いメガネ……誰なんですか……?」

    「ノンタックは、吉野さん達より少し上の世代が観ていたのかな。彼は大好きなおばあちゃんにもらった魔法のめがねの力で、学校や身の回りにある様々なものに話しかけられるんです。社会の仕組みを学ぶ教育番組の主人公でした」

    「へ〜! 世代によって観ていた番組が違いますもんね。そう思うとテレビ人形劇って歴史が長いなあ」 

    「そうですね。ゲストはまだいます! 二人目は『銀河銭湯パンタくん』(NHK Eテレ/2013年〜)のパンタくん

     

    「お〜! キャップと巻き癖の付いた前髪、少し出ている2本の前歯がトレードマークのパンタくんだ! 2313年の銭湯という舞台設定が色々とぶっ飛んでて最高です」

    「最後のゲストは、ざわざわの森から来てくれた『新・ざわざわの森のがんこちゃん』(NHK Eテレ/2015年〜)のがんこちゃんと弟のがんペーちゃんです!」

     

    がんペーちゃん(左)、がんこちゃん(右)

     

    「キャー! がんこちゃーん!!!」

     

    大好きながんこちゃんに会えて、思わず泣いてしまうジモコロ編集部のヤマグチさん

     

    「まさかこんなに喜んで貰えるとは思いませんでした(笑)」

    「すいません。突然推しが目の前に現れて泣きそうになりました……。がんこちゃんは1996年から放送されていたNHK教育テレビの道徳番組『ざわざわ森のがんこちゃん』の主人公ですよね。リアル世代なのでずっと観てました!」

    「そっか、取材チームはがんこちゃん世代なんですね。その通りです、人類が滅亡し、砂漠化した地球で『ざわざわ森』へ引っ越した恐竜一家とゆかいな仲間たちのお話です。20周年の時には、女優の二階堂ふみさんが主演で実写化もされました」

    「設定もいいよなあ……。がんこちゃん、想像してたより小さいですね! テレビで観てたときは、もっと大きいのかと思ってました」

    テレビは予算との兼ね合いがあるので、出来る限り人形は小さくしています。小さくても照明やカメラの撮り方で大きく見せられるので、映像ならではの予算を抑える手段です

    「なるほど! 前回取材したプーク人形劇団の人形たちは、どの客席からも見えるように大きめに作られていたけど、その必要はないんですね」

    「テレビと舞台の違いですね。逆に人間の役者と絡む人形は、並んでも見劣りしないように大きくしたりしますよ」

    「番組内容によっても人形の大きさが変わるんだ」

    「そうなんです。むしろ、最近のTVカメラは画質がすごく良いので、肉眼では分からない小さな傷や汚れも映っちゃうんです。なので、現場で『そこにゴミがある!』って気づくとすぐに直してます」

     

    ノンタックは番組内で役者とのやりとりがあるため、がんこちゃんやパンタくんより大きめ

     

    「あれっ? みなさんは収録現場にも参加されているんですか?」

    ノーヴァは人形を作って終わりではなく、収録現場にも必ず立ち会っています。やっぱり女性と男性の役者さんでは手の大きさや力加減も違いますし、操作感を硬くしたり柔らかくしたり、役者とコミニュケーションをとって現場で『相性の良い人形』に変えているんです」

    「人形と人間の間にも仲の良い悪いがあるんですね」

    「はい。元々ノーヴァは劇団から派生したこともあり、役者さんと直接会話することを大切にしています。他にも、人形の衣装やセットの飾り込みも自分たちで作っているんですよ

     

    「セットと言えば、テレビで人形劇を観ると人形とセットのバランスがいい感じで写っているなあって思うんですけど、何か意識していることはあるんですか?」

    どの角度から撮っても違和感のないように心がけてます。一枚の静止画として『この配置がいいな~』と思って飾り込んでも、シーンの中でカメラの動きがあったりすると邪魔になったり、足らなかったり、カメラさんの判断で位置を変えたりする。それぞれの好みもありますけど(笑)」

    「人形を作って終わりではなく、その後もずっとお付き合いが続くんですね」

     

    アイデアは、日々のかわいいものの中から生まれる

    「人形を制作する時の重要なパーツってどこになるのでしょう?」

    「デザインする段階で『このキャラはどう動かしたら魅力的になるのか?』を考えるんですけど、最終的に重要になってくるのは『顔』ですね。例えば、がんこちゃんだと黒目がポイントで

    「たしかに。がんこちゃんって目を合わせたら、グッと吸い込まれてしまうような魅力的な目をしてますよね。まるで小悪魔みたい(笑)」

    がんこちゃんは黒く大きい瞳なので、照明の力でよりイキイキと見せられるんです。まるで生きているかのようなリアリティが増すんですよね」

     

    「がんこちゃんが目なら、パンタくんはちょろりと出る2本の前歯がチャームポイントですよね。どうしてこの形になったんですか?」

    「パンタくんは、『歯を動かすと喋っている風に見える』と気づき、歯のみを動かす仕掛けを入れました。他にも、キャラの個性によって口の代わりに眉毛が動いたり、髭で喋ったりする子もいるんですよ」

    「小さな人形で演じるからこそ、顔の小さなパーツと性格がリンクしていることで、観る側の想像力が深まるんですね」

     

    パンタ君は小学2年生。「銀河ノ湯」の一人息子で、わんぱくでいたずら好き。前歯のほかにも、目が大きく動く

     

    「それじゃあ、人形の性格によって素材や生地の選び方も変わってくるんですか?」

    「イメージ通りの生地選びをすることもありますが、フワフワのかわいいフォルムなのに毒舌など、ギャップをだすこともあります。あと生地選びで重視してるのは、綺麗に貼り込むための伸縮性。生地屋さんでいいのが見つからない時は既製の服や商品をバラして使うこともあります」

    「キャラクターのデザインから手がけることが多いんですか?」

    「頂いたデザイン画やラフから作ることはもちろん、初期デザインから関わることもあります。いずれにしても毎回違うものを作るので、その人形に合わせた制作方法や素材をイチから考えます」

     

    パンタくんの操演部分。手足だけでなく、首や目、前歯などそれぞれの紐に体のパーツがリンクしている

     

    「ずっと気になっていたんですけど、どうしてこんなにかわいい人形を作れるんでしょう?」

    「人形のデザインの参考にするために、よく動物園に行きます。カワウソの短毛具合や肉球を見たりして、『どうしてかわいいと感じるんだろう?』って日々の中でかわいい理由を探し出すんです」

    「かわいいものハンターだ……。たとえ仕事でも『この子かわいいな〜』って思うと、キャラへの入り込み方も変わってきますか?」

     

    「やはり好みの子だとモチベーションは上がりますね! だけどビジュアルだけしっかり作ればいいわけではなく、動かしやすさも考えないといけません。なので、見た目と操作性の狭間で悩むことはよくあります。『どうしたらいいかわからん!』ということもありツライです(笑)

    「そうなんですか!(笑)」

    「他社では、人形の型取りや縫製担当など分業作業が多い中で、ノーヴァはよほど大きい仕事でなければ人形制作の全工程を1人〜2人で担当します。仕掛けや衣装、付属パーツなど部分的にお手伝いしてもらうこともできるので、完璧に全てを自分でできる必要はないのですが、人形制作を一通り網羅していないと的確な指示ができなくて……把握するジャンルが広いところが大変です」

    「今まで人形劇の人形だけに注目してたんですけど、その裏では大変なことももちろんあるんですよね」

     

    「はい。だけど人形は現場で使われる時が本番なので、よりいい演技につなげられるように責任をもって制作しています」

    「ノーヴァのスタッフさんの絶え間ぬ努力こそ、人形の魅力を引き出す秘訣なんだなあ」

     

    人形制作は『道具を作っている感覚』に近い

    「みなさんがノーヴァに入ったきっかけって何だったんでしょうか?」

    「たまたまノーヴァが雑誌に求人募集を出していて、『工作してお金貰えるのっていいな』と思い、軽い気持ちで受けました。実は面接でノーヴァが人形制作をやっている会社だと知ったんです(笑)』

    「私は前職で不動産広告をつくるDTPオペレーターをやっていたんですけど、自分の手の中で作る仕事がしたいと思い、たまたま見つけたノーヴァに求人問い合わせメールをしました。その時はタイミング悪く採用募集はしてなかったのですが、半年後に面接をし、入社しました」

    「今日は皆さんと話してみて『優しい雰囲気が似てるなあ〜』と思ったのですが、ノーヴァの社員さんって何か共通点があるんですかね?」

    変わっている人ですね(笑)。世代的には40歳前後と新卒の20代と二つの年齢層に分かれていて、社員20人のうち14人が女性ですね。美術部と制作部に分かれていて、制作部は問い合わせがあった時の窓口や人形劇の演出を担当しています。美術部は主に人形や造形物を作るチームになっています」

     

    「美術系の仕事って制作に時間がかかってしまうため、労働時間が長いイメージがあります。みなさんはどんな感じなのでしょう?」

    「ノーヴァはフレックスタイム制を導入していて、育休も取得できる職場になっています。私は一昨年に2回目の育休を取得し、今は時短勤務中です

    「働きやすい環境が整えられているんですね。やっぱりみなさんは、小さい頃からぬいぐるみ好きだったんですか?」

    「そうでもないんですよ(笑)」

    「え〜(笑)」

    「この職業って極めて人形が好きな人や作家気質の人には向いてないと思っていて。あれもこれもやりたいという『マルチな人』の方が向いていますね。社員も『特別人形が大好き!』って人たちよりも、基本的にものづくりの好きな人たちが集まっていますし」

     

    「ちゃんと人形との間を保てる方が客観的に見れて、向いているのかもしれませんね」

    「極端に言ってしまうと、この仕事って『道具を作っている感覚』に近くて、例えるとスポーツカーを作っている感じなんです。なので、個人的な感情よりも撮影でどれだけお芝居がしやすい人形を作れるのか。映像の中で上手に生きてくれるのかが作る上で一番大切なんですよ」

    「作った人形に対して『こう言われると嬉しい!』みたいなことってありますか?」

    どの人形も可愛く演じてくれとは思うので、やっぱり『かわいい』と思ってくれるのは嬉しいです。最近はSNSでも作った人形の感想が分かるので、以前よりは視聴者の反応が伝わるようになり、モチベーションに繋がっているところもありますね。人それぞれでSNSはチェックしていると思いますよ」

    「これからもかわいい人形たちを作ってもらうために、どんどん呟いていこう!」

     

    VTuberにゲーム実況プレイヤーも! 人形の需要も変化

    「最近は、テレビやCM以外など人形の求められる場所は変わってきてるんでしょうか?」

    「はい。VTuberの『甲賀流忍者!ぽんぽこ』やゲーム実況プレイヤー『ナポリの男たち』の人形を作らせてもらいました。2020年からは、YouTuber個人からの依頼も少しずつ増えています」

     

    ノーヴァのHPより

    「人形の需要が大きく変化しているんですね!」

    「人間と人形がコラボした番組は多いんですけど、その一方で人形劇だけの番組が減っているのが現状なんです」

    「そういえば、新しい人形劇のテレビ番組って観ないなあ……」

    「昔はテレビで何となく流れていたのがアニメか人形劇で、みんな先入観なしに観てくれていたと思うんです。けれど、最近はテレビ自体持たない家庭も増えましたし」

    「私は小学生の時、学校を休んだ平日に家で『ざわざわの森のがんこちゃん』を観るのがとても楽しみでした。人形劇って世代問わず、楽しい思い出をたくさんの与えてくれるものだと思うんですよね」

     

    「もし今、ネットで動画を観ようってなっても、数ある中から人形劇に辿り着かない可能性もあるわけで。そうすると、テレビで流れる人形劇の番組って本当に貴重ですし、大人になった今でも吉野さんみたいに何か刷り込まれている人も多いですよね(笑)」

    「こうやって世代の違う皆さんとお話しできるのも人形劇があったおかげですよね。共通言語でもある人形劇の番組が少なくなるのは寂しい……」

    「最近の小学校では、タブレットが配られてそこからがんこちゃんの番組を見ているそうです。どんな形であれ人形劇を見る機会を持ってくれているのは嬉しいですね」

    「そういえば、がんペーちゃんの新番組が始まっているんですよね!」

    「そうなんです。去年から始まった新番組『ざわざわえんのがんぺーちゃん』は、がんこちゃんの弟が主人公で『幼児期の子供たちにとって身近な出来事』がテーマなんです」

    「赤ちゃんだったがんペーちゃんが、成長して喋れるようになってるんですよね。それだけで泣きそう……」

    「自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、悩んでしまうがんペーちゃんの姿に応援したくなること間違いなしです」

     

    毎週金曜 午前9:009:10 Eテレ「ざわざわえんのがんぺーちゃん」 (画像提供:NHK)

     

    「私たち世代が観ていた人形劇が、今の子どもたちにも受け継がれていくんだなあ。自分が観ていた人形劇が時代と共にどう変化しているのか改めて気になったので、観てみます!」

     

    まとめ

    幅広い世代に愛されているスタジオ・ノーヴァのお人形たち。人形劇の裏側にある苦悩や極意を知ると、今まで日本のテレビ人形劇を支えてくれたノーヴァのスタッフさんへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。

     

    『ざわざわ森のがんこちゃん』などのテレビ人形劇に出てくる人形は、どんな時代でもテレビの中で愛されてきたからこそ、世代を超えた「共通言語」として、脈々と受け継がれています。

     

    ノーヴァのみなさんと話してみて、人形制作の仕事の根本には「愛」があるんだと感じました。人形のかわいさを見つけたのは人間で、人形を愛するのも人間だからこそ、こんなにかわいい人形が作られてきたんですよね。

     

    愛に包まれたノーヴァの空間で、これからどんな人形が生まれてくるのか楽しみにしています!

     

    スタジオ・ノーヴァは、10月29〜30日に棒遣い人形の基本構造を学べるワークショップを開催します。人形制作について興味のある方は、ぜひ参加してみてくださいね。

     

    ★お知らせ

    「日本蒸気博覧会」
    日時:2022年10月29日(土) 、30日(日)
    場所:STUDIO EASE目黒
    スチームパンクにゆかりのある選りすぐりのハンドメイド作品やアート・造形が全国から大集決した、展示即売会+参加&体験型イベント。

    イベントには、スタジオ・ノーヴァと人形劇団プークが共同で参加。棒使い人形の基本構造を学べ、操演指導もあるワークショップや、劇団で上演された人形の展示、イベントのために制作した触れる人形も。ノーヴァが企画・人形制作も手がけた短い人形劇では、プークの俳優陣が操演を担当し、海中に住む人形たちの世界を披露します。お芝居のできる人形を作ったり、動かしたり、観たり、人形劇を体験出来るワクワクがたくさんの2日間です。

    当日のワークショップで作れる棒遣い人形「コップロボ」

     

    撮影:飯本貴子

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    この記事を書いた人

    吉野 舞
    吉野 舞

    1995年生まれ。兵庫県淡路島出身。文章を書いたり、写真を撮ったりします。今年の目標は、東京23区の銭湯を全制覇すること。最近、全国どこにでも行って色んな人と繋がるので「5G」というあだ名を付けられました。

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