こんにちは、ライターのコエヌマです。
酔えば酔うほど強くなる……中国武術の酔拳をご存じですか? ジャッキー・チェン主演の映画『酔拳』シリーズが有名ですよね。
映画だとベロベロの酔っ払いだし、コミカルな動きでフラフラしてるし……
・あの動きって意味があるの?
・本当に強いの?
ジャッキー世代だから『酔拳』は大好き、それゆえに気になる!!!
というわけで酔拳を体験するため、栃木県宇都宮の「高龍中国拳法道場」におじゃましてきました!
※高龍道場では、厳密には「酔八仙拳」と呼びます。詳しくは後に説明します
今回、指導してくださる高龍(こうりゅう)先生です。
先生は酔拳をはじめ数々の中国拳法を学んだ達人。カンフーの国際大会で5連覇を成し遂げるなど華々しい実績を持っておられます。
そして格闘ゲーム『デッド オア アライブ3~4』で、酔拳の使い手ブラッド・ウォンのモーションキャプチャーモデル(※ゲーム内でのキャラの動きを演じる人)も務めた人です!
まずはどんな拳法か見せてもらおう!
「高龍中国拳法道場」に着くと、すでに門下の生徒が数人 練習していました。
みなさんと一緒に酔拳を学ぶ前に……まずはどんな拳法なのか先生に見せてもらいましょう!
……って先生~! 撮影中に寝転んじゃって何やってんすか~(笑)
ギュォワッ!!
ゆらぁ~~~り……
わああぁぁーー!!! ジャッキーがやってたやつだーー!!
ゆらゆらした動きから一転 激しい攻めが! 緩急エグい!
伸び上がるような突き、カンフー映画でよく見るポーズですね!
自ら倒れ込んだり宙を跳ねたり、トリッキーな動きすぎて目が追いつかない!
まさに圧巻! 貴重な技を見せていただきありがとうございました!
くわしくは高龍先生のYou Tubeチャンネルで見ることができますよ!
その後、突きの打ち方や身体の動かし方、簡単な蹴りの動作などを他の生徒さんと一緒に体験しました
パワフルなパンチを打ち込む青年
ジャッキー・チェンが好きで通い始めたという女性。蹴り足の高さすごい!
そして足が全然上がってない僕
酔拳って筋力も柔軟性もリズム感も必要だからめちゃめちゃ難しいです(ちゃんと生徒のレベルに合わせて教えてくれますよ!)
護身術として関節を極める技も教えてもらいました。
体格的には僕のほうが重いはずなのに、まったく動けませんでした
いやあの……“手加減”って知ってます……?
※ちなみに先生はほぼ力を入れていないそうです
格闘経験はスポーツジムで軽く教わった程度の僕ですが、酔拳はやはり緩急……千鳥足のようなゆらゆらした動きから一転、一気呵成に攻撃が飛び出してくる!というのが特徴でしょうか
いつ、どの角度から攻撃が来るのかまったく読めない。ジャッキー・チェンの映画のように、やられてる方はワケわかんないでしょうね
約2時間、みっちり稽古をつけていただきました。先生、生徒の皆さん、ありがとうございました!!
酔拳ってどういう拳法なの?
「稽古をつけていただきありがとうございました! 改めて、酔拳とは何か教えていただけますか?」
「はい! ただその前に……中国にはいくつか“酔拳”と名の付く拳はあるのですが、おそらくみなさんがイメージするような……つまりジャッキー・チェンが使っていたような武術は正確には『酔八仙拳(すいはっせんけん)』と言います。私が教えているのもそれですね」
「へ~酔八仙拳! そういえば映画でも“酒ガメを抱えた権鐘離(けんしょうり)!”とか、“韓湘子(かんしょうし)は笛の名手!”みたいに、ジャッキーが八人の仙人になぞらえた技を使ってましたね」
「そうそう! 八仙はそれぞれ、剣を構えている、馬に乗っている、花かごを持っているなどの特徴があり、それを模した拳が『酔八仙拳』です。そのなかに“投げる”“倒す”“関節を極める”“よける”など、武術の動きが含まれているんですね」
▼酔八仙
呂洞賓(ろどうひん)
ひょうたんを持った仙人、猿拳の歩法を使う。
鉄拐李(てっかいり)
片足の仙人で、足技と杖による攻撃が特徴。
権鐘離(けんしょうり)
酒瓶を抱えているため、両腕は胸の前で円を作る。
藍采和(らんさいわ)
女性、腰をくねらすなど独特の動き。
張果老(ちょうかろう)
足技が得意。旋風脚などを使う。
曹国舅(そうこくきゅう)
月牙叉手(杯を持った形)を生かした技など、指を使った技が特徴。
韓湘子(かんしょうし)
笛を吹くときの指の格好で戦う。
何仙姑(かせんこ)
女性。動きで惑わし、目潰しや肘を使う。
「ひとつ根本的な疑問をお聞きしてもいいでしょうか? 先生はさっき演舞をした時……酔ってませんでしたよね? 酔えば酔うほど強くなる、と聞いたんですが」
「映画『酔拳』のキャッチコピーが『酔えば酔うほど強くなる』だったので誤解される方も多いんですが、実際には飲まないです(笑) あくまで『酔っ払いの動きを模した拳法』ってだけなので」
「そうだったのか……ヘビの動きを模した『蛇拳』とか、カマキリの動きを模した『螳螂拳』みたいなニュアンスなんですね」
「以前、お酒を飲んで酔拳を演じたことがありましたが……危ないです。良いことといえば、酔っぱらっているので痛みを感じにくい、ということくらい。危険だからやめましょう!」
「そもそも、なぜ酔っぱらっているような動きをするのでしょう? 普通に戦ったほうが強いんじゃないか?と思ってしまうのですが……」
「『ウソと本当』という意味の、“虚実”という言葉がありますよね。酔拳はトリッキーな動きで『虚』を作り、相手を翻弄して攻撃を加えるのが醍醐味なんです」
「いわゆるフェイントみたいなことか……確かにとらえどころのない動きの中から突如攻撃が出て来るので、まったく読めない拳法ですね。急に寝転がったり……」
「そうですね。地面に寝たり転げまわったりもするので、酔拳は『地転拳』とも呼ばれています。ただその分、身体への負荷がほかの武術より高くて。酔八仙拳は型が8つあって、以前は全部通してできましたが……今は体力的にちょっときついですね」
「あんなに緩急をつけて動くのは本当に疲れました。酔拳といえば、指先を輪っかにしてお酒を飲むような動作もありますが、どんな意味が?」
「あれは『杯手(はいしゅ)』といって、お酒を注ぐ動きを模したものです。ねじる動作に使用したりする手の形ですね」
「ねじる? ねじるって何をですか?」
「例えばノドを掴んでねじって破壊する、とか。人間はどんなに鍛えても、筋肉の間にあるスジは鍛えられないので、そこをねじって引きちぎるための技です」
「えぐい……」
「まあ、もともとは戦いで生き残るための武術ですからね。世の中が平和になって酔八仙拳が武術から武道になっても、殺法の技として選ばれた者にだけ伝えられている技はたくさんあります。それは他の武道でも同じじゃないかな」
あまり詳しくは書きませんが、他にも色々教えていただきました
「お話を伺っていると、酔拳はただトリッキーな動きをするだけでなく、一つひとつにきちんと意味があるのですね」
「そうなんです。なのでYouTubeなどを見て、酔拳の型だけ真似ても、その意味や理論を知らないと本当に身に付けることはできません。太極拳とかも同じなのですが、練習をしても、強くなるまでに時間がかかるのが中国拳法なんです」
「You Tubeも興味を持つ入り口としては良いけども、と」
「中国拳法や酔拳は、はっきり言ってオタクのための拳法です。この奥深い拳法を習得することに面白さを感じる人がいたら、ぜひ習ってほしいですね」
なぜ酔拳を学ぼうと思ったの?
「高龍先生は、なぜ酔拳を学ぼうと思ったのですか?」
「中国武術が題材の漫画、『拳児』を読んで、やってみたいと思ったんです」
拳児=1988年~1992年に週刊少年サンデーで連載された人気マンガ
「サンデーで連載されてたやつだ! 主人公の少年が八極拳や螳螂拳など、様々な中国拳法を学ぶマンガですよね」
「そうそう。それで後に師匠となる故・龍飛雲(りゅうひうん)先生の道場を訪ねて、『八卦掌(はっけしょう)』という中国武術を習うことになったんです。が……3ヶ月経っても、練習では歩く以外のことをさせてもらえなくて」
※龍飛雲先生はWikipediaの『酔拳』のページにも 伝承者として名前が出る日本の武術家
「なんて厳しい世界だ。でも先ほど『強くなるまでに時間がかかるのが中国拳法だ』とおっしゃっていたので、じっと耐えたんですね?」
「いえ、道場の中では隣で酔拳の練習をしていたので、『それ自分もやりたいです』とお願いして教えてもらいました」
「それが高龍先生の酔拳のスタート!?」
「ちなみに中国武術の中で、酔拳(酔八仙拳)はどのような立ち位置なのでしょう? メジャーなのかマイナーなのか」
「メジャーだったら、習っている人がもっとたくさんいると思うので、マイナーな方ではないでしょうか。映画の題材として使われるのも、恐らく『珍しいから』というのが大きな理由だったんじゃないかなぁ」
「ええっ! 酔拳といえば多くの人が名前を知っているのに、実際に習っている人の数となるとまた別なのですね……」
「習得するのに何年も通わないと身に付かないから、途中で辞めてしまう人が多いんですよね。上達しても、それだけで生活していくのは難しいので、跡継ぎがなかなか見つからないという問題がありますね」
「そうなんですね……今日体験してみて本当に楽しかったので、この記事を通じて少しでも酔八仙拳の魅力を広められればと思います。今日は本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました」
まとめ
映画やテレビでしか知らなかった酔拳(酔八仙拳)は、とても奥深い武術でした!
マスターしようとするのは大変だけど、まずは気軽に体験してみてはどうでしょう? 高龍先生がめちゃめちゃ気さくで優しい人だったので、すごく楽しい時間でしたよ!
最後に、高龍先生オススメの「酔拳が登場する映画」をご紹介して、この記事の締めくくりとさせてもらいます
※ジャッキー・チェン主演
※ジャッキー・チェン主演
※ジェット・リー主演
※ジャッキー・チェン&ジェット・リー主演
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この記事を書いたライター
ルポルタージュを主に執筆。新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」店主でもある。著書「究極の愛について語るときに僕たちの語ること」「フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。」。本とお酒とデスマッチ観戦が好き。Mail:info@moonbark.net