withコロナあるあるなのですが、取材時の写真がZoomのキャプチャ画像ばかり……!
ちょっと絵面的にさみしいので、4人のおすすめ居酒屋をちょこちょこ紹介しながら、後半が始まります!
ひとつ目は、山田さん推薦の、旗の台の焼き鳥屋さん「鳥樹」。
山田さんは、明るい大将の人柄にいつも癒やされている。オーダーが入ってから鶏を捌いて調理する「モモのたたき」「皮焼き」は絶品
いきなり!大人用粉ミルク
「場としての価値みたいな話の続きをすると、僕は、ムダな話が好きで。同じ世代とか職場の人としゃべっていると、まあ近からず遠からずな、似たような話が多いと思うんですけど」
「まあ、そうなっちゃいますよね」
「スナックでしゃべっていると、聞いたこともない話が飛び込んでくるんですよ。60歳くらい同士の大人がこないだしゃべっていたのが、大人用粉ミルクの話で」
「大人用粉ミルク!? 気になる」
「聞いたら、ある程度の年齢になるとカルシウム不足で骨が弱くなっていくと。でも、牛乳は脂肪分が多いから、胃腸にとって重くて、たくさん飲めないらしくて」
「へー!」
「代わりに、大人用粉ミルクでカルシウムを補給するらしいんです。しかも各社、いろいろなメーカーが粉ミルクを出してるんですよ。これって、めちゃくちゃどうでもいい話なんですけど……」
「めちゃくちゃどうでもいいですね」
「けど、その話を聞いていたから、今日ここで話せたわけで。成仏できたわけですよ」
「あはは(笑)。成仏って」
「俺も広告屋だから、たとえばいまの話を酒場で聞いていたら、『じゃあ、大人用のカルボーンつくったらすごくおもしろいよな』とか……」
「大人用カルボーン(笑)。今の子は知らないですよ、そのお菓子」
「そんな風に、企画が生まれてくるんですよ。僕もまさに同じテーマを話したくて。俺たちは今、ムダがなさすぎる。合理的すぎちゃうんだよ。このZoom飲みも、超合理的ですよね」
「ホント、そうですよ」
「合理的だけど、その分、大切なものが失われている。それは何かって、“ムダ”なんですよ。ふつう、酒場で飲んでたら、周りの声が聞こえてくるじゃん。そこから企画のいとぐちが掴めるんですよ」
「あれ、すごく大切ですね」
「今みたいにステイホームしている状況だと、自分が欲しい情報にしか出会えない」
「TwitterやFacebookのタイムラインは、自分が欲しい情報ばかり流れてくる、っていう話ですよね」
「そうそう。それだと、粉ミルクの情報とか入ってこないじゃない? 本当に、その粉ミルクの情報とか大切だから」
「本屋さんのすごさというのは、自分が興味ない本も並んでるから目に入っていろいろな情報が飛び込んでくるという点だ、っていう話もありますよね。飲み屋も、それなんだ」
今野さんおすすめ、野毛の中華料理屋「三陽」さん。黄色い看板が特徴
三陽の「バクダン」。ニンニクを素揚げして甘じょっぱい系の味噌ダレをかけたもの
酒場での学び。僕らは「教えを請いに行っている」
「飲み屋でも本屋でも、どこでもいいんだけど……俺たちの場合は、たまたま飲み屋が好きだから、飲み屋で学ぶことが多いわけで」
「酒場に行くと、ふつうに生きてたらなかなか関わらない年齢層の方とか、全然自分とは違う領域の仕事をされてる方に出会えますよね。その上で、フラットにお話できるから、いろいろな文化を学べるっていう」
「今野さんは、いろんな世代の人と飲み屋で話すのが好きなんですね」
「そうなんですよ。前に、だいぶ年上のおじいちゃんおばあちゃん世代の人たちから聞いたのは、昔は、フランキー堺さんの『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』っていう映画が流行ってー、とか」
「1ミリも聞いたことがない(笑)」
「そういう、自分や自分たちの世代の人じゃ知らないような文化を教えてもらえるんですよ」
「俺たちはさ、そういう大人や若者に、教えを請いに行ってるんだよね。『別れた女房にごめんって言いたいよ』とか普段の生活では聞けない台詞も聞けたりする」
「そのタイプいますね(笑)」
「逆にそういう、複雑な事情を持ってる人も含めて同じひとつの場所にいられることが、酒場のよさという側面もあると思うんですよね」
「そうだよね」
「ふつうは、ムードを悪くする人だったら出ていってくれという話になるけど、酒場って、帰る場所のない、なんらかのコミュニティに属していない人も、まるっと許容してあげられる」
「救われるよね」
「失って初めて気付きましたよね。これまでは当たり前すぎて考えたことなかったけど、人といる空間でお酒を飲むことが、すごく好きだったし、救いだったなあって今回、思わされました」
ムダをどう補完するか
「今日の座談会の本質的なテーマって、さっき山田さんが言っていたことに尽きると思うんだけど、ムダの話なんだよね。テーマが飲み屋なだけで、これからの時代に、俺たちはどうやってムダを補完するかという話なんだよ」
「うんうん」
「本だって、スマホやPCで見られるなら、紙じゃなくてもいいじゃない。でも、本好きの人は『必要!』ってなるし。ゲーム好きの人もさ、全部オンラインにすることもできるんだけど、『たまには集まってやりてーよ』ってなるんだよね」
「はははは(笑)」
「今野さん、めちゃくちゃ笑ってますけど、どうしました?」
「楽しくて!(笑)」
「そんな素敵な理由の笑い?(笑)」
「お酒や飲み屋を好きな人って、結局、ムダ好きというか。よく言えば、ムダを許容できる人ってことなのかもしれないですね」
「心が豊かになるんですよ。音楽も映画も飲み屋も別になくても生きていける人もいる。でも、じゃあ、そういうものがなくなってしまったら、心が貧しくなるでしょ?って」
「ホント、それだ……」
「だから、Zoom飲みもたまにやるのは楽しいけどさ、『飲み会なんかいらないでしょ、全部Zoom飲みでいいでしょ』って言われちゃうとさ」
「それはもう、めちゃくちゃさみしいことですよね。僕らからしたら、本当に切実な問題なんですよね。飲みに行けない、って」
「(めちゃくちゃさみしそうに)『飲み屋? 潰れてもいいじゃん』って言う人はさ、自分が年間365日行ってるところを奪われてみたら、どう思う?って聞いてみたいよ〜」
「このムダ論を突き詰めていくと、『人は、なんのために生きているのか?』という問いに行き着きますよね」
「仕事もさ、全部、Zoomでやってたら、2倍稼げるかもしれないけど、その金を使うのはいつも行ってるお酒の場なわけだし、どんだけ金あってもね……」
「僕もホント、それはめちゃくちゃ思いました。居酒屋に行けないんだったら、何千万円、何億円あっても一緒なんですよ。居酒屋という場所がないと、お金があってもしょうがないってことを今すごく感じてますね」
「なんのために働いてるかってことになるよね。趣味がなくなるわけだから」
「楽しい飲み会は、僕らにとって、手段じゃない。目的なんです。楽しい飲み会のために、生きているんですよ! 生のすべてを奪われてる状態です。やることないし、お金も余ってきちゃうし」
「毎日のように外で飲んでいて、3000円・5000円とか使っていた機会が、今なくなってるわけですからね」
「『どうすんだ、これ!?』って話なんですよね! 切羽詰まってます!」
「酒場に行くという、生きる楽しみがあったからこそ、一生懸命働けるというバランスだったのに。お酒を飲むことが楽しみだったけど、それがなくなると、拠り所がなくなっちゃうんですよね」
山田さんおすすめ、東中野「もつ焼き 丸松」さんの「じゃがバター塩辛」。「じゃがバター塩辛」が置いてあるお店でハズレってないですよね?
9歳が考えた、Amazonと書店の違い
「もうひとつムダの話なんだけどさ。昔、娘が9歳くらいのときに『Amazonと本屋は何が違うと思う?』『もし自分が本屋さんだったら、アピールすべきポイントはどこだと思う?』って聞いたんですね」
「へー、そしたらなんと?」
「『本屋には、匂いがある』って言ったの」
「ここにきて、すっげーいい話(笑)」
「それ聞いて、すごく頷いてさあ。取材もそうですけど、パソコンの画面を見ているだけじゃ、匂いがない」
「そういう匂いとか五感で感じたもののほうが、ずっと記憶が残りますよね。合理的に進めたものって、その場では楽しかったなって思うけど、人の空気感はディスプレイを通したものでしかないわけで」
「本当にそれですね」
「そうやって考えると、これからは逆にアナログなコミュニケーションが強くなってくんですかね?」
「価値は出てくると思う。今だって、こうやってZoomで飲んでるけど、会って飲んだらもっと楽しいはずだもん」
「それは間違いないですね」
「結局、3時間半くらい飲みながら話していたので、締めたいんですけど。何かありますか?」
「なんもないっす」
「酒場に対する思いが何かあれば、最後に言ってください」
「MCが雑すぎる(笑)」
目黒のそば居酒屋「いいかげん」のつまみ。小鉢で少量ずつお酒のつまみを出してくれるお店。締めは、そば!
酒の歴史が、人間の歴史
「……やっぱりね、酒の歴史って、人間の歴史なんですよ」
「めちゃくちゃまとめっぽい言葉をありがとうございます」
「人間って、食べないと生きていけないじゃないですか。でもそれプラス、酒ってものを発明して、これだけみんなで飲み続けてるわけじゃないですか」
「まったくのムダにも関わらず」
「そう。食べること、栄養を身体に入れることは、生きていくために絶対に必要なんですよ。それは合理的ですよね。でも、酒って、別に生きる上で必須じゃないんです。いらないんですよ」
「今日はホント、合理的に生きることに警鐘を鳴らす話ですね」
「それでも人は、酒を求めるわけじゃないですか。でも、ムダを求めるのも、人間の性質のひとつなんじゃないかなって僕は思いますね」
「遊びだよね。ムダっていうのは、遊びなんだよ。遊びがないって、つまらないよね。ジモコロがつくってくれた今日の場だってさ、そうで。俺たちはさ、取材されたくて、飲み始めたわけじゃないから。遊び続けた結果の話じゃん」
「ちゃんと遊んでた結果(笑)。いや、そうなんですよね」
「お酒を飲んでもいいじゃん、って選択肢を残したいですよね。お酒をこれほど飲まなければ、もっと仕事もたくさん出来るけど。それでいいのか?と」
「私たちは、人生を楽しむプロなんじゃないですか!」
「いい言葉だ」
「人生楽しむプロなんですよ、僕らは」
「今の俺、泣くかもしれない。嬉しくて……。こういうさ、次の日、何も覚えてないような話がおもしろいわけじゃん」
「いい飲み会ほど、何も覚えてないですよね」
「覚えてないっていうか、『あの話、何がそんなにおもしろかったんだ?』って思っちゃうような」
「あれっ、僕らすでにベロベロですけど、この記事も、もしかして『あの話、何がそんなにおもしろかったんだ?』ってなるやつですか?」
「そうなりますね(笑)」
「いい飲み会ですねー」
「でもね、それが何年か経つと、あのとるに足らない話が実はおもしろかったんじゃないかって、一周回ったりするの。知のストックになっていくんだよ!」
さいごに
テクノロジーが進化し、不要不急の用事は避けることが推奨され、すべての物事がどんどん合理化されていく、今。
「お酒を飲む時間」なんてムダだし、何かを生み出すわけでもないし……。
でも。そうだとしたら、人間にとって、何が、どこからどこまでが本当に必要なことなんだろう? ムダを徹底的に省いて合理化を追い求めていった先に、どんなに楽しいことがあるんだろう?
記事を書いている間も、高山さんの言葉が頭の中で鳴り響いていました。
「音楽も映画も飲み屋も別になくても生きていける。でも、じゃあ、そういうものを全部なくしてしまったら、心が貧しくなるでしょ?」