海外旅行の際、コンセントが刺さらず日本から持って行った充電器が使えなかった……こんな経験がある人も多いと思います。

コンセントの形状は世界で何種類もあり、国ごとに異なります。また、車道の右通行/左通行や距離や温度を表す単位など、国によって異なるものはいろいろありますよね。

一方で、紙の「A4」や乾電池の「単3」などの規格は、基本的に世界共通。どこの国でも同じです。

こんな風に、私たちの身の回りには「統一されているもの」とそうじゃないものが。これって、誰がどんな風に決めているんでしょう……? どうやら、その鍵を握るのが「標準化」という仕組みだそうなんです。

標準化とはざっくり言えば、いろんな場所で同じものを使えるように、決まりを整えること。

では、その決まりは、誰がどうやって決めているのか。

今回は、30年以上にわたって情報通信技術の政策立案、基準認証、標準化の仕事をしてきた島田淳一さんに、私たちの生活を陰で支えている標準化の世界について聞いてみました。

話を聞いた人:島田淳一さん

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授。1993年4月 郵政省(現総務省)入省、2023年 北陸先端科学技術大学院大学、2024年より現職。総務省のほか情報通信研究機構(NICT)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などで情報通信技術関連の研究開発、知財・標準化、基準認証やマネージメントの業務に従事。現在、知識科学、情報科学の領域に対応。大学に来てから、いろいろ柔らかくなったとのこと。ライターのきくちが社会人大学院生として講義を受けたのをきっかけに今回の取材が実現。

 

 

電池もトイレットペーパーも、バラバラだと大変⁉︎

──そもそも「標準化」って何なんでしょうか?

一言でいうと、みんなが共通して使えるようにするための決まりを作ることですね。
ものの大きさ、形、つなぎ方、測り方、表示方法などが商品によってバラバラだと困るので、誰が作っても、誰が使っても、同じように扱えるようにする。それが「標準化」です。

──「みんなが共通して使えるようにする」。どんな例がありますか?

乾電池はわかりやすい例です。リモコンの電池が切れたとき、「単3を買えばいい」とわかっていれば消費者は迷わず買えますよね。メーカー側も、単3電池が入るようにリモコンを設計できます。もし電池の大きさがメーカーごとに全部違っていたら、大変なことになるのが想像できるでしょうか。

──たしかに。もし「このリモコンにはA社の電池」「この時計にはB社の電池」みたいになったら、すごく面倒くさそうです。

使う側も困りますし、作る側である乾電池メーカーも大変になるんです。だから、ある程度の種類に整理して、大きさや形を揃えておく。そうすると、消費者は買いやすいし、メーカーも作りやすい。標準化にはそういう効果があります。

──「決まりを作る」と聞くと、ちょっと窮屈な印象もありますが、実際には困りごとを減らすための決まりなんですね。

標準化というのは、何でもかんでも同じにして個性をなくすためのものではありません。

むしろ、「ここがバラバラだと困る」という部分を揃えるものです。電池なら大きさや形。紙ならサイズ。通信なら接続の手順。そういった共通にしておかないと不便になる部分について、決まりを整える仕組みです。

──乾電池やコピー用紙のサイズが揃っているのも、当たり前だと思っていました。

まさにそこが標準化の特徴です。標準化がうまくいっていると、みんな意識しないんです。困らないから気づかない。でも、実際にはその裏側に決まりがある。

私たちが迷わずにものを買ったり使ったりできるのは、標準があるからです。

カメラの画面でよく見る「ISO感度」も、実は標準化の一例。もしカメラごとに「ISO 400」の意味が違っていたら、撮影のたびにかなり混乱しそう

 

標準化はなぜ必要になったのか

──標準化の必要性は、どういった背景から議論されるようになったのでしょうか。

諸説ありますが、「揃っていないと困ること」が発生してきたからだと言われています。

有名な話でいうと、20世紀初頭にアメリカで大きな火事があったときに、周りの州から消防隊が応援に来たんですよ。でも、火事を食い止められなかったんです。

──人手が足りなかったとか?

いいえ。多くの消防団が駆けつけたにも関わらず、州によって使っているホースの接続口の規格が異なっていたため、消火栓にホースが合わなかったからなんです。

──消火の応援に来たのに、ホースが消火栓につながらない……?

そうです。だから、消火栓を接続する部分は州を超えて共通にしておかないといけない。この出来事の後、どのホースと消火栓でも結合できるように整備されたそうです。

※「ボルチモアの大火災」……1904年(明治37年)2月7日10時23分頃、アメリカ東部ボルチモアで火災が発生。各地から消防団が駆けつけるものの、消火が難航して大火災に。1500棟以上が消失し、損失金額は現在の金額で約2兆円!

普段は気づかないんですけど、消防ホースでもネジでも、ものとものを繋ぐところは規格が合っていないと使えません。

ネジの大きさがバラバラだったら、部品の組み立ても、修理も大変になりますよね。同じネジを使えるから、別の場所で作った部品でも組み合わせられる。工業製品では、そういう共通の決まりが重要になります。

──ネジが合わないと、家具の組み立てどころじゃないですね。そもそも工業製品が作れない。

つまり、標準化は工業化や大量生産と深く関係しています。

たとえばネジ、紙、パルプ、部品、材料。こういったものは、品質や寸法が揃っていないと困りますよね。社会全体で分業して作るようになると、共通のルールが必要になってくるんです。

──なるほど。ものづくりが複雑になるほど、「揃える」必要が出てくる。

それに、国内だけでなく海外との取引もあります。国によって規格が違いすぎると、貿易の障害にもなります。それで国際的に共通の規格を作る必要が出てきたんです。

標準化の目的には、品質を確保する安全を確保する貿易の障害をなくす、といったものが挙げられます。単に便利にするだけではなくて、社会や産業を成り立たせるためのものでもあるんです。

──国を超えた標準化って、最初はどんな分野から進んでいったんですか?

電気や通信のようなインフラは、20世紀の初頭から国を超えた標準化の動きが始まりました。国境を越えて送電するにも通信するにも、共通のやり方が必要です。ですから電気や通信の分野で、積極的に議論が進められました。

──電気や通信って、たしかに「自分の国だけで好きにやります」だと困りそうです。

電気や通信は、人間の体でいうと神経や血液のようなものです。途中でつながらない、うまく伝わらない、となると社会全体が困ってしまう。だから共通の決まりが必要なんです。

たとえば情報通信の分野では、標準がないと通信できません。機器どうしがどういう手順でつながるのか、どういう形式でデータを送るのか。そういう通信の手順を決めないと、通信するものは作れないんです。

──インターネットも、そういう標準の上に成り立っているんですか?

そうです。標準化された手順があるから、世界中のネットワークがつながるわけです。

──ここまで聞くと、標準化が生まれた理由は「バラバラだと困るから」と言えそうですね。

そうですね。火事でホースがつながらない。ネジが合わない。単位が違う。電気や通信の規格が違ってつながらない。そういった社会の中で「揃っていないと困る」場面が出てきたから必要になったものだと思います。

 

コンセントと道路は、なぜ今さら世界で統一できないのか

──逆に、標準化されなかったことで私たちが今困るケースもあるんでしょうか?

ありますね。わかりやすい例でいうと、コンセントです。

海外に行くとわかりますが、国によってコンセントの形が違いますよね。日本の充電器をそのまま挿せないことがあり、電圧も国によって違うので、変換プラグや変圧器が必要になる場合があります。

──確かに、海外旅行の前に「この国のコンセントって何タイプだっけ」と調べますね。

あれも、最初から世界で標準化されていれば便利だったはずなんです。でも標準化する前に、それぞれの国や地域で別々の方式が普及してしまった。そうなると、後から統一するのは非常に難しくなります。

──もう広がっているから変えられない、ということですか?

そうですね。コンセントは、家の壁、建物、家電製品、電力インフラなど、さまざまなものに関わっています。もし今から世界で一つの形に統一しようとすると、家庭や建物の設備を変えなければいけないし、家電も対応させなければいけない。工事も必要になります。

それを国全体、場合によっては世界全体でやるとなると、ものすごいコストがかかりますよね。だから、すでにインフラとして広がってしまったものは、後から統一するのが難しいんです。

──コンセント以外にも、世界的に揃えられなかった例はありますか?

自動車の通行方向も、世界で統一されていません。日本のように左側通行の国もあれば、アメリカのように右側通行の国もあります。

──たしかに! なんで揃っていないんだろうと不思議に思っていました。今から統一できるものではないんですか?

通行方向が違うと、車の運転席の位置も変わります。道路の作り方、標識、信号、交通ルール、運転教育、法律も、その前提でできています。

統一しようとすると、社会全体を変えなければいけないし、安全にも関わりますよね。国民への周知も必要ですし、標識や信号も変えなければいけない。国民の負担が大きすぎるので、現実的にはなかなかできません。

──他に、国際的に標準化されていなかったことで大きな問題になった例はありますか?

単位の違いがあります。日本を含む多くの国で使われているメートル法と、アメリカで使われているヤード・ポンド法の違いですね。長さや重さの単位が違うことで、事故やトラブルにつながることがあります。

有名な例では、1999年に発生した火星探査機の失敗があります。原因は、エンジニアチームによって使っていた単位が違ったことによるミスでした。図面や設計の中で、どの単位を使っているのかが明確でなかったり、別の単位が混ざっていたりすると、大きな事故につながることは想像できますよね。

──これも、今から揃えるのは難しいんですね。

単位も後から揃えるにはコストがかかります。そのため、世界では今もメートル法とヤード・ポンド法が併存している部分があるんです。

──標準化って「良いルールを作る」だけじゃなくて、「いつ作るか」も重要なんですね。

そうです。重要なのは、「社会に広く入り込む前にどう決めるか」です。広がってしまった後では変えるのが難しい。だから標準化は、何を揃えるかだけでなく、いつ揃えるかも重要になります。

標準化は、成功していると見えにくいんです。でも、うまくいかなかったものや揃わないまま広がってしまったものは、不便やコストとして見えてくる。だから、標準化は目立たないけれど、社会の基盤として非常に重要なんです。

 

標準化は、便利さだけでなく市場を作るルールでもある

──企業にとっては、標準化ってメリットがあるんでしょうか?

標準化は市場を作るためのルールとして使われることもあります。そのために企業が新しい製品や技術を開発した際に、標準化を活用しようとする動きがあるんです。

──市場を作るためのルール。

たとえば、ある新しい技術や製品が出てきたとします。そのときに、何をもってその製品を定義するのか、どう測定するのか、どう評価するのかがバラバラだと、市場が広がりにくい。

だから、測定方法や評価方法自体を標準化する場合もあります。そうすると、市場の中で比較がしやすくなりますし、製品の信頼性も高まります。

──標準化というと製品の形やサイズを揃えるイメージがありましたが、「測り方」を揃えることもあるんですね。

あります。標準化の対象は、形や寸法だけではありません。測定方法試験方法評価方法通信の手順用語の定義など、いろいろあります。

──つまり標準化は、市場に共通のものさしを作ることでもあるんですね。

そうです。だから企業や国にとっての標準化は、自分たちの技術をどう市場に広げるかという戦略にもなるんです。

一方、優れた技術でも、国際標準にならなければ、海外で使われにくくなる場合があります。特に日本のように、海外市場も考えてビジネスをする国にとっては、標準化をどう進めるかが重要になりますね。

──なるほど。標準化では「決まりを作る側に回る」ことも重要なんですね。

そうです。決められた標準に合わせるだけでなく、自分たちの技術や考え方を標準の中にどう入れていくか。そこが国際競争において重要になります。

標準化は、競争をなくすためのものではなく、競争の土台を作るものでもあります。共通の土台があるから、その上で各社が工夫できる。市場を広げるためにも、どこを標準にするかは非常に重要なんです。

 

標準化が私たちの生活に届くまで

──標準化のルールを作るだけでも大変そうですが、その後はどうやって実際に運用されていくんですか?

標準や規格を決めたら、それで終わりではありません。製品がその規格に合っているかどうかを確認する必要があります。そのために製品が規格に適合しているかを試験して、認められたものに対して認証をする。その結果として、マークが付くことがあります。

日本でいうと、このJISマークが「日本産業規格」に適合していることを示す

──確かにこのマークはいろいろなところで見ますが、意味を考えたことはなかったです。

普通はあまり意識しないと思いますが、「この製品は定められた基準に適合しています」と示す、大事な印なんですよ。

──標準化って、最終的に「マーク」として生活に現れる場合もあるんですね。

そうですね。製品の規格でも、マークでも、標準化には企業、研究者、行政、標準化団体など、さまざまな立場の人が関わります。だから、人と人の調整や合意形成の重要性が大きいんです。

身近にある標準化の一つ、スマホの「設定」画面から確認できる技適マーク。島田さんは総務省で技術基準の策定と基準認証の仕事をしていた際、このマークの制作に携わった

──ルールづくりというとお堅い印象を持ってしまいますが、実際にはさまざまな人間ドラマが広がっていそうですね。

私も長年関わってきましたが、標準化のプロセスは最初から最後まで、自分たちが実現したい標準化の意義を関係者に説明して、合意を取り、納得してもらう泥臭いコミュニケーションの積み重ねです。そのために、事前に戦略を練ることや標準化のコミュニティに入って信頼を得ることも欠かせません。

そうやっていろいろな立場の人と関わりながら生活を支える標準化を実現していけるところが、この世界のおもしろいところだと思いますね。

──これからは、生活の中の標準化にちょっと意識を向けてみようと思います。今日はありがとうございました!

 

おわりに

お話を聞くまで、標準化といえば工業製品の規格、国際会議、専門家どうしの話をイメージして、自分の生活から少し遠いものだと思っていました。

でも実際には、私たちが「当たり前」と思っている便利さの多くは、最初から当たり前だったわけではなく、誰かが決めて、広めて、守ってきた標準化の結果だったのです。

標準化とは、みんなが毎回困らずに済むように揃えて、新しい技術やサービスを安心して使えるようにし、未来の「当たり前」を作っていくこと。

そう考えると、机の上のA4用紙も、リモコンの中の乾電池も、これまでと少し違って見えてきそうです。

編集:友光だんご