「夢を追うバンドマン」と聞くと、どんな像を思い浮かべますか?

アルバイト生活をしながら練習やライブをし、メンバーと居酒屋で夢を語り、ケンカや仲直りをしてまた夢へ向かう……青春もののドラマや漫画ではよくそんな風に描かれていますが、実際はどうなのでしょう。

 

というわけで今回は、夢を追うバンドマンたちの研究を行っている野村駿さんと、メジャーデビューの経験もあるバンドマン・平井拓郎さんにお話を聞きました。

 

野村駿さん

大学院時代に「夢を追うバンドマン」の研究を始め、2023年12月に『夢と生きる バンドマンの社会学』を出版。現在は秋田大学で教員をしつつ、コロナ以後のバンドマンの調査を行っている。ちなみに自身はバンド経験が無い。

平井拓郎さん

ロックバンドQOOLAND(クーランド)のVo&Guとして2018年まで活動。コンテストでグランプリを受賞し、数々の大型ロックフェスに出演しつつも、惜しまれながら解散。現在はロックバンドjuJoe(ジュ―ジョー)で活動中。また、営業代行会社の経営も。著書に小説『さよなら、バンドアパート』。

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コヌマカズユキ

この記事のライター。ライター業のかたわら、新宿ゴールデン街でバーを経営している

 

 

バンドマンはなぜフリーターが多いのか?

野村さんはバンドマンのことをあまり知らずに研究を始めたとのことですが、調査で彼らと接してみて、最初に感じたのはどんなことでしたか?

最初の疑問は「なぜバンドマンにはフリーターが多いんだろう?」でした。フリーターは働き方が柔軟なので、メンバー同士の時間的な都合が付けやすいから、というのは想像できますが……もう少し深めると、バンドという形態の規模感が関係しているんじゃないかな、と。

規模感?

バンドに多い人数は4〜5人(ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムなど)ですが、演劇だと20~30人規模ですよね。20~30人もいれば、1人が欠けても代役を立てやすい。でもバンドは1人でも欠けたら活動できないんです。

その通りです。バンドってメンバーでスケジュールを合わせる必要がめちゃくちゃあるんですよね。1人欠けるとライブはおろか、練習もままならないんですよ。

地方のバンドが東京でライブをすることになり、1泊2日の遠征のスケジュールをメンバー全員が組める。お世話になっているライブハウスに、「この日に出てくれない?」と急に言われても引き受けられる。そういった柔軟さを全員が作っておくことも、フリーターである意義なんじゃないかなと思いました。

あとやっぱり、みんなフリーターで、同じ苦しみを味わっているという連帯感がないと、バンドはなかなか難しい。正社員をしながらだと、「裏切り者」と見られてしまうこともあるんです。非合理的ですけど。

同じ苦しさを共有している連帯感ですか……でも現実的に、安定した収入や雇用形態がある状態でバンド活動をしたい、という人もいそうです。

そうなんです。あるバンドはギターとドラムが正社員で、ヴォーカルとベースがフリーターでした。ヴォーカルとベースが頑張ってメジャーデビューを勝ちとって、ギターとベースに正社員を辞めてもらい、ようやくバンド活動に専念してもらったそうです。確かにリーダーからしたら「事務所に所属が決まった」「これぐらいの収入が得られる」という安定した状況を作れて、はじめて他のメンバーに正社員を辞めてもらえるのが現実なのかもしれません。

バンドが成功する確証がないときに、「正社員を辞めてくれ」とは言えないし、言われたとしても、本人も簡単に受け入れられないですよね……ちなみに平井さんはどんなバイトをされていたんですか?

僕はコールセンターばっかりでしたね。服装・髪型が自由で、ピアスがいっぱい開いてても大丈夫なので。僕の周囲ではカラオケやピザ屋も多かったです。あるヴォーカルはピザ屋の配達のときに歌の練習をしてるって言ってました。

 

 

なぜバンドは解散するのか

バンドが解散する時の理由について教えてください。どのような理由が考えられるのでしょうか?

「これがあったから辞めた」と明確に言える場合もあるんですけど、「気づいたらいなくなっていた」というほうが、バンドマンの方の感覚からすると多いんじゃないかなと思います。

めっちゃ腑に落ちますね。200人規模のライブハウスでワンマンをできるくらいのバンドでは、それが多いと思います。もう少し上のステージ、つまりバンドが一定のビジネスとして成立していれば、いつの間にかいなくなるケースは減る感じがありますね。

そのステージにいるバンドマンたちは、バイトをしなくても、チケットやグッズ販売の売上げで生活ができるから、辞めるメリットがないと聞いたことがあります。逆に言うと、すごく辞めにくい。辞める理由もないし、辞めたいとも言い出せない、みたいな。

そういう人たちがよく飛ぶ印象です。30歳を過ぎていて、バンド活動での収入は年300万円くらい。けっこうな数のファンもいる。けれど、お子さんもいて養わないといけない。すると今のままでは収入がちょっと少ない……でも言い出せない……と感じたときに飛ぶのかもしれませんね。

コロナ禍にめっちゃ飛んでいましたね。

 

バンドの解散やメンバーが脱退するときに、「音楽性の違い」という言葉がよく使われますよね? それは理由ではない?

「音楽性の違い」という声明が半ば嘘だという話は、バンドマンたちからよく聞いていました。では何なのだろうと思って、あるバンドの解散までを検証したところ、「お互いのことを信じられなくなった瞬間」なのかなと。

やりたい音楽が多少違っても、すり合わせができていれば解散する必要はないですよね。それが、すり合わせができないところまでいくと、もう一緒にやっていけない、となって解散する。それを音楽性の違いと言っているのでは、と私には見えました。平井さんはどう思いますか?

おっしゃる通り、人間として互いに尊重できるレベルが、一定に達しなかったから辞めます、というのがほぼ全てだと思います。音楽性の違いとかはないです。だって、好きな音楽をやっているんだから。そのまま好きな音楽を作ればいいじゃんで、終わっちゃうので。

バンドの4〜5人という規模感も大きいんじゃないかなと思っています。1人で弾き語りをしている人にも話を聞いたのですが、「辞める」という話にはなかなかならないんですよね。したいことを自分のペースでしているので。バンドから弾き語りになった人だと如実で、「バンドでは自分のやりたいことができなかったから1人になった」と言っていました。

確かに、一緒に夢を追う仲間とはいえ、人間関係の難しさは常にありますものね。

あとは、メンバーの存在について、「家族でも友達でもない存在」と多くのバンドマンが言っていました。その関係性をせっかく構築して活動してきたのに、誰かが抜けて新しい人を入れるとなると、もう一回その労力を割かないといけないし、時間もかかる。だったら解散するか、みたいなこともあるのかなと。

解散の理由として、“夢の賞味期限”みたいなものはないでしょうか。若者のうちはともかく、バンド活動をして何年か経つと、「いつまでフリーターをやってるの?」みたいな、周囲の目があったり……

世間からというよりは、自分自身で感じたことはあります。具体的には、一緒に活動していたバンドが売れたとき、負けているという情けなさや、自分たちはいつまでフリーターをするのだろう、という思いは強かったです。

その話、すごくよく分かります。私が調査していたエリアで、あるバンドが人気になったとき、一緒に活動していた同世代のバンドマンたちもすごくそう感じていたと思います。

バンドマンには、メンバーやバンド仲間など「ライブハウス内の人間関係」と、家族や恋人や友人など「ライブハウス外の人間関係」があって、双方からの「夢を追うの? 追わないの?」「いつまで追うの?」という問いが、うねっている感じなのかもしれません。

実際にそれが理由でバンドが解散したりも?

あると思います。辞める理由で繰り返し聞いたのは、「彼女との結婚を考えているので、正社員になろうと思う」でした。それも、彼女から直接結婚について言われたというより、「彼女はそろそろ結婚したいと考えているのかな」という気持ちが強くなって、辞める決断をする人が多い気がします。

 

平井さんがかつて所属していたQOOLANDは、メジャーデビューもしたのに、なぜ解散することになってしまったのですか?

ドラムとギターに辞めたいと言われたからですね。ライブを月17本やっていた時期で、2人の肉体と精神がついていかなかった。未来が見えなかったのもあると思います。自分も結構ボロボロでした。「音楽をしている」というより、ブラック企業でゴリゴリに働いている感覚でした。だから辞めたいと言われた時も、「やっと終われる……」というのが正直な思いでした。

それだけライブをしていたのは事務所の意向ですか? 

いえ、自分たちで決めました。ライブをしないと鍛えられない筋肉のようなものがあって……そのライブ筋と呼ばれる筋肉は、ライブをやればやるだけ成長していくんですね。インターネットでバズったあるミュージシャンが、人気はめちゃくちゃあるのに、ライブ筋がなくて「大きい会場でライブはできない」と言ってたりしているケースは聞いたことがあります。

それにしてもやりすぎでは……。

今から考えたらそうですね。でも当時はお客さんが20人くらいしかいなかったとしても、2~3人が超好きになってくれたら、ライブを100本すれば200~300人がファンになってくれる……5年続けたら1000~1500人だな、みたいな考え方だったので、ライブをしまくっていたんです。

解散せずに、ライブの本数を減らして続けていく、という話し合いはなかったんですか?

恋人同士でもあると思いますが、コミュニケーションがだんだん面倒くさくなってくるんです。「ライブを減らそう」と提案しても、彼らは聞いてくれないんじゃないかな……とか勝手に邪推が始まるんですよね。バンドは相談力がないとダメですね。仲が悪くなったわけではないですけど、あまりにも一緒に過ごしすぎて、メンバー4人でいることに楽しさではなく辛さを感じるようになっていましたね

金銭面ではどうでしょうか。メジャーデビューをして、収入的にはかなり良くなったのでは?

いえ、メジャーデビューしても1円ももらえません。メジャーデビューって、日本レコード協会に登録している会社からCDがリリースされている、というだけなんですよ。

えー!! そうなんですか!?? すると、解散の理由には、「これだけ頑張っているのに大して収入が増えなかった」ということもあったり……?

ドラムとギターは「お金が問題じゃない」と言ってましたが、僕はお金だと思っています。月に35万~40万円程度でももらえていたら、辛くても簡単に辞めないと思うんですね。

そのことがあったので、僕はお金をしっかり稼ぎたいと思って、会社を作ったんです。

 

 

バンドマンとお金の話

野村さんも、バンドマンにとって「お金」は重要だと思いますか?

やっぱりバイトをせずに、バンドで得たお金だけで、バンド活動や生活費をまかなえるようになるのが、夢が叶ったというひとつの基準になるのかもしれませんね。そういう意味で重要なのかなと思います。

バンドマンの周りには、音楽事務所に入ったり、メジャーデビューしたりするバンドが割といたりするんですよね。でも、給料が例えば月に7万円+活動費などで、それだけでは生活できないからバイトもしている、という層が少なくない。そうなると、音楽だけで生活できる状況は、メジャーデビューよりも遠くにありそうです。

バンドって共同体だから、特にそう感じるんですよ。

じゃあ、バンド活動だけで生活できるようになるのはどこからか。色々なバンドマンに聞いた限りだと、どうやらZepp(全国に9ヶ所ある、収容人数約1,500~3,000人のライブハウス)を回れるようになったら、という意見が多かったですね。

確かに。日本武道館とかでライブをできても、儲かるかというと、決してそうでもなさそうだとみんな言っています。あの規模だと関わるスタッフも多くなるから、実際の利益はあまり大したことがないかもしれない、と。「ちょうど儲かるくらいの規模」にしたほうが、主催者との契約などにもよりますが、基本的に入ってくるお金は大きい。ただ、「武道館でやる」というスケジュールが決まっていることで、別のプロモーション案件を獲得できることはあります。

バンド活動というと、クリエイティブに思えますが、ビジネスとしての感覚も大事なのですね。

そうですね。音楽だけで生活していくためには、人気も大事ですが交渉力も大事かなと思います。例えば、ライブハウスに支払うノルマ代と、遠征費。小~中規模のライブハウスの場合、ノルマは2,000円のチケット15枚が多いのですが、基本的にその売り上げは全部ライブハウスの収益です。15人を呼べるのであれば、「売り上げの半分をバックしてください。無理なら他に出ます」と交渉する。遠方のライブハウスからオファーがあれば、「遠征費をこのくらいいただけるのなら出演します」とか。

言い方は考える必要がありますが、やっぱりお金のことを一生懸命考えたり、お金を話題に出せたりするバンドが、ちゃんと残っている気がします。

結果、長く活動できると。そういったバンドは他にどのような共通項がありましたか?

拙著で詳しく検討しましたが、夢の中身や語り方を変えているな、と。若いバンドマンほど「売れたい」と言いますが、中堅以上の人はそういう語り方をしないんです。夢が「売れたい」より「続けたい」になる。「売れたい」という遠くにあった目線が、「続けないと売れない」と、身近にあることを段階的にクリアしていこうとなり、語り方が変わっているんじゃないかなと。

平井さんはいかがでしょうか?

めちゃめちゃ刺さります、その通りです。音楽ってスポーツと違って、足の速さとか球の速さとかは必要ではない。辞めなければ可能性が残り続ける、特殊な性質の夢だと思うんですよ。実際に歳をとってからブレイクする現象もありますし。完全に辞めない限り、夢を追い続けていることになるんです。

その背景には、周囲のバンドマンたちの影響もあると思います。「こんなにかっこいいバンドがなぜ売れないんだろう?」、逆に「なんでこいつらが売れてるんだろう」みたいな。活動をするうちに、「売れること」の持つ意味の大きさに気づいていくんじゃないかなという気がします。

あとは、続けることで、「音楽をしています」とプロフィールに書けるんですよね。完全に辞めちゃうと、ただ年を取ったやつになっちゃう。何者かであるギリギリのラインを保てるという。この怖さから、辞められなくなっている人もいるのかなと。

僕は会社をしながらバンドを続けていますけど、アルバイト生活でお金がない状態だったら、音楽とどういう付き合い方をしているのか、ぶっちゃけ分からないですね。

 

語る夢が変化することについてお話しいただきましたが、バンドマンの世代によってはどうですか? 例えば「さとり世代」と呼ばれる1987~2004年ころに生まれた若者は、あまり欲が無いと聞きますが、バンドマンにおいては?

僕は31歳なんですけど、同じくらいの世代やその上は、「バンドは貧しくてなんぼ、ここから勝ち上がっていこう」みたいな、ハングリー精神を持っているイメージがあります。でも下の世代は、あまりギラギラしていないバンドマンが多い気がしますね。

その通りです。良くも悪くも欲が少ない。清貧とも言えますが、自分の音楽が続いていく最低限のお金って少なくないはずなんです。たとえば僕の会社の社員は、めっちゃ頑張ったら月収100万とかいけるんです。でも若いバンドマンは、30万円くらいまでいくとそれ以上は働かず、休んじゃいます。実弾(お金)があればプロモーションから制作まで使い道はいくらでもあると思うんですが。

夢とか希望とか大きなステージを目指すのではなく、「続けられればいいんだ」という思考になっていくのかもしれません。ただ、極端に「続ける」に全振りしてしまうと、それはそれでバンドが続かない気もするんですよね。

大きな過渡期にある感じがします。コロナでライブハウスで活動できなかった時期があって、TikTokなども広まって、家で音楽や映像を作って発信する若い世代の人が増えた。彼らが音楽業界に入ってきて、混在しているような感じかなと思います。

YOASOBIや藤井風などを好きだと言っている若いバンドマンたちは、ミスター・チルドレンやバンプ・オブ・チキンなどが好きな僕らの世代とは何かが違う……という感触を持っています。

バンドマンたちと同様に、ファンの求めるものも変化していると感じますか?

消費のサイクルがとてつもなく早くなっているんじゃないですかね。「CDなんて買わないでしょ」とCDを刷らなくなったバンドマンもいますし。若い世代のバンドマンが「いかにバズるか?」と喋っているのを聞くと、上の世代の人たちの話と全然違うというのは、肌感覚で思ったりします。

10年前に大きなフェスに出たとき、楽屋であるバンドが「最近の音楽は広告みたいな曲ばっかだな」と怒っていました。この独特な感情に近いものだと思います。

 

 

夢を追う素晴らしさ

「夢を追うバンドマン」の研究をしてきた野村さんから見て、改めて「夢を持つこと」「夢を追う素晴らしさ」をどう感じていますか?

やりたいことを見つけて、夢中になれる20代はすごく素敵だなと思います。

ただ、「彼らの境遇ってもう少し良くなるのでは?」とも。いろいろな大人が「夢を持ちましょう」と言っているのに、好き勝手できないじゃないか、みたいな。そこにかなりの違和感があります。

それはどういうことですか?

「人生が多様になった」と言われるじゃないですか。でも結局は「標準的ライフコース」と呼ばれる、学校を出て就職して結婚して……というひとつの生き方しか認めていないじゃん、と。バンドマンたちの話を聞いていると、足かせを付けられながら活動しているような、そんな印象を持っています。それを少しでも取っ払えたら、もっと好きなことに打ち込めるだろうなと思います。

もちろん、標準的ライフコースを選ぶ人もたくさんいますし、正社員をしながらバンドをする人もいます。どの選択も尊重すべきで、夢を諦めること自体が問題だと言いたいわけでは全くありません。ただ、「望ましいとされる生き方」が強く求められるがゆえに、夢を諦めざるを得ないとすれば、それはおかしいだろ、と。

バンドマンたちがもっと自由に生きられるようになるにはどうすればいいか? を考えていきたいと思っています。

バンドマンに限らず、夢追いの活動をしている方、していきたい方へのアドバイスはありますか?

やっぱり辞めないことが大事ですね。高校の同級生がライブに来てくれたことがあったんです。名前を出して芸事をしていれば、見つけてもらえるんですよね。

続けていると、偉くなるとかお金が入るとか、そういうこと以外にもいいことがあるので、ぜひ辞めないでください。

僕もすごく続けて欲しいんですけど、歌い続けて喉を壊したり、病んでしまったりという話をたくさん聞いてきたので、無理はしないでほしいと思っています。無理をするあまり、やりたいことができなくなるのは、話を聞いていても、すごく辛かったです。そのうえで続けてほしいですね。

ありがとうございました!

 

 

まとめ

バンドマンたちの生々しい実態を聞かせていただきました。夢を叶えることはもちろん、夢を追い続けることも決して簡単ではない。そんな現実に向き合いつつ、すべての夢追い人が「自分は何をしたいか?」「どう生きたいか?」を見つめ直し、「何を選択していくか?」を考えるきっかけになれば何よりです。