ジモコロ編集部の徳谷柿次郎です。
梅仕事=丁寧な暮らし。
……そう思っていませんか? 僕は違います。100%、生き延びるために梅を漬けています。

「梅仕事」とは、初夏に旬を迎える梅の実を使用し、梅干しや梅シロップ、梅酒などの保存食品を仕込むこと
長野の山奥に移住して、気づけば梅仕事歴6年目。毎年6月になると、そわそわと梅を収穫しに行き、梅干し30kgを漬ける生活を送っています。
除雪が「死なないため」なら、梅仕事は「生き延びるため」。コンビニのおにぎりが200円する現代で、この話は他人ごとではないはず。
今回は梅仕事歴9年の小池由果と、梅仕事歴2年目の岡部ベイコの3人で、生存戦略としての梅仕事と魅力について話しました!
<記事のハイライト>
・梅仕事は生存戦略
・3kgのはずが30kg、梅の中毒性に気をつけろ
・初対面でも仲良くなれる。梅仕事は民俗学
・身の丈にあった梅仕事
・ていねいな暮らしに騙されるな
・おにぎり200円時代、自家製梅干しは「資産」でもある
<記事に登場する人>
柿次郎:長野の信濃町在住。梅仕事6年目、毎年30kgの梅干し作りをしている
由果:Huuuuが運営するコーヒーショップ「パカーンコーヒースタンド」の店長。梅仕事歴は9年目
岡部:元看護師のライター。梅仕事は2年目の初心者
梅仕事は「生存戦略」
岡部 まずは梅仕事の入口について聞きたかったんですが……柿次郎さんのいう「生き延びるための梅仕事」って、一体どういうことなんですか?
柿次郎 飯山在住の元軍医の方が、梅干しと水さえあれば人間はひと月生き延びられるって話していたのがあまりに衝撃的で。だから毎年、梅干しを漬けてます。梅シロップとか嗜好品には興味がなくて、僕はとにかく生き延びたい!
由果 入口が極端すぎる(笑)。私の梅仕事との出会いは飲食の世界に入って料理の勉強をしていた頃、通っていた料理教室の先生が梅仕事ワークショップを開いてくれて。5〜6人の生徒とわいわいおしゃべりしながら、昔の梅仕事の風景を再現するような場でした。
岡部 私は去年初めてネット情報を頼りに梅酒を作ったんですが、情報がありすぎて逆に迷いました。人から教えてもらえる場はありがたい〜。

柿次郎の自作梅干しコレクション
由果 当時はよく青山ファーマーズマーケットに通っていて、季節ごとに旬の野菜が手に入ったんですよね。夏になると梅が並ぶので、それから毎年仕込むようになりました。今は完全に、梅の匂いを嗅ぎたくてやってますね。熟した梅の香りは幸せになる!
柿次郎 生存戦略の男と、香りを嗅ぎたい女だ。岡部さんは元看護師だけど、医療の目線で見る梅干しってどうなの?
岡部 東洋医学的には健康食品でもありますけど、梅干しや漬物の食べすぎで塩分過多になっている方はよくいます。味噌や醤油など文化的に日本人は塩分摂りがちなので。
柿次郎 いきなり水を差された。でも畑仕事で毎日汗をかいている人と、室内でパソコン仕事をしている人じゃ必要な塩分量が違うはずだし、同列には語れない気もするね。
由果 なにごとも、ほどほどが大切ですね。
3キロのはずが気づけば10倍に……梅の中毒性に気をつけろ!

柿次郎 僕は今でこそ自主的に梅仕事をしてるけど、最初は手元に届いた梅をなんとかしなきゃ、がスタートだったんだよね。
由果 どういうことですか?
柿次郎 ポケットマルシェというサービスを利用して、和歌山の柑橘農家さんから年に数回、旬の果物が届くサブスクを契約していたら、ある日いきなり梅の実が3kg届いたんです。
由果 せっかくだしやるかって流れなんですね。
柿次郎 そう。生産者の顔が見えるから無駄にはできないし、香りも良いから活用したくて。全国取材でいいお酒を買いまくっていたので、いい酒で梅酒を作ったらおいしくなるのでは? と、軽い気持ちで梅酒を仕込んだらめちゃめちゃおいしくできちゃって。
岡部 最初は梅干しじゃなかったんですね。
柿次郎 でも僕はとにかく生き延びたいので、それ以降は梅干し作りにフルベット。最初は赤しそを使った梅干しに挑戦したけど、全国取材で飛び回っている人間には面倒がみられないのよ! 試行錯誤した結果、今は梅と塩だけのシンプルな「白干し梅」に辿りつきました。
由果 赤しそ梅は工程が多いので初心者には少し大変かも。自分の性格と生活スタイルにあったレシピ選びが大事ですね。
<白干し梅と赤しそ梅の違い>
白干し梅:完熟梅と塩だけで漬ける昔ながらの梅干し
赤しそ梅:梅と塩を漬けたあとに、塩でアク抜きした赤しそを加える必要がある

岡部 ちなみに、梅の実ってみんなどこで手に入れてるんですか?
柿次郎 スーパーとか直売所とかいろいろあるけど、僕は長野市内の梅農家さんの所で収穫させてもらってます。スーパーで買うよりめちゃめちゃ安いのもあって、せっかくだからと毎年30kg収穫するようになってしまった。
岡部 毎年30kg!? 200年くらい生きようとしてます?

梅狩り初年度から20キロを収穫。「せっかくだから」のフルスロットル
柿次郎 梅干しはいくらあってもいいので。ただ、 大量の梅の実を収穫すると、今度はそれを漬けるための地獄の道具集めが待ってるのよ。ガラス瓶も梅干し用の樽も数千円するし、場所も取る。30kg分の重石をゲットするのに何度もホームセンターに通ったしね。
岡部 道具への初期投資が結構かかりますね。
由果 これは極端な例ですよ(笑)。柿さんの梅の量はちょっと特殊なので!
柿次郎 気づいたらどんどん増えるので、梅の中毒性に気をつけてください。

梅干し30kgを漬ける大きな容器
身の丈にあった梅干し作り

梅仕事のハイライト、梅を洗う時の気泡が好きな人は多いはず
岡部 話を聞いていたら、初心者には梅干し作りのハードルが高くないですか?
柿次郎 そんなことないですよ! 少ない量ならジップロックでも漬けられるし。

ジップロックを使えば手軽に梅干しが作れる
由果 仕込む量が少なすぎても、実は塩加減が難しいんですよね。大体のレシピは500gからなので、最初は500g〜1kgから始めてみるのがおすすめです。
柿次郎 そうなんだ。それでいうと大さじ小さじが料理の概念をダメにしている気がするんだよな。塩は素材によって大さじ1杯の重さが全然違うので、目分量でおいしく決められる中級者向けの概念だと思います。
岡部 急に主語が大きい。梅干し初心者は素直にスケールで量ります!
由果 いきなり道具を揃えなくても、ジップロックもそうだし、サビない鍋でも大丈夫です。重石は梅と同量の重さがあればいいので塩や砂糖の袋、ペットボトルなんかで代用できますしね。
岡部 それなら私でも作れそう!
初対面でもヘタ取りで仲良くなれる

雑談しながらせっせと梅のヘタを取っていく
柿次郎 毎年大量の梅を仕込むので手伝ってくれる人を集めるんですけど、気づいたのは梅仕事って民俗学的によくできるなってこと。梅のヘタを取りながら1〜2時間ぺちゃくちゃ喋る場って、コミュニティを作る上ですごく重要だなと。
由果 気の抜けた雑談というか、こぼれ話も出てきて楽しいですよね。ワークショップで集まった初対面の人たちも、打ち解けやすいというか。
岡部 分かります。会話術でも対角線上に座ったり、角を挟んで座ったりしますけど、手元を見ながらっていうのが話しやすさにつながる気がします。
柿次郎 お互いの目を見ずに運転席と助手席で話す心地良さに近いかもね。ワークショップなどを入口に移住者が打ち解ける場にもちょうどいい気がする。あと、個人的に梅の良さは“腐る”ところだと思っていて。
岡部 腐ったらダメじゃないですか?
柿次郎 いや、腐る前に作業するっていう期限があるからこそ、人が集まる理由が生まれるのよ。今の世の中って“腐らない経済”みたいな価値観になっているから、腐るものをみんなでわーっと処理するためには、人間同士の関わり合いが絶対必要になるので。

由果 梅仕事は必ず終わるのもいいんですよ。どれだけ大量にあっても、手を動かしていれば終わるから。
岡部 頭を使わずに黙々と作業する時間ってリフレッシュになりますよね。由果ちゃん自身もワークショップを開いてますけど、参加者の方々はどんなモチベーションで来られるんですか?
由果 20〜30代が多くて、「一人だとハードルが高い」とか「家の人に教わる機会を逃してしまった」とか。梅仕事のワークショップは告知するとすぐに席が埋まるくらい人気ですね。長野ではあまり見かけないから、みんな個人で仕込んでるのかなって思ってたけど、意外と需要あるんだなって。
柿次郎 みんな梅仕事したいんだな〜。
ていねいな暮らしに騙されるな!?

柿次郎 梅干しに翻弄されてきた僕が伝えたいのは、梅の天日干しは3日間じゃなくてもなんとかなる!! ってこと。
由果 いや、ちゃんと干してくださいよ。
柿次郎 もちろん天日干しができるならそれが一番いいです。でも僕は家にいないことも多いし、急な雨で取り込めないこともある。その過程で、風通しのいい場所での日陰干しや、日を分けて3回干しを試してみたら意外と大丈夫だったのよ。
由果 私は太陽光を当てたほうがふっくら仕上がる気がするので、天日干し派です。
<一般的な土用干し>
梅を3〜4週間漬けたあと、梅雨明けの土用の日に3日間天日干しすること。
太陽光による殺菌と、水分を飛ばすことでカビの繁殖を低下させて保存性を高めたり、余分な水分を飛ばすことで旨味を凝縮させる効果もある。
柿次郎 僕からするとこの時期に3日間晴れた日を見つけて天日干しするのって「24」の主人公ばりにプレッシャーを感じる72時間の戦いなんだよね。晴れたらどっか行きたくなるし
岡部 切実だ。私は昔ながらの干しザルに憧れるんですが、ベランダだと干すスペースが少なくて困ります。
柿次郎 ていねいな暮らしに囚われないでください。数々のザルをカビさせてきた、ままならない男から言わせてもらうと、干しザルは値段もするし、管理も必要。結局は干せればなんだっていいんですよ。

由果 でも、竹の干しザルには抗菌作用もあるので、実は理にかなってるんですよ。家にあるものを活用するなら、揚げ物用のバットと網がおすすめです。100円ショップでも手に入るし、スペースも取らないので。
柿次郎 僕はなんたって量があるので、物干し竿にかけられる干しカゴを愛用しています。Amazonやホームセンターで1,000〜2,000円くらいで買えるし、雨が降ってもすぐ取り込めるので、めちゃめちゃ便利です。
由果 柿次郎さんのように干すのが難しい方には梅干しではなく梅漬けという手もありますよ。青梅を蜂蜜で漬ける「蜂蜜漬け」や、砂糖・塩・酢で漬ける「さしす梅」とか。
岡部 干さなくていいのは一気にハードル下がるかも!
おにぎり200円時代、自家製梅干しは「資産」になる?

柿次郎 せっかくなので、僕が2022年に漬けた梅干しを食べましょう。
由果 どれどれ……。

くぉっっ……めちゃめちゃ酸っぱい!!
岡部 これぞ梅干しって感じですね! 今は法律が変わったことで昔ながらの梅干しって入手しにくくなりましたよね。
柿次郎 それもあって、これから梅干しの価値は社会の中で相対的に上がっていくと思うのよ。昔ながらのしょっぱい梅干しが市場から消えて希少性が上がってるし、食べ物がどんどん高くなっている世の中で「何かを生産したほうがいいんじゃないか」とみんなが思い始めてる。
由果 たしかに、変化は感じます。
柿次郎 俺はもう6年間、うるさいジジイみたいに梅の話をし続けてるんだけど、最近になって「柿さんの梅干し買えませんか」「僕の作っている商品と交換しませんか」と連絡をもらうことがあって。
岡部 社会不安の中で、みんなの危機意識が変わってきてるんですかね。
柿次郎 白米と梅干しと水が家にあれば、生き延びられるんだから。梅干しは立派な資産ですよ。
岡部 いまはコンビニおにぎりが200円しますもんね。梅は防災備蓄にもなるし、財産でもあるってことか。

由果ちゃんの漬けた梅シロップ(写真左、真ん中)と、柿次郎が漬けた4年ものの梅干し(写真右)。倉庫には10個以上の梅干し瓶がずらりと並ぶ
由果 こうして梅仕事の話をしましたけど、黙々と手を動かす時間はリフレッシュになるし、コミュニケーションにも繋がる。そしてシンプルな梅干しは長期保存が可能で、梅自体が健康食品で資産でもある。梅ってあらためてすごいですね。
柿次郎 梅仕事はていねいな暮らしではなく、生存戦略です。みんな家に梅干しを備蓄して生き延びましょう!
編集:きむらいり








































