
ジモコロ編集部の徳谷柿次郎です。
みなさんはお金について、悩んだことがありますか?
たぶん、ほとんどの人が「ある」と答えるはず。足りない、増やしたい、将来が不安……。そんな「お金のやりくり」ばかりに思考を奪われ、気づけば自分の「機嫌」を後回しにしてはいないでしょうか。
そんな問いに独自の視点から向き合う人物がいます。バンドマンで投資家、そして文筆家という謎の肩書きを持つ、ヤマザキOKコンピュータ(通称ヤマコン)さんです。いつもご機嫌な人物。彼は幸せの基準をすべてお金に委ねてしまう現代の空気を「お金信仰」と名付け、その外側に自分だけの「経済圏」を軽やかに築いています。

“なぜ私たちは、自分の「機嫌のよさ」を後回しにしてまで、数字の帳尻を合わせることに必死になっているのだろう。お金は本来、私たちが自由に生きるための道具だったはずだ。”(引用:『お金信仰さようなら』)
最新刊『お金信仰さようなら』でその思想を言語化したヤマコンさんは現在、神戸・大安亭市場(おおやすていいちば)のアーケード内に出版社「穴書(あなしょ)」を構え、生活コストを抑えながら「満ち足りた」商店街生活を堪能しています。自転車で通える平屋に暮らし、日中は路上で地域の人や友人とのおしゃべりを楽しむ。その姿は、私たちがイメージする「投資家」の成功者像とは、あまりにかけ離れたものでした。
彼はなぜあえて生活をミニマムにし、商店街という密なコミュニティに生きるのか?
その裏側には単なる節約術ではない、「豊かさのものさし」を再定義する、きわめて主体的でパンクな生存術がありました。
話を聞いた人:ヤマザキOKコンピュータさん

1988年生まれの文筆家、個人投資家。各地を転々と移り住み、現在は神戸で出版社「穴書」を経営。地下のカルチャーや金融の世界など、異なる領域を横断しながらオルタナティブな価値観を探求している。著書に『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)、『お金信仰さようなら』(穴書)がある。
家賃5.5万円で手に入れる「内側の自由」

ヤマコンさん、こんにちは〜!……って、すごいところに出版社がありますね。アーケード商店街のど真ん中!?
厳密に言うと、ここは商店街ではなく市場なんです。「神戸の台所」って呼ばれていて、三宮周辺の飲食店やホテルのシェフが仕入れに来たり、近隣住民も買い物に来たりと、日中はとにかく活気にあふれた場所ですね。
活気か。取材で全国を歩いてきて、「生きてる」と感じる場所とそうじゃない場所って、確かにあるんですよね。何が違うんだろうとずっと思ってて。
この活気を僕は地味に研究してまして。お金でも集客戦略でもない、でも明らかにこの場所を動かしている力が気になるんです。そのあたりをだんだん話していけたらと思ってるんですが。

興味深いです。それにしても、まわりは食料品店とか生活用品店だらけですね。この事務所だけがなんか異質(笑)。
本当はここも小売や卸売のテナントが入るべき区画だと思うんですけど、音楽好きのモヒカンの理事長が「空いてるんだから、どう使ってくれてもいいよ!」って気前よく言ってくれて、穴書のメンバーや 友達の大工と一緒に改装しました。1階も2階も使えて、家賃5.5万円って安くないですか?
それは安い! 住まいも近くに?
自転車で通える近場に、家賃3万円の平屋を借りてます。合計8.5万円で二つの物件を手に入れてますけど、これって東京だったら一人暮らしの部屋の家賃くらいですよね。かなりお金を浮かすことができてるので、その分遊びが充実します。
遊び……? そもそもヤマコンさんってどうやって生計立ててるんですか。
投資の運用益と、文章を書いたり本を出したりする収入ですね。どれか一本で食ってるというより、いくつかが重なって成り立ってる感じで。生活コストが低いので、そんなにたくさん稼がなくても楽しく生きていけるんですよ。
なるほど。収入より先に、生活の設計をしてるわけか。
そんな感じですね。僕、福岡とか沖縄とか各地を転々としながら暮らしてきたんですけど、この10年くらいは常に旅行している気分で生活してるから、「旅行でリフレッシュ!」みたいな気持ちにもならないし、物欲もあんまり湧いてきません。
普段は本を読んだり、楽器を弾いたり、商店街で旬のものを買って、近所の温泉に浸かって……。しかも、毎週のように世界各地から友達が遊びに来てくれます。

ヤマコンさん。それはもう、仕事を引退した後の余生の暮らしです。
ある意味、アーリーリタイヤを達成しているのかも(笑)。これって世の大富豪が資産を築き上げて到達する地点と、実はそれほど変わらないんじゃないかと思ってるんです。日々やりたいことばっかりやってるし、自由な時間も充分ある。自宅も職場も改装自由の物件で、カスタムしながら使ってるから、高級ホテルよりもむしろ自分にフィットした暮らしができていると思います。
うらやましい考え方ですよ。でも、大富豪になったことがないから、そこには違う景色もあるのかな、なんて考えちゃうんですけど。
もちろん、物理的な選択肢の数は大富豪の方が圧倒的に多いですよ。宇宙に行きたいとか、島を買い取るとかね。そういう「外側」に向かう自由は彼らの独壇場です。でも、僕が言っているのはもっと「内側」の自由についてです。
内側の自由か。確かに、お金があっても心を満たしきれていないように見える人っていますよね。
自分の心を満たすっていうのも簡単なことではないですよね。お金を稼ぐ能力とはまったく別の能力を鍛えて、自分なりにカスタムした「成功像」を作らないと、なかなか自由にはなれないので。
極端な話、足元や身の回りにあるものの価値を100%味わう力を持っている人には、新天地も新商品も必要ないのではないかと。僕はそっちの景色に興味があるんです。
「お金信仰」という現在地から

かなり独特な解脱を果たしてる感じですけど、そのあり方ってヤマコンさんが『お金信仰さようなら』の中で表現してることと直結してますよね。
おお、読んでくれましたか! あの本は6年前に書いた本『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』の続編として、そもそも「何のために投資するのか」という部分を掘り下げるかたちで書かせてもらいました。
新NISAとか、投資もだいぶ一般的になりましたよね。その動機は今よりも暮らしを良くしたいとか、将来が不安だからとかが多いと思いますけど、ヤマコンさんはなんか違う感じがします。
そうですね、僕は投資というものをもっと広く捉えていて、「理想的な未来に向かって、エネルギーを投じること 」と定義しています。だから金融投資以外にも、様々な形の投資があって良いと思っています。
理想的な未来か。具体的にはどんな未来に投資してるんですか?
身近な話で言えば、この大安亭市場の人たちが何となく共有している独自の価値観や活気のようなものが、今後も途絶えることなく続いていくことに、ですね。それに対して自分ができることはたくさんあると思う。例えば、お気に入りの店で毎日買い物することもその一つです。
それって「投資」というより「消費」とも呼べそうな。
未来を見据えた買い物であれば、それは投資と言ってもいいと思ってます。
だから毎朝あそこの肉屋さんで買うコロッケも、僕にとっては投資……。いや、投資的な消費ですかね(笑)。
要は考え方ってことですよね。刹那的なお金の使い方をするんじゃなくて、もっと未来に向かって有意義にお金を使おうよっていう。
そうですね。僕は応援したい会社の株を買ったり、投資信託などの金融投資もやっているんですが、それも基本的には普段の買い物と同じような考え方でやっています。

でも、金融投資を普段の買い物と同じような考え方でやって大丈夫なんですか? リスクの性質が全然違う気がして。
確かに全然違います。ただ、金融投資に関して言えば、お金を日本円で持っているだけでもインフレや為替のリスクに晒されているので、「何もしない」こと自体がすでにリスクなんですよ。どうせリスクを取るなら、自分が応援したい会社の未来に、意識的に投じた方が社会参加の観点からもいいという考えです。
じゃあリターンについてはどう考えてますか? 金融投資だったらやっぱり増えることを期待しますよね。
もちろん、長期的にはリターンがないと意味がないと考えています。ただ、僕の場合はその「リターン」の定義が少し広いんです。お金が増えることだけじゃなくて、応援した会社や街が続いて、自分の好きな未来が残っていくこと。それも立派なリターンだと思っていて。
金銭的な話と違って、社会的なリターンは数値で測ることが難しいから、うまく伝えられるかわかりませんが、もし行きつけの八百屋さんが閉店するとしたら、それは僕の「豊かさ」にとって致命的な損失なんです。株の売り買いで数万円の損失が出るよりも、よっぽど大きなダメージがあります。
豊かさ、か。そのあたりもっと聞きたいですね。じゃあ、せっかく来たんで商店街を歩きながらお話しませんか?
ぜひぜひ。柿次郎さんにもこの商店街の良さを感じてもらいたいです。

いやでも、ヤマコンさん。僕はこのアーケードに入った瞬間から何となく感じてましたよ、この商店街は「生きてる」なって。
そう、生きてるんですよ。飲み屋や定食屋みたいなものはほとんどないので、わざわざ遠くから遊びに来るような人はそんなにいないけど、仕入れに来た人や近隣住民がたくさん歩いていてすごく賑わいがあるんです。
いい生活感がありますよね。近所のおばちゃんたちが立ち話してる感じも素敵だなあ。

僕も皆さんとよくお話するんですけど、目と鼻の先にある隣の商店街に何年も行ってないという人もいるんですよ。この商店街でしか買い物をしないという人も多くて、なんかその「ここで完結している感」が、すごく豊かだなと。
ネットショッピング時代に、逆に新鮮な価値観を示してるかもしれませんね。
もちろんネットショッピングもあっていいんですけど、ここには数字に変換できない「手触り」のようなものがまだ生きていると感じていて、それが僕には心地いい。紋切り型のよくある地方都市ではなくて、タイムスリップやパラレルワールドを思わされるような、独自の価値観や生活様式に触れながら暮らせることが僕の幸せだし、制作の原動力にもなっています。
でもヤマコンさんって数字に変換できない「手触り」だけを求めてないですよね。金融投資もちゃんと続けてるし、お金自体を否定しているわけではなさそうだなって。
もちろんそうです。お金は間違いなく便利で自由を広げてくれる道具です。ただ、本来は「交換の手段」にすぎないお金が、いつの間にか多くの人の「目的」にすり替わってしまっているのが現代ですよね。この主客転倒が起きている状態を、僕は「お金信仰」の時代と呼んでいるんです。
まさにヤマコンさんが本の中でテーマにしていることだ。
いくらなんでも、お金が流行りすぎてますよね。歴史をどれだけさかのぼっても、これだけお金が盲信されている時代はないです。数百年後の未来では、教科書に「21世紀はお金信仰の時代」って書かれているかもしれない。

お金がいつの間にかイデオロギーになってしまっているということですよね。しかもそれに気づいていない人がほとんどという。
でも、その世界線は近い将来「必ず終わる」という感覚もあるんです。少子高齢化が進み、経済規模が縮んでいく中で、「増やすこと」を絶対善とする価値観はじきに立ち行かなくなる。神戸もそうなんだけど、特に人口減少の激しいエリアではもうすでに、お金とは別の価値観を持って活動している人や集団がたくさん出てきているという感覚があります。
その感覚は全国のローカルプレイヤーの動きを追ってきた人間として、非常によくわかります。
成長の幻想が弾けた後に何が来るか、僕には予想できないし、しようとも思わない。ただ一つ願うとすれば、それぞれが自分の「幸せのものさし」を自分の手で作れるようになること。その思考法を共有したくて、この本を書きました。
パンク精神で「エネルギー」をDIYする

そもそもヤマコンさんがそうした考え方を持つようになった背景ってどういうものだったんですか。
根っこにはパンクがありますね。若い頃、東京のパンクシーンでバンドをやっていたので。そこから20代の後半にお金の情報を発信するウェブメディアを立ち上げて、自分で投資もしながら、文章を書くようになりました。
パンクスでお金のメディアをやるって、振り幅がすごいですよね。昔からお金に関する意識は高かったんですか?
いや、どちらかというと「お金は汚いものだ」という意識が強くて、人前でお金の話をすることは避けてきたところがあります。でもある程度は必要だし、葛藤もありました。

バンドの全国ツアーに出る様子(2025年)
そうですよねぇ。スタジオで練習するのも、ツアーに出るのもお金がかかるでしょうし。
いや、バンドは意外とお金がかからなくて、グッズさえちゃんと作っていれば赤字になることはそうそうないです。問題はむしろ、貯金ができてから。その貯金をどう扱えば良いかで悩みました。
そこで僕は、そもそもの考え方を変えることにしたんです。パンクっていわゆるDIY(Do It Yourself=自分でやる)の精神が根っこにあるんですが、自分の稼いだお金がどこへ流れるかをコントロールすることもまた、ある種のDIYだと気付いて。
お金の流れをコントロールするって、家計簿つけるくらいしか思いつかないんですけど、具体的にはどういう風に?
自分のお金を自分の分身みたいなものとして、大切に扱うことにしたんです。なんとなく好きでも嫌いでもない店に行ったりとか、広告で流されて買い物してしまうとか、そういった浪費をやめて、生活の中での「気持ち良いお金の使い方」の純度を上げていくことにエネルギーを費やしました。
ヤマコンさん的に気持ちよくお金が使えたなっていうのは、例えばどういうことがあります?
やっぱり地方移住ですね。最初の引越し先は福岡なんですが、家賃が6万円も下がったのに、東京時代よりも利便性の高い快適な部屋に移ることができて。家賃のために無理をして働く必要がなくなったことで、創作活動にもしっかりと時間を使えるようになりました。

ヤマコンさんの福岡時代の部屋。駅近、20畳ワンルーム、ルーフバルコニー付きで、家賃5.5万円
さらっと言いますけど、めっちゃフットワーク軽いですね。普通の人はそこまで踏み切れないですよ。
僕は友達やパートナーと同じくらい、自分のことも大切にしているので、自分の「ご機嫌」も徹底的に上げていきたいだけです。それが各地を転々とする実験的なアクションを生み出しました。福岡を満喫した後は、沖縄に移り住んで、「NEO POGOTOWN」というオルタナティブスペースの中で喫茶店まで始めて。

沖縄時代のヤマコンさん
面白いですねえ。でもそれって、ヤマコンさんみたいにリモートワークでも稼げる自由業の人だからできたことなんじゃないかなって。
それは一理ありますね。僕は元気な独身で、しがらみもあんまり抱えてない。そういう条件が揃っているから、より大胆に試せている部分はあります。ただ裏を返せば、僕みたいな条件の人間が率先して試してみることで、「こういうやり方もあるんだ」という選択肢を示せるんじゃないかと思っていて。
全部を真似する必要はなくて、真似できそうなところだけ取ればいい。例えば今すぐ拠点を移せないという人でも、自分のご機嫌を向上させるための工夫はできると思うんですよ。重要なのはエネルギーの配分なので。
エネルギーの配分。どういうことですか??
基本的に、僕らが活動に費やすエネルギーは「時間・体力・お金」という三つのリソースからできています。どれか一つでも切らすとまずいので、変換しながらバランスよく活用していくわけですが、固定費が高いとお金がメリメリ削られていくので、その補填として体力や時間が奪われます。
そうすると、何か創作的な活動や、自分や周囲のご機嫌を上げるためのアクティビティに使えるエネルギーが捻出できません。だからまずは、固定費を削減することで、リソースのフローを良くすることが重要だと思っていて。
それって「節約」とは違うわけですか?
節約というと「何かを我慢して出費を抑える」というイメージがあると思うんですが、僕がやっているのは、あくまでも自分のエネルギーの流れをコントロールすることです。時間や労力を無駄なことに費やすのって嫌じゃないですか。同じように、お金も自分のエネルギーだから、意味あることに使いたいし、意識的に扱って流れの良い状態を作らないと。

節約は「我慢」だけど、自分で意識して「選択」することは、また違うってことですね。同じお金を使わないという行為でも、主語が全然違うんだな。
ただ一個、意地悪な聞き方をしていいですか。ヤマコンさんのこの暮らし、投資の運用益という下駄があるから成立してますよね。それがない人にも同じ話が届くと思いますか?
どうでしょうね。もちろん状況にもよりますが、例えお金がなかったとしても、時間や体力があったら応用できると思うんですよね。僕自身、時給数百円のフリーター時代に自分なりの人生観や金銭感覚を設計してきたからこそ、今の「ご機嫌な」暮らしがあるわけで。逆に、先にお金を持っていたら、全く違う人生になっていたかもしれない。
つまり、「先に生活を設計した」というより、「お金がないから設計せざるを得なかった」という方が正確?
そうかもしれません。ファミコンの名作みたいな感じで、スペックが低い中で工夫して作り上げたもののほうが、長く楽しめたりしますよね。僕の考えはあの頃からあんまり変わってないです。
投資のことを発信したりしてるからよく勘違いされるんですけど、伝えたいのは「投資で稼ごう」ってことじゃない。時間や体力やお金をきちんとコントロールすることです。株価の予想をがんばるより、固定費を月1万円削るほうが簡単で確実で、価値も高いことだと思います。
確かに1万円くらいだったらいけそうな感じがしますね。その余裕すらない人もいるかもしれないけど。
もちろん、健康や境遇の具合で厳しい場合もあると思います。ただ、必要以上に高級なスマホを使っていたり、映画のサブスクにいくつも加入していたり、解約し忘れたままのクレジットカードがあったりとか、望まない出費が積み重なって苦しくなっている人もいると思う。
確かに。自分で決めた契約を放置してたり、何となく同じものを使い続けてたりっていうのはありますよね。考えるのもめんどくさくなってたりして。
そう思った瞬間、主語が自分から離れていると僕は考えます。だからまずは自分の支出を見直して、「これは本当に自分が望んで選んだものか」と立ち止まることが大事だと思っていて。
なるほど。考えてみたら僕も、出張の移動手段とか宿泊先とか、なんとなく同じパターンで選び続けていて、それが「自分の選択」なのか「惰性」なのか、あまり区別できていなかった気がするな。
僕はこの人生はDIYでやっていくって決めているから、支出も、移動も、暮らしの型も、なるべく流されないように、自分で選択したいんです。そして、自分の選択が未来にどんな影響を及ぼすのかを見届けたい。そのためには考え続け、行動し続けるしかないと思ってます。
「活気主義」に見る、未来へのヒント

大安亭市場のマップ
自分のエネルギーをDIYする実践の場として、ヤマコンさんはこの商店街を選んでいるんですね。冒頭でちらっと話してた「活気の研究」もその実践に重なっているんですか?
そうですね。2020年ごろから趣味で日本の商店街の研究みたいなことをやっているのですが、図書館で大阪市商店会総連盟の昭和中期から後期にかけての活動報告を読んでいた時に、「活気」という言葉がやたら出てきていることに気付いたんです。ゴルフやボウリングや盆踊り大会がとにかく頻繁に開催されていて、16,000人で旅行に行ったという記録も残っていて。
羽振りのいい時代で余裕があったのかな。
いや、昭和後期に差し掛かると、大型スーパーやコンビニがすでに台頭していたので、商店街はすでに危機的な状況でした。にも関わらず、彼らはとにかく派手に遊んでいた。普通なら売上が落ちてきたら必死にその対策を考えるけど、彼らは、売上が厳しい状況でも、街の祭りやイベントを重視して、むしろ「こういう時こそ派手にやろう」と活気を生み出そうとしていたんです。
僕はこのあり方を「活気主義」と名付けました。現代の主流の資本主義とは別の形で動く、オルタナティブな資本主義がそこにあったのではないかと考えて。

興味深いですけど、そうは言っても商売は数字の世界じゃないですか。活気だけで成り立つのかなって思っちゃうんですけど。
もちろん現実的に考えたらそうなんですけど、活気があるからこそ数字がついてくる、という順番が彼らにはあったんじゃないかと。僕は1980年代生まれ住宅街育ちですが、「商売=経済合理性が最優先」という価値観にどっぷり浸かってきた世代なので、そうじゃないものを追求している人がとても興味深く見えるんです。
例えば商店街には、今でも経済合理性で考えれば明らかに不合理な人たちがいます。ある肉屋の店主は朝しか来られない数人のお客さんのために、毎日早朝から店を開けている。寿司屋の店主はさほど利益の出ない恵方巻きを380本巻くために数日前から仕込みを始め、最後の2日間は不眠状態で立ち仕事を続けて……。
確かに一見、不合理だらけだ。
そうしたあり方を完全に理解し切ることは難しいのですが、コミュニケーションを続けていくうちに、彼らは「やりがい」や「儲け」のような利己的なエネルギーではなく、「利他」と「さだめ」がないまぜになったような、複雑な燃料で動いているように見えてきて。その燃料がおそらく、場所に「活気」を生み出し続けてきたんじゃないかと。
こういったオルタナティブな価値観を見つけて、記録して、次の時代に繋いでいくことで「お金信仰」が終わった後の、次の時代の価値観を作り上げるためのヒントが得られるんじゃないかと思っているんです。

つまり、ヤマコンさんはそうした「活気主義」を至近距離で確かめるためにも今、商店街どっぷりの暮らしをしている?
半分はそうですね。嫌でも関わらないといけないくらいの距離まで両足突っ込んで、もっと深いところまで掘ってみたい。そこで得たものを形にして届けるのが自分のライフワークであり、時間や労力を注いでいくべきものだと思っています。
もう半分は、単純にここが好きだから。僕の食費の大半は、この大安亭市場に流れています。彼らの生活を支えながら、同時にこちらも支えられている。これが経済の自然な形なんじゃないでしょうか。
絶妙な距離感に立ちながら、「お金信仰」の後に来るもののヒントを探そうとしているんですね。それがヤマコンさんの現在地。
当面はこの事務所を拠点として、穴書の出版を軌道に乗せるのが目標です。世界中の著者と協力して、作品を通して新しい視点を共有していきたい。視点が増えると、視野が広がったり、これまで見えていた物が急に立体的に見えたりするじゃないですか。そう言う形で誰かの未来に影響できたなら、僕の投資は大成功だったと言えると思うんです。
おわりに

ヤマコンさんと話を終えて、ラーメンをすすりながらぼんやりと考えていました。
「こうすれば将来が安心」「これが現代の豊かさだ」
世の中に溢れるそんな言葉を、僕らはいつの間にか自分の「意志」だと勘違いして飲み込んでいるのかもしれません。誰かが作ったレールの上で、効率よく、数字の帳尻を合わせることに必死になる。それは主体的に生きているようでいて、その実、お金や社会という巨大なシステムに、自分の大切なエネルギーの配分を委ねきってしまっている状態なのかもしれません。
主体性を取り戻すとは、単に「好きなことをする」ことではなく、自分のエネルギー(お金・時間・体力)の行先を、たとえ不合理であっても自分の手で「決め直す」こと。「まだ足りない」という欠乏感に突き動かされる足を止め、「すでにここにある」充足感から出発する。その瞬間、人生の主導権は再び自分の手に戻ってくるのだと、ヤマコンさんは商店街の片隅から静かに伝えようとしてくれているのだと思います。
ヤマコンさんの最新刊『お金信仰さようなら』。そこに答えは書いてないけれど、どこかに預けていたかもしれない人生の「型」を、自分の手でもう一度作り直すきっかけをくれる一冊です。

あなたの限りあるエネルギー、今日からどこに注ぎますか?
『お金信仰さようなら』
販売:穴書ウェブショップ
構成:根岸達朗
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この記事を書いたライター
株式会社Huuuu代表。8年間に及ぶジモコロ編集長務めを果たして、自然大好きライター編集者に転向。長野の山奥(信濃町)で農家資格をGETし、好奇心の赴くままに苗とタネを植えている。



















































