こんにちは! ライターのいぬいです。開いた口も塞がずに失礼します!

 

突然ですが、今日はどこに来ているでしょう?

 

あ、少し見えてきました。そのまま引いて引いて……

 

棚田???

 

いえいえ、今日は、長野県でイワナやニジマスを育てている"川魚の養殖場"にやってきました! なんとここ、魚の養殖だけでなく、養殖した魚を釣り放題&持ち帰り放題の"釣り堀"や、ここで育てた魚を食べられる"食事処"まであるんです。

 

取材に訪れたのは、山々の豊かな自然に恵まれた長野県のなかでも、さらに山の奥の奥。

 

北佐久郡立科エリアにある『陣内つりぼり園』さんにやってきました。なんでも、この土地でかれこれ50年ほど川魚の養殖業を営んでいるんだとか。

 

えっ? 「ニジマスってどんな魚だっけ」って? 「聞いたことはあるけど見覚えないよ」って? 僕も正直、取材に来るまで見覚えがありませんでした。

 

それもそのはず、かつて観光地のホテルや旅館で数多く出されていたイワナやニジマスは、いまやすっかり出荷量と消費量が落ち込んでいるそうなんです。

 

こちらが、養殖されているニジマス。ちょっぴり冷たい水で暮らすことを好む、冷水性の川魚です。

 

現地でお話を聞いていると、「近くでやってた人は、みんなやめちゃったよ」「もっと儲かる魚がいるから、そっちを育てるようになって」「他の土地では続けてる人たちがいるけど、この土地は水が冷たくて魚を育てづらいからね……」と、川魚養殖を仕事にすることの難しい現状も聞こえてきます。

 

それでもなお、長野県山奥の立科エリアで養殖場を構えている理由とは、一体なんなのでしょう? そして、「みんなやめていった」という川魚の養殖を、いまでも続けられている秘訣とは?

 

その秘密は、「養殖」×「釣り堀」×「食事処」という経営の3本柱を守ることにありました。

 

これはイワナ、これはヤマメ。養殖場を案内してもらう

まず訪れたのは、養殖場の敷地内にあるお食事処『歩歩歩(さんぽ)』さん。町中ではあまり食べられないイワナやニジマスを食べるために、車で訪れるお客さんも多いそう。

 

さっそく、僕もいただきます!

 

まずはこちら、イワナの塩焼きを……

 

いただきます!!!

 

「あっ、美味しい! めっちゃ柔らかいし、白身魚のホクホク感と塩気が嬉しい……川魚って独特の臭いが気になることもあるけど、それも全然ないですね!」

 

もうひとつ、カラッと揚がった天ぷらも……美味しそう……

「これも美味しい! 煮物か!?ってくらい身がホクホクで柔らかい……白身の淡白な美味しさが……」

「美味しいでしょ? このあたりは川の上流で上に人も住んでないからね、水が綺麗で魚の臭みもないんですよ」

「あっ、養殖場のおじさん! 今日は取材、よろしくお願いします!」

 

話を聞いた人:児玉善(こだままさる)さん

「陣内つりぼり園」代表、「陣内マスセンター」代表。自身の父親たちの世代20数名で「養鯉組合」として立ち上げた養殖場を受け継ぎ、高校時代の同年生ら4人で運営している。

 

「もう園内を見て回った? ちょっと歩きながら話そうか」

「お願いします!」

「先に言っておくと、今日は天気が悪くて水が濁ってるかもしれないな。ここはそうでもないけど、山のもっと上のほうではかなり降ってるんじゃないかな」

 

「本当だ……霧っていうか、向こうは土砂降りだ」

「ここが養殖用の槽だね」

 

「うちは卵を孵すところからやっていて、100gくらいの大きさになるまで育てて、出荷したり釣り堀に放したりしてるんだよ。これでも、養殖場としてはウチより小さいところはないくらいじゃないかな」

「こんなに広いのに!? そうなんですね……」

「せっかくだし、ちょっと見せようか」

 

スッとタモですくって……

 

「すごい!これがイワナ!?」

「ヤマメだね」

※ヤマメは体に小判状の斑紋模様があるのが特徴

 

「模様が違う! これもヤマメ!?」

「こっちはイワナ。あとはこいつが……」

※イワナは体に小さな斑点が目立つのが特徴

 

「力強い!!!! こいつがヤマメですか!?」

「大きく育ったニジマスだね]

「全部、外しちゃった」

「うちでも一番長く育ててきたし、長野で広く親しまれているのもこいつじゃないかな」

 

「養殖の魚をこんなにちゃんと見たの、はじめてです。この魚たちを釣り堀で釣ることもできるんですね。あっ、もしかしてあっちが釣り堀ですか?」

 

「いやあ、あれはもう池にしてる。柵の老朽化がひどくて危ないからね。子どもたちがエサやりできるように、ニジマスも放ってあるんだ」

「なるほど。公園スタイルですね。『ニジマスのエサやり一回100円』的な?」

「お金はもらってないよ。代わりにエサやりしてくれるんだから、お金もらうのは別にいいやと思って」

「(商売っけがないなあ)」

 

「こっちが釣り堀だね。一応、道具の貸出をして、釣竿1竿1時間で2500円、釣り放題ってことにしてる」 ※道具・エサ代含む

「釣り放題なんですね! 釣られすぎて困っちゃうこととかないんですか?」

「むしろ、何kgまでって決めたら量ったりしないといけないでしょ。釣り放題だと道具貸すだけだから楽なんだよ」

「なんか、肩の力が抜けてていいですね……!」

「このあたりは標高が1100メートルくらいあって、水が冷たいんだよな。本当は魚は育てづらいんだけど、まあなんとかやってるよ」

 

「ちょっと気になったんですが、そもそもなぜこんな山奥で川魚の養殖をされているんですか?」

「川の上流だから水が綺麗だってことと、水温の低いところを好むイワナやニジマスを育てられるってこと……だけど正直にいえば、養殖の仕事をはじめた親父たちの世代が、この土地を割り振られたからかなあ」

「シンプルな話だった……」

「そうなんだよ。ちょっとあとは座って話そうか」

 

このあたりじゃウチしか川魚養殖をやってない。みんなイワナやニジマスをやめていった

聞きたいことも色々あるので、池のそばに腰掛けてお話を伺います

 

「いま、長野でイワナとかヤマメとか、ニジマスとかを育てている養殖業者さんは減ってるって噂で聞いたんですが……本当なんですか?」

「もちろん、長野でも大きい会社さんで続けているところはあるけどね。県の水産試験場のある安曇野なんかでは、まだまだ川魚の養殖屋さんもたくさんあるし」

 

地図上でも、養鱒場や水産試験場などが確認できる

 

「ただ、北佐久のあたりとか、俺の周りで小さくやってた人たちは、みんなやめちゃったなあ」

「それはどうしてなんでしょう?」

簡単にいえば需要が少なくなったからだね。長野で昔から親しまれていた"ニジマス"といえば、ホテルや旅館で出されるからといってたくさん仕入れがあった。でもいまそういうところで出す川魚は、"信州サーモン"だからね」

「それも聞いたことあります。確か長野県が開発した新しい品種ですよね…?」

 

参考元はこちら

「そうそう。信州サーモンは大きく育つし、単価も高く売れるから。やっぱりみんなそっちをやるよね。でも、うちみたいに川魚を養殖してた小さな施設では、信州サーモンをやろうとしても、できないしなあ」

「そうなんですか?」

「見てもらったように、養殖場の槽って段々になってるでしょう。小さい頃に1槽で育てていた魚を次は2槽に、3槽に、って少しずつ移していくんだけどね。信州サーモンは大きくなり過ぎて、槽が足りなくなっちゃうから」

「そっか、大きくなるスピードも、最大のサイズも全然違うんだ」

「信州サーモンは最大のサイズになるまで3年半くらいはかかるからね。いまの設備でそれを育てようとしたら、他の魚も育てられないしなあ」

「儲けやすい新しい品種が出てきても、気軽に『信州サーモンも育てよう!』と気軽にはじめられるわけではなかったんですね」

 

「エサ代も高くなってるし、養殖の商売はなかなか難しくなってきてるなあと思うよ」

「そもそも昔は、このあたりでもニジマスやイワナを育てていたんですか? 長野の川魚養殖の歴史というか」

「そのあたりはあんまり詳しくないんだよな。調べてもらったほうが早い気がするよ」

「了解です! 帰ったら調べてみます!」

 

参考元、安曇野市HPはこちら。全国養鱒振興組合はこちら

「ニジマスって、そもそも外国から入ってきた魚だったんだ……!」

 

なんで続けられてるんですか?釣り堀×養殖×食事処をやってるから

「よかったらこちらも食べてみますか?」

 

「あっ! 食事処 歩歩歩(さんぽ)で料理を担当されている、佐藤さん! これはなんですか?」

 

「これはスズメ焼きと言って、甘辛いタレで下味をつけたニジマスの唐揚げです。串に刺して焼いた姿が、電線に止まるスズメに似ていたからつけられた名前らしいですよ」

「うわ〜、ありがとうございます! お言葉に甘えて……」

 

「めっちゃ美味しい!! サクサクしてて、スナック感覚でいけちゃいますね! これ食べながら釣り堀なんかしたら楽しいだろうなあ〜。ところで、『イワナやニジマスは需要が減ってきていて大変だ』って話をされてましたよね。ここはなぜ事業を続けられているんですか?」

「やっぱり、釣り堀の売上があるのが大きいかなあ。それがあるから食事処も養殖も続けられるけど、ないときついから」

「へえ…!釣り堀って結構儲かるんですね…?」

「人件費とかのことを考えると、だよ。一時期はスーパーへの卸販売なんかもやったことあるけど、梱包が大変で。さっきも言ったけど、釣り堀なら道具を貸し出すだけでいいから」

「でも、"釣り放題"にしてると、大切な商品である魚も、どんどん減っちゃうんじゃ……」

 

「それは大丈夫。なぜかって、うちは卵を孵すところからやっているから。ある程度は釣り放題にしたって問題ないんだよ。30〜40匹釣るようなお客さんばっかりになれば考えないといけないけど」

「さっき言ってましたね! 卵から孵すってそもそもどういうことなんでしょう?」

「年に何度か、卵を抱えた魚の卵を絞って採卵するんだよ。それを孵化させて、100gくらいの大きさになるまで育てる」

「卵を絞る……って工程があるんですね」

これも、今ではやっているところは少ないらしいよ。多くのところは稚魚を買って、大きくなるまで育てて出荷する形でやってる。前の世代の人たちが宮田村ってところに卵の絞り方を習いに行って。おれたちも習ったからできてる」

 

昔の先輩方が撮影していた、ニジマスの卵を絞る作業の様子

 

「今はヤマメだけは別のところで卵を買ってるけど、イワナとニジマスは自分たちで卵から育ててるよ。卵を絞って、孵化する卵かどうかを目で見て選別して、別のところで孵化させて。冬場は水が冷たいから、その手作業も大変なんだ」

「卵から育てれば生産量が増えるなら、ほかの養殖場も卵から育てたらいいのに……って思うんですが、それは違うんでしょうか?」

「結局、卵を孵化させて育てるには清水がないと。湧水がないからできない、って人もいると思う」

「そうか、ここでも"川の上流であること"が重要だったんですね! 卵から育てるのも、釣り堀を釣り放題にできるのも、いいバランスで成り立ってるんだなあ」

 

敷地内には、蓼科山の湧水が流れる

 

「本当はもっと、釣った魚を歩歩歩に持ち込んで食べてくれるといいんだけどな。結構みんな持ち帰ったり、バーベキュー場を使って自分で焼いて食べちゃうんだよな」

「あっ、バーベキューもできるんですか?」

「場所は貸してるよ。釣りをした人だけ、釣り堀で釣った魚を自由に焼いてもらっていい」

 

バーベキュー会場は釣り堀を利用された方のみ、利用可能。定員は6名くらいまで。料金は2100円。

 

「ちなみに今って、どんなメンバーでされているんでしょう?」

「高校の頃の同年生と4人でやってるよ。みんな同い年だし、続けるなら後任を見つけないとね」

「任せたい人とかはいらっしゃるんですな?」

「それはこれから。幸い、株主が40人くらいいるから、そのなかでやりたい人を見つけるか……50代後半くらいの人が見つかるといいな」

「50代後半? もっと若くなくていいんですか?」

「若い人の生活を支えられるほどの稼ぎは出せないから。次の十年くらいをやってくれる人が、見つかればいいな」

 

おわりに

かつては小さな規模でも実現できていた川魚養殖も、時代によって需要が変わり、持続させることの難しい産業になっていました。

 

この陣内つりぼり園という場所も、受け継ぐ人がいるといいけれど、養殖と出荷だけで稼いでいくことは難しいといいます。

 

そのなかで見つかった、釣り堀×食事処×養殖という事業の形。小さな規模の生産を続けていくために、いくつかの事業を掛け算することが生き残りの道だったようです。

 

陣内つりぼり園

ニジマスやイワナなどの川魚が釣れる釣り堀園。事前に連絡すれば、自分達が釣った魚を併設されたバーベキュー場で焼いて食べることも可能(※)。釣った魚を歩歩歩に持ち込んで、調理してもらうこともできる。

営業時間:8:00〜17:00

電話:0267-56-1085(つりぼり園)

定休日:なし

料金:
・基本料金(1時間):2,000円
・貸竿       : 200円
・釣り餌      : 300円
・屋根付きバーベキューハウス 利用料:2100円

※6人位まで。網、炭、串、着火剤、焼き塩込。釣り堀を利用した方のみ利用可能。

場所:
長野県北佐久郡立科町芦田5352-1

 

 


食事処 歩歩歩

営業時間:11:00〜15:00

電話:0267-78-3933

定休日:木曜日

場所:
長野県北佐久郡立科町芦田5352-1

 

☆この記事はエリア特集「信州大探索」の記事です。

【2022年】長野県の機運が高まりすぎたのでエリア特集「信州大探索」をはじめます