
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

<撮影:高重乃輔>
今回お話を伺ったのは、愛知県名古屋市の熱田区にある「TOUTEN BOOKSTORE」の古賀詩穂子(こが・しほこ)さん。行けばきっと、自分が知らなかった視点や世界に接続することができる、生きる選択肢を増やす本が見つかる。そして、安心して過ごせる。そんな書店だ。店内にはドリンクを買って楽しめる席もあり、その場で読書も楽しめるが、今回は本屋近辺である名古屋市熱田区に繰り出して本を楽しむスポットを紹介してもらった。
書店の周りは時間がゆったり流れるエリア

5路線が乗り入れる「金山駅」から徒歩10分ほど。
駅から歩いていくと、だんだんと住宅が多いエリアになってくる。沢上商店街に入って、「本 コーヒー ビール」という文字の書かれたガラス戸が見えたら、そこが書店「TOUTEN BOOKSTORE」だ。

<撮影:高重乃輔>
「50年前はすれ違うだけで肩が触れ合うほど、栄えた商店街だった」と街の人たちは言う。今でこそ小さな商店街となったが、古くからの商売人が多い街の人たちがお店を開いて5年目の古賀さんをいつも気にかけてくれる。うっかり電気を消し忘れて帰った時には「泥棒に入られてない? 大丈夫?」と声をかけてくれたり、釣り銭が足りない時は助け合ったり。なんと野菜の差し入れを持って来てくれたりもする。

後にも出てくる「金山ブラジルコーヒー」は、お店に入った途端、時間がゆっくりになる。そんな空気感がこのエリア一帯にも漂っていて、みんなのんびりしているのが古賀さんは好きなのだという。徒歩圏内には神社や公園の緑が豊富で、古墳も多い。
心を焦らせる要素が少ない、ゆったりしたスポットはきっと読書にも合っているはず。古賀さんのおすすめコースで、一日ゆったり読書と散策を楽しんでみては。
TOUTEN BOOKSTOREが推薦する、名古屋市熱田区でおすすめのスポット

<撮影:高重乃輔>
まずはTOUTEN BOOKSTOREでじっくり本を選ぶところからスタート。
徒歩や、お店の近くにもポートがある「チャリチャリ」などの自転車シェアリングサービスを使って、一日をのんびり過ごすコースを古賀さんが提案してくれた。
朝余裕があれば、「EARLY BIRDS BREAKFAST」のボリュームたっぷりの朝食で腹ごしらえしてからTOUTENに来るのもおすすめ。本選びが捗ること間違いなし!
「Brot Yanagi(ブロットヤナギ)」

<写真提供:Brot Yanagi>
TOUTEN BOOKSTOREから徒歩5分ほどの場所にある、店名の通り柳の木が目印のベーカリー「Brot Yanagi」。アーチ型の建物と、お店からちょっと飛び出たパン焼き釜、色とりどりのタイルが埋め込まれた壁など建築を見るだけでワクワクするお店だ。
古賀さんのおすすめは、サクサクふわふわのバター香るクロワッサンや、人参の千切りとツナのサンドイッチ「ヤナギサンド」。
Brot Yanagi(ブロットヤナギ)
愛知県名古屋市熱田区新尾頭3-3-10
「BERING PLANT(ベーリングプラント)」

TOUTEN BOOKSTOREから徒歩8分、スペシャルティーコーヒーや、お菓子、パスタやカレーなどの軽食が楽しめる「BERING PLANT」。店主でバリスタの元田真樹さんの淹れるシングルオリジンのコーヒーは、香り豊かで本当に美味しい。
買った本を店内で読むのもいいし、マイボトルにコーヒーと、日替わりのお菓子をテイクアウトして散歩のお供にするのも最高。
BERING PLANT(ベーリングプラント)
愛知県名古屋市熱田区中田町8-24 美松ビル
https://bering-plant.jp
「白鳥庭園」
TOUTEN BOOKSTOREから徒歩だと20分、自転車だと7分ほど。
白鳥公園のなかにある「白鳥庭園」は、中心に大きな池がある池泉回遊式というスタイルの日本庭園。散歩をしながら、時々本を広げながら、もの思いにふけりながら、ゆっくりと過ごすのにぴったりの場所。
白鳥庭園
愛知県名古屋市熱田区熱田西町2-5
「金山ブラジルコーヒー」

一日街を巡ったら、最後は「金山ブラジルコーヒー」で落ち着くのがおすすめ。ビールや、ブラジルコーヒー焼酎などお酒の種類も豊富だし、夜も定食メニューが注文できる。古賀さんがよく頼むのは「焼きうどん定食(目玉焼き付き)」と「アジフライ定食」、それに「カルダモン焼酎」。
毎週のように音楽ライブが行われているブラジルコーヒー。天井にはミラーボールが吊るされていて、ライブの際には喫茶店ともライブハウスともつかない、「ブラジルコーヒーでしかない」空気感が楽しい。時間がゆったりと流れる、唯一無二のお店。

金山ブラジルコーヒー
愛知県名古屋市中区金山4丁目6-22 金山コスモビル 1階
名古屋市熱田区で読むのにおすすめの本
『20光年』

古賀さん:『牛乳配達DIARY』や『つつがない生活』など、暮らしの中の豊かな情景が胸を打つ名エッセイ漫画を世に送り出してきた愛知県在住の漫画家・INAさんの、「記憶」と「思い出」にまつわる11の短編。
宇宙のことを考えて自分がちっぽけに思えて気分が軽くなったり、でも現実には目の前にある問題は変わらず横たわっていて項垂れる感じ、その人間くささの描き方が見事。また、「KEEP THINKING」にある”SNSに流れてくる虐殺された人々 / 平和な場所にいるとその落差で眩暈がする”という言葉のように、パレスチナで起きている虐殺に対して大きなもどかしさを感じながら、それでもいつも「自分にやれることをやるしかない」と足元を見つめるのは、自分だけではないだろう。
散歩しているとき、もしくはベンチで一服しているときに頭をめぐる取り留めもない思考や感情が行き来するのをそーっと掬い上げたような一冊で、河原みたいな空の見える場所で読んでほしい。
『20光年』
INA 著/リイド社
https://www.touten-bookstore.net/product/20-/11083?cp=true&sa=false&sbp=false&q=true
『老いて生きる覚悟 伯母の生きてきた道 私の生きる道』

古賀さん:大正生まれ、「熱田っ子」として育った貝谷アキ子さんが残した文章を、姪の京子さんが編集した1冊(名古屋の出版社・桜山社より出版)。
戦争の時代を生き、終戦後就職した会社では、女性が”雇用の調整弁”だった時代に定年まで勤め上げたアキ子さんの矜持が文章に表れていて、老いを感じてからの生活を書いた文章もリアル。また、各章にある「京子の戯言」が解説のような役割となっていて、この本をより深いものにしている。例えば以下の一文。
“伯母のように生きられたらいいなあと漠然と思っていた。一人で生きていく自信はなかったけれど、できるかもしれないという思いにさせてくれる存在ではあった。”(P268)
アキ子さんは2022年、96歳で生涯を閉じた。生前京子さんと一緒に当店にお越しになり、本書の前に出版された『戦争と私』が店頭に並んでいるのを確認し、喜んでくれたのはいい思い出だし、その時感じた二人の関係性の素敵さが、本書を読んでいても感じられる。
名古屋のご当地本ではあるが、戦争を体験し、戦後を生きてきた一人の女性の手記として、この地に生きた人たちに思いを馳せて読んでもらえたら嬉しいです。
『老いて生きる覚悟 伯母の生きてきた道 私の生きる道』
貝谷 アキ子、貝谷 京子 著/桜山社
TOUTEN BOOKSTOREをスタート地点に、パンやコーヒー、散歩、読書を楽しむコースを教えてもらった。時には目的のない、ゆったりした旅もきっと楽しいはず。

<撮影:高重乃輔>
TOUTEN BOOKSTORE
愛知県 名古屋市熱田区沢上1丁目 6-9
https://www.touten-bookstore.net/
Instagram:@touten_bookstore
構成:荒田もも





















































