いま劇が面白い! 劇の時代! 劇的に劇!

と、最近、劇に熱くなっている編集者、藤本智士です。こんにちは。

どうしてこんなにも、みなさんに檄(劇)を飛ばしているかというとですね。僕は20年ほど、「ヨーロッパ企画」という劇団にハマり続けていまして、その結果、ようやくわかったんです。

「劇」こそ、最強のクリエイティブだ! と。

 

そこでいま演劇界をおおいに沸かせている劇団、ヨーロッパ企画の代表で劇作家・上田誠さんのインタビューをお届けしたいと思います。

ヨーロッパ企画HPより

 

代表作『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)、『曲がれ!スプーン』(2009年)が本広克行監督によって映画化されたと思えば、

ヨーロッパ企画自ら手がけた初の長編映画『ドロステのはてで僕ら』(2020年)は、世界各国45の映画祭で上映され、23の賞を受賞。満を持しての長編映画第2弾『リバー、流れないでよ』(2023年)は、満席続出で全国拡大公開のスマッシュヒット。

その他『魔法のリノベ』(2022年)、『時をかけるな、恋人たち』(2023年)などのTVドラマの脚本も積極的に手掛けるほか、森見登美彦の小説『四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』を融合させた『四畳半タイムマシンブルース』(2022年)がアニメ化されたり、

昨年公開された映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』では日本語吹き替え版の脚本を担当するなど、その活躍のフィールドの広がり方は、まさに劇的!

 

実は僕、上田くんとは旧知の仲。ということで、少々突っ込んだ話もできたので、長年のヨロキカ(ヨーロッパ企画のこと)ファンにも満足してもらえる内容のはず。

とにかく「劇」や「劇団」のかっこよさがガンガン伝わるこのインタビューをもって、「わたしも劇やりたい!」って人が一人でも増えるといいなという願いをこめて、お届けします。

てか、マジでYouTubeとかやってる場合じゃないと思う。みんな、劇はじめよ! 劇、劇ヤバだからー!

目次

    1. お笑いと渡り合えないとヤバい
    2. ヨーロッパ企画は「関西の匂い」がしない
    3. エチュードが生むチーム感
    4. 標準語じゃなく職業語
    5. 続けていくために景色を変える
    6. 任天堂・宮本さんと京都と
    7. 京都の分厚さ

 

お笑いと渡り合えないとヤバい

藤本「上田くんお久しぶりです」

上田「めちゃくちゃ久しぶりですね」

藤本「昔はよく一緒にbaseよしもと行ったり、お笑いのライブ観に行きましたよね」

上田「ていうか、藤本さんのおかげでバッファロー吾郎A先生を紹介してもらって『ダイナマイト関西(※)』にも出させてもらったりだとか」

※ダイナマイト関西……バッファロー吾郎が1999年に立ち上げた、吉本興業主催の人気大喜利イベント。総合格闘技のイベントのような演出のもと、芸人さんがガチの大喜利タイマン勝負を行うこの大会は、のちの『人志松本のすべらない話(2004年〜)』や『IPPONグランプリ(2009年〜)』などの演出に繋がっていく、お笑い界の革命的イベントだった

藤本「たしかに! そんなこともありましたね。しかも上田くんD関(ダイナマイト関西)で優勝したよね? あれ何年でしたっけ?」

上田「2010年ですね」

藤本「そんな前か。それこそ大喜利実力者の、お~い!久馬さんとか、麒麟の川島さん、あと、よゐこの有野さんとかもいらっしゃった?」

上田「はい。決勝は、ナイツの塙さんとの一騎打ちでした」

藤本「すごっ。そう考えたら、あの頃から、演劇界隈でこんなに面白い人がいるんだ、っていうインパクト与えてたかもですね」

上田「元々お笑いが好きだったのはあるんですけど、劇でコメディをやるって、芸人さんから見て、なんとなくちょっとサブイものに思われてるような感覚があったんです。だから芸人さんと、ちゃんと渡り合えないと、自分たちの劇が立ち行かなくなるような気がしていて

藤本「なんかわかる気がする」

上田「海外から見たら、ジャパニーズコメディってお笑いのことだし、日本ってお笑いが異常発達してるので。だから、演劇の中でコメディやってるっていうのはちょっと微妙な感じがするじゃないですか」

藤本「コメディをやるなら、お笑いの世界が上位にあるような感じというか」

上田「それでも僕らはお笑い界に入るわけではないし、物語のチカラを信じてるので。でもその中の『笑いの成分』に関して、芸人さんたちに舐められないように作るのを意識していたように思います。それも歳とったらできない気がするから、若いうちにやっとかないとっていう」

藤本「ダイナマイト関西に出たときは20代だった?」

上田「ですね。おかげさまで、そこで認められた感じがあったので、劇に集中してこれたというか。特に当時、藤本さんが引き合わせてくれた人って、野球でいうとパ・リーグ系というか……」

藤本「野生爆弾、バッファロー吾郎さん、小籔千豊さんとかね。いまは超メジャーな方々だけど」

上田「そうそう。そういう人たちに引き合わせてくれて、お笑い方面の関係性も強くさせてもらったのは大きかったですね」

 

ヨーロッパ企画は「関西の匂い」がしない

藤本「いまはお笑いの世界のみなさんが、特にコント師の人たちが「舞台」をベースに活動されるところで、うっすら演劇の笑いと交わってる感じもありますよね。シソンヌさんだったりとか」

上田「たしかにそうですね。東京03さんとかが開拓した、コントライブをベースに活動していくっていうスタイルが出来てきて。僕らもジャルジャルさんとコラボさせてもらったりとか、今度やる『鴨川ホルモー、ワンスモア』には、かもめんたるさんと、男性ブランコさんも出てくださるんですよ」

万城目学さんの小説『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』を原作に、上田さんが脚本・演出を担当する舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』。男性ブランコの浦井のりひろさん・平井まさあきさん、かもめんたるの槙尾ユウスケさん、岩崎う大さんが出演する

藤本「それって、上田誠という劇作家独特の認められ方というか、とてもオリジナルな部分だと思うんですけど、そこに僕は、『京都』っていう変数を感じていて。それこそダイナマイト関西的な『笑い』というか、いわゆるゴリゴリの芸人さんの世界って、『大阪』的じゃないですか」

上田「そうですね」

藤本「でもヨーロッパ企画はやっぱり大阪とか関西の匂いがしない」

上田「それって、なんか大学っぽさとかなんですかね」

藤本「そもそもヨーロッパ企画は同志社大学の演劇サークルからスタートしてるんですもんね」

上田「そうです。京都はわりと『京都系の大学』ってカラーがあって、劇団も大学から出てくるところが多いんです。

『お笑い』って言わば高校の時点で人気者じゃないですか。一方、演劇っていう文化は高校の頃にはクラスでメジャーになりえなかったし、大学デビューみたいな気後れがあったから、お笑いの人の地肩の強さみたいなものと、どうやりあうか、って感じはありましたね」

藤本「なるほど」

上田「なので当時から、例えば2時間の長い劇の中にしっかりと構造をつくってエンターテイメントとして見せるとか、そういう構造のチカラが僕らの武器かなって思ってました

藤本「たしかに構造をつくるとか、長いものをつくるチカラって、関西的なお笑いの瞬発力とはまた違う分野というか」

上田「僕らの場合、刹那的じゃない言葉遣いとか、関西弁だと、どうしてもお笑いに回収されてしまうので。もうちょっと一般性が保てる感じの言葉遣いにしてるっていうのがあるかもしれないですね」

藤本「そうか、僕が京都という変数だと感じてたのは、決して『=京都弁』ってことではなくて、『≠関西弁』ということで。いわばもっと標準語に近い、中間の言葉遣いみたいなとこにあったのかも」

 

エチュードが生むチーム感

劇団25周年と銘打たれた、ヨーロッパ企画の第42回公演『切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック』。19世紀のロンドンを舞台に、「切り裂きジャック」ならぬ「人攫いジャック」をめぐるミステリーを追い、めくるめく推理バトルが縦横無尽に繰り広げられる

上田「例えば『切り裂かないけど攫いはするジャック』みたいな、いわゆるミステリーコメディだったら、ちゃんとミステリーの歴史とか、ロンドンの当時の庶民の暮らしや風俗みたいなことを調べたりしていて。そこにミステリーの特有の、『アリバイを何とかかんとか』みたいな言葉もなるべく網羅するっていう、もうほとんど文芸の世界と、笑いを接続する試みなんです」

藤本「うんうん」

上田「つまりミステリーならちゃんとミステリーの言葉で場をつくるし、ビジネスの世界が舞台ならビジネス用語をちゃんと勉強する、というのは作家としてわりと心がけてやってますね」

藤本「たしかに『切り裂かないけど〜』で、すごく面白いなと思ったのは、『推理』っていう言葉を役者のみなさんがそれぞれにちゃんと面白がって演じられてるのが、最高だなと」

『切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック』劇中写真

上田「『推理』って、メタ認知っぽい言葉というか、ふつうは登場人物が自分で推理なんて言わないですよね。なので、あれをちゃんとチーム内で一緒に面白がれるというか、お互い理解しあえる関係性はいいなって思ってますね」

藤本「チーム感、すごいですよね。大前提として、ヨーロッパ企画の劇は、エチュード(※)でつくっていくわけですよね」

※エチュード……即興劇のこと。ヨーロッパ企画の場合、役者に設定だけを伝えて「じゃあどうぞ」で稽古を重ね、そこで生まれたものが台本に採用されていく

上田「これも『お笑い』の話になっちゃうんですけど、芸人さんって、自分でネタをつくって自分で喋るじゃないですか。その強さってすごいんですよ。もちろんそれを人の書いたセリフでやれるのが役者なんですけど、自分で言葉をつくって自分で言う強さは半端ないので、それを演劇でやるにはどうすればいいか考えて、エチュードで役者から言葉をもらうようになったんです」

藤本「そうなのか!」

上田「あと、ヨーロッパ企画の場合、10人以上の役者が同時に舞台上に存在したりするんですけど、十数人を脳内で動かせるエンジンってあまりなくて。だからみんなで一斉にエチュードして試してもらうっていう。ドラマの脚本の場合はもちろん自分だけで書いていくんですけど、劇団でやる場合は、バンドで『とりあえず音出してみようか』みたいな感じに近いですね」 

藤本「やっぱりヨーロッパ企画のオリジナリティって、エチュードにあるんですね。役者さんたちの関係性がそのまま出ちゃうっていうか」

 

標準語じゃなく職業語

上田「あと京都弁と標準語みたいな話に近いのかなと思うんですけど、僕らの初期の成功体験として、『サマータイムマシン・ブルース』(※)があって」

※サマータイムマシン・ブルース……2001年8月に第8回公演として初演されたヨーロッパ企画を代表するSF劇。2005年、瑛太さんと上野樹里さんをメインキャストに、本広克行監督により映画化された

上田「あの頃は、自分たちの等身大の口語で劇をつくっていて、周りのイメージもそうだったと思うし、実際そういうつくり方の時期が長かったんです。だけど、だんだん劇場が大きくなって、有効な言葉が変わってきた

藤本「有効な言葉?」

上田「口語って、言葉としてノイジーな面があって。ノイズって近い空間だから伝わるんですけど、広い空間になってくると効かないんですよ」

藤本「たしかに」

上田「それを考えるようになってから、『エクリチュール(社会的に規定された言葉の使い方)』というか、チンピラならチンピラ語。ビジネスマンならビジネス語。画家の卵なら画家語。推理劇なら推理語があると思ったんです。つまり、標準語というと一つだけど、実は劇ごとに使う言語を変えてるというか」

藤本「面白い! 要は職業語というか」

上田「そうですそうです。言葉によって立ち現れる人格が変わるんですよ。チンピラ語を話すのがめっちゃ上手い役者もいれば、推理語でこんな才能あったんや、っていう役者もいて、それによって関係性が変わるのが、最近は特に面白いなって」

藤本「ヨーロッパ企画の劇って群像劇だから、関係性そのものがより見えてきて、そこにオリジナリティを感じるんだな」

『サマータイムマシン・ブルース2005』より

上田「やっぱりたくさんの役者さんが舞台上でワイワイしてるのが好きなんですよ。でも、そういう劇を書く人はあんまりいないし、実際書くの難しいんです。だからこそ、その難しい世界の構築を役者さんに手伝ってもらってやる」

藤本「チームプレイだなあ。ものづくりの方法論としても、劇というものの面白さというか凄さに、いよいよみんな気づき始めていくんじゃないですかね。それこそ、『劇』っていう言葉を、とてもポジティブに使ってるのって、ヨーロッパ企画の役者さんたちくらいだなあって思うんですよ。ほかではあまり聞かないというか」

上田「そうかもしれないですね。『芝居』だったり、『舞台芸術』だったり、いろんな言い方をされますよね。でも、『劇』とか『劇団』って、めっちゃかっこいい言葉やなって思うんですよ」

上田「それこそバンドの人たちが羨ましいのは『ロック』って無敵の言葉があって、そう言えば、食えてなくても続けられる。『芸人』って言葉もそうだと思うんですけど、この『劇団』って言葉も、まだ流布してないけど、そんなかっこよさがあるんじゃないかなって」

藤本「うん、劇とか、劇団って、かっこいいと思います。個人というより、チームプレイでなきゃやれない感じも含めて」

上田「演劇ってやっぱりすごくて。例えば芸能界はいろんな人がつくったステージに上げてもらう努力が必要なんですけど、演劇はそのステージを自分たちでつくれる

藤本「はいはい、そこだ!」

上田「いまでこそYouTubeとか、自分たちで始められる表現ってたくさんありますけど、当時は演劇が一番それをしやすかったのもあって。劇場を自分で借りて、自分でお芝居して、お客さんが増えていくっていう、いまで言うとまさにYouTubeとかで起こっていることのリアルなものが劇の世界にあって、めちゃくちゃ面白くて、自分たちで主導できている全能感もあったんです」

藤本「たしかに」

上田「いまも、その全能感とか、自分たちの努力次第っていう原理は変わってない。でも、だんだん劇団が大きくなって、芸能界だったり、東京のものづくりの世界や、メディアから声もかかるようになってくると、当然そっち側の意識も働くし。

それこそ東京のプロダクションはこうなってるとか、そんないい話も耳に入ったりする中で、どうやって自分らの立ち位置をキープするか、ちゃんと立っているかっていうのは、結構ここ数年のテーマかもしれないです」

 

続けていくために景色を変える

藤本「本当にそうですよね。これだけ仕事の幅や影響力が広がっていくと、そっちの悩みも広がるよね」

上田「でもいろいろ調べるうちに、そもそもやり方が違うんだなって感じることもあって。僕らは劇団員みんなでやっていけるように考えるんですけど、基本的にプロダクションって、弱肉強食で、何割かはプロになれて何割かはなれずみたいな世界で、その形では僕らは困るっていうか」

藤本「なるほど」

上田「僕も含め、オーディションを勝ち抜いて集まったとかじゃないので。たまたま僕は劇作家でプロになり、役者もプロになり、それぞれが個々として頑張りつつも、一方で劇団として経済をつくったり、お客さんを楽しませる。その両軸って感じですね」

藤本「理想的。それこそ、映画『リバー、流れないでよ』とかも、昔僕もネゴシックスと出させてもらったヨーロッパ企画主催の『ショートショートムービーフェスティバル』(2004年〜)とかの延長にちゃんとあるというか。しっかりスケールアップしていってるのがすごいですよね」

『リバー、流れないでよ』はヨーロッパ企画のオリジナル長編映画第2作。世界27ヵ国53の映画祭で上映&23もの賞を受賞した長編映画第1作『ドロステのはてで僕ら』に続いて、上田誠が原案・脚本、同劇団の映像ディレクター・山口淳太が監督を務めるタイムループ群像コメディ

上田「すごい年月かかってますけどね。でもほんと、劇団っていう単位って、めっちゃめちゃ面白い。劇団だからできたことだと思うんですよ。劇団って劇をやる団なので、映画というスクリーンを使って劇をやることもできるし、劇団ぐるみでテレビドラマにも関われる。うまくやればすごく面白いっていう実感はありますね」

藤本「なるほどなあ。やっぱ劇熱いなあ」

上田「あとやっぱり僕の実家、要はこの場所のこともあるかもしれないですね。いまや東京にも拠点があって変化はしてるんですけど、劇団をはじめた頃って特に、ここが部室というか、ここでいろんなものを生み出していったので、この場所があったことは大きかったですね」

藤本「当時はまだ、このご実家はラスク工場として稼働してたんですよね?」

通称「ヨーロッパハウス」と呼ばれる事務所兼稽古場は、上田誠の実家で、もともと上田製菓本舗という製菓工場だった。2016年、店主で上田さんの父である、上田昇さんが逝去されたことで閉業。取材はその2階で行われた

上田「そうです。居候させてもらってた感じですね。当時、うちの父親はそんなにうるさく言う人ではなかったんですけど、僕が作家になるとか脚本家になるのはいいとして、よそ様というか大学の仲間まで率いて劇団をやる責任は負えないだろうって、止められてましたね

藤本「お父さん、まっとう」

上田「だからその意識っていうのは、僕のなかにどっかであって、演劇的な評価をいただくとか、そういったこととは別に、成果を求めるっていうか、要はちゃんと食べられる劇団にしていかないとっていうのはすごくあったんですよ」

藤本「でもそれって、シンプルに経営センスみたいなものが必要じゃないですか。上田君はそれを持ち合わせていた?」

上田「いやいやいや、全然。ただ『読み』だけはあるから、このままでは立ち行かなくなるなとか、そういうのには敏感というか、続けるにはちゃんとプロにならないととか、何かしら燃料を投下していかなきゃというか」

藤本「うんうん」

上田「例えばバスの運転手だとしたら、常に景色を変え続けないと停滞したり、そろそろ降りようかなっていう人が出てくる。

それこそ初期は、衝動だけでいけるし、表現が面白いっていうので持つ時期もあるけど、だんだんそれも効かなくなる。そういうときに、メジャーの世界に認められて景色が変わることで、次に行けるようになって、経済的に成り立つようになって、あ、じゃあもうちょっと走れるなとか」

藤本「なるほど。でも実際はそうもいかないというか、そう簡単に景色を変えられないじゃないですか」

上田「いや、そこはめちゃくちゃラッキーというか。運もよかったと思いますし、早くから始めたのもよかったのかなと。大学4年間で公演を十数回やって、東京公演もやって、『サマータイムマシン・ブルース』も『冬のユリゲラー』(※『曲がれ!スプーン』の初演時タイトル)も大学の頃につくってたんで。そのアドバンテージは大きかったですね」

 

任天堂・宮本さんと京都と

『リバー、流れないでよ』と、その主題歌となっているくるり『Smile』がコラボしたスペシャルムービー

藤本「それこそ映画『リバー〜』とかも、舞台が京都なのはもちろんのこと、音楽をくるりの岸田さんが手掛けられたり、本上まなみさんが出演されてたりとか、最近とみに京都人脈を感じるんですけど、そういう繋がりは昔から強くあるんですか」

上田「岸田さんとは、ほんと最近です。スタジオが意外と近所だったから、一緒に飲みに行きましょうかってことで行かせていただいたんですけど、お互い25年ぐらい京都でやっててようやく、みたいな。本上まなみさんもそうですし。それこそマリオも」

藤本「そうだ! マリオっ! あれもやっぱり任天堂の京都つながりから?」

上田「10年くらい前に宮本茂さんと対談させてもらったことがあって。当時『サマータイムマシン・ブルース』を観てくださったようなんですけど、あの方もずっと京都におられるので、いいものができれば、東京に呼ばれて、アメリカに呼ばれてっていうほうに進んで行くけど、その後またあたらしいものをつくるのは、また京都に戻ってからってことをされてるので、『上田さんもそうしてくださいね』と言ってくださって」

藤本「うわあ〜 すごい。胸熱」

※宮本茂……言わずと知れたマリオシリーズの生みの親。任天堂株式会社代表取締役フェロー

上田「やっぱ宮本さんには憧れるじゃないですか。だから京都にいるためには、東京とか各地でウケるものをつくらなきゃいけないと思うんですけど、それが出来てるからこそ、京都にいられるというか」

藤本「それこそ大阪ってもうちょっと手前のところで消費されてしまうけど、京都ってもっとしっかり熟成されたものが、いきなり中抜いて世界に出ていくって感じありますよね、昔から」

上田「そうだと思います。やっぱり続いてる強さっていうか。歴史っていうか、淡々と続けることの凄まじさみたいなことは大事だなと。だから、京都にいても、『表現としてその瞬間は面白いんだけど、それ続けられるのかな?』って思うことがよくあって」

藤本「そういう意味では、そんなふうに続いてくクリエイティブのトップオブトップが任天堂であり宮本さんであり」

上田「ほんとに僕はそう思います。もう凄まじいなって」

藤本「個人的な話なんですけど、僕も実は編集者人生で、あんまりそんなことしちゃいけないと思いつつ、ただ一人、インタビュー時にサインを貰ってしまったのが、宮本茂さんなんですよ」

上田「そうなんですね!」

 

京都の分厚さ

ヨーロッパハウスの近所にあるカフェ「喫茶チロル」に置かれた、寄せ書き帳。聖地巡礼に来たファン達の思いが綴られている

藤本「いやあ、やっぱり長く続けておられてずっと第一線で、チームビルディングしっかりできて組織として未来を見てる人たちって、ほんと学びが多いっすよね」

上田「ほんとそうですよね。なんか、音楽に例えると、バンドってやっぱり続いてほしいというか、解散したバンドの音楽って聴き方がわからない気がしていて

藤本「それはどういうこと?」

上田「音楽としてはもちろんいいんだけど、やっぱり活動を続けてるバンドの過去やいまを聴いて楽しい、ってあるじゃないですか。いまも続いてるからこそ、昔はこうだったとかを話せるっていう。だから続いてる状態って、過去作も死なずに済むというか」

藤本「なるほど。刹那的で、続いていくという視点がないと応援しにくいって、たしかにあるかも。そういえば、役者の藤谷理子さんって、十数年ぶりの新メンバーとして入られたんですよね」

学生時代にヨーロッパ企画によるミュージカル『夢!鴨川歌合戦』にオーディションを経て出演した藤谷理子さん。その後、本公演や舞台・映像作品への出演を経て、2021年に17年ぶりの新メンバーとしてヨーロッパ企画へ加入した

上田「それもドリフターズの志村けんさんじゃないんですけど、最初は同世代で結成したから同世代で年老いていくというスタイルでやっていくのかなって思ってたんですけど、藤谷さんと出会ったりしたことで、だんだん欲が出てきて。

もうちょっと続けたいし、続ける上では、下の世代の力も借りながらやったり、逆に下の世代にしたら、僕らが最初にやったような苦労はスキップできるので、一緒にやればお互いもうちょっと違う世界に行けるんじゃないかなとか思ったりして」

藤本「そういう意味では、ものづくりを続けていくということに関して、今後ヨーロッパ企画から学んでいく人も増えそうですね」

上田「いやいやいや、ようやくフォームが出来てきたくらいで。それこそ先日、京都南座での25周年記念公演をやらせてもらったんですけど」

藤本「観させてもらいました。めちゃくちゃ楽しかったです」

ヨーロッパ企画25周年記念興行 in 南座『きっと、私UFOを見た。』劇中写真

上田「ありがとうございます。正直、若い頃に演劇を始めているので、もうちょっとPOPなカルチャーを意識してやってきたのもあって、南座でやるなんて思ったこともなかったんですけど。今回たまたま導きがあって、南座でやらせていただいて、いざ行ってみたら、ここ400年もやってんのか! と」

藤本「400年!」

上田「公演をやるために、事前に歌舞伎の演目を観にいったら、90代の方が出ていらして、一方で、5歳ぐらいの人が出て、それが血縁で続いてて、もう、その縦の分厚さがすごくて。25年とかまだ始めたてやん、って思いました」

藤本「たしかに。京都、分厚い」

上田「そういう分厚さのなかでやれることが、まさにこの町のよさなのかもしんないですね」

<ヨーロッパ企画のお知らせ>

・映画『リバー、流れないでよ』Blu-ray発売・配信中!
公式HP:https://www.europe-kikaku.com/river/

 

・舞台「鴨川ホルモー、ワンスモア」
原作:万城目学(「鴨川ホルモー」「ホルモー六景」/角川文庫刊)
脚本・演出:上田誠(ヨーロッパ企画)
東京公演:2024.4/12(金)〜4/29(月) サンシャイン劇場
大阪公演:2024.5/3(金)、5/4(土)サンケイホールブリーゼ
公式HP:https://event.1242.com/events/kh_oncemore/

 

・ヨーロッパ企画制作のテレビ番組『ヨーロッパ企画の暗い旅』
KBS京都とtvkテレビ神奈川で毎週土曜日24:30〜放送中!

番組公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@kuraitabi2011

 

撮影:小林直博