「そば」はスーパーフード!? ネパール人も江戸っ子も持ち歩いて食べていた歴史

2022.09.30

「そば」はスーパーフード!? ネパール人も江戸っ子も持ち歩いて食べていた歴史

普段、何気なく食べている「そば」が「スーパーフード」だということを、みなさんご存知でしたか? そんな噂の真相を確かめるため、そばが有名な長野県の大学教授おふたりに取材。ビタミンをがっつり摂るなら天ぷらそばを食べるのがおすすめ? 戦国時代は真田家の忍者食だった……⁉︎ 知られざるそばの魅力やポテンシャル、歴史が明らかに!

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    よいしょ。

     

    (ズズッ)

    いきなりすすって失礼します。こんにちは。ライターの小林です。みなさん、そばは好きですか?

     

    信州で生まれ育った僕は、もちろんそばが大好物。週末に家族で近所のそば屋に食べに行った記憶が残っています。そんなそばについて、最近とある噂を耳にしました。

     

    「そばはスーパーフードである」

     

    「スーパーフード」という言葉の定義にもいろいろありますが、多くは「健康に良い栄養分を豊富に含んでいて、カロリーの低い食品」のこと。

     

    たしかになんとなくそばって栄養がありそうだけど、どんな栄養があるのか、どう身体にいいのか、正直あまりイメージがわきません。そもそも、なんで信州でそば文化が根付いているんだろう……

     

    そんな疑問を解決するべく、やってきたのは長野県立大学!

     

    お話を聞いたのは、栄養学に詳しい小木曽加奈(こぎそかな)准教授。信州そば品評会審査員も務めていた小木曽先生に、そばの栄養パワーについて語ってもらいました。

     

    そして、そばのポテンシャルについて聞いているうちに、あれよあれよと話が展開。そばの歴史と文化を追求する"そば界の第一人者"に接触することにも成功しました!

     

    そばの栄養パワーからカルチャーまで、そばの知られざる魅力やポテンシャルをどうぞご覧ください!

     

    社会問題になっていた病気が治っちゃう?そばの栄養パワー

    「今日はよろしくお願いします!単刀直入にお聞きしますが、ぶっちゃけ『そばの栄養』ってどれだけ凄いんですか?」

    「わかりやすい話があるから紹介しますね。小林さんは『脚気(かっけ)』って知っていますか?」

    「なんとなく『昔流行っていた病気』というイメージがあります」

    「そう。江戸時代から明治時代にかけて主に都会で大流行した病気のことね。『江戸患い』なんて呼ばれて、結核と並んで社会問題になっていたこともあって。脚気になると心臓に負担がかかって手足がしびれたり、倦怠感を感じて、最悪の場合亡くなってしまうケースもあったりしたんです」

    「めちゃヤバい病気じゃないですか」

    「でも、都会から田舎に帰るとケロッと治ってしまうケースも多くあって。そうした人たちが実はそばを食べていたという話があるんですよ」

     

    「そばを食べたら、脚気が良くなった……?」

    「脚気が起こる主な原因は、ビタミンB1不足。当時、東京などの都市圏ではみんな玄米ではなく白米を食べていたの。でも、白米ってビタミンB1が少ないんですよね。一方そばにはたくさん含まれている」

    「ちなみに白米とそばではどれほど違うんですか?」

    「そばのビタミンB1含有量は、白米の5〜6倍と言われています」

     

    「めちゃくちゃ差があるじゃないですか」

    「白米よりはビタミンB1が含まれている小麦でも3〜4倍。穀物の中でもそばのビタミンB1含有量はずば抜けているんです」

     

    栄養をがっつり摂るなら「天ぷらそば」がおすすめ?

    「ほかにも、栄養学の視点から見た"そばならではの特徴"ってあるんですか?」

    「そばに多く含まれているのが、ルチンという成分。これは血液をさらさらにする機能を持っているの。血流を改善したり、毛細血管を強化したりもしてくれるわ。そしてこの、ルチンが水に溶けやすく加工されたものが入っている食品については、機能性表示食品と表示できるの。機能性表示食品は『保健機能食品』の一種で、保健機能食品の中には特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品があるんですよ

    「『トクホ』なら聞き馴染みがあります。なんとも身体によさそうですね!そんなそばの栄養をしっかり摂るための食べ方ってあるんですか?」

    「そば湯を飲むことはおすすめね。さっき話したビタミンB1も水には溶けやすいの。だから茹でている過程で、麺の中から溶け出してしまう。でも、そば湯を飲めば溶け出したビタミンを摂取することができるわ。また、ルチンは水に溶けないので、そばを食べることで普通に摂取することができます」

     

    「あと、そばの栄養的弱点を補ってくれる食べ方が、天ぷらそば」

    「天ぷらそばが、そばの弱点を補う……?」

    「そう。そばにはビタミンB1が豊富に含まれているけど、足りない分のビタミンを、天ぷらが補ってくれるの。かぼちゃの天ぷらならビタミンA、きのこの天ぷらならビタミンD、えびの天ぷらならビタミンB12……天ぷらによって、さまざまなビタミンを摂取することができる」

    「今、なんだか天ぷらをめちゃくちゃ載せたそばが食べたくなってきました」

     

    「カロリーはすごそうですけどね(笑)。あとは、胃腸を労りたかったら消化酵素を含んでいる大根おろしそばとかもおすすめね」

    「『ビタミンをがっつり摂るぞ!』というときは天ぷらそば、お腹の調子を整えたいときはおろしそばなど、自分の調子によってメニューを選ぶと良さそうですね」

    「そうね。ただ、そばの奥深い世界にとってみたら、栄養の話はまだまだ序の口。もっと知りたければ、そばについてあらゆることを知っている教授が信州大学にいるから訪ねてみるといいわ」

     

    というわけで!

     

    信州大学にそばの権威がいるとのことで、早速お話をうかがうことに。取材をしたのは、信州大学農学部教授の井上直人さん。

     

    2019年には『そば学 sobalogy: 食品科学から民俗学まで』という名の書籍も出版されており、食品化学から心理学、民俗学などさまざまな知見を駆使して、その名の通り「そば学」という分野を切り拓いているそば界の第一人者であり、信州大学の名誉教授でもあります。

     

    そんなそば界の超大物へ、オンラインで取材を実施しました。

     

    お話を聞いた、信州大学の井上教授

     

    身体にも、心にも、お肌にも。まだまだあった、そばのポテンシャル

    「あ、あの……『そばはスーパーフードなのか?』というテーマでお話を聞きたいと思っていまして」

    「小木曽さんから聞いていると思うけれど、そばは非常に栄養バランスがいいんですよね。江戸患いを治すのはもちろん、標高が高いネパールでは手軽に栄養を補給できる携帯食にされているんです。『それだけ食べれば大丈夫』なんて安心感もあるからね。スーパーフードってのは、そういうことなんです」

     

    生でも食べられるそばの粉。その持ち運びやすさ、栄養の豊富さから、日本だけでなくネパールの高山でも愛食されたとか

    「『それだけ食べれば大丈夫』……めちゃくちゃ万能だ」

    「そばは脳出血や大動脈剥離などのリスクも軽減してくれるし、血圧のコントロールにもいい。それにストレス緩和、さらには美容効果も期待できるんですよ」

     

    「現代の食生活は、栄養の観点からすれば飽和状態。食べるものがなくて生きるか死ぬかということよりも、いかに健康寿命を伸ばせるかが重視されている。昔は脚気から命を守ることに活躍していたそばだけど、現代ではQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を伸ばすことで活躍しているんです」

    「身体にも、ストレスにも、お肌にもいい……そばって万能なんだなぁ」

    「それに、私自身が栄養をたくさん摂りたいと思っても、70歳を越えるとなかなかいろいろなものが食べられなくなってね。肉や魚、油っぽいものは受け付けなくなってくる。そんなときに、そばは栄養バランスがいいから助かるね」

    「たしかにそばが好きなおじいちゃんおばあちゃんは多いですもんね」

     

    健康と体力のために脂っぽいものを食べられるのは、若いうちだけ。高齢になっても食べやすいそばが、健康を支えてくれるのかも

     

    土地や気候、山岳信仰にそば打ちの難しさ……信州にそばが根付いたわけ

    「そもそもなんで信州でそばが広がったのでしょうか?」

    「複雑な要因が絡み合っているけれど、そばにとって信州はぴったりの土地だったというのも大きいんです」

    「と、いいますと?」

    「もともとそばは冷涼な気候や痩せた土地でも育ちやすい作物。特にほかの作物が嫌う標高の高い場所でも適応しやすいんですよね」

    「たしかに信州は標高が高い……!」

    「そう。しかも山も多いし、火山灰による酸性土壌。ほかの作物が育てられないからそばに頼っていたんです」

     

    山登りが大好きな井上教授。ネパールや中国の奥地にも研究のため赴くこともあるのだとか

     

    「それに長野県は山岳信仰が盛ん。特に戸隠信仰や御嶽信仰は有名だよね。長野県は山だらけだからあちこちに修験者がいたと言われている。彼らは、山をとにかく歩く。そのときに携行食としてそばは重宝されていたんですよ」

    「なるほど、そばは栄養が豊富だから……でも、そばをすすりながら山を練り歩くのって大変じゃないですか?」

    「そばをすすりながら山は歩かないよ。当時は、そば粉を水で溶いたり、お湯でこねる『そばがき』といった方法で食べられたと言われているんです」

    「現在のように麺状ではなかったのか。そもそも、なんでそばがきから麺状になったんでしょうね……?」

    「実は、そこにもそば文化が広がったポイントが隠されているんです。そばは小麦粉と違って生地が伸びにくい。そうすると麺状にするのにテクニックが求められる。人間って難しいことほどチャレンジしたくなる生き物ですからね」

    「はあ〜!技術を競いたい人間のツボにハマった、と」

    「そこで、それぞれの家でそば打ちの腕を磨くようになったんです。やがて『我が家はこんなに細いそばが打てる』といったことがひとつのステータスになっていき、その腕が伝承されていく。いわゆる『家風伝承(かふうでんしょう)』と言われる営みが行われていったんですよね」

     

    難しいものほど、チャレンジしたくなるのが人の性(さが)。信州の人々が、家庭で鍛えたそばの腕が、そば文化を後世に伝えたのかも

     

    「たしかにそば打ちって職人のイメージがありますもんね」

    「そう。だから、次第に精魂こめてつくったありがたいものとしてそばの地位が上がっていって『祝い食』になっていく。『年越しそば』なんてわかりやすい例だと思う。ほかにも江戸時代からは修験者が修行に入る際の前祝いとしてキレイに麺状に切ったそばを食べる『穀断ち(こくだち)の御作法』といわれる儀式も生まれたんです」

    「そば打ちの難しさが文化をつくる要因にもなったんですね」

     

    江戸ではそばがファストフードに?信州から全国へ広がるそば文化

    「信州でそばが根付いた理由はわかったんですけど、そばって全国でもよく食べられているじゃないですか。信州から全国へ、なんで広がっていったんですかね?」

    「それは江戸の文化とも関係があるんです。昔の江戸は、火事の街。街角に狭い長屋が連なっていたから、ひとたび火事になると大ごとになっていてね。『なるべく各家庭では火を焚かないように』とお触れも出ていたほど。そんなとき加熱する時間が最小限で済むそばに白羽の矢が立って、みんなが食べられるように街角にそば屋ができたんです」

    「たしかに羽釜でご飯を炊いたり、ほかの料理を調理するとなると火を使う時間は長くなりますもんね」

    「しかも、江戸っ子はみんな忙しかった。だからさっと食べられるそばは都合が良かったんですよね。しかも、江戸には田舎から上京してきた人も多い。信州では『祝い食』として特別な日しか食べられないものが、江戸では街角で手軽に食べられる。『なんてありがたいファストフードだ』と、江戸で信州そばが大流行したんです」

     

    江戸っ子は、猫も杓子もそばが大好き? ファーストフードでありながら、遠い土地では祝い食として愛されているとくれば、食べてみたくもなるはず。

    「たしかにそばって『立ち食いそば』のように手軽に食べられるイメージがあります」

    「ちなみに当時のそば産地は、現在ではレタスの産地として知られている長野県東部の川上村。江戸との距離が近いし、甲州に出て富士川から川下りで運ぶのに都合が良かったんだ。当時は全国的な人気もあって、あの遠山の金さんが川上村のそばを買った領収書も残っているんですよ」

    「時代劇の有名人も信州のそばが好きだったのか〜!」

    「ちなみに戦国時代には、真田家の忍者食としてもそばは食べられていたんだよ」

    「真田幸村の活躍の影にそばがあったと……!」

    「そばと朝鮮人参と餅米を使って、桃くらいの大きさにした忍者食を食べると『元気ハツラツだ!』となるわけです。特別に、忍者食のレシピも教えてしまおう」

     

    「意外とシンプルだ……!なんだか自分でもつくれそう」

    「そばは手軽に食べることができて栄養もあるから、特に戦では重宝したみたいだね。日本における戦や戦争で食された約40もの食べ物のうち、3分の1のメニューにそばが使われていたという研究も残っています」

    「そばはやっぱりスーパーフードだったのか……!」

     

    マイナーな穀物だからこそ、その可能性を発信したい

    「いやぁ、今日はそばの可能性をめちゃくちゃ知りました。まだまだ聞き足りないくらいです」

    「私もそばについて語りたいことは、まだまだたくさんあります。実はもっと多くの人にそばの奥深さや魅力を伝えるため、今『そば博物館』をつくっている最中でもあるんです。2022年度中には完成すると思うよ」

    「そば博物館!」

    「高遠の街にある明治時代の古い蔵を借りることができたんです。1000種類近い世界中のそばの種を置いたり、400個近いそばちょこを展示したり。あとは昔使われていたそば道具や世界中のそば道具も並べる。日本の在来種やそばの起源地の展示も行う予定なんですよ」

     

    蕎麦博物館の予定地。

     

    「そばの魅力をまるっとカバーできそうだ!どうして井上教授は、そこまでそばのことを伝えていこうと考えているんですか?」

    「正直、そばは穀物の中ではメジャーではない。でも、そんなマイナークロップを見捨ててしまうと人類全体の営みにひずみが生まれてしまうと思うんです」

    「マイナーなものにあえて目を向けることが大切だ、と」

    「最近、だんだん世の中の文化が画一化して、多様性が失われているように感じていてね。そのような時代だからこそ、決して穀物界では主流ではないそばの可能性を発信し続けることに意義があると考えているんですよ」

    「そばに目を向けることは、文化の多様性を守ることにもつながるのか……!大切な視点だなぁ」

     

    さいごに

    2人の教授から聞いた、そばの話。

     

    米や小麦に比べるとたしかにマイナーな存在かもしれないけれど、そこには栄養的なポテンシャルに満ちていることはもちろん、土地の歴史や文化を紐解いてくれる食べ物だということがわかりました。

     

    立ち食いそばのようにファストフード感覚で食べるときもあれば、年越しそばのようにありがたく食べるときもある。

     

    さまざまなシチュエーションでそばを食べていたけれど、そのひとつひとつに歴史的な背景があると知ると、なんだかそばの味わい方も変わってきそうな予感がします……!

     

    おいしくて栄養も豊富。そして土地の文化を伝えてくれる「そば」。

    そばはやっぱり“スーパー”なフードだ!

     

    写真:内山温那

    イラスト:辻井タカヒロ

    そば撮影協力:そば処やぶ西後町店

     

    ☆この記事はエリア特集「信州大探索」の記事です。

    【2022年】長野県の機運が高まりすぎたのでエリア特集「信州大探索」をはじめます

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    この記事を書いた人

    小林拓水
    小林拓水

    1990年生まれ。長野県松本市出身。「toishi」の屋号でフリーランスのコピーライターとして活動中。東京と長野を行ったり来たりする生活をしている。

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