365日行く場所を奪われるなら、お金があっても意味がない【ほろ酔い座談会】

2020.08.06

365日行く場所を奪われるなら、お金があっても意味がない【ほろ酔い座談会】

安心して外出できない世の中だからこそ、思い出すのはかつて愛でていた居場所のこと。酒場をこよなく愛する4人が「酒場」についての談義に華を咲かせました。「酒場とはなんなのか?」と考えるうちに見えてきたのは、「無駄こそ幸せ」という本音でした。

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    ああああ〜、ちょいちょいちょい〜。

     

    ビールを注がれながら、突然ですが、こんな言葉を聞いたことありますか?

     

    世間を賑わすドラマやニュースも楽しいけれど、「恋人からのLINE」って、自分だけのための特別なものですもんね。

     

    ところで、わたくし、ジモコロライター・くいしんは、これに匹敵するコンテンツとして、「酒場での会話」があると考えております。

     

    んなわけないだろ!って?

     

    いやいや、そうなんですよ。少なくともお酒が好きでそんな風に思う人もいるんですよ! ちょっと聞いてください!

     

    めちゃくちゃくだらないけど、その一夜、その場所にいないと楽しめない会話。あとにも先にもない、ある夜だけのスペシャルなトーク。カスミのように、翌朝には全部、みんなの頭の中から消えてしまう。

     

    これって、Instagramのストーリーみたいなもんじゃないですか? えっ、みんな、ストーリー好きでしょ?

     

    「酒場での会話」がいかに最強のコンテンツなのか、よく伝わったと思います。

     

    誰もいない渋谷のセンター街……

     

    ……5月某日。

    緊急事態宣言が出て、人々が家を出られない「Stay Home」期間を過ごす中で、くいしんが持った仮説……それは……

     

     

    そこでさっそくZoomを使って開かれたのが、この記事でお伝えする「酒場大好き座談会」。

     

    出てきた結論は……

     

    「ムダがあるから、世界は回る」

     

    瀕死の酒場好きたちの語り、令和には絶滅危惧種とされる「酔っ払い」たちによる「ムダ話」……ぜひお楽しみください。

     

     

    【登場人物】

    高山洋平
    「得点圏まであなたを」をテーマとする株式会社おくりバント社長。年間300日以上は酒場にいるという“プロ飲み師”として知られる。東京・中野エリアが主戦場。
    https://twitter.com/takayamayohei1

    今野亜美
    アイドルグループ「清 竜人25」の元メンバーで、現在は「酒場アイドル」として活動。大衆酒場から宅飲みまでを愛し、YouTubeや各種メディアで酒文化を発信中。推しの酒場街は横浜にある「野毛」エリア。
    https://twitter.com/imanoami

    山田和正
    食の編集者。「Rettyグルメニュース」元編集長。現在はフリーランスで食領域を中心に活動している。スナックをこよなく愛する。
    https://twitter.com/yamakiiin

    くいしん
    くいしん株式会社代表。編集者・ライター。海や漁業にまつわるメディア「Gyoppy!」編集長の他、WEBメディアを中心に活動。月15日は夜、居酒屋にいる。飲みに行く日数を減らすと、めちゃくちゃ仕事が捗る。
    https://twitter.com/Quishin

     

    緊急事態宣言が明けたら最初に行きたいお店

    「さっそくですが、今日はよろしくお願いします。乾杯!」

    「かんぱーい!!」

     

    高山さんの部屋だけなんかすごい。暗い……

     

    「今日は、酒場や居酒屋が好きな人ばかりに集まっていただきました。で、そういった場に対する愛を語っていこうと」

    「すごく大切なことしてますよ。すごく大切。今回の企画は、まず意義深い

    「めちゃくちゃ意義深いですよね。この企画は、多くの人を救うと思います」

    「はじめは『緊急事態宣言が終わったら、最初に行きたいお店』を軸に、僕らにとって酒場とはなんなのか、考えていきたいなと思っております」

    「では、僕から。僕がよく行っていて好きなお店は、浅草にある『水口食堂(食事処 酒肴 浅草 水口)』さん」

     

     

    「おおおおあああああああああ」

    「めちゃくちゃいいリアクション(笑)」

    「いいですよね、あそこ! 浅草でやってる居酒屋兼食堂みたいなお店なんですけど。ここの肉豆腐と瓶ビールやってるときが僕の中のベストなんですよね。とにかく、肉豆腐と瓶ビールをやりに行きたい、今。って感じですね」

     

    「食事処 酒肴 浅草 水口」の肉豆腐。たっぷり入った糸こんにゃくが特徴

     

    おしゃれですね。すごくおしゃれ」

    「おしゃれですか?(笑)。壁にメニューが100種類くらいあって、それを選んで勝手に自分なりの定食をつくりつつ、ちびちびダラダラ飲むのが、水口食堂さんの楽しみ方です」

    「おかずになるものって、酒にも合う。それは漫画『美味しんぼ』の山岡さんも言っているし、『孤独のグルメ』でも言ってますよ

    「間違いないですね(笑)」

    「いかに米をかきこみたくなるようなつまみとセットでやるかって大事ですよね」


    うわー! いいなあ! こういう話がしたかったんだよ」

    「(笑)」

     

    「相槌がすごくアガるんですけど」

    「お酒好きたちの自己肯定感がめちゃくちゃアガりますね(笑)」

    「創業70年の店なので、本当に古い時代の空気がいろいろなところに染み付いてる感じで、入ってくるお客さんもいろいろな人たちがいて」

    「昼からダラダラしゃべりながら飲むような」

    「そうそう。みんな、箸にも棒にもかからないような話をしゃべりつつ、テレビで相撲を見ながら飲んでるんです。そういう、『マジ、ムダだな』って思っちゃう空間がすごい酒を進めてくれるというかね。そういうのが好きですね」

     

     

    場のカオス感にお金を払ってた

    「今野さんが行きたいお店はどこですか?」

    「行きたいお店はですね、横浜にある『味珍(まいちん)』さんっていう」

     

    豚の「尾」。人気部位のしっぽ。ぷるぷる濃厚で美味しい

     

    焼酎は擦り切り一杯。最高……

     

    うわあああ、めっちゃ好きです」

    「味珍さんは、豚の珍味が食べられるお店で。テイクアウトもやってるんですけど。焼酎を原液で飲みながら、耳とかしっぽとか胃袋とか、豚の珍味をいただくってお店なんです」

    「いくらくらいですか?」

    「ひとつ500円とか、お肉は720円とか。サラリーマンの方がたくさん来るようなお店で。テイクアウトでいろいろ食べたんですけど、余計にお店が恋しくなっちゃいました。家で食べても美味しいんだけど、やっぱり何か物足りなさがあって

    「その『物足りなさ』って、なんなんだと思いますか?」

    「やっぱり、店内のカオス感

    「カオス感」

    「知らない人がいて、雑音がして。店主も名物店主とかじゃないけど、知らない人と話しながら飲む一杯に幸せがあったのかなとか。それ込みで好きだったんだなって強く感じましたね」

    「僕もテイクアウトやデリバリーして、家で食べるんですけど、高いお金ってやっぱり使えなくて。でも、お店だったらお金を払えるんですよ。やっぱり、あの場で飲める幸せにお金を払ってたんだなって今になって気付きましたね」

     

    BACAFEに行きたい。今いるけど

    「高山さんは、ここ行きたいってお店ありますか?」

    「30歳くらいから41歳まで毎年、1年で360回くらい飲みに行ってたの。2019年は300日くらいしか行ってないんですけど」

    「すごい」

    「一日2~3軒。そんな中で360回中350日くらい行ってるお店があって、そこがBACAFE(バカフェ)ってお店なんですよ。2階を借りてるんだけど」

     

    「えっ? BACAFEを借りてる?」

    「今いるところ。ここがそうなんだけど。休業しちゃってるから、座敷になってる2階を今、オフィスとして借りてんの。だから、BACAFEに行きたいですね」

    「今、いますよね(笑)」

    「今、いるけど、それでもっていう(笑)。助けるというか、お店を支援したいという気持ちもあって借りてるんですか?」

    助けてるわけじゃなくて。俺が、助けられてるから

     

    首を少し傾けながら、名言を吐く高山さん

     

    「逆に? いいなあ(笑)」

    「BACAFEには、クリエーターもいれば、サラリーマンもいるし、公務員もいる。あと、プロスケーターなんかもいますね。中野って、実はスケーターの多い街なんですよ」

    「へー!」

    「だいたいスケーターってとっぽいじゃないですか。で、たとえば、中野で俺の娘がいじめられたとするじゃん」

    「うんうん」

     

    「俺はスケーターのイベントとかも手伝わせてもらったりしてるからさ、普段から親交があったりするんですよ」

    「へー、仲良しなんですね!」

    「そう。そういう人たちが後輩のスケーターに『高山さんの娘を守ってやれ』って、言ってくれたりするかもしれない。ようは、自分たちのためでもあるってことなのよ。助けるとかじゃなくて

    「なるほどなー」

    「ここを貸してもらえることは、自分にとってもすごく有益なことなんです。持ちつ持たれつ。そういう地域のつながりみたいなものも、酒場を起点につくられるし、学べるよね」

     

    「高山さんは、中野が大好きですよね」

    「そう。酒飲みにもいろんなタイプがいてさ。今野さんや山田さんは、いろんな町のいい店を探すタイプじゃん。俺はね、結局、酒は住んでるところか職場の近くでしか考えられない」

    「エリアごとに掘っていくタイプ」

    「そうそう。中野を中心に、高円寺、阿佐ヶ谷、東中野とか。たとえば浅草で飲むときは、知ってる人に連れて行ってもらうときなんだよ。だからなんていうんですか、近所でしか常連にはなれないですよね」

     

    酒を飲みに行ってるんじゃなくて、人に会いに行っていた

    「では、僕も行きたい酒場を発表します!」

    「急ですね(笑)。はい」

    「なぜ急に発言したかというと、僕もたぶん、高山さんタイプなんです。いや、ホント、『今、行きたいなあ』と考えて浮かんできたのが、割と家の近所なんですけど、参宮橋の『さつき』さんという居酒屋で」

     

    席は、カウンターと奥に座敷がある

     

    「いいお店!」

    「どんなお店なんですか?」

    「おじいちゃんおばあちゃんがやってるお店なんですけど。名物は、どじょうで。看板にどじょうって書いてあって、どじょうの唐揚げが名物なんです」

    「どじょうの唐揚げ? 唐揚げ食えるんだ」

     

    「そうなんですよ。それこそ、吉田類さんの『吉田類の酒場放浪記』に出てるお店で。それがもう、めちゃくちゃいいお店なんですよ〜。壁にメニューが貼ってあるようなお店です」

    「あー、いい」

    「いわゆる大衆居酒屋ですね。ちょこちょこ行ってたから、余計に喪失感が大きかったんですけど。今、行きたい気持ちが本当に溢れてきてますね。心が『さつきに行きたい気持ち』だけに支配されています

     

    さつきさんの「ホヤ酢」。最高

     

    「お母さんの人柄がいいですよね」

    「そうそう、『それソース違う!』みたいな、ちょっと厳しい系のお母さんで(笑)」

    「結局やっぱりさ、俺たちは、酒を飲みに行ってるんじゃなくて、人に会いに行っていたんだよ。一択なんだよ、答えは。俺たちは、ただ飯を食ったり酒を飲みたいんじゃなくて、そこから生まれるコミュニケーションに魅力を感じているんだよ」

    「今みんな外食が出来なくて、でも、がんばって続けてもらえるように、自分なりに好きなお店を応援しようと考えてたんですけど。そうすると、自然に自分の中で『どのお店が本当に大切なのか?』、考え込んじゃったんですよ」

    「ほうほう。で、どんな結論が?」

    『美味しいから』だけの理由で行くお店が、本当に応援したいお店として、全然、頭に浮かんでこなかったんです

     

     

    「ほう。たしかに!」

    「本当に近所のスナックとか、それこそおばあちゃんおじいちゃんのやってる居酒屋とか。で、なんでなんだろうこれって、考えていくと、美味しさじゃなくて、人なんですよね」

    「うんうん」

    「酒場系の取材もたくさんしてる文筆家の木村衣有子さんがおっしゃっていたんですけど。『居酒屋』だったら“居”るって漢字があるし、『酒場』だったら“場”って漢字が付いている

    「なるほどなー」

    「『飲食店』には、それらが入ってないわけで。“居る”とか“場”が、なんで名称に付いたかって、そこに本質的な意味があるんじゃないかなって最近考えていたんですよ」

    帰る場所が無くなっちゃったみたいな感じしますよね、今って」

    「帰る場所がない。すごい名言」

    「仲良い人はこうやってネットで飲めるけど、なんだろうな、“第二の家族”って言ってもいいような人たちに、いきなり会えなくなっちゃったわけじゃないですか」

     

    「いい話が連発しまくっちゃってますね……。この座談会がですね、すでに予定の1時間を大幅に超えちゃってるんですけど(笑)。みなさん、何時までに終わったほうがいいとかありますか?」

    「俺はね、明日の朝7時」

    「あっ、じゃあ、明日の朝7時までには終わりましょう。ちょっとトイレ休憩挟みますか」

     

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    この記事を書いた人

    くいしん
    くいしん

    インタビュアー、編集者、ライター。1985年、神奈川県小田原市生まれ。音楽誌編集者、webディレクターを経て、現在はくいしん株式会社代表。宇宙とハワイが好き。最近は総合格闘技にハマっている。

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