こんにちは、ジモコロ編集長の友光だんごです。僕はローカルを取材しながらいろんな話を聞くなかで、気になってるテーマがありました。それは「いつまで経っても若手問題」

ローカルにおいて、若手はマイノリティな存在。はじめの頃は「若い」というだけでなんとなくポジションも確立されていたものの、なかなか年下が入ってこずに、気づけば20代後半。自分のキャリアはこのままでいいのか? と焦るも、身近に悩みを共有できる同世代も少なく、目の前の仕事は山積みで悶々としている……なんて人も多いと思うんです。

これはなにもローカルに限った話じゃなくて、毎年のように新卒を採用するわけではない中小企業なんかでも起きているはず(僕自身、新卒で入った小さな会社でこの状態になってました)。

 

人手の限られた環境で、どのようにキャリアアップしていけばいいのか? この問題は、人口減少の続くこの日本でもっと語られるべきテーマなはず!

ということで今回、北海道・長野・山梨のローカルで働く20代後半の三人が集まり、ローカルで働く面白さと難しさ、ローカルならではの働き方、世代交代への思いなど、ざっくばらんに語ってもらいました。

これからローカルに飛び込もうとしている若者や、上の世代の大人たちにも彼ら彼女らの声が届きますように!

 

話を聞いた人

  渡辺紀子(山梨)

1995年、山梨県南都留郡生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部卒業。2019年春に地元である富士吉田市の地域おこし協力隊に就任し、小中高のキャリア教育や高校卒業後の自分らしい進路をみつけるプロジェクトを企画・運営。2020年に協力隊の任期満了とともに事業マネジメントで携わってきた「かえる舎」のスタッフとして参画。

 

  須藤 か志こ(北海道)

1996年、北海道釧路市生まれ。釧路工業高等専門学校電気工学科を卒業後、公立はこだて未来大学にて情報デザインを学ぶ。釧路在住時からクスろに参画し、執筆や広報を担当。「道東誘致大作戦」にスタッフとして参加し、一般社団法人「ドット道東」にも参加。ディレクターとして活動中。

 

  藤原 正賢(長野)

1994年、長野県長野市生まれ。大学時代に「小布施若者会議」などの地方へ関心の高い若年層を対象としたイベントの企画・運営を経験。現在は、長野県の移住総合WEBメディア「SuuHaa」やDX推進イベント「シシコツコツ」をはじめ、行政や地元企業と一緒に新たな人と情報の流れを生み出すプロジェクトに携わっている。

 

関係性は近い、でも距離は遠い! ゆえの悩み

ーーまず、三人がローカルで働くようになった経緯を教えてください。

私は大学進学で県外に出たあと、富士吉田市の地域おこし協力隊として活動してたんです。いま所属している団体「かえる舎」のメンバー2人は先に地元で活動していた先輩なんですけど、距離感としては「友達のお兄ちゃん」みたいな感じで。

富士吉田市役所と連携しながら地域の小・中・高校で授業をしたり、学生たちと地域の活動を一緒にしながら、地元愛を育む活動をおこなう「かえる舎」

協力隊の任期が終わった後、他の場所で働く選択肢もあったんですけど。就活の相談をしたら「うちに入ればいいじゃん!」って誘ってもらって、今に至ります。

僕もHuuuu代表の柿次郎さんとは長野に移住してきた頃から知り合いで、「一緒に働こう」と誘ってもらって。大学時代に起業した自分の会社もあったんですけど、2022年にHuuuuの取締役になりました。最後はノリも大きかったです。

長野市に本社を置くHuuuu。「ジモコロ」をはじめとするメディアの記事制作や、長野でスナック「夜風」やオフィス「MADO」の運営もおこなう

ーーそれこそHuuuuって会社ができる頃から、藤原くんは近くで見てましたよね。

私も「ドット道東」ができる瞬間に立ち会ってたんです。「道東誘致大作戦」とイベントの最中に「このメンバーで、誰かを神輿に載せて会社を作るんだ!」と参加者の方に言われて、その神輿に乗ったのが代表の中西で。だから中西は上司というより学級委員長みたいな感じかもしれません。

北海道東部のエリア「道東」のプレーヤーが集まって結成された一般社団法人「ドット道東」。上段右から二人目が代表の中西拓郎さん

ーー三人とも、いわゆるベンチャーの創業メンバーに近いですよね。立ち上げの際に一緒にいたり、創業者と関係性があって参加してて。ベンチャー的な会社で、かつローカルだと、働き方も色々じゃないですか?

ドット道東はメンバーが全員、釧路とか帯広とか離れて住んでいて。道東って九州とサイズがほぼ同じなので、どこかにオフィスを設けちゃうと通うのが大変なんです。

ーー通勤に片道3時間みたいな世界ですよね。北海道は広すぎる。

そうなんです! なので、ほぼ全員フルリモートで働いていますね。新卒でドット道東に入ったんですけど、最近まで上司と机を並べて働いたことが、ほぼなかったです。

僕は基本、平日の昼間は長野市にあるHuuuuのオフィスで作業して、夜はだいたい地元の店で飲んでますね。Huuuuも関東にもメンバーがいたり、地方出張も多いので、メンバー全員が机を並べて働くことはほとんどないです。

Huuuuが長野市で運営するコワーキングオフィス「MADO」

かえる舎は逆に、ほぼ毎日一緒に仕事してます。同じオフィスに通ってるので、朝、座った瞬間に代表のかずまさんのテンションがわかるくらい(笑)。なんならかずまさんと毎日ランチも一緒に食べてます。

すごい! 上司と距離感が近すぎてしんどい時はないですか?

ありますね。大体なんでも話しちゃうので、逆に悩みを話しづらかったり、近すぎて言えないみたいなこともあるかも。

ーーなるほど〜。ドット道東みたいな働き方だと、上司に相談するタイミングも難しくないですか?

そうなんです! ウェブ上で共有してるカレンダーを見て、上司の空いてる時間を狙って電話するんですけど、道東は圏外の道路も多くて。いいタイミングで電話しないと、話してる途中で圏外になっちゃって強制終了に……。

長野も車移動の時間は多いですけど、北海道は比じゃないですよね。

リモートは便利な反面、話しづらいこともある

新卒でフルリモートになったので、最初はほんとに仕事のやり方がわからなかったですね。最初の頃はメール1本書くのに4時間くらいかかってましたし、上司への相談の仕方も探り探り。

ーーベンチャー的な会社だと、仕事のマニュアルもないことが多いから、雇う側も雇われる側も手探りな状態になっちゃうんですよね。

だけど最近、釧路にある上司の実家で、机を並べて二人で仕事する機会が増えたんです。それで「めっちゃ仕事しやすいじゃん!」って感動しました。メールの書き方も先輩が横にいればすぐ聞けるし、机を並べて働くってこんなに楽なんだと。仕事のやり方をめちゃくちゃ吸収してます。

僕も込み入った話は直接会って話しますね。顔を合わせるって大事。

 

「いつまで経っても若手」を脱け出すために

ーーかしこさんと以前話してて、「いつまで経っても年下なんですよね」と言ってたのが印象に残ってて。三人とも20代前半からローカルで活動してますが、そこに悩んでますか?

釧路の場合、大学進学を機に地元を離れる子が多くて。25歳になるまで、釧路で同世代の友人は片手に収まるくらいしかいませんでした。

富士吉田ではありがたいことに、地元で働くことに興味を持つ若者が増えてきてます。「かえる舎」で一緒に活動してくれる若者を「かえる組」と呼んでるんですけど、毎年約40人くらいが新しく入ってきてくれますね。地元のいろんな学校でも授業をしてるので、そこの子たちは合計すると毎年約3000人くらいになるかも。

かえる舎の活動風景

めちゃくちゃ多いですね!

うらやましい……。

ーーそういう年下の中から、自分たちのチームに巻き込もうって流れはないですか?

かえる舎では最近、新卒採用も考えてます。ただ、三人の小さな組織なので、新しい人を入れるのはかなり色々考えますね。働き方だったり、入ったあとのギャップが生まれないかとか。

気軽にはできないですよね。私の場合、ドット道東結成のきっかけになった「道東誘致大作戦」の経験がほんとに大きくて。すっごく大変なイベントだったんですけど、最初に強烈な体験をメンバーと共有できてるからこそ、今もドット道東で頑張れてる気がするんです。

ーー強烈な原体験を共有してると、組織としてのミッションやビジョンも自然と共有できるのかもしれないですね。それが壁を乗り越えるエネルギーにもなる。

新しいメンバーを入れようって動きはあるんですけど、新卒採用はまだやっていなくて。また原体験を共有するために「道東誘致大作戦」をやればいいって話でもないので……。

全国のローカル活動に精通した編集者らゲスト5名とともに、道東各地を回ったツアー&トークイベント「道東誘致大作戦」(2018年開催)。道東エリアのプレーヤーが可視化されると同時に、イベントの熱狂が運営メンバーたちによる「ドット道東」結成に繋がった

ーーバンドのファーストアルバムは二度は作れない、みたいな話かもしれません。ベンチャー初期の熱狂みたいなものを再現するのは難しいし、初期メンバー以降の採用はみんな悩むところだもんなあ。

どう組織としてのカルチャーを引き継いでいくか、って話ですよね。会社に限らず、ローカルはコミュニティが小さいぶん「お祭り」が重要な気がします。熱狂を共有するのにも、日頃のモヤモヤを発散するためにも。

私たちは三人とも、仕事の中で「調整」が多い役割だと思うんです。それってすごく泥臭くて大変なことも多いけど、お祭りみたいなイベントがあると「楽しい!」って気持ちになれるからいいですよね。

新しい人を巻き込むきっかけになりますしね。そういう小さな共通体験を積み上げていくことが、メンバーを増やすために大事なのかも。あとは調整の仕事と違って、イベントはリアルな反応を現場で得られるから、そこで自分たちが報われるのも大きいなって思います。

富士吉田で毎年開催される「ハタオリマチフェスティバル」。かえる舎では高校生たちとともに参加し、地元の魅力を発信している

ーー逆に、ローカルで若手であることで得することって何かありますか? チヤホヤされたり。

地域によるかもしれないですね。富士吉田の場合、私のひと回り上の人たちが「ローカルで頑張る若者」最初の世代としてされたので、チヤホヤの恩恵は薄かったです(笑)。

僕は長野で行政や老舗の企業と仕事することが多くて、現場で一番若手みたいな場面はまだ多いです。でも、もう20代前半の考えてることはわからないので……。若者代表としてTikTokについて聞かれても答えられない(笑)。だから、もう自分は若手じゃないと思います。

ーー30歳前後は「若い」が武器にならなくなっていく年代なのかも。

より若い子たちに目を向けてもらえるよう、「若い」以外の武器をつくらなきゃと思ってます。この間、藤原くんが「見た目を変えたらポジションも変わってた」って言ってたのが面白くて。

赤丸が2019年頃の藤原さん

コロナ禍で外に出ない時期に髭を伸ばしたんですけど、行政の会議で発言しやすくなった気がします。存在感が増したのかな。

私も急に金髪にしようかな(笑)。

少なからず見た目は仕事に影響している気がしますけど、それだけを武器にせず、仕事のスキルを磨いていきたいですね。

 

ローカルの「世代交代」をうまく行うために必要なこと

ーーローカルの世代交代についても考えてみたくて。実際、皆さんの土地で若い子は増えてきてますか?

富士吉田では最近、特に女の子がローカルの現場にたくさん関わってくれるようになってて。「これから地域を引っ張っていってくれるはず!」と勝手に期待してます。

私の周りでは少しずつ増えてきた感じはしますね。個人的には、同世代で恋バナをする相手が増えたのが嬉しいです。

30歳手前になると、徐々に都会に住んでいる人もローカルの良さに気づき始めている感じはありますね。いっぽうで長野は上の世代もまだまだ元気なので、どんどん若い人に飛び込んでもらって、いい形で上の世代のバトンを受け取っていけるといいなと思ってます。

今のドット道東は、関わりたいって人は若者含めて超オープンに受け入れてるんです。でもその分、ひとりひとりとの関係性は薄くなっている気がして。道東みたいな広大な土地だとオープンにしないと人は呼べないし、今後どういうスタンスで新しい人を巻き込んでいくべきか、悩んでいます

ドット道東が2023年11月にリリースした新しいコミュニティ「DOTO-NET」。ドット道東が培ってきた多様なネットワークを元に、大人たちが道東の若者を全力で応援する仕組みをつくっている

ーーローカルでは特に永遠の悩みかもしれませんね。組織のオープンさと、カルチャーを伝えることのバランス!

やっぱりカルチャーを言語化して、世代とか性別とか関係なく伝えるのは本当に大事なことなんだろうって思ってます。

ーーちなみに、三人は仕事を辞めたくなったことはないんですか?

めっちゃあります。代表に泣きながら「仕事が辛いです」って言ったことは何回もありますし。でも2日くらい経つと楽しかった出来事を思い出して、辞めたくなくなるんですよね。

僕も20代中盤くらいまでは全然ありました。やっぱり都会に比べるとすごく稼げるわけでもないので、大企業に就職した同級生の話を聞いて悔しくなったり。

わかる! 私の大学はメーカー就職に強かったので、同級生と比べてしまって落ち込んだり。でも、どっちの仕事が高尚とかないんですよね。

「DOTO-NET」リリースイベントでの一枚。自分より若い20代のスタッフもいてくれて嬉しいです!(かしこ)

そう思います。僕の場合、もしも自分が東京に残って就職してたとして、今の自分みたいな仕事をしてる同世代がいたら嫉妬するだろうな……と思うようにして、自分を肯定するようにしました。

実際、面白い活動をしてますしね。地道な裏方の作業は辛い時もありますけど、かえる組の子たちと活動するのがリフレッシュになってます。あとは辛いことがあると森の中に行って一人で大の字になってます。富士吉田の自然に救われてますね。

長野にずっといるんじゃなくて、違う土地に行くとすごく刺激を受けます。それもリフレッシュになってるかも。

私は、のりこや藤原くんの存在を知って、自分と同じような境遇の同世代が、他にもいるんだ! ってすごく嬉しかったんです。自分の土地に閉じこもるんじゃなく、地域を越えて、横で繋がっていくことも大事かもしれませんね。

 

まとめ

最後にローカルで働く面白さについて、三人に聞きました。

スナックのママから地元の高校生まで、ローカルに友達が増えたことです!

ローカルにいると、何でも幅広く経験できるのは面白いですね。どんな大変な仕事でも、自分たちの仕事が新聞に取り上げられたり、「ドット道東見てるよ〜」って言われたりすると、努力が報われたなと思います!

長野の仕事って大企業から個人店まで相談の幅が広くて、その関係性の中で仕事を作っていけるのはとても楽しいですね。それに、こうやってそれぞれの土地で働くメンバーで話すと仕事のモチベーションが上がるのは、まさにローカルの醍醐味だと思います。

 

やっぱり一番の敵は「孤独」なのかもしれません。ひとりで抱え込むのではなく、先輩や上司に直接会いに行ったり、ときには外の地域へ目を向けてみる。きっと、どこかに同じような境遇で頑張る仲間はいるはずです!

 

※この記事は2023年10月22日に開催されたハタオリマチトーク 「ローカル生え抜き20代トーク」の内容に加筆・再構成したものです

構成:吉野舞